ヘビ

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ヘビ(蛇)は、爬虫綱有鱗目ヘビ亜目(Serpentes)に分類される爬虫類の総称。体が細長く、四肢がないのが特徴。ただし、同様の形の動物は他群にも存在。

分布

南極大陸を除く全大陸。

形態

大きさも最大10mといわれるアミメニシキヘビオオアナコンダから、10cm程のメクラヘビ類まで、様々な種類がある。なお世界最大の毒蛇は、全長5m以上になるキングコブラとされる。

の区別は、一般に総排出口から先が尾とされる。骨格を見れば胴体と尾の境界はある(胴体には肋骨があるが、尾にはない)。

俗にを外して獲物を飲み込むとされるが、実際には方形骨を介した顎の関節が2つあり、開口角度を大きく取ることができる。さらに下顎は左右2つの独立した骨で形成され、靭帯で繋がっている。上顎骨や翼状骨も頭骨に固定されておらず、必要に応じて前後に動かすことができる。も喉奥に向かって反り返り、これらにより獲物を咥えながら顎を動かすことにより獲物を少しずつ奥に呑みこむことができる[1]

また口内にはヤコブソン器官という嗅覚をつかさどる感覚器を持つ(ヘビ固有の器官ではない)。本科の構成種がを頻繁に出し入れするのはこの器官に舌に付着させた匂いの粒子を送っているためである。また一部の種では赤外線(動物の体温)を感じ取る赤外線感知器官(ピット器官)を唇にある鱗(上唇板、下唇鱗)や鼻孔の間に持つ。耳孔鼓膜退化しているため、地面振動を下顎で感知する。

鱗には厚さ数ナノメートルの剥がれない脂質が潤滑油として分泌されており、これは2015年12月9日付の「Journal of the Royal Society Interface」誌で発表された研究論文によって明らかになっている[2]

進化

ヘビの進化的起源には不明な点が多いが、有鱗目のうち、トカゲ亜目の一部から進化したと考えられている[3][4]。トカゲ亜目のなかではオオトカゲ下目English版に近いとする説がもっとも有力だが、ヘビと同じく四肢の退化したヒレアシトカゲ科English版ミミズトカゲ亜目を姉妹群とする説もある[3]。1億4500万年前から1億年前の白亜紀前期に派生したと推測されている[1]

ヘビの祖先がどのような生活をしていたかについては、水生だったとする説と陸生・地中生だったとする説が対立しており[3][4][1][5]、決着は着いていない。水生説では、ヘビがモササウルス科[5]ドリコサウルス科[1]のような海生オオトカゲ類に近縁であることから、それらから派生して海中で自在に動けるように進化したと考える[3][1]。とくに約9800万年前の地層から見つかったパキラキスが、オオトカゲ類の特徴を残す祖先的なヘビであるとする研究は、水生説を強く支持している[4][5]。パキラキスは前肢を持たず後肢のみを持つヘビで、形態的な特徴から水生であったと考えられる。しかしパキラキスが祖先的であることを疑う意見もある[5]。水生説に対して、ヘビが中耳鼓膜を失っていることや、進化過程で一度網膜が退化したとみられること、脳頭蓋が骨で保護されること、瞼が無く眼が透明な鱗で覆われていることなどは、ヘビの祖先が地中生活をしていたことを強く示唆する[3]。ただし固い地面を掘り進んでいたとすれば生じたはずの頭蓋骨の強化(ミミズトカゲ類には生じている)はヘビには見られず、地中起源だとしたら軟らかい土壌にすんでいたか[3]、既にある穴や割れ目を利用する半地中生だったと考えられる[4]。化石では、後肢と椎骨を残すナジャシュ、四肢を完全に失ったヘビのなかでは最古であるディニリシアEnglish版、頭部にトカゲの特徴(上顎の骨が頭骨に固定されている)を残し地中生だったと推測されるコニオフィスが陸生であることが、陸生説を支持している[1][6]

四肢を失う進化(退化)自体はそれほど珍しいものではなく、両生類の無足類も正に同様の進化を経た分類群である。現生のトカゲ類においてもアシナシトカゲヒレアシトカゲのように四肢がないかほとんど無いいくつかの群がある。鳥類ではモアが前肢(翼)を失い、哺乳類ではクジライルカの後肢が退化している[7]

