ミズバショウ

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ミズバショウ(水芭蕉、学名Lysichiton camtschatcense Schott)は、サトイモ科ミズバショウ属多年草

特徴

湿地に自生し発芽直後の葉間中央から純白の仏炎苞(ぶつえんほう)と呼ばれるを開く。これが花に見えるが仏炎苞はの変形したものである。仏炎苞の中央にある円柱状の部分が小さな花が多数集まった花序(かじょ)である。開花時期は低地では4月から5月、高地では融雪後の5月から7月にかけて。葉は花の後に出る。根出状に出て立ち上がり、長さ80 cm、幅30 cmに達する。

和名の「バショウ」は、芭蕉布の材料に利用されているイトバショウMusa liukiuensis (Matsumura) Makino)の葉に似ていることに由来する[1]

分布

シベリア東部、サハリン千島列島カムチャツカ半島日本北海道中部地方以北の本州日本海側に分布する[1]。南限の兵庫県養父市の加保坂峠にも隔離分布している。山地帯から亜高山帯湿原や林下の湿地に分布する。学名の種小名は「カムチャツカ半島」に由来する。基準標本は、カムチャツカ半島のもの[1]

日本の主な群生地

日本の各地に多数の群落がある。「夏の思い出」(作詞:江間章子、作曲:中田喜直)で歌われているが、実際に尾瀬沼でミズバショウが咲くのは5月末ごろ、これは尾瀬の季節でいうと春先にあたる。江間はミズバショウが夏の季語として歳時記に掲載されていることから夏と表現した。また二十四節気においても夏にあたる。北海道南部の大沼国定公園においても群落が多数あり場所により開花の時期が違う、駒ヶ岳の噴火によってできた湿地であったり水の溜まる地形が多い為にミズバショウには適した地といえる。田中澄江が『新・花の百名山』で、薬師岳北ノ俣岳の間にある「太郎兵衛平」を代表する花の一つとして紹介した[2]

繁殖様式

1つの肉質の花序(肉穂花序)には数十から数百の小花があり、それらすべてが雄蕊(ゆうずい)と雌蕊(しずい)を持つ両性花である。仏炎苞が開いた時点で、多くの小花は雌蕊が露出しており受粉可能である。雄蕊は花序の表面には現れていない。開花の後数日すると、花序の表面を押し上げるようにして雄蕊が出現し、多くの花粉を放出する。この際、自花受粉することがある。その後は雄蕊からの花粉の放出が続く。このように、最初は雌蕊だけが機能し、やがて雄蕊が機能を始めるという開花システムを「雌性先熟」と呼び、イネ科などの風媒花によく見られる。

受粉後、花序は大きく成長し、緑色の肉質の果穂(かすい)になる。種子が完熟した果穂は、ぼろぼろと崩れ、果肉をつけたままで種子が散布される。果肉は軽くスポンジ状であり、種子が水に流される(水散布)のを助ける。種子自体も軽く、水に浮く。種子は褐色で大きさ約5 mmの半球型をしている。種子はしばしば野ネズミによって食害される。実生は条件の良い場所に定着すると3年程度で開花するまでに成長する。

種子には休眠性はなく、湿らせた状態で温度条件が良ければ簡単に発芽する。いっぽう乾燥に弱く、乾いた状態で貯蔵すると短期間のうちに死亡する。発芽率は高い。

また、大きく成長した個体の塊茎から、細長く短い地下茎が生じ、栄養繁殖することがある。栄養繁殖による子は親個体のすぐそばに見られるため、しばしば数個体がまとまって株立ちする。

利用

葉などの汁にはシュウ酸カルシウムが含まれ、肌に付くとかゆみや水ぶくれを起こすことがある。

根茎はかつて腎臓病便秘などの民間薬として利用されたこともあるが、薬効についての根拠はなく、逆にアルカロイドが含まれているため、服用すると吐き気や脈拍の低下、ひどい時には呼吸困難や心臓麻痺を引き起こす危険があるので利用は禁物である。ツキノワグマはミズバショウの葉や花を食用とする場合があるが、これは冬眠後などに体内の老廃物等を排出するための嘔吐剤・下剤として食べるためであり、人間は絶対に真似してはならない。

切手の意匠になった。

地方名

  • ベコノシタ(北海道・葉が牛の舌に似る)
  • ヘビノマクラ(北海道・花序を蛇の枕に見立てる)
  • パラキナ(北海道・アイヌ語で幅の広い葉)
  • ウシノクチヤ(石川県白山・ザゼンソウも同じ異名で呼ぶこともある)

特徴的な個体変異

種としてのミズバショウは一種とされるが、いくつかの地域によく見られる個体変異が知られている。ただし、いずれもその地域に固有のものではなく、そのような変異個体がよく見つかるといったレベルの現象である。

  • フイリミズバショウ(斑入り)
葉に暗緑色の斑がみられる。岐阜県の蛭ヶ野高原の個体群では高い頻度で見つかるという。蛭ヶ野高原の自生地は、兵庫県養父市の自生地が発見されるまで、ミズバショウの分布の南限地とされてきた。
  • 仏炎苞が2枚ある個体
岩手県小岩井農場の個体群では、一つの花茎に大小2枚の仏炎苞が多く見つかるという。
  • オバケミズバショウ
尾瀬を始め各地で見られる。いずれも大きく成長したものである。とくに尾瀬の個体群では、自生地の富栄養化の問題を象徴するものとして広く知られている。しかしながら、もともとミズバショウは数十年に及ぶ寿命を持ち、十分に成長した個体は1m以上の葉を持つことがある。また、観光地化されていない地域個体群(あるいは富栄養化が議論されていない自生地)でも普通に見られるので、富栄養化の影響は否定できないものの、オバケミズバショウを富栄養化問題からの視点だけで議論するのは適切ではない。
山形県真室川町沼ノ平には、古くから大きなミズバショウが群生していたとされる。地元には、江戸時代に新庄藩主が「六尺(約1.8m)の水芭蕉がある」とお国自慢していたという伝承がある。

種の保全状況評価

日本の以下の都道府県で、以下のレッドリストの指定を受けている[4]。2007年8月現在、環境省のレッドリストの指定はない[5]上信越高原国立公園中部山岳国立公園白山国立公園などで自然公園指定植物となっている[6]

市町村指定の花

日本の多数の市町村の花に指定されている。また合併前に指定されていた。

市の花

町の花

村の花

その他

パルシステム生活協同組合連合会では、『水ばしょう』というブランドの粉石鹸を販売している。

脚注

参考文献

  • 田中澄江 『新・花の百名山』 文藝春秋、1995-06-10。ISBN 4167313049。
  • 豊国秀夫 『日本の高山植物』 山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、1989-09-20。ISBN 4-635-09019-1。
  • 『花の百名山地図帳』 山と溪谷社(編集)、山と溪谷社、2007-06-20。ISBN 9784635922463。

関連項目

外部リンク