ベンガル文字

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ベンガル文字
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タゴールによる手書きのベンガル文字による(ラテン文字による英語訳つき)。1926年。
類型: アブギダ
言語: ベンガル語アッサム語
時期: 11世紀-現代[1]
親の文字体系:
Unicode範囲: U+0980-U+09FF
ISO 15924 コード: Beng
注意: このページはUnicodeで書かれた国際音声記号 (IPA) を含む場合があります。

テンプレート:ブラーフミー系文字

ベンガル文字(ベンガルもじ、বাংলা লিপি Bangla lipi)は主にベンガル語アッサム語を表記する文字。ほかにマニプル語でも使用する。デーヴァナーガリーと同じように一つの単語内でつなげられる文字は上の棒でつなげて書く。 ベンガル文字はアブギダであり、子音につく母音チベット文字のように附属記号で表記する。これがない場合は日本語のOより少し口を大きく開いたような発音になる。

特徴

ベンガル文字はデーヴァナーガリーと同様に北方ブラーフミー系文字であるシッダマートリカー文字から発達した文字で、明らかにデーヴァナーガリーとよく似た文字( na や ba など)もあるが、大きく異なる字形を持つ字も存在する。文字の形はデーヴァナーガリーが曲線的であるのに対して尖っている。また e/ai の母音記号はデーヴァナーガリーでは子音の上に書かれるのに対し、ベンガル文字では南インドの文字と同様に左に書かれる[2]

歴史的な音韻変化の結果、vaはbaと同音になり、文字の上で区別されない。/w/は存在するが専用の文字はなく、uまたはoの後ろに母音字を加えることで表される[3]。またyaもjaと同音になったが、語源に従って書き分けられる。/j/は、yaの字に点を加えた専用の文字で表記される。

他のインドの文字と同様に、子音が母音記号をつけずに書かれた場合は随伴母音aを伴うが、このaは実際には/ɔ//o/、またはゼロのいずれかに発音される。3種類のうちどの読みになるかは、語中における位置、語源、母音調和などの複雑な要素によって決定され、つづりから発音が常に判断できるわけではない[4][5]。同様に/æ//e/も表記上は区別されない[4][6][7]

ベンガル文字の特徴として、つづりが非常に保守的であることがあげられる。ベンガル語はほかの新インド・アーリヤ語にくらべても大幅な音韻的変化を経ているにもかかわらず、復古的なつづりを使用している。このため、チベット語フランス語の正書法と同様につづりと発音の関係が複雑なものになっている[4]。たとえば、母音iやuの長短は現在のベンガル語では区別されないにもかかわらず、つづりの上では書き分けられる。また、歯擦音 ś ṣ sも同音になっている(通常は/ʃ/、ただしそり舌以外の舌頂音が後続するときには/s/)が、書き分けられる[6]

子音結合はデーヴァナーガリーと同様に結合文字を使うか、hasanta(ヴィラーマ)記号を加えることで随伴母音がないことを表す。ただし、子音の後ろのyのための専用の形があり、また随伴母音のないtを表す特別の文字( khaṇḍa-ta)がある[4]。実際のベンガル語では子音結合の多くは長子音か単純な子音に変化し、後続の母音に影響が及ぶこともあるが、つづりの上では変化する前の形で書かれる。したがって、পদ্ম padma(ハス)は実際には/pɔddo/と発音される[6]লক্ষ্মী lakṣmīラクシュミー)は/lokkhi/になる[4]

歴史

ブラーフミー文字の北方の系統からシッダマートリカー文字が発達し、そこから初期のナーガリー文字と原ベンガル文字(ガウディー文字)が発達した。後者は10世紀から14世紀にかけて使用されたが、14-15世紀ごろにベンガル文字、マイティリー文字オリヤー文字に分化した[8]

長い間ベンガル文字は『マハーバーラタ』や『ラーマーヤナ』をサンスクリット語で表記する際の文字として使用されてきた。15世紀-16世紀、アッサム人のスリマンタ・サンカルデバは作品の全てをこの文字で残している。1778年にはチャールズ・ウィルキンズによって提案された正書法が定められた。また昔は各地方によってたくさんの異字体があったが、現在はアッサム人ベンガル人が受け継いだものだけが残っている。

アッサム文字

アッサム語の表記に使われる文字はベンガル文字とほとんど同じだが、わずかな違いがあり、これをアッサム文字と称することがある。ベンガル文字とは異なってbaとvaは区別され、後者はと書かれる。またraはベンガル文字ではのようにbaの下に点を加えた字を用いるのに対し、アッサム文字ではのように書かれる。発音の上ではベンガル文字ではś ṣ s/ʃ/と発音するのに対し、アッサム文字では/x/と発音される[4]

