サービス残業

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サービス残業(サービスざんぎょう)とは、使用者雇用主)から正規の賃金日本の場合、労働基準法が定める時間外労働手当[1])の全額を支払わず、その責任を免れる時間外労働の俗称であり、サビ残(サビざん)、賃金不払い残業(ちんぎんふばらいざんぎょう)ともいう。また英語では、「Wage theft」(給料窃盗)などという。雇用主がその立場を悪用することで被用者(労働者)に対して強制を強いる場合が一般化している。反対に、始業前に出勤させて始業開始まで時間外労働をさせる「サービス早出」というものもある。

下記に記述してある通り、労働基準法違反は故意犯であり、使用者に故意のある違法行為がある場合にのみ懲役刑罰金刑を課すことができる。過失犯の場合は懲役刑罰金刑を課すことができない。

概説

近年は企業の効率化による人件費抑制と人減らしの中、かつて正社員で補っていた業務を残業させられない非正規社員に置き換えられたことで、正社員が過剰に働かざるを得ない状況が発生している(ただし、企業によっては時給制の非正規でもサービス残業を強いる職場もある)。特に、外資系より日本の企業がサービス残業を強いる傾向が強いと指摘される[2]

サービス残業は使用者の故意がある場合労働基準法違反である(#労働基準法から見たサービス残業の違法性を参照)[3]。サービス残業は長時間労働を招き、また長時間労働が割増賃金の支払いを免れる温床にもなる。そのため、過労死過労自殺、その前段階でうつ病などの精神疾患を発生させる原因となることもあり、サービス残業の存在を知りつつ放置する行為は刑事罰にあたる違法行為となっている。

なお、「サービス残業」と「長時間労働」は必ずしも同一とは限らず、1日の労働時間が12時間以上になるか、1週間以上連続で勤務するような激務であったり、または深夜勤務・休日出勤が恒常化していても、必要な手当割増賃金を不足せず、全額を支払えばサービス残業とはみなされないため、基本給を低く抑えたうえで求人時には残業手当など諸手当込みの報酬を提示するなど、長時間労働を前提とした給与体系を組む企業もある。

労働基準法から見たサービス残業の違法性

使用者が労働者に対して指揮権を持ち拘束できる時間(労働時間)は、労働基準法第32条第2項により1日最大8時間(休憩時間含まず、労働基準法第40条第1項に該当する場合は除く)となっている[4]。また、労働基準法第32条第1項により1週で最大40時間まで(休憩時間含まず、労働基準法第131条に該当する場合は44時間まで)とされている。

ただし、以下の2つの要件を満たせば労働基準法第32条で定められている1日最大8時間および1週最大40時間の枠を超えて使用者が労働者に対し指揮権を持ち拘束することができるようになる。

  • 労働基準法第36条第1項で定められている通り労使間で協定(三六協定 さぶろくきょうてい)を締結して行政官庁に届け出る。
  • 労働基準法第37条第1項で定められている通りに使用者が労働者に対して割増賃金(残業代・時間外労働手当)を支払う。


サービス残業は、労働基準法第37条第1項で定められている時間外労働分の割増賃金を支払うという要件が欠けているので違法である[3][5]。事業の種別や規模、業績などは関係ないが、職務内容や立場によっては労働時間の規制が適用されない場合がある。使用者が労働者に対し労働基準法第32条で定められている最大労働時間を超過する労働を強制し拘束するにもかかわらず、三六協定が締結されていなかったり、割増賃金を支払わない状態が違法なのである[5]が、労働基準法は使用者の故意による指示が違反行為が必要となるので、労働者が使用者の評価を得ようとして残業していることを使用者に隠して労働している場合など、使用者の違法な指示という故意が認められない場合は使用者の違法性は問えない。

