ボーイング・ステアマン モデル75

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ボーイング・ステアマン モデル75

アメリカ海軍風の塗装を施したモデル75(2006年)

アメリカ海軍風の塗装を施したモデル75(2006年)


ボーイング・ステアマン モデル75(Boeing-Stearman Model 75)はボーイングに買収されウィチタ工場となったステアマン・エアクラフトが製造していた複葉練習機である。

第二次世界大戦当時のアメリカ陸軍航空軍アメリカ海軍の練習機として採用され10000機以上が製造された。大戦後には余剰となった機体か格安で放出されたため、民間でも練習機・スポーツ機として利用されるようになり、現代でもレストア機や改造機が飛行している。

ボーイング・ステアマンボーイング モデル75ケイデットもしくはカイデット(Kaydet)などの名称があり、ボーイングでは『Stearman Kaydet Trainer』と表記している。

本項目では便宜上ケイデットに統一する。


概要

1927年に設立したステアマン・エアクラフトは民間向けの複葉機を製造し、1930年代前半から軍用練習機の開発を開始し基本形となるX-70アメリカ陸軍航空軍へ売り込んたがこの時は採用されず、新しい初等練習機を検討していたアメリカ海軍が採用した。1939年にステアマン・エアクラフトがボーイングに買収された後も『Wichita 75』として生産が継続され、後にモデル75に名称が変更された。陸軍航空軍では1939年にPT-19を採用したが、需要が増加したためケイデットも平行して採用された。ステアマンは練習機として低翼単葉機のXBT-17も売り込んでいたが、こちらは評価試験のみで終了した。

第二次世界大戦の勃発で需要が急増し大量に生産されたことでボーイングに大きな利益をもたらしたが、終戦により注文がキャンセルされたこともあり生産を停止した。これ以降ボーイングでは小型機や練習機を製造しておらず、ケイデットが最後の製品となった。また軍から払い下げられた練習機が多数放出され、民間で練習機や農業機として利用された。

構造

1930年代には複葉機は時代遅れとなりつつあり、鋼管骨組に羽布張りだが単葉のPT-19も登場していた。ケイデットは一部に材を使用し翼は布張り[1]、油圧式のショックアブソーバを標準装備しているものの降着装置は固定式という旧態依然とした設計であった。しかし、単純な構造のため頑丈で初等練習機としては十分な性能を備えていた。

同時期に採用されたPT-19やライアン STと比べ構造が単純なことに加え、当時は複葉機の製造に慣れた工員も多く、低コストで大量生産が可能だった。特に戦時中は需要に対応することが出来たのはケイデットのみであった。

座席は訓練生が前、教官が後ろに座る独立したタンデム式で、風防は前面のみ装備されている。エンジンや車輪は剥き出しであるが一部のユーザーはカウルを装着するなどの改修を行っている。第二次世界大戦後に民間に放出され農業機に改造された機体は、前席を肥料や農薬を散布する装備を搭載するスペースへ転用する例もある。

70年以上前の機体であるが構造が単純なため整備やパーツ製造が容易なこともあり、新基準に適合した航法機器を追加したレストア機が10万ドル前後(2017年時点)で取引されている[2]

アメリカでは大戦中の塗装を施したレストア機が各地の航空ショーで飛行を行っている。

バリエーション

アメリカ陸軍航空軍

アメリカ陸軍航空軍ではエンジンの種類により3種類のタイプに区別していた。陸軍航空軍向けの総生産数は約6,000機以上となっている。

PT-13
ライカミングR-680を搭載したモデル[3]。2,141機が製造された。
PT-13 最初期の生産型。R-680-B4B エンジンを搭載。26機製造。
PT-13A R-680-7 エンジンを搭載。1937年から38年に92機が製造された。モデル A-75とも呼ばれる。
PT-13B R-680-11 エンジンを搭載。1939年から40年に255機が製造された。
PT-13C 計器飛行訓練用モデルで、6機がPT-13Bから改造された。
PT-13D PT-13AにR-680-17 エンジンを搭載したもの。35機製造。モデル E-75とも呼ばれる。
PT-17
コンチネンタルR-670-5を搭載したモデル。3,519機が製造された。
PT-17A 暗視界飛行訓練用モデルで、18機がPT-17から改造された。
PT-17B 農薬散布装置を搭載したモデルで、3機がPT-17から改造された。
PT-18
Jacobs R-755を搭載したモデル。150機が製造された。
PT-18A 暗視界飛行訓練用モデルで、6機がPT-18から改造された。
PT-27
PT-17のカナダ向け輸出モデル。レンドリース法により301機がカナダ空軍に供与された。