四肢に関しては現在もメクラヘビニシキヘビ科など一部の原始的なヘビに腰帯の痕跡を持つ種類がある。一部のニシキヘビには大腿骨も残っている。なお、肩帯のある種類は現存しない。移動するための四肢を失ったとはいえ、ヘビはその細長い体によって地上や樹上、水中での移動を可能にし、高い適応性を示している[4]

地上での移動方法にはいくつかの種類があり、代表的なのは以下のものである。

  • 蛇行
  • 直進(腹筋を動かして直進する)
  • 横這い(上半身を移動する方向へ持ち上げた後、下半身を引き寄せる。「サイドワインダー」の語源)

体形に合わせて内臓も細長くなっており、2つののうち左肺は退化している。原始的なヘビほど左肺が大きい傾向にある。

視力は人間などに比べると弱く、現存する種にも目が退化したものは多い。ただし、立体的な活動を行う樹上棲種についてはこの限りではなく、視覚が発達し大型の眼を持っている種もいる。

ヘビといえば「長い体」の次に「」が連想され、実際、有毒な爬虫類の99%以上はヘビが占めている(ヘビ以外にはドクトカゲ科2種のみとされてきた)。全世界に3000種類ほどいるヘビのうち、毒を持つものは25%に上る。威嚇もなく咬みつく攻撃的で危険な毒蛇もおり、不用意に近づくのは危険である。

毒蛇は上顎にある2本の毒牙の根もとに毒腺があり、毒液を分泌する。クサリヘビ科の種ではの中は注射器のように管状で毒牙の先に毒液を出す穴がある。コブラ科では牙が管状ではなくその表面に毒液が毛細管現象で流れる溝がある種が多いが、毒牙がほぼ管状になっている種もある。従って、この二者を明確に分けるのは毒牙が管状か否かではなく、毒牙が折り畳み式か否かであり、前者を「管牙類」、後者を「前牙類」と呼ぶ。なかには口を開けて毒牙から毒液を噴射するクロクビコブラドクフキコブラのような種類もいる(両者の毒牙は牙前方中ほどに毒腺の穴があいており、2mほど先の標的に正確に毒液を命中させることができる)。クサリヘビ科でもマンシャンハブEnglish版のように毒液を噴射するものがいる。日本にも分布するヤマカガシの仲間はアオダイショウなどと同じナミヘビ科だが、上あごの奥の牙と首筋の皮膚の2ヶ所から毒を分泌する。これらの仲間は無毒とされてきたが最近になって毒ヘビとして認識されるようになった。実際に日本で人が死亡した例もある。ナミヘビ科の有毒種は毒牙の位置から「後牙類」と呼ばれる。

最も強い毒をもつのは海蛇で、中でも、インドネシアからニューギニアにかけての海域に生息するベルチャーウミヘビが最強とされる。陸生のうち最強の毒をもつのは、オーストラリアに生息するナイリクタイパンである。その他、非常に攻撃的なタイパンやアフリカ最強の毒蛇であるブラックマンバタイガースネークキングコブラアマガサヘビなど。

三角形のヘビは毒蛇」といわれるが、必ずしも正しいとは言えない。確かに毒を持つクサリヘビ科のヘビ、ハブやマムシは、頭が三角形のような形。ほかのクサリヘビ科のヘビも三角形のような形である。だが、コブラ科のナイリクタイパン、ブラックマンバ等の頭は、三角形というよりは、いわゆる「蛇の頭」形。日本に生息する猛毒を持つナミヘビ科の、ヤマカガシも頭は三角形ではない。また、日本の、毒を持たないヘビ、アオダイショウやシマヘビは、毒の代わりに威嚇するため、頭が三角形に広がることがある。

また、無毒のヘビであっても咬まれれば唾液に含まれる細菌等の影響で感染症を起こす場合がある。さらにこれらのヘビの歯は、くわえた獲物を逃さないよう先端が内側(のど)に向かって曲がっている上に細いため、無理矢理引きはがすと皮膚に食い込んだまま折れてしまう危険がある。

クサリヘビ科に代表される「出血毒」は、消化液唾液)が変化したもので体の各部に皮下出血を起こし、組織を破壊されてに至る。これは蛋白質消化されたために起こる症状である。