使用者は、上記2要件を具備し、はじめて適法に時間外労働労働者に指示することができる。[6]、この要件を具備していないサービス残業という違法な要請がなされても労働者は何らの法的義務も負っていないので従わなくともよい。たとえ使用者が労働者に対してサービス残業を強制させたとしても労働基準法第37条第1項により使用者は労働者に対し割増賃金の支払い義務を負っているため、労働基準監督署より是正勧告を受ける対象となったり、労働者より未払賃金請求訴訟を起こされるなどし、未払い賃金を遅延損害金を含めて支払わなければならなくなる場合がある[7][8][9]

違反した場合の罰則

労働基準法第32条、第37条には、違反した場合の罰則が労働基準法第119条によって規定されている。これに違反した使用者は、6箇月以下の懲役または30万円以下の罰金に処すると定められている。

実態

ほとんどの企業において、三六協定は入社時にすでに会社内で協定されているため、労働者側は(手当の高低を問わず)残業そのものも拒否できない状態におかれ、労働者が残業を拒否した場合には正当に懲戒解雇などの制裁が行われることがある。これは、労働者は会社を選択して入社することができるので、入社する前に会社の三六協定の内容を事前に聞けばよいだけであるからである。 サービス残業を告訴、告発した場合、懲戒解雇などの不当な制裁を行ったり、さらに悪質なケースでは労働者に対する逆恨みで莫大な損害賠償請求を起こす事業主も存在するが、労働者側に具体的なサービス残業の根拠があれば、損害賠償の請求が認められないだけでなく、訴訟費用も会社が負担するよう命ぜられる可能性が高くなる。また、告訴、告発は会社側に刑事的な罰則が適用される可能性もある。サービス残業の具体的な根拠があれば、訴訟費用は請求額で決まってくるので不当な高額を請求しなければ、労働者(および遺族)が訴訟を起こすことは容易である。

サービス残業の形態

サービス残業は以下のような形態で発生する。

労働者に残業の「申請」を行わせない

有形・無形の圧力により、残業の「申請」を行わせず、強制的に残業させる。タイムカードによる出退勤管理をしている企業では、定時に退勤処理を行わせたあとで働かせる場合もある。外部からは従業員が自主的に残って働いているように見える。「サービス」の語の由来でもある。

一例を挙げれば、就業規則で「一日4時間以上/月30時間以上の残業をしてはならない」などの内規を作ったり、一つの課などで月に決められた一定時間まで、例えば180時間までの残業時間枠を設ける方法がある。

文字の上ではあくまでも「あまり残業をするな」という規定でしかなく、法的な強制力はない。しかし、このような規定だけを設けても、実際には定められた時間内に仕事をこなすことが不可能な場合、本来は、従業員は上司に仕事の状況を説明して、残業を継続するか、残業を終えるかの指示を受ける義務がある。従業員がやむを得なかったとしても自己の判断で「内規に反して」サービス残業を始めることは、内規違反として懲戒処分を受ける場合もある。このため、労働者は原則、会社の規則に従って残業をすることが必要である。内規に反して働いた場合、内規違反という状態になるため残業を「申請」しにくく、記録上は規定内の残業時間で仕事がこなせているように見えてしまうので、人員を増やす理由も仕事量を減らす理由も記録上は見えなくなり、以後それが常態化してしまいやすい。そのような職場では、本来「あまり残業するな」という意味だったはずの内規が「残業してもいいが、残業賃金は払わない」という意味にもなるが、労働者からの上司への適切な報告を行いことにより防ぐことができる。

財政事情が厳しいなどの口実で人件費に関して予算を限ってしまい、管理する側に予算を超過して残業を認める権限を与えないことで、残業を認めたくてもない袖は振れないのだとして残業申請を諦めさせようとする事業所もある。企業が任意に決めたにすぎない予算によって法的に義務のある残業賃金の支払いを免れるはずもない。

厚生労働省は「平成29年1月20日労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」という労働基準局長から都道府県労働局長あての通達を、平成29年1月20日に出しており、「始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法」として「使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること」とされ、「自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置」について、「労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと」「時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること」とされており、単に時間外労働を指示していないということだけをもって、使用者に理があるとは言えないとしているが、ガイドラインには法的な根拠はないため、守らなかったとしても使用者に罰則の適用はない[10]。しかし、労働基準監督署自身は労働基準法の適用がないという詭弁を弄して、この基準に従った労働時間管理を行っていない。