アメリカ海軍

海軍向けは黄色く塗装されていたため、"イエロー・ペリル"のニックネームで知られる。総生産数は約4,400機以上となっている。

NS
海軍向けに61機製造。出力220hp (164kW) の Wright J-5 Whirlwindエンジンを搭載したモデル。[4]
N2S
N2S-1 R-670-14 エンジンを搭載。250機がアメリカ海軍に供給された。
N2S-2 R-680-8 エンジンを搭載。125機がアメリカ海軍に供給された。
N2S-3 R-670-4 エンジンを搭載。1,875機がアメリカ海軍に供給された。
N2S-4 99機がアメリカ陸軍から海軍に譲渡され、さらに577機が海軍向けに新造された。
N2S-5 R-680-17 エンジンを搭載。1,450がアメリカ海軍に供給された。
N2S Ambulance 後部座席を撤去し負傷兵を担架ごと乗せられるように改造した救急輸送型。

ステアマンによる分類

ステアマン X-70
最初に製造された試作機。出力テンプレート:Convert/hpのライカミング製エンジンを搭載。評価試験時の名称は XPT-943 であった[5]
モデル 73
最初期の量産型。アメリカ海軍向けにNSとして61機製造された。輸出も行われている[4]
モデル 73L3
フィリピン向け輸出モデル。出力テンプレート:Convert/hpのR-680-4 または R-680C1 エンジン搭載。7機製造[6]
モデル A73B1
キューバ軍向け輸出モデル。出力テンプレート:Convert/hpライト R-790エンジンを搭載。1938年から40年にかけて7機製造[6]
モデル A73L3
フィリピン向けの改良型。3機製造[7]
ステアマン X-75 (モデル75)
アメリカ陸軍航空隊により評価試験を受けたモデルで、X-75L3が PT-13 の原型となった。別の派生モデルはPT-17の原型機種となっている。
ステアマン 76 (モデル76)
ステアマン 75 (X-75)の輸出用モデル。訓練用および武装タイプ。
ステアマン X-90 / X-91
金属製フレームを使用したモデルで、 XBT-17に発展した。
ステアマン XPT-943
X-70の評価試験時のモデル名。
American Airmotive NA-75
American Airmotive社が米軍払い下げの機体を改修した単座の農業用モデル[8]

運用国

アメリカ軍向けとして開発されたが、余剰機が海外へ売却されるなどしたため、第二次世界大戦後にも初等練習機として使用する軍が存在した。

アルゼンチンの旗 アルゼンチン
 ボリビア
ブラジルの旗 ブラジル
ブラジル空軍 - ステアマン モデルA75L3 および ステアマン モデル76を導入[12]
カナダの旗 カナダ
カナダ空軍 - 301機のPT-27をレンドリース法により供与された[13]
中華民国の旗 中華民国
中華民国空軍 - 150機のPT-17をレンドリース法により供与された[14]。大戦後に20機の改修機を追加で導入[15]
 コロンビア
コロンビア空軍[11]
 キューバ
ドミニカ共和国の旗 ドミニカ共和国
ギリシャの旗 ギリシャ
グアテマラの旗 グアテマラ[16]
ホンジュラスの旗 ホンジュラス
イランの旗 イラン
イラン空軍[16]
イスラエルの旗 イスラエル
イスラエル空軍 - 20機のPT-17を導入[17]。空軍飛行学校の練習機として運用されたほか、1956年の第二次中東戦争の際には予備役部隊の第147飛行隊連絡輸送哨戒などを行う汎用機として作戦投入した。IAF エアロバティックチームで現在も展示飛行が行われている。
メキシコの旗 メキシコ
メキシコ空軍[16]
ニカラグアの旗 ニカラグア
ニカラグア空軍
パラグアイの旗 パラグアイ
パラグアイ空軍[11]
ペルーの旗 ペルー
ペルー空軍
フィリピンの旗 フィリピン
フィリピン陸軍航空軍[12]
フィリピン空軍[16]
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
アメリカ陸軍航空軍/アメリカ陸軍航空隊[12] - PT-13 / PT-17 /PT-18 を運用(前項も参照。)
アメリカ海兵隊
アメリカ海軍[12] - N2 / N2S を運用(前項も参照。)
ベネズエラの旗 ベネズエラ
ベネズエラ空軍[12]