コブラ科の構成種に主に見られる「神経毒」は文字通り中枢神経を冒して、咬んだ動物を麻痺状態にし、ヘビはその間に獲物を捕食する。強毒種では出血毒と神経毒の両方の作用がある。毒ヘビに咬まれたときは血清による治療をうける必要がある。

生態

ファイル:Coluber constrictor Schwarznatter fg01.jpg
アメリカレーサー
Coluber constrictor
ファイル:Indian cobra.jpg
インドコブラ Naja naja
ファイル:Boa c.i.jpg
ボアコンストリクター
Boa constrictor
ファイル:Python royal 35.JPG
ボールニシキヘビ
Python regius

森林草原砂漠等の様々な環境に生息する。環境に応じて地表棲種、樹上棲種、地中棲種、水棲種等、多様性に富む。変温動物なので、極端な暑さ寒さの環境下では休眠を行なう。

食性は全てが動物食で、主食はシロアリミミズカタツムリカエルネズミ魚類鳥類など種類によって異なる。大型の種類ではシカワニヒト等を捕食することがあるが、変温動物で体温を保つ必要がないため、食事の間隔は数日から数週間ほどである。獲物を捕食するときは、咬みついてそのまま強引にくわえ込む、長い胴体で獲物に巻き付いて締め付ける、毒蛇の場合は毒牙から毒を注入して動けなくする等の方法がある。

コブラ類を初めヘビを食べるヘビも多い(自らも相手も体が細長いので食べ易い上、栄養を多く摂取できるからだと考えられている。多くのウミヘビ類がアナゴやウナギ等をよく食べるのも同じ理由であると考えられている)。

繁殖形態は卵生、卵胎生胎生の種がいる。

分類

メクラヘビ上科 Typhlopoidea

盲蛇上科、ミミズヘビ上科 (Scolecophidia)とも。メクラヘビの仲間。

ムカシヘビ上科 Henophidia

ボア上科 (Boidea)とも。比較的原始的なグループを含む。

ナミヘビ上科 Caenophidia

ヘビ上科(Caenophidia / Xenophidia)とも。一般的なヘビの仲間。

系統

以下のような系統樹が得られている[8][9]



アメリカメクラヘビ科





Gerrhopilidae




Xenotyphlopidae




ホソメクラヘビ科



メクラヘビ科








サンゴパイプヘビ科



ドワーフボア科





トゲアゴヘビ科





ツメナシボア科




ボア科





ミミズサンゴヘビ科




パイプヘビ科



ミジカオヘビ科






サンビームヘビ科




メキシコパイソン科



ニシキヘビ科







ナミヘビ上科


ヤスリヘビ科



タカチホヘビ科





セダカヘビ科




クサリヘビ科





ミズヘビ科




イエヘビ科



コブラ科+ウミヘビ科






ハスカイヘビ科




ナミヘビ科




ユウダ科



マイマイヘビ科














文化の中のヘビ

ファイル:Esclapius stick.svg
アスクレピオスの杖
ファイル:Pharmaklog.jpg
ヒュギエイアの杯
ファイル:Caduceus large.jpg
ケリュケイオン

現代では一般的にヘビの容姿は、外見上四肢がなく、ニョロニョロと動いたりトグロを巻いている様子が「気持ち悪い」という印象を与えやすく、嫌悪の対象になることが多い。 また毒蛇やニシキヘビ科、ボア科の数種に関しては場合によっては人命を奪うこともあり畏怖の対象ともなっている。反面そういった理由から、場合によっては人間に対して無害な種であっても駆除されることもある。しかし、それとは逆にペットとして飼育されることも増えていて、色彩変化の改良品種なども作出されているほどである。

信仰

四肢を持たない長い体や毒をもつこと、脱皮をすることから「死と再生」を連想させること、長い間餌を食べなくても生きている生命力、四肢のない体型と頭部の形状が陰茎を連想させる事などにより、古より「生と死の象徴」「豊穣の象徴」「神の使い」などとして各地でヘビを崇める風習が発生した。最近でもヘビの抜け殻(脱皮したあとの殻)を「お金が貯まる」として財布に入れるなどの風習がある。また、漢方医学民間療法の薬としてもよく使われる。日本でも白ヘビは幸運の象徴とされ特に岩国のシロヘビは有名である。 また、赤城山の赤城大明神も大蛇神であり有名であるといえる。