また、人事上の評価に残業時間の少なさを入れることで、労働者に残業の申請を自然と行わせないことも行われている。これは労働基準監督署内でも行われていることで、企業に関わらず、取り締まりを行う労働基準監督署自身も採用をしている。 また「ノー残業デー」「定時帰宅奨励日」「5時消灯」などによる自主的なキャンペーンを行っている企業や業績悪化から、時間外労働を一律に禁止する企業もあるが、「ノー残業デー」は「ノー残業(代)デー」という意味でしかなく、残業行為自体は咎めもなく、「定時帰宅奨励日」はあくまで「奨励」レベルで強制力がないために誰も守らない、「5時消灯」は消灯後に個々に照明機器を持ち込ませてサービス残業を行わせる、あるいはパソコンを使った作業などは消灯後も暗闇の中で仕事をさせるなど、指導の裏をかいてサービス残業を行う(あるいは強要する)者もおり、これらの自主的なキャンペーンが事実上形骸化している企業も少なくない。

このほか、定時の後に「奉仕時間」「ボランティアタイム」「自己啓発時間」などといった、「もっともらしい名目」の時間を設け、表向きは社員が自らの意思で無償奉仕を行う時間のように思わせているが、その実態はサービス残業となんら変わりがない、などといったケースもある。

労働者が自己の成績のために、残業を申請しない

労働者は自分の成績をごまかして短い時間で労働したことにして、不当に自身の評価を高めるという行動をとる場合がある。この場合、時間外労働を申請していては、労働生産性が低い労働者であると評価を受けるため、残業を申請しないという行為を行う場合がある。これは往々にして会社の内規に違反するものである。

職場外での仕事の強制

「職場での残業は認められないが、仕事が完了することは求められている」場合に発生しやすい。いわゆる、仕事(に用いる道具など)を持ち帰るケースである(プログラム、ウェブデザインなど特にPCを用いた仕事に多い)。就業時間外に働いているので厳密には残業ではない(「サービス労働」と言われることもある)が、実質的には残業である場合が多い。賃金の不払い以外にも、持ち帰った仕事をしている最中に事故にあった場合の労働災害や、情報漏洩や記録媒体の紛失があった場合の責任など問題が多く、近年ではあまり行われなくなりつつある。

さらには職場外での仕事という行為(ファイルを家に持ち帰るなど)は、上記のように(盗難やウイルス感染などにより)情報漏洩が発生する危険もあり、このような状況下で「家で仕事を片付けたい」などという行為は極秘情報を外部に流すリスクがあり、近年では多くの企業が内規で規制していることが多くなっている。

裁量労働制の違法利用

正規の手続きなしに使用者側が一方的に裁量労働制を導入したと称して運用する違法な例がある。裁量労働制を導入するための手続きとして、労使の合意(専門業務型では労使協定の締結・企画業務型では労使委員会の決議)と労働基準監督署への届け出とが必要である。また、「裁量労働制のもとでは残業という概念自体が存在しない」との誤った解釈に基づいて一切の手当てを支払わない違法な例がある。現行の裁量労働制はみなし労働時間制の一種であるため、給与算定のために勤務時間管理を行う必要は基本的にはないが、深夜・法定休日勤務手当ては支給しなければ違法となる。また、みなし労働時間が法定労働時間(8時間)を超過する場合には、労使であらかじめ36協定(残業に関する協定)を締結して労働基準監督署に届け出るとともに、超過分の時間外労働手当(たとえばみなし労働時間が9時間であれば1時間分)を支給しなければ違法となるが、裁量労働制を採用している大部分の企業は、みなし残業超過分の労働手当を適正に払わず固定給で青天井のサービス残業をさせている。