民間

元が練習機であるため操縦しやすく頑丈であることに加え、戦後はアメリカ軍の放出品が低価格で出回った。民間でも練習機として使われた他、農業機として改造された機体も多く存在する。また格安ながら高度な曲技飛行も可能であるため、曲技飛行の愛好家を中心に人気が高い。『ウィングウォーク[18]』を行う曲技飛行チームではピッツ・スペシャルと並び数少ない選択肢の一つである。

モデル75のエンジンを変更しエンジンカウルや車輪のスパッツを追加した独自改修モデルを使用。
上部主翼に固定された女性ダンサーがパフォーマンスを披露する。
チーム主体はイギリスの民間会社AeroSuperBaticsが編成したUtterly Butterly display team。

要目

テンプレート:航空機スペック

出典

  1. ボーイングが1929年に製造したF4Bも布張りの胴体の複葉機だったが、後期型からは金属モノコックに変更されている。
  2. 中古機の価格例
  3. NMUSAF fact sheet: Stearman PT-13D Kaydet . Retrieved 18 May 2010.
  4. 4.0 4.1 Bowers 1989, pp.252-253.
  5. Bowers 1989, pp. 251–252.
  6. 6.0 6.1 Bowers 1989, p. 253.
  7. Bowers 1989, p. 254.
  8. Taylor 1965, p. 178.
  9. Bowers 1989, p. 268.
  10. BOEING STEARMAN N2S KAYDET” (Spanish). Fuerzas Navales. Jorge N. Padín (2000年). . 2014閲覧.
  11. 11.0 11.1 11.2 11.3 11.4 11.5 Andrade 1979, p. 159
  12. 12.0 12.1 12.2 12.3 12.4 Andrade 1979, p. 158
  13. Bowers 1989, p. 265.
  14. Bowers 1989, p. 262.
  15. Bowers 1989, pp. 260–261.
  16. 16.0 16.1 16.2 16.3 16.4 Boeing-Stearman Kadyet”. Military Factory (2013年6月20日). . 2014閲覧.
  17. Nordeen 1991, p. 27.
  18. 上部主翼の上で人間がパフォーマンスを行う曲技飛行の演目

参考文献

  • Andrade, John. U.S.Military Aircraft Designations and Serials since 1909, Midland Counties Publications, 1979, ISBN 0 904597 22 9
  • Avis, Jim and Bowman, Martin. Stearman: A Pictorial History. Motorbooks, 1997. ISBN 0-7603-0479-3.
  • Bowers, Peter M. Boeing Aircraft since 1916. London:Putnam, 1989. ISBN 0-85177-804-6.
  • Nordeen, Lon. Fighters Over Israel. London: Guild Publishing, 1991.
  • Phillips, Edward H. Stearman Aircraft: A Detailed History . Specialty Press, 2006. ISBN 1-58007-087-6.
  • Swanborough, F.G. and Peter M. Bowers. United States Military Aircraft since 1909. London:Putnam, 1963.
  • Taylor, John W. R. Jane's All The World's Aircraft 1965–66. London: Sampson Low, Marston & Company, 1965.
  • (1975) United States Air Force Museum. Wright-Patterson AFB, Ohio: Air Force Museum Foundation. 

関連項目

外部リンク


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