日本の古語ではヘビのことを、カガチ、ハハ、あるいはカ(ハ)等と呼んだ。民俗学者の吉野裕子によれば、これらを語源とする語は多く、(ヘビの目)、鏡餅(ヘビの身=とぐろを巻いた姿の餅)、ウワバミ(ヘビの身、大蛇を指す)、かかし(カガシ)、カガチ(ホオズキの別名、蔓草、実の三角形に近い形状からヘビの体や頭部を連想)などがあり、(カミ=カ「蛇」ミ「身」)もヘビを元にするという[10]。 ただし、カガチはホオズキの古語、鏡の語源は「かが(影)+み(見)」、カカシはカガシが古形であり、獣の肉や毛髪を焼いて田畑に掛け、鳥や獣に匂いをカガシて脅しとしたのが始まりであって、それぞれ蛇とは直接の関係はないというのが日本語学界での通説である。

ヘビは古来、世界的に信仰の対象であった。各地の原始信仰では、ヘビは大地母神の象徴として多く結びつけられた。山野に棲み、ネズミなどの害獣を獲物とし、また脱皮を行うヘビは、豊穣と多産と永遠の生命力の象徴でもあった。また古代から中世にかけては、尾をくわえたヘビ(ウロボロス)の意匠を西洋など各地の出土品に見ることができ、「終わりがない」ことの概念を象徴的に表す図象としても用いられていた。ユダヤ教キリスト教イスラム教アブラハムの宗教)では聖書創世記から、ヘビは悪魔の化身あるいは悪魔そのものとされてきた。

ギリシャ神話においてもヘビは生命力の象徴である。杖に1匹のヘビ(クスシヘビ 薬師蛇、Zamenis longissimus とされる)が巻きついたモチーフは「アスクレピオスの杖」と呼ばれ、欧米では医療医学を象徴し、世界保健機関のマークにもなっている。また、このモチーフは世界各国で救急車の車体に描かれていたり、軍隊等で軍医衛生兵などの兵科記章に用いられていることもある。また、杯に1匹のヘビの巻きついたモチーフは「ヒュギエイアの杯」と呼ばれ薬学の象徴とされる。ヘルメス(ローマ神話ではメルクリウス)が持つ2匹のヘビが巻きついた杖「ケリュケイオン」(ラテン語ではカドゥケウス)は交通などの象徴とされる。「アスクレピオスの杖」と「ヘルメスの杖(ケリュケイオン)」は別のものであるが、この二つが混同されている例もみられる。

古代エジプトの歴代ファラオは、主権、王権、神性の象徴として蛇形記章を王冠に戴いた。

中国神話や、江戸時代の官学であった道学では、蛇神が道祖として信仰されてきた。明治維新後の日本では高島易断で主祭神[11]として信仰が残るのみ。また中国の香港特別行政区では道教寺院を通して一般に信仰され[12]、中国本土では中華民族人文の始祖として尊ばれている。三皇の初代が、魚釣を教え魚網漁鳥網猟や八卦(易)、そして結縄やを発明した蛇身人首の伏羲。その妹にして妻である女媧は、泥と縄で人類を創造し、天を修復し、を発明した蛇身人首の女神。伏羲女媧は大洪水に遭い、人類は、瓢箪の中に避難していた二人を残して絶滅してしまったとも伝えられている。なお、漢字文化において古くは無足の動物を蟲と称し、代表的な動物が蛇で、その他、蛭やナメクジやミミズやウミウシも蟲に属した。そのため、足無しと呼ばれた足の不自由な人が知恵者として崇拝されるようになると、蛇と同一視されるようになったという解釈もある。

また、インド神話においてはシェーシャアナンタヴァースキなどナーガと呼ばれる蛇身神が重要な役割を果たしている。宇宙の創世においては、ナーガの一つである千頭の蛇アナンタを寝台として微睡むヴィシュヌ神の夢として宇宙が創造され、宇宙の構成としては大地を支える巨亀を自らの尾をくわえたシェーシャ神が取り囲み、世界を再生させるためには、乳海に浮かぶ世界山に巻き付いたヴァースキ神の頭と尾を神と魔が引き合い、乳海を撹拌することにより再生のための活力がもたらされる。これらの蛇神の形象は中国でののモデルの一つとなったとも考えられている。

