中小企業診断士

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中小企業診断士(ちゅうしょうきぎょうしんだんし)とは、中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則(平成12年通商産業省令第192号)に基づき登録された者を指す。この省令の根拠となる中小企業支援法(昭和38年法律第147号)では「中小企業経営診断の業務に従事する者」とされる。 英名はRegistered Management Consultantである。

制度の特徴

「中小企業支援法」に基づく国家資格[1]、もしくは国家登録資格[2]である。近年は資格認定試験ではなく、登録養成機関の認定履修方式による登録資格者が増加傾向にある(登録養成機関による認定者も1次試験は通過している必要がある)[3]

根拠法である「中小企業支援法」には、業務独占資格(資格がなければ業務を行ってはならない)とする規定はないが、「中小企業支援事業の実施に関する基準を定める省令」において経営の診断又は経営に関する助言を行うものとして中小企業診断士を指定しており、政府および地方自治体が行う経営診断業務を行うものを登録する制度という位置づけになっている。また、中小企業指導法時代はあくまでも公的な診断業務を担うものという位置づけのみであったが、中小企業支援法として改正されたあとは、位置づけに変化が見られ、一定以上の能力を持つ民間コンサルタントを認定する制度という意味合いが強くなっている[4]

一方、法律上は名称独占資格(資格がなければ名称を使用してはならない)とする規定もないが、一般的には名称独占資格に準じる扱いを受ける場合が多い[5] 。これは法律上の規定がなくても国家登録資格である以上、経済産業省への登録を完了すれば、中小企業診断士の資格名称が担保されることからくるものと思われる。中小企業庁のウェブサイト内でも「中小企業診断士の登録を消除されたものは同資格を名乗ったり、名刺履歴書に記載することができなくなる」という趣旨の記述がある[6]

中小企業診断士の業務等

業務概要

前述のように経済産業省令で中小企業支援事業における経営診断又は助言を担うものとして規定されていることもあり、中小企業基盤整備機構商工会議所、都道府県等の中小企業に対する専門家派遣や経営相談、及びそれら中小企業支援機関のプロジェクトマネージャーの募集などには中小企業診断士が条件となっている場合がある。また、これら公的機関からの受注が仕事の柱になっている中小企業診断士も存在する。また、産業廃棄物処理業診断(産業廃棄物処理業者の許可申請に必要となる財務診断)における経理的基礎を有さないと判断する際の診断書の作成は、環境省の通達により中小企業診断士が行うことがほとんどであると考えられる。

位置づけとしては、国や地方自治体、商工会議所の実施する中小企業への経営支援を担う専門家としての側面と民間のコンサルタントとしての2つの側面を持つが、公的な仕事を中心とする診断士と民間業務を中心とする診断士に二極化する傾向があり、公的業務の割合が高い診断士4割程度、民間業務の割合が高い診断士が5割程度、両者半々等が1割程度となっている[7]

なお、社団法人中小企業診断協会が2005年9月に行った調査によると、中小企業診断士の業務内容の日数は、「経営指導」が27.5%、「講演・教育訓練業務」が21.94%、「診断業務」が19.69%、「調査・研究業務」が12.84%、「執筆業務」が11.56%となっている。

コンサルティング等の各種業務は中小企業診断士でなくとも行うことができる。しかし、診断士登録者には、国や都道府県等が設置する中小企業支援機関に専門家として登録の上で前述の公的な経営支援業務に加われること、経営コンサルタントとしての信用力が向上すること、中小企業診断士のネットワークを活用できることなどのメリットが存在する。

独立開業者の割合

中小企業診断士として独立している者の割合は27.6%(2005年12月時点)、登録者のうちの7割以上は独立開業を行わず、企業内にとどまる「企業内診断士」となっており、弁護士、税理士、不動産鑑定士などの他の士業と比較して独立開業する者の割合が低いのが現状である。また、定年退職まで企業内で勤務し、退職後に独立する「年金診断士」と呼ばれる者もいる。

これらの理由としては、中小企業診断士の試験内容が経営マーケティング全般におよび、ビジネスパーソンとしての資質向上に直結するため、自己啓発を目的とした登録者が多いこと、また業務の性質上、独立に際しては、相応の実践的スキルが必要になることなどが考えられる。前述した中小企業診断協会の調査でも、中小企業診断士の登録をした動機のトップは「経営全般の勉強等自己啓発、スキルアップを図ることができるから」となっている。また、「企業内診断士」が独立開業を行わない(独立開業を予定していない)理由として経済的不安とともに現在の能力不足が上位に入っている。
これらに続く理由として現在の職場に満足していることや、現在に比べて年収が低下することがあげられている。これは、中小企業診断士登録者は大企業勤務者も多く、独立した場合に年収が下がるケースが多いことも原因の一つである。

また実務上、税務相談・法律相談を受けることが多いが「企業内診断士」は銀行・信用金庫などの組織に所属する者が多いため、法律上のリスクがある場合は所属組織の顧問士業者に業務を委託することができるが、「独立開業者」の場合、実務上他の士業者の法律を侵さずに活動するためには、各士業者との連携をできる関係を構築する必要がある。

中小企業診断士の収入

前述の中小企業診断協会が行った調査によると、コンサルタント業務の稼働日数が100日以上の独立診断士の年収のボリュームゾーンは「501万円から800万円以内」(対象者の19.6%)となっている。なお、「3,001万円以上」を除いた平均は739.3万円である(コンサルティング関連業務のみの年収で他士業兼業者の書類作成・提出代行業務等は含まれない)。