法律条文に明確に列挙されている職種以外にも使用者側の独自解釈の元に裁量労働制を適用する場合もあり、この場合も違法であるが、そのまま運用されていることがある。一例として、裁量労働制が適用できないプログラマシステムエンジニア扱いにして裁量労働制を適用してしまうケースが挙げられる。[1]

裁量労働制では出勤・退社の時間は自由に決められるのが建前である。しかし、遅刻・早退の給与控除のみを行う一方で残業代のみを都合よくカットすることがあり、違法であるにもかかわらずそのまま運用され、サービス残業と同じような時間外労働を行わせる場合がある。

また、マスコミのADや記者などは、部署によって休暇が年数日、一日15時間以上の労働の上に有給休暇も記録上での消化という悲惨な環境が常態化しているといわれるが、労使双方の裁量労働制の解釈のあいまいさも手伝い、違法であるにもかかわらず表立たない傾向が強い。にも関わらず、マスコミが平然と他社の過重労働を批判的に報道する姿勢には疑問が呈されている。また、厚生労働省もマスコミとの力関係で、マスコミに対する長時間労働の立入調査を決して行わないという、事実上の癒着に近い状況が認められる。マスコミの要職が厚生労働省の審議会に委員として入っているなど、癒着を誘う環境があることも問題である。

近年では求人広告においても年俸制(月給表記の場合もあり)として募集し、時間外労働手当の支給を逃れようとする企業が増えてきており、転職就職の際には注意が必要である。待遇項目等に時間外手当支給と表記されている場合があるが、表記の有無にかかわらず時間外労働手当が支給されなければ、違法となる。

事業場外労働制の合法利用

事業場外で働く労働者については、事業場外労働の協定を締結すれば、または、法定労働時間以内の事業場外労働と主張すれば、事業場外の労働時間を把握する必要がなくなり、事業場外の労働時間が合法的に無制限となる。

管理職に昇進させる

管理監督者(「監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」)は労働基準法に定める労働時間などの規定の適用を受けず、残業手当の支払い義務が発生しない(41条)。

第41条 この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
  1. (略)
  2. 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
  3. (略)

これを悪用し、管理職を「管理監督者」とみなした上で、「名目だけの管理職」に昇進させ、月額数万円程度で固定される「管理職手当」と引き替えに、「残業手当をカット」する方法が採られることがある(固定額の「管理職手当」が「残業手当」より低く抑えられる)。しかし、管理職が41条が規程する管理監督者に該当するとは限らない。

管理監督者とは「経営と一体的立場にある者」を指し、管理監督者に該当するかどうかは勤務実態および処遇に照らして個別具体的に判断される。「課長」やチェーンストアの「直営店長」といった役職名によって自動的に管理監督者に該当するわけではない。自己の労務管理についても裁量権を与えられている必要があり、「労働時間を無制限に伸ばす裁量だけ」が認められて、逆に「労働時間を短くする裁量」が認められない者は、管理監督者には該当しない。

コナカ日本マクドナルドなどの直営店長が起こした裁判では店長側の訴えを認め、「コナカや日本マクドナルドにおける店長は管理監督者とはいえない」との判断を下し、過去に未払いとされていた残業代の支払いを命じた(管理職かどうかの判断はしていない)。これらの訴訟では、残業手当の支払いを免れる「名ばかり管理職」という言葉が生まれ問題視されている。

日本労働弁護団が2008年2月11日に設けた「名ばかり管理職110番」では、一番下っ端の社員の肩書きが「幹部候補生」「管理職(課長および店長)候補」(いずれも管理職扱い)であった例、3,000人規模の会社で数百人の「課長」がいる例、高校を卒業し、金型工場へ入社したばかりの19歳の新人社員がいきなり「管理職」扱いにされたなどの極端な例も報告されている。彼らはいずれも「管理職」とされながら部下はおらず、また「課長」「店長」であるにもかかわらず出退勤の時間が管理されていた。