日本においてもヘビは太古から信仰を集めていた。豊穣神として、を呼ぶ天候神として、またを照り返す鱗身や閉じることのない目が鏡を連想させることから太陽信仰における原始的な信仰対象ともなった。もっとも著名な蛇神は、頭が八つあるという八岐大蛇(ヤマタノオロチ)や、三輪山を神体として大神神社に祀られる大物主(オオモノヌシ)であろう。弁才天でも蛇は神の象徴とされる場合がある。大神神社や弁才天では、神使として蛇が置かれていることもある。蛇の姿は、男根金属)とも結びつけられることから男性神とされる一方、豊穣神地母神の性格としては女性と見られることも多く、異類婚姻譚の典型である「蛇女房」などにその影響を見ることができる。この他、蛇そのものを先祖とする信仰もみられ、『平家物語』の記述として、「緒方維義の祖先は明神の化身たる大蛇という伝説(緒方家における祖神信仰)があり、その話から武士達が集まった」と記され、祖蛇信仰が権威として利用されたことがわかる内容である。

ヘビと精神分析

精神分析の始祖であるジークムント・フロイト夢分析において、ヘビを男根の象徴であるとした。これに対してカール・グスタフ・ユングは、男性のに登場するヘビは女性であると説いた。また、ユングはフロイトが多くのものをに結び付けて解釈する傾向に対しては批判的であった。

1960年代に5歳から12歳の子どもを対象として行われた「怖いと思うもの」を尋ねる調査では、467人のうち約50パーセントの子どもが動物を上げ、その中で最も多かった回答はヘビ類だった[13]。このように、多くの人に見られるヘビ類への恐れは本能であるという説と、学習の結果であるという二つの説がある[13]。本能由来説の裏付けとして、マーモセットチャクマヒヒなどの観察研究により霊長類全般にヘビへの忌避行動が見られる事が挙げられている。一方でマカクキツネザルを対象とした学習由来説を裏付ける研究もあり、結論には至っていない。1928年に心理学者メアリー・カバー・ジョーンズEnglish版夫妻が提出した論文『成熟と感情:ヘビに対する恐れ』によれば、2歳までの子供は長さ1.8メートルのヘビやボアコンストリクターを恐れなかったが、3歳児は警戒を見せるようになり、4歳児以上では恐怖を示したという[13]

政治シンボル

アメリカ合衆国では「大きな者が侵入してきても敢然と威嚇し、踏みつけられれば反撃する」としてガラガラヘビが"Don't tread on me."(私を踏むな)の標語とともに独立自衛のシンボルとされる。これらの意匠はガズデン旗海軍国籍旗にも用いられる。

