カナダ先住民文字

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カナダ先住民文字
類型: アブギダ
言語: クリー語, オジブウェー語, イヌクティトゥット語など
時期: 1840年-現在
親の文字体系:
Unicode範囲: U+1400–U+167F (統合カナダ先住民音節)
U+18B0–U+18FF (統合カナダ先住民音節拡張)
ISO 15924 コード: Cans
注意: このページはUnicodeで書かれた国際音声記号 (IPA) を含む場合があります。
ファイル:Winnipeg Forks - Plains Cree Inscription.jpg
先住民文字で彫られた湿原クリー語。ラテン文字に置き換えると Êwako oma asiniwi mênikan kiminawak ininiwak manitopa kaayacik. Êwakwanik oki kanocihtacik asiniwiatoskiininiw kakiminihcik omêniw. Akwani mitahtomitanaw askiy asay êatoskêcik ota manitopa.

カナダ先住民文字(カナダせんじゅうみんもじ、英語: Canadian aboriginal syllabicsカナダ先住民シラビックスとも)は、カナダ先住民のいくつかの言語を表記するための文字で、イギリス出身の宣教師ジェームズ・エヴァンズJames Evans)がデーヴァナーガリーと英語のピットマン式速記をもとに1840年に考案したクリー語およびオジブウェー語表記のための文字と、それを他の言語のそれぞれの音韻体系に合わせて修正したものの総称。

特徴

一文字が一音節を表すが、子音を表す文字の向きによって後に続く母音が決まるという体系から、音節文字ではなくアブギダに分類される。この文字群の名称のsyllabics(シラビックス)に「音節文字」の訳が当てられることがあるが、文字分類における「音節文字」を指す語はsyllabary(シラバリー)であり、これらは慎重な区別を要する。

歴史

イギリス人のメソジスト派宣教師であったジェームズ・エヴァンズは現在のマニトバ州にあるノルウェー・ハウスEnglish版に赴任し、オジブウェー語のために最初はラテン文字を使った表記法を考案したが、チェロキー文字の成功に影響されて、自らもデーヴァナーガリーと速記を元にした音節文字を作成した。1840年にエヴァンズはこの文字をオジブウェー語に近いクリー語のために改訂し、翌年賛美歌集をこの文字で印刷した。またイギリスに注文して活字も作成した。他の伝道所はクリー文字の採用をためらったが、先住民はこの文字を自主的に普及させた。その後、1850年代にエヴァンズの文字に追加と標準化を加えた東部正書法が作られ、ジェームズ湾の東のクリー語とナスカピ語、およびオジブウェー語の表記に使われた[1]

使用状況

ファイル:Ojibwe-Syllabics-Centennial-park.JPG
オンタリオ州スールックアウトの看板。英語とオジブウェー語
ファイル:IqaluitStop.jpg
ヌナブト準州イカルイトの標識。イヌクティトゥット語と英語

現在この文字は、クリー語、オジブウェー語のほか、イヌイットの話すイヌクティトゥット語の表記にも使用される。ただしこれらの言語の中でも、この文字をまったく使用せずラテン文字表記のみをする地域・方言もある。以前はブラックフット語キャリア語English版スレーヴィ語English版チペワイアン語などでも使用されていたが、すべてラテン文字表記に移行している。

イヌクティトゥット語のシラビックスはクリー語のものに不足した文字を追加したものだが、1976年に改良され、イヌクティトゥット語のすべての音を表現できるようになった[2]。ラテン文字も使われているものの、主にシラビックスで書かれる[3]。1999年に成立したヌナブト準州では英語フランス語とともにイヌクティトゥット語などのイヌイット語を公用語としており[4]、シラビックスで書かれたイヌクティトゥット語は政府の公式サイトなどにも使われている。

北オジブウェーの正書法による音節表[5]
音節頭子音 母音
e i o a ii oo aa 音節末
(なし) [6]
p ᑊ ᑉ
t ᐟ ᑦ
k ᐠ ᒃ
c ᐨ ᒡ
m ᒼ ᒻ
n ᐣ ᓐ
s ᐢ ᔅ
sh ᐡ ᔥ
y ᐩ ᔾ[7]
w[8]
r[9] ᕑ ᕐ
l[9] ᓫ ᓪ
v / f
th
  • 音節末の形が2種類あるものは、左がより古い西部正書法(調音部位を象徴)、右は東部正書法(母音aで終わる形を小さくしたものだが、時に母音iで終わる形が使われることもある)[10]
  • 母音が e i o a の順に並ぶのは、エヴァンズがこれらの母音を英語式ラテン文字で a e o u と表記していたためで、実はラテン文字の字母の順になっている[11]
  • 母音 e で終わる形が ᐁ e のように左右対称の字や ᔐ she のように180度回転すると同形になる字は上下反転すると i で終わり、左に90度曲げると o、右に90度曲げると a で終わる字になる。それ以外の字は左右反転で i、上下反転で o、180度回転で a で終わる字になる。ただし後から追加された ᕂ r はこのパターンに従っていない。

Unicode

1999年のUnicode 3.0で、基本多言語面のU+1400からU+14DFまでに収録された[12][13]

2009年のUnicode 5.2で、MARCへの対応の必要性から、U+18B0からU+18FFまでに新たなブロックが追加された[14][15]

U+ 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A B C D E F
1400
1410
1420
1430
1440
1450
1460
1470
1480
1490
14A0
14B0
14C0
14D0
14E0
14F0
1500
1510
1520
1530
1540
1550
1560
1570
1580
1590
15A0
15B0
15C0
15D0
15E0
15F0
1600
1610
1620
1630
1640
1650
1660
1670
18B0
18C0
18D0
18E0
18F0

脚注

  1. Nichols (1996) pp.599-601
  2. Nichols (1996) pp.607-608
  3. writing the inuit language, Inuktitut Tusaalanga, http://www.tusaalanga.ca/node/2505 
  4. Consolidation of Official Languages Act, Government of Nunavut, https://www.gov.nu.ca/sites/default/files/2015-07-28-official_language_act-conssnu2008c10_0.pdf 
  5. Nichols (1996) p.600
  6. [h, ʔ]を表す。音節頭子音としても使用される。Nichols (1996) p.605
  7. 小さな円も使われる。Nichols (1996) p.604
  8. 西部正書法では点を三角の右に打つ。Nichols (1996) p.604
  9. 9.0 9.1 外来語用の東部正書法。
  10. Nichols (1996) p.604
  11. Nichols (1996) p.603
  12. Supported Scripts, Unicode, Inc., https://www.unicode.org/standard/supported.html 
  13. Unicode 3.0.0, Unicode, Inc., (1999-09), https://www.unicode.org/versions/Unicode3.0.0/ 
  14. Canadian Committee on MARC (2002-05-09), Repertoire Expansion in the Universal Character Set for Canadian Aboriginal Syllabics, http://www.loc.gov/marc/marbi/2002/2002-11.html 
  15. Unicode 5.2.0, Unicode, Inc., (2009-10-01), https://www.unicode.org/versions/Unicode5.2.0/ 

参考文献

  • Nichols, John D. (1996). “The Cree Syllabary”, in Peter T. Daniels; William Bright: The World's Writing Systems. Oxford University Press, 599-611. ISBN 0195079930. 

外部リンク


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