半端な業務時間を切り捨てる

会社によっては、15分、30分単位で労働時間を管理するが、その場合最小単位分の時間を切り上げて請求することができる。しかし実際には、10分程度の作業であったりすると請求することなく済ませてしまうことがある。また企業はこのサービス残業となる状態を避けるために給料付の休憩を与えることによって調整する場合がある。例として1時間の昼休憩とは別に10分程度のトイレ休憩に給料をつければ定時より仕事が5分程度遅くなった場合でもサービス残業にならない。

帰宅拒否症候群

家庭内がうまく行っていない場合、早々に家に帰って家族からぞんざいに扱われるよりも、会社に残って仕事上の人間関係に依存したほうが気が楽という、いわゆる『帰宅拒否症候群』と呼ばれる状態に陥っている人もいる(精神的な症状ではあるが、正式の病名ではない)。また、単身赴任のため、一人暮らしの部屋に戻っても寂しいあるいはやることもないという理由で、定時になっても帰宅せず職場に残る人もいる。このような者が先輩や上司として多く居る職場では新人や後輩が先に帰り辛く、特に急ぎの仕事もないのに「ナアナア残業」と呼ばれる付き合い残業を強要されることにもつながりかねない。

この場合の解決策として、経営者およびその部署の長は、終業の時刻になった時点で率先して「時間になったから、早く帰るように」と定時帰宅を促すよう、努力しなければならない。帰宅拒否症候群の社員には、会社にとどめて「ナアナア残業」をさせるのではなく、とにかく退社させて、帰宅までの間に楽しめる趣味(娯楽・スポーツ・社によるサークル活動)を持たせるよう努力するべきである。

サービス残業の実態と対応

サービス残業は労働基準法違反であるが、労働者が時間外労働を拒否し、その後に労働基準監督署などに告発などをすれば、当該の社員が推定できるので逆恨みによる報復人事(懲戒解雇など)にあうため、否応なしに従っていることが多い。

2017年1月には厚生労働省からサービス残業を規制する趣旨の通達「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が出され、労働基準監督署による調査de 、始業・終業時刻の記録・確認などの是正指導が強化された。

しかし、法令で残業時間を規制しても仕事の量は減らないという職場もあり、結局自宅へ仕事を持ち帰り「サービス労働」を行うことになるケースも少なくない。また、企業側が休暇の取得を奨励したものの、仕事は消化しなければならないため休暇の日に自宅で無給の「在宅勤務」を強いられるケースもある。こういったケースは労働基準監督署による摘発が非常に困難である。

労働基準監督署による是正勧告など

複数の労働基準監督署が2004年9月以降に実施してきた立ち入り調査でサービス残業が発覚してきた。労働基準監督署の是正勧告を受けて社内調査をしてサービス残業代を支払った(2005年)。もっとも立ち入りが行われたのは一般にサービス残業が少ないとされる電力会社が中心で、これらは氷山の一角に過ぎないという指摘が多い。

このような是正勧告に対して、日本経済団体連合会は「企業の労使自治や企業の国際競争力の強化を阻害しかねないような動きが顕著」と非難している[2]

なお、日本の事業者は500万強あり、その大半が多かれ少なかれサービス残業をさせているものと考えられるが、労働基準監督官の総数はわずかに3000人程度である。

しかし、労働基準監督署(労働局を含む)自身がかなりのサービス残業が恒常的に行われており、サービス残業に取り組む意欲があるとは思えない。平日ではわかりにくいが、土曜、日曜などには情報公開すれば、労働局、労働基準監督署には時間外労働、休日労働の手当てがほとんど支払われていないことがわかるにもかかわらず、土曜、日曜に、管理職となっているとは思えない若い職員が勤務しているのがわかる。労働局や労働基準監督署の管理職がこのような状況を平然と認めているような環境では、一般の会社に対してサービス残業を是正しようというような意欲があるとは思えない状況もある。