文字一覧

母音

ベンガル文字には11の母音字があるが、発音が同じものや二重母音も含むので発音上の母音は見た目より少ない。

母音字 母音記号
(ক[kɔ]についたもの)
ラテン文字転写 IPA
(記号なし) kô,ko [kɔ,ko]
কা ka [ka]
কি ki [ki]
কী ki [ki]
কু ku [ku]
কূ ku [ku]
কৃ kri [kri]
কে kê,ke [kæ,ke]
কৈ koi [koj]
কো ko [ko]
কৌ kou [kow]

子音

ベンガル文字には32個の子音がある。この中には使用頻度が極端に低いものや、現代ではあまり使われないものも含む。

子音字 文字名称 発音 IPA
k [k]
khô kh [kh]
g [g]
ghô gh [ gɦ]
ungô, umô ng [ŋ]
chô ch [tʃ]
chhô chh [ tʃh]
borgio jô
(burgijjô)
j [dʒ]
jhô jh [dʒɦ]
ingô, niô n [ɲ]
ţô ţ [ʈ]
ţhô ţh h]
đô đ [ɖ]
đhô đh ɦ]
murdhonno nô
(moddhennô)
n [n]
t [ t̪]
thô th [ t̪h]
d [d̪]
dhô dh [d̪ɦ]
donto nô
(dontennô)
n [n]
p [p]
phô ph [ph]
b [b]
bhô bh [bɦ]
m [m]
ôntostho jô
(ontostejô)
j [dʒ]
bôe shunno rô r [ ɾ]
l [ l]
talobbo shô
(taleboshshô)
sh and s [ʃ]/[s]
murdhonno shô sh [ʃ]
donto shô
(donteshshô)
sh and s [ʃ]/[s]
h [h]
য় ôntostho ô
(ontosteô)
y and - e/-
ড় đôe shunno ŗô ŗ [ɽ]
ঢ় đhôe shunno ŗô ŗh [ɽ]

特殊記号

কについた状態のもの 記号名 働き 発音 IPA
ক্ ホロント記号 (hôshonto) 子音のみを表す - [k]
কং オヌッシャル (ônushshôr) 軟口蓋鼻音を附属させる ņ [kɔŋ]
কঃ ビショルゴ (bishôrgo) 直後の子音を促音化させる : [kɔh] / [kɔ]
কঁ チョンドロ・ピンドゥ (chôndrobindu) 子音を鼻母音化させる ñ [kɲ]
‍্য ジョポラ (jôfôla) 語中・語末で子音を促音化させる - 語頭では[æ], 語中・語末で[ɔ]または[o]

数字

ベンガル文字の数字には算用数字のほか、次のような固有のものがある。

算用数字 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
ベンガル数字
発音 shunno æk dui tin char pa'ch chhôy shat nôy
শুন্য এক দুই তিন চার পাঁচ ছয় সাত আট নয়
アッサム語での名前 xuinno ek dui tini sari pas sôy xat ath

コンピューター処理

ベンガル文字は上と下に記号をつけていくため複雑なコンピューター処理を必要とする。2001年からはUnicodeでも使えるようになったが、歴史的に2つの字体が存在するという問題は解決していない。

Unicode一覧

U+ 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A B C D E F
0980
0990
09A0
09B0 ি
09C0
09D0
09E0
09F0

キーボード

Windowsのベンガル語キーボードの配列は以下の通り。

ファイル:Bengali keyboard win.png
赤字部分は「右Alt」を用いて入力。デーヴァナーガリー(ヒンディー語など)と同じく、InScript配列になっている。

脚注

  1. Bengali”. Ancient Scripts. . 2008年2月2日閲覧.
  2. Salomon (2007) p.80
  3. Bagchi (1996) p.399
  4. 4.0 4.1 4.2 4.3 4.4 4.5 Salomon (2007) p.82
  5. Bagchi (1996) pp.399-400
  6. 6.0 6.1 6.2 Bagchi (1996) p.401
  7. /æ/はeのほかにyaまたはyāとも表記される
  8. Salomon (1998) p.41

参考文献

  • Bagchi, Tista (1996). “Bengali Writing”, in Peter T. Daniels; William Bright: The World's Writing Systems. Oxford University Press, 399-403. ISBN 0195079930. 
  • Salomon, Richard (2007). “Writing Systems of the Indo-Aryan Languages”, in Danesh Jain; George Cardona: The Indo-Aryan Languages. Routledge, 67-103. ISBN 1135797110. 
  • Salomon, Richard (1998). Indian Epigraphy. Oxford University Press. ISBN 0195099842. 

外部リンク