古代エジプトの主権を示す王冠として、ファラオ蛇形記章を戴いた。

伝説・神話中のヘビ型生物など

ことわざ・慣用句

ヘビに関連することわざ慣用句熟語も多く存在する。以下、五十音順。

蜿蜒長蛇(えんえんちょうだ)
蛇のようにうねうねと動くようす。「蜿蜿長蛇」「蜒蜒長蛇」とも書く。
草を打って蛇を驚かす
何気なくしたことが思いがけない結果を招くこと。また、ある人を懲らしめることで関係者を戒めること。(出典:書言故事
蛇(じゃ)の道は蛇(へび)
専門家の間でその専門について暗黙の了解ができること。あるいは専門のことはその専門家が詳しいこと。類似句は「餅は餅屋」。
蛇の目模様
同心円の模様。
蛇(じゃ)は寸にして人を呑む
英雄や偉人は小さいときから人を圧倒する品位・風格を持つこと。小さな蛇でも威嚇する姿に圧倒されることがあることから。
蛇腹(じゃばら)
山折りと谷折りを繰り返して伸び縮み自由にした構造。蛇の腹に似ていることから。
常山の蛇勢(じょうざんのだせい)
軍隊の配置や文章の構成などが、前後左右どこにも隙や欠点のないこと。常山の蛇は、頭を叩こうとすれば尾が、尾を叩こうとすれば頭が反撃するとされる。(出典:『孫子』九地篇)
蛇足
余計なこと。(出典:『戦国策』斉上)
蛇蝎のように恐れる
対象を、ヘビやサソリのように恐れ嫌う。
毒蛇は急がない  
「自信がある者は、焦らず落ち着いている。そして最後には必ず目的を達成する」という意味。タイの諺。
苦手(ニガテ)
力量と関係なく、何故か特定の物や人との優劣が決まってしまう状況や心理を指す言葉。手を出すだけでマムシを硬直させ、素手で容易に捕まえる稀な才能を持つ手を「ニガテ」と呼んでいたことからくる[14]
杯中の蛇影
疑いすぎて自分で苦しんでしまうこと。(出典:『晋書』)
蛇が蚊をのんだよう
少量で足しにならないことの喩え。
蛇形記章
古代エジプトの主権、王権、神性の象徴だった。
蛇稽古
長続きしない稽古事の喩え。
蛇に足無し魚に耳無し
蛇は足がなくても這って進めて、魚は耳がなくても感じることができる。動物の特徴を表す言葉。「蛇は足無くして歩き、蝉は口無くして鳴き、魚は耳無くして聞く」とも。
蛇に咬まれて朽ち縄に怖じる
過去の体験から些細なことにおびえること。単に「朽ち縄に怖じる」ともいう。類似句は「羹に懲りて膾を吹く」「熱湯で火傷した猫は冷水を恐れる」「黒犬に咬まれて赤犬に怖じる」。
蛇ににらまれた蛙
恐ろしいものに直面して身動きができない状態。「蛇に見込まれた蛙」「蛇に蛙」とも。
蛇の生殺し
「生殺し」と同じ。生きも死にもしない状態。中途半端な状態で放置しておくこと。
蛇の生殺しは人を咬む
さんざんひどい目にあわせ、とどめを刺さずに放っておくと、後で仕返しを受けることになるということ。
蛇は竹の筒に入れても真っすぐにならぬ
生まれ持った根性はどうやっても直らないということ。類似句は「蛇の曲がり根性」。
封豕長蛇(ほうしちょうだ)
大きなイノシシと長いヘビ。欲が深く残酷な人の喩え。(出典:『春秋左氏伝』)
盲蛇に怖じず(めくら、へびにおじず)
知識がなかったり状況が判らないと無謀なことをする喩え。差別用語に当たるとして、使われなくなっている。
薮を突付いて蛇を出す
略して「藪蛇(やぶへび)」ともいう。わざわざ余計なことをした結果、そうしなかった場合より悪い状況になってしまうこと。
竜頭蛇尾(りゅうとうだび)
「虎頭蛇尾」とも。最初は立派でも、尻すぼみに終わってしまうこと。(出典:『五灯会元』)

その他

  • 中国拳法の象形拳のなかの「蛇拳」「蛇形拳」は、ヘビをモデルにして作った拳法である。
  • 虫拳では伸ばした人差し指が蛇を表し、蛇は(親指)に勝つがナメクジ(小指)に負ける。

有用動物としてのヘビ

食用

蛇の肉や皮を食用にする地域がある。中国広東省広西チワン族自治区では、毒蛇を含む蛇の料理を伝統的に食べている他、近年は他の省でも料理を出す店が増えている。有名なのは蛇スープで、あっさりした美味とタンパク質などの栄養分で珍重される。肉は他に、唐揚げ鍋料理の具にも用いられる。鱗を取った皮も湯引きにして、醤油で味付けして食べたり、油で揚げて食べたりする。日本にも、蛇飯を炊いて食べる地域がある。沖縄ではエラブウミヘビなどを燻製にし、もどして煮込むイラブー汁という伝統料理がある。

陸上自衛隊のレンジャー訓練を初め、陸軍における遊撃戦要員を養成する訓練の多くでは、作戦行動中に食糧が尽きた場合を想定し、教育の一環として用意されている蛇を調理して食べることがある。

薬用

日本ではニホンマムシを丸ごと漬け込んだマムシ酒やハブを丸ごと漬け込んだハブ酒が作られており、薬酒と考えられている。中国では百歩蛇などが蛇酒に使用される。東南アジアなどでは、強壮効果を期待して生き血をグラスに注いで飲んだり、に酒を注いで飲んだりする習慣も見られる。科学的根拠はない。