アルバイト、パートのサービス残業

時給で給与を計算するパート、アルバイトでは、サービス残業は目に見える形で発生しやすい。

チェーン店などでは「IN/OUT作業」「上がり作業」などと称して、勤務予定時間終了後(または勤務開始前)にゴミ捨てや掃除などの雑用や朝礼・終礼を課すことがある。これは明らかに違法な行為であるが、「作業が10分~20分程度と短い」ことや「パート・アルバイトの立場が弱い」などから、雇用主のいうままに規定時刻に勤務終了したかのようにしてしまうことも多い。労働時間の報告は1秒単位でもできるが、労働基準法や各種法令では、労働時間をどの単位(分単位、秒単位など)まで細かく管理するべきかは明文化されていない。

対策

以下に示す以外に、労働組合の力が強い企業では、勤怠登録と入退館の手続きを別にして、退勤と退館の時刻にあまりにも差がある場合“何をやらせていたのか”と管理職に質問すること・一定時刻以前の早朝入館は事前に届け出をさせ、通知がない場合は入場を認めないなどが行われている。

合理化と増員

正社員が過剰に働かざるを得ない状況を避けるためには、業務の無駄を省き合理化することと、従業員を増員するしかない。しかし、従業員を増員すればその分賃金も増えてしまうし、仕事量の増減に残業を増やす以外で対応するとなると、期間限定の従業員を入れることが考えられるが、慣れていないアルバイトにまかせることで業務効率が低下する恐れもある。

厚生労働省への匿名での情報提供

厚生労働省ウェブページ上に「労働基準関係情報メール窓口」を設けており、労働基準法等における問題に関する情報を匿名で提供することができる。情報は、関係する労働基準監督署へ情報提供するなど厚生労働省の業務の参考にされるが、個別の事案への相談には応じていない。

労働基準監督署への申告

労働者は労働基準監督署へ賃金不払いの申告をすることができる[11]。労働基準法的に申告は匿名では受け付られない[12]。ただし、参考情報として受け付けてはいる。労働基準監督署としても企業の実態調査を行う際に、労働者やその家族がサービス残業を過大に申し立てる恐れがあるためにその申し立てに責任を持たせるよう、氏名、連絡先を求めることが原則で、また労働者の家族など本人以外の申告は受け付けていない。 申告を受けた労働基準監督官が監督義務を負うかという問題については、「労働者が労働基準監督官に対して事業場における同法違反の事実を通告するもので、労働基準監督官の使用者に対する監督権発動の一契機をなすものではあっても、監督官に対してこれに対応して調査などの措置をとるべき職務上の作為義務まで負わせるものではない」とする判例がある。申告による処理を行うかどうかは、窓口で対応した担当官の判断となる。多くの場合、申告では窓口に労働基準監督官がおらず、一般職員に門前払いされ、それをクリアした案件があると労働基準監督官は調査を行い、サービス残業が認められた場合には使用者に賃金支払いを勧告する。しかし、遡及して支払いを行わせる権限は認められていない。ただ、賃金不払いが悪質で使用者の故意が認められる場合、労働基準監督署は労働基準法違反の疑いで検察庁へ送付することがあるだけである。賃金不払い残業は犯罪であり刑事罰が科せられる行為であるが、労働基準法違反は故意犯である。 このため、必ずしも労働基準監督署が対処するとは限らないので注意が必要である。弁護士司法書士NHK民放キー局のディレクター・プロデューサーなどを同席させても門前払いするケースが存在するように、申告は、法律上、労働基準監督署に対応を義務付けるものではなく、あくまで、法令上は労働基準監督署長の裁量により行われるものである。

労働基準監督署への告訴・告発

労働基準監督署長(又は、警察署長、検察官)に対して、使用者の具体的な法違反があることを法条文の構成要件に従って書面などの根拠を持って示し、使用者の刑事責任を問う意思があることを申し出れば、告訴・告発ができる。ただし、口頭の告訴・告発の場合には告訴・告発調書という取り調べのようなことが行われ、告訴・告発調書は行政官の都合の良いように書かれる可能性があるので、書面による告訴・告発が望ましい。

