レヴィ・チヴィタ接続

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リーマン幾何学では、レヴィ・チヴィタ接続 (Levi-Civita connection) は多様体の接バンドル上の特別な接続であり、特別とは捩れをもたない計量接続English版(metric connection)、つまり、捩れを持たない与えられた(擬)リーマン計量を保存する接バンドル上の接続(アフィン接続)である。

リーマン幾何学の基本定理は、これらの性質を満たす接続が一意的に決まることを言っている。

リーマン多様体擬リーマン多様体の理論では、共変微分はレヴィ・チヴィタ接続のために使われる。局所座標系の観点からは、この接続の成分はクリストッフェル記号と呼ばれる。

歴史

レヴィ・チヴィタ接続は、トゥーリオ・レヴィ=チヴィタ(Tullio Levi-Civita)の名前に因んでいるが、エルヴィン・クリストッフェル(Elwin Bruno Christoffel)によりそれ以前に"発見"されていた。レヴィ・チヴィタは、[1] グレゴリオ・リッチ・クルバストロEnglish版(Gregorio Ricci-Curbastro)とともに、クリストッフェルの記号[2] を用いて平行移動の概念を定義し、平行移動と曲率との関係を研究した。それによってホロノミーEnglish版(holonomy)の現代的概念を開発した。[3]

レヴィ・チヴィタによる曲線に沿ったベクトルの平行移動や内在的微分という概念は、元々[math]M^n \subset \mathbf{R}^{\frac{n(n+1)}{2}} [/math] という特別な埋め込みに対して考えられた。しかし、実際にはそれらは抽象的なリーマン多様体にたいしても意味をなす概念である。何故ならば、クリストッフェルの記号は任意のリーマン多様体上で意味を持つからである。

1869年、クリストッフェルは、ベクトルの内在的微分の各成分は反変ベクトルと同様な変換にしたがうことを発見した。この発見はテンソル解析の真の始まりである。1917年になって初めて、レヴィ・チヴィタによって、アフィン空間に埋め込まれた曲面の内在的微分が、周囲のアフィン空間での通常の微分の接方向成分として解釈された。

記法

計量 g は引数として、2つのベクトル、もしくはベクトル場 X, Y を持つことができる。ベクトルの場合、出力は XY の(擬)内積という数値である。ベクトル場の場合は、Xp, Yp は多様体の全ての点 p で取られるので、g(X, Y)M 上の滑らかな函数を定義する。ベクトル場は、滑らかな函数に対し微分作用素として作用する。基底をとると、作用は、

[math]Xf = X^i\frac{\partial}{\partial x^i}f = X^i\partial_i f[/math]

であることが分かる。ここにアインシュタイン縮約記法を使った。

公式な定義

アフィン接続 は、次の条件が成立するときレヴィ・チヴィタ接続と呼ばれる。

  1. 計量を保存すること、つまり ∇g = 0
  2. 捩れEnglish版(torsion)のないこと、つまり、任意のベクトル場 XY に対し、XY − ∇YX = [X,Y] であること。ここに [X,Y]ベクトル場 XYリーブラケットである。

上の条件 1 は、計量との整合性English版(compatibility with the metric)と呼ばれ、条件 2 は対称性と呼ばれることがある。DoCarmoの教科書を参照。

レヴィ・チヴィタ接続が存在すると、一意的に決定される。条件 1 を使い、計量テンソル g の対称性を使い、

[math] X (g(Y,Z)) + Y (g(Z,X)) - Z (g(Y,X)) = g(\nabla_X Y + \nabla_Y X, Z) + g(\nabla_X Z - \nabla_Z X, Y) + g(\nabla_Y Z - \nabla_Z Y, X).[/math]

を得る。

条件 2 により、右辺は、

[math] 2g(\nabla_X Y, Z) - g([X,Y], Z) + g([X,Z],Y) + g([Y,Z],X) [/math]

に等しいので、

[math] g(\nabla_X Y, Z) = \frac{1}{2} \{ X (g(Y,Z)) + Y (g(Z,X)) - Z (g(X,Y)) + g([X,Y],Z) - g([Y,Z], X) - g([X,Z], Y) \}[/math]

であることが分かる。

Z は任意であるので、XY は一意に決定される。逆に、XY が一意に決定されていると、そのように定義された表現は、計量と整合性を持つ接続、つまり、レヴィ・チヴィタ接続である。

クリストッフェルの記号

∇ をリーマン計量の接続とする。局所座標 [math] x^1 \ldots x^n[/math] を選び、[math] \Gamma^l{}_{jk} [/math] をこれらの座標についてのクリストッフェル記号とする。条件 2 の捩れがないということは、従って、対称性

[math] \Gamma^l{}_{jk} = \Gamma^l{}_{kj}[/math]