蛇毒は、血栓防止薬などとしての利用が研究されている。

長野県秋山郷地区には次のような伝統的民間療法がある。

  • 回虫駆除…ぬけがら粉末にして飲む。
  • イボ…ぬけがらでイボをこすると治るという。
  • 腹痛…胆嚢を干して煎じて飲む。
  • 眼病…肉を焼いて食べる。
  • 強壮…ヘビ卵を茹でて食べる。
  • 打撲…マムシの生の眼球を飲む。
  • 虫刺され…マムシ酒を塗る[15]


  • 長野県阿智・喬木地区ではヘビのぬけがらを粉にして咽頭にふきつけ、咳、ぜんそくの薬とする伝統の療法が残っている[16]

装飾品

蛇の皮は、なめして、財布バッグに利用される場合がある。また、三味線の原型となった沖縄奄美地方の弦楽器三線は、胴にヘビの皮を張っていることでも有名である。

古代エジプトファラオは、その王冠として蛇形記章を戴いた。

ヘビは足が無いことから「足(金員)が出ない」ことにひっかけ、「脱皮した皮を財布に入れておくとお金が貯まる」などの俗説もある。

名称

英語では、snake, serpent (< ラテン語: serpens)ともに原義は「爬うもの」の意。この蛇の爬う習性から、蛇に類する動物を「爬虫類」「爬行動物」と呼ぶようになった。英語で「爬虫類」「爬行動物」を意味するreptile(< ラテン語: reptilia)も、serpentと同じく原義は「爬うもの」である。

漢字の「」は蛇を象った字で、虫部の漢字には蛇に限らず、爬って進む動物全般が含まれている(蛇以外の例:)。

日本語「ヘビ」(ヘミ)は一説に、「ハブ」「ハモ」「ヒモ」など子音の共通する語彙と同系で、「細長いもの」の底意をもつという。周辺語として「うわばみ」などがある。

方言名

20世紀に調べられた日本語の方言では、東日本および九州東部、四国南部のヘビと、ヘッビ新潟県)、ヘービナガムシオカウナギ長野県佐久地域[17]ヘンビ岐阜県)、ヘミ福井県)、ハブ沖縄県)など、ヘビの変音で呼ぶ地域が最も多かった。次いで中国地方近畿、九州西部を中心にクチナワ(朽ち縄)及びその変音(クチナなど)で呼ぶ地域が広がっていた。

他には、大虫(オームシ)、陸鰻(オカウナギ)、幹虫(カラムシ)、郷回り(ゴーマワリ)、(ナガ)、長太郎(ナガタロー)、長物(ナガモノ)、(ナワ)、(ミー)、山鰻(ヤマウナギ)などの呼び方がある。

ヘビ学

主要な研究所

日本では、群馬県太田市藪塚町にある「ジャパンスネークセンター(財団法人 日本蛇族学術研究所 公式ページ)」が、最大の研究施設となっている。各種蛇毒の抗毒素の在庫についてもここが最大の拠点となっており、外国産の毒蛇咬症やヤマカガシ咬症による事故が生じた場合などにはしばしばここからそれらの抗毒素の手配や輸送が行われる。

ヘビの飼育

日本ではコブラ科、クサリヘビ科、ナミヘビ科とボア科、ニシキヘビ科の一部に関しては動物愛護法によって特定動物に指定されているため飼育には地方自治体の許可が必要になる。日本で主に流通し飼育されるのはナミヘビ科の無毒種や弱毒種、ボア科やニシキヘビ科の小型から中型種になる。

ヘビはあまり活発的ではなくとぐろを巻いていることも多いため、全長と同等の飼育スペースはそれほど必要ではない。一般に飼育ケージの大きさは、その個体が巻いているトグロの直径の三倍の幅×二倍の奥行きがあれば最低限可能である。全長100-150cmのナミヘビ類に対し60-90cmの規格水槽サイズのケージでも飼育はできる。比較例としては甲長20cm以下のカメ1匹に対し同サイズのケージが必要とされる。ただし、ボアやニシキヘビなどは体形の太い種が多いし(=タイトなとぐろを巻けない)、動き回ることが多い体の硬いナミヘビなどについては、もう少し大型のケージが必要になる。近年は冷凍のマウスやラットが専門店等でも販売されており、それらで餌付けできる種(小型哺乳類が食性に含まれる種)については飼育しやすくなったといえる。また人に馴れる生き物ではないが、コーンスネークのように流通する個体がほぼ飼育下繁殖個体であったり、種によっては成体であれば1週間に1回程度の給餌で済むことや、立体活動がそう必要でないこと、変温動物ではあるが繁殖をさせない限り温度管理には神経質にならなくてよいこと、鳴かないこと、抜け毛が無いことなど、飼育をしやすい点も特筆すべきである。