未払賃金請求訴訟

従業員のサービス残業を強いている場合には、日々の勤務時間を逐一メモを取る(特に本人が毎日、残業時間を日記風に記録していた場合は十分に有効)、その他証明力のある記録または証拠(給料明細、可能ならばタイムレコーダーのコピー、IC乗車カードの乗降記録、自動車運転者労働者の場合は、アナログ式タコグラフから記録されたチャート紙またはデジタル式タコグラフから記録されたデータのコピーや運行指示書、業務日報等)を残しておくことが肝要である。またタイムカードや時間管理の業務日報などがなくても、まず本人の記憶、陳述に基づき労働時間のコアタイムを計算して労働時間の主張をし、他の間接的な記録があればそれで補充するという方法でも残業時間の立証は十分可能である[13]

賃金などが支払われなかった場合、雇用主が商人の場合は、本来支払われるべき日の翌日から遅延している期間の利息に相当する遅延損害金年利6%も含めて請求ができる(商法第514条、最二小判昭和51年7月9日参照)。雇用主が商人ではない場合は、民事法定利率年利5%の遅延損害金となる。なお退職した労働者の場合は、遅延損害金年利14.6%を請求できる(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項、同法律施行令1条)。また裁判上、未払賃金と同額の付加金の支払を請求することができる(労基法114条)。

注:ここに記載されている遅延金、遅延損害金および付加金は必ずしも請求できるものではない。実際に支給されるかどうかは、その時の状況、事由などにより判断が異なるため、最終的な結果は労働審判や裁判を行わなければわからない。

ホワイトカラーエグゼンプション

日本経団連からの要望を受けた形で、2006年6月より「一定以上の年収の人を労働時間規制から外して残業代の適用対象外にする 自律的労働制度の創設」に向けた検討が、厚生労働省で開始された。

日本経団連の要望は、年収400万以上のホワイトカラー労働者を労働時間の管理対象外とする、という内容のものであるが、「ホワイトカラー」の定義があいまいであることもあって、労働者団体からはサービス残業を合法化するものであるという危惧が表明されている。

そもそも、労働時間を管理することは労働者の本質的な特性の一つであり、労働時間を管理しないという考え方は、労働基準法の概念を根本的に変えるものである。このような根本的な概念を経営者側の要因により労働の本質を変容させることには大きな懸念がある。

脚注

  1. 労働基準法-第37条
    使用者、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
  2. 外資系でも職場によっては日本人社員にはサービス残業が強制され、外国人社員には残業代を支払っているなど、国籍・出身国による差別的取り扱いをしている場合がある
  3. 3.0 3.1 サービス残業は違法です” (日本語). 神奈川県 (2011年3月1日). . 2012年2月20日閲覧.
  4. 労働基準法第32条第2項で「使用者は労働者に対し休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させてはならない」と規定されている。
  5. 5.0 5.1 あなたの会社は大丈夫?サービス残業” (日本語). AllAbout (2006年3月28日). . 2012年2月20日閲覧.
  6. 例外として、災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合に、事前に使用者が行政官庁の許可を受けた場合、事後に届出を行った場合がある(労働基準法第33条)。
  7. 神戸製鋼所でサービス残業/賃金未払い、是正を勧告” (日本語). 共同通信日本労働研究機構) (2003年5月30日). . 2012年2月28日閲覧.
  8. 「すき家」未払い残業訴訟終結 ゼンショーが請求認める” (日本語). 共同通信(47NEWS) (2010年8月27日). . 2012年2月28日閲覧.
  9. サービス残業に係る未払賃金の支払等について” (日本語). 厚生労働省. . 2012年2月28日閲覧. (pdf)
  10. 連合 厚生労働省による監督指導
  11. 賃金不払いの相談例 賃金不払いの相談例 労基法違反申告書の雛形
  12. 日本労働弁護団
  13. 『季刊・労働者の権利』2003年10月「武富士残業代請求訴訟-残業時間立証の工夫」

関連文献・記事

関連項目

外部リンク