に同値である。上で導いたレヴィ・チヴィタ接続の定義は、クリストッフェルの記号の定義に同値であることが、計量のことばでは、:[math] \Gamma^l{}_{jk} = \tfrac{1}{2}\sum_r g^{lr} \left \{\partial _k g_{rj} + \partial _j g_{rk} - \partial _r g_{jk} \right \} [/math] であることから分かる。ここに通常通り、[math]g^{ij}[/math] は双対計量テンソルの係数、つまり、行列 [math](g_{kl})[/math] の逆行列の要素を持つ行列である。

曲線に沿った微分

レヴィ・チヴィタ接続は(アフィン接続に似ていて)、曲線に沿った微分も定義し、これを D によって表すことがある。

(M,g) に滑らかな曲線 γ が与えられ、γ に沿ったベクトル場 V が与えられると、V の微分は、

[math]D_tV=\nabla_{\dot\gamma(t)}V.[/math]

により定義することができる。(公式には、D は引き戻しバンドルEnglish版(pullback bundle) γ*TM 上の引き戻し接続English版(pullback connection)である。

特に、[math]\dot{\gamma}(t)[/math] は曲線 γ 自身に沿ったベクトル場である。[math]\nabla_{\dot\gamma(t)}\dot\gamma(t)[/math] が 0 となるとき、曲線を共変微分の測地線と呼ばれる。共変微分がある計量のレヴィ・チヴィタ接続であれば、接続の測地線は、正確にそれらの弧の長さに比例するパラメータである計量測地線である。

平行移動

一般に、接続の観点から曲線に沿った平行移動は、曲線上の点での接空間の間の同型を定義する。接続がレヴィ・チヴィタ接続であれば、これらの同型は直交(orthogonal)、すなわち、様々な接空間上で内積を保つ。

例:R3 内の単位球面

[math]\langle \cdot,\cdot \rangle[/math]R3 上のスカラー積とし、S2R3 内の単位球面とする。点 m での S2 への接空間は、自然に m で直交する全てのベクトルからなる R3 の部分ベクトル空間と自然に同一視される。このことから、S2 上のベクトル場 Y は、写像 Y: S2R3 と見ることができ、

[math]\langle Y(m), m\rangle = 0, \qquad \forall m\in \mathbf{S}^2[/math]

を満たす。

このような写像の微分を dY により表すと、

補題: 公式

[math]\left(\nabla_X Y\right)(m) = d_mY(X) + \langle X(m),Y(m)\rangle m[/math]

は、S2 上の捩れが 0 であるアフィン接続を定義する。

証明: ∇ がライプニッツ則を満たし、第一変数について、C(S2) 線型であることは、直接証明することができる。また、計算により、この接続の捩れが 0 であることを直接示すことができる。従って、これらにより、上の公式は一つのベクトル場を定義し、全ての m に対して、S2 内で

[math]\langle\left(\nabla_X Y\right)(m),m\rangle = 0\qquad (1)[/math]

が成り立つことが証明できる。

次の写像を考える。

[math]\begin{cases} f: \mathbf{S}^2 \to \mathbf{R} \\ m \mapsto \langle Y(m), m\rangle. \end{cases}[/math]

写像 f は定数であるので、この微分は 0 である。特に、

[math]d_mf(X) = \langle d_m Y(X),m\rangle + \langle Y(m), X(m)\rangle = 0[/math]

である、このことは、上の式 (1) より従う。[math]\Box[/math]

実際、この接続は R3 から引き継いだ S2 上の計量についてのレヴィ・チヴィタ接続である。この接続は計量を保存することを検証することができる。

参照項目

脚注

  1. See Levi-Civita (1917)
  2. See Christoffel (1869)
  3. See Spivak (1999) Volume II, page 238

参考文献

歴史的な文献

  • Christoffel, Elwin Bruno (1869), “Über die Transformation der homogenen Differentialausdrücke zweiten Grades”, J. für die Reine und Angew. Math. 70: 46–70 
  • Levi-Civita, Tullio (1917), “Nozione di parallelismo in una varietà qualunque e consequente specificazione geometrica della curvatura Riemanniana”, Rend. Circ. Mat. Palermo 42: 73–205 

参考文献 その2

  • Boothby, William M. (1986). An introduction to differentiable manifolds and Riemannian geometry. Academic Press. ISBN 0-12-116052-1. 
  • Kobayashi, S., and Nomizu, K. (1963). Foundations of differential geometry. John Wiley & Sons. ISBN 0-470-49647-9.  See Volume I pag. 158
  • Spivak, Michael (1999). A Comprehensive introduction to differential geometry (Volume II). Publish or Perish Press. ISBN 0-914098-71-3. 

外部リンク