ジフテリア

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ジフテリア (diphtheria) は、ジフテリア菌 ( Corynebacterium diphtheriae ) を病原体とするジフテリア毒素によって起こる上気道の粘膜感染症[1]

感染部位によって咽頭・扁桃ジフテリア、喉頭ジフテリア、鼻ジフテリア、 皮膚ジフテリア、 眼結膜ジフテリア、生殖器ジフテリアなどに分類できる。腎臓、脳、眼の結膜・中耳などがおかされることもあり、保菌者の咳などによって飛沫感染する。発症するのは10%程度で、他の90%には症状の出ない不顕性感染であるが、ワクチンにより予防可能で予防接種を受けていれば不顕性感染を起こさない。すべてのジフテリア菌が毒素を産生するわけではなく、ジフテリア毒素遺伝子を保有するバクテリオファージが感染した菌のみが、ジフテリア毒素を産生する。

ジフテリア菌の発見は1883年エミール・フォン・ベーリング北里柴三郎が血清療法を開発。その功績でベーリングは第1回ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

症状

潜伏期間は通常1~10日間(2~5日が多い)[2]。喉の痛み、犬がほえるような、筋力低下、激しい嘔吐などが起こる。

  • 約39.5℃までの発熱[3]
  • 扁桃付近には粘りのある灰色の偽膜が付着。偽膜は厚く剥がれにくく剥がすと出血する。
  • 喉頭部の腫脹や偽膜の拡大のため、しばしば気道がつまって息ができなくなることがあり、窒息死することもある。
  • 神経麻痺、失明を起こすこともある。発症後 4~6週した回復期に心筋炎を発症することがあり、突然死に対する警戒が必要。

診断と治療

ファイル:Antitoxin diphtheria.jpg
1895年にアメリカ国立衛生研究所によって製造されたジフテリア血清

確定診断には、患者の喉の病変部位から原因菌を分離する。治療開始の遅れは回復の遅れや重篤な状態への移行につながるため、臨床的に疑いがある場合、確定診断を待たず早期に治療を開始する必要がある。

ジフテリア毒素に対するウマ由来の血清および、抗生物質としてペニシリンエリスロマイシンなどが用いられる[2]。ウマ由来の血清に対する、アナフィラキシーに対しても注意が必要[2]

鑑別疾患

類似疾患として、コリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerans )によるジフテリア様の臨床像を起こす人獣共通感染症がある。近縁菌のコリネバクテリウム・ウルセランス (Corynebacterium ulcerans ) がジフテリア類似の症状を引き起こすことが、日本でも2001年から2009年までに6例報告されている[4]C. ulcerans は、ウシウマなどの動物の常在菌で、イヌネコからも検出される[5]。時にウシの乳房炎の原因となる。通常、 C. ulcerans は毒素を産生しないが、C. diphtheriae と同様に、バクテリオファージからもたらされる毒素遺伝子により、毒素生産性を持つと考えられる[6]。英国などの国では、C. diphtheriae によるジフテリアと同等の扱いがされている。

日本における C. ulcerans 最初の症例としては2001年千葉県の52歳の女性で、ジフテリアに特徴的な呼吸音と偽膜の症状を示したが、ジフテリア抗毒素血清投与の治療により治癒した。感染ルートは明らかになっていない。

予後

心筋炎を併発した場合の回復には時間がかかる。発症前と同じ活動であっても、炎症を起こした心臓にとっては負担が大きくなるので、日ごろの活動を早期に再開すべきではない[3]

予防

ファイル:DT-vaccine.jpg
ジフテリア・破傷風混合ワクチン (DTワクチン)

予防法は、ジフテリア毒素をホルマリン処理して無毒化したトキソイドジフテリアワクチン)の接種。日本では三種混合ワクチン(DPTワクチン)、二種混合ワクチン(DTワクチン)に含まれている。定期接種の普及している国では症例は稀だがそうでない国では流行がある。また近年症例の報告されていない日本においても不顕性感染の経歴を示唆する血清検査結果もある。 日本では承認されていないが、5歳以上(成人用)の破傷風・ジフテリア混合 Tdワクチン(ジフテリアの抗原量が5歳以上用に調整されており、破傷風は一人前含有されている。国産DTを1/5量で摂取する際は、別途、破傷風トキソイドを受けることが推奨される)、11歳〜55歳まで適応の、破傷風・ジフテリア・百日咳混合Tdapワクチンが、先進国を中心にほとんどの国で接種可能である。

ジフテリア予防接種時の事故、医原病

1948年京都・島根でのジフテリア予防接種の時に無毒化が不十分であったワクチンの接種によるジフテリア毒素により大規模な医療事故が起き、横隔膜麻痺、咽頭麻痺、心不全等の中毒症状が現れ、死亡者85名という結果になった。これは、世界史上最大の予防接種事故である[7] [8]。 (→ 医原病も参照可)

疫学

ファイル:Diphtheria world map - DALY - WHO2004.svg
ジフテリアの人口10万あたり障害調整生命年(2004年)
  データなし
  ≤ 1
  1–2
  2–3
  3–4
  4–5
  5–6
  6–7
  7–9
  9–10
  10–15
  15–50
  ≥ 50

ジフテリアは5-10%のケースで深刻となる場合があり、特に5歳以下または40歳以上では20%まで上昇する[9]。 2013年には3300人の死者が発生し、これは1990年の8000人から減少している[10]

アウトブレイクとなることは稀であるが、未だ世界各地で起こっており、それは先進国でも例外ではなく、ドイツやカナダなどのワクチン未接種者でも起こっている。

ファイル:Diphterie.png
WHOへの発症報告数(1997-2006年)
  データなし
  1–49 例の報告
  50-99例
  100+ 例


社会的側面

脚注

  1. (May 2012) Diphtheria Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases, 12, Public Health Foundation, 215–230. ISBN 9780983263135. 
  2. 2.0 2.1 2.2 感染症情報センター (国立感染症研究所)
  3. 3.0 3.1 ジフテリア メルクマニュアル家庭版
  4. Corynebacterium ulceransとジフテリア 国立感染症研究所
  5. 本邦で初めてイヌから分離されたジフテリア毒素産生性
  6. ジフテリアに関係するキーワード 国立感染症研究所
  7. 吉原賢二『私憤から公憤へ- 社会問題としてのワクチン禍』 p.79
  8. 和気正芳、『【原著】京都ジフテリア禍事件の原因論 (PDF) 』 社会医学研究23巻(2005)p23
  9. (2007) “Diphtheria”, Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases (The Pink Book), 10, Washington, D.C.: Public Health Foundation, 59–70. 
  10. GBD 2013 Mortality and Causes of Death, Collaborators (17 December 2014). “Global, regional, and national age-sex specific all-cause and cause-specific mortality for 240 causes of death, 1990-2013: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2013.”. Lancet 385: 117–71. doi:10.1016/S0140-6736(14)61682-2. PMC 4340604. PMID 25530442. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=4340604. 
  11. ジフテリアの基礎知識 国立感染症研究所

関連項目

外部リンク