しかし体形が細いため脱走には気をつける必要がある。また神経質な種も多いため環境の変化やストレス等から拒食してしまうこともある。

なお、飼育とは異なるが、日本に生息するアオダイショウは立体的な活動が得意なこともあり、人家の屋根裏等に潜みネズミ等を捕食する。そのため人家とともに生息域を広げ近年でも場所によっては郊外や都市部といった環境にも生息している。アオダイショウそのものも日本に分布するヘビの中では大人しく、本土最大のヘビではあるが大型化しないため飼育に適しているヘビとされる。

脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 對比地孝亘、疋田努(協力)「ヘビの首はどこまでか? : 徹底紹介!不思議だらけの体と特殊能力」、『ニュートン』第33巻第2号、ニュートンプレス、2013年2月、 94-103頁、 ISSN 0286-0651NAID 40019542933
  2. ヘビのウロコに「剥がれない潤滑油」、初の発見 ナショナルジオグラフィック日本版 2015.12.14
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 松井正文 「爬虫類にみる多様性と系統」『脊椎動物の多様性と系統』 松井正文(編集)、岩槻邦男・馬渡峻輔(監修)、裳華房〈バイオディバーシティ・シリーズ7〉、2006年。ISBN 4785358300。
  4. 4.0 4.1 4.2 4.3 4.4 疋田努 『爬虫類の進化』 東京大学出版会〈Natural History Series〉、2002年、85-87。ISBN 4130601792。
  5. 5.0 5.1 5.2 5.3 Coates, Michael; Ruta, Marcello (2000). “Nice snake, shame about the legs”. Trends in Ecology & Evolution 15 (12): 503-507. doi:10.1016/S0169-5347(00)01999-6. ISSN 10.1016/S0169-5347(00)01999-6. PMID 11114437. 
  6. “ヘビは水中ではなく陸上で進化、米論文”. AFPBB News (フランス通信社). (2012年7月30日). http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2892338/9310867 . 2013閲覧. 
  7. Lars Bejder, Brian K. Hall (2002). “Limbs in whales and limblessness in other vertebrates: mechanisms of evolutionary and developmental transformation and loss”. Evolution & Development 4 (6): 445–458. doi:10.1046/j.1525-142X.2002.02033.x. 
  8. Pyron, Robert Alexander and Burbrink, Frank T and Wiens, John J (2013). “A phylogeny and revised classification of Squamata, including 4161 species of lizards and snakes”. BMC evolutionary biology 13 (1): 93. 
  9. Pyron RA, Burbrink FT, Colli GR, de Oca AN, Vitt LJ, Kuczynski CA, Wiens JJ. (2011). “The phylogeny of advanced snakes (Colubroidea), with discovery of a new subfamily and comparison of support methods for likelihood trees”. Mol. Phyl. Evol. 58 (2): 329-342. PMID 21074626. 
  10. 『蛇―日本の蛇信仰』1979年、法政大学出版局 ISBN 4-588-20321-5 / 講談社学術文庫 ISBN 4-06-159378-1
  11. 高島神社の主祭神伏羲
  12. 蓬瀛仙館。
  13. 13.0 13.1 13.2 ドナ・ハート、ロバート・W・サスマン『ヒトは食べられて進化した』伊藤伸子訳 化学同人 2007 ISBN 9784759810820 pp.156-158.
  14. 常光徹『しぐさの民俗学』ミネルヴァ書房 2006年、ISBN 4623046095 pp.170-171.
  15. 『信州の民間薬』全212頁中23頁医療タイムス社昭和46年12月10日発行信濃生薬研究会林兼道編集
  16. 『信州の民間薬』全212頁中90頁医療タイムス社昭和46年12月10日発行信濃生薬研究会林兼道編集
  17. 佐久市志編纂委員会編纂『佐久市志 民俗編 下』佐久市志刊行会、1990年、1385ページ。

関連項目

外部リンク