沿革

  • 1952年(昭和27年) - 通商産業省により中小企業診断員登録制度が創設される。
  • 1963年(昭和38年) - 中小企業指導法(現行の中小企業支援法)が制定され、国や都道府県が行う中小企業指導事業に協力する者として中小企業診断員の位置付けを法定化(第6条)。ただし、法律上はあくまでも通商産業大臣が登録を行うことのみを定めており、具体的な内容は「中小企業指導事業の実施に関する基準を定める省令(指導法基準省令)」(昭和38年通商産業省令第123号)第4条に、試験についてはさらに通商産業省告示で定める登録規則に根拠を置いていた。
  • 1969年(昭和44年) - 中小企業診断員を中小企業診断士に改称。
  • 1986年(昭和61年) - 従来、商業と工鉱業の二つであった登録部門に「情報」を追加。
  • 2000年(平成12年) - 中小企業指導法の大幅改正(このとき、表題を「中小企業支援法」に変更)により、以下のとおり大きな制度改革を実施。
    • 中小企業診断士の位置付けを「国や都道府県が行う中小企業指導事業に協力する者」から「中小企業の経営診断の業務に従事する者」に変更
    • 登録の根拠条文の独立化(第11条)
    • 試験の根拠規定の創設(第12条)
    • あわせて、指導法基準省令の大幅改正(現行表題は、「中小企業支援事業の実施に関する基準を定める省令(支援法基準省令)」)と、新たな試験について「中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則(登録等規則)」(平成12年通商産業省令第192号)を制定。登録部門の区分はなくなり、一本化された。
    • 第1次試験を選択式(マークシート)とし、第2次試験を筆記試験(事例問題)及び口述試験として、第3次試験(実習)を試験合格後の実務補習に移行
  • 2001年(平成13年) - 制度改正後初の中小企業診断士試験を実施。
  • 2005年(平成17年) - 新試験制度5年経過にあわせて見直しを実施するため支援法基準省令及び登録等規則の改正が行われた。
    • 第1次試験に科目合格制(3年間有効)、一部科目の第2次試験への移行及び合格基準の弾力化措置を導入
    • 従来中小企業大学校のみに設置されていた中小企業診断士養成課程を民間の登録養成機関にも開放するとともに、養成課程受講資格に第1次試験合格を必須化(いわゆる「第1次試験の共通一次化」)
    • 更新要件のうち実務の従事要件の強化及び登録休止・再登録制度を導入
  • 2006年(平成18年) - 見直し後初の中小企業診断士試験を実施。

登録要件

中小企業診断士として登録を受けるには、以下のいずれかの登録要件を満たす必要がある。

更新要件

登録の有効期間は5年間であり、以下の更新要件をいずれも満たした上で登録の更新が必要となる。

  • 新しい知識の補充に関する要件(5年間で5回。理論政策更新研修、論文審査等による。)
  • 実務の従事要件(5年間で30日以上。)

なお、更新要件を満たすことができない場合には、登録の休止を行い、15年以内に一定の要件を満たすことにより再登録が可能である。 (休止期間中であっても業務再開申請可能期間中(15年間)であれば、中小企業診断士としての経営診断の業務を休止している旨を伝えることを条件に、中小企業診断士を名乗ることができる)

中小企業診断士試験

中小企業診断士試験は、中小企業支援法第12条の規定に基づき国(経済産業省)が実施する国家試験であり、試験事務は指定試験機関である一般社団法人中小企業診断協会が実施している。

試験は第1次試験と第2次試験に分かれ、1次試験は全国の8つ(札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・福岡・那覇)、2次試験は那覇を除く7つの地区の会場で実施される。那覇が1次試験の会場として追加されたのは2012年からである。

第1次試験

中小企業診断士となるのに必要な学識を判定するもので、多肢選択式で実施されている。平成18年度からは以下の科目編成となり、科目合格制が導入されている。科目合格の有効期間は3年間である。

1日目

  (生産管理・生産技術・店舗運営・ロジスティックス含む)

2日目

科目免除

第1次試験の一部の科目については、特定の国家試験の合格者に対する免除措置があり、申請によって一部科目の免除を受けることができる。免除科目と対象となる国家資格を以下に記す[8]

経済学・経済政策
財務・会計
経営法務
経営情報システム

第1次試験に関する正解・配点の公表等

中小企業診断士第1次試験では、平成17年度から正解肢と配点が公表されるようになった。正解肢と配点の発表は、一般社団法人中小企業診断協会のサイト上で試験の翌日もしくは翌々日に行われる(試験実施が土日で、月曜日の午後にアップされる)。

正解肢の公表による試験制度の改善効果としては次のような例がある。平成17年度試験では、「企業経営理論」で問題が成り立っていない、「没問」の存在が明らかとなった。この訂正は、出題の前提となっている社会保険制度の仕組みの認識自体が根本的に誤っており、正解肢発表の時点で同時に没問発表が行われた。 平成18年度試験では「運営管理」で正解肢が2つ存在するという訂正を行った。これは、受験機関であるLEC東京リーガルマインドが抗議を行ったことによって、後日訂正されたものである。

第2次試験

第1次試験合格者を対象に、中小企業診断士となるのに必要な応用能力を判定するものであり、筆記試験(事例に関する記述試験)及び口述試験(筆記試験合格者に対する面接試験)の方法で実施される。筆記試験の内容は「紙上診断」であり、第1次試験で試された基礎知識を実務で生かせるか否かが問われる。

筆記試験の受験資格を有するのは前年度と当年度の第1次試験合格者である。すなわち、第1次試験合格から2年以内に第2次試験を合格しなければ、再び第1次試験の受験が必要になる。

平成12年度以前の制度で第1次試験に合格している者(平成13年度以降に第2次試験を受験した者を除く。また、平成13年度以降の第1次試験に合格し、第2次試験を受験した場合も除く。)については、1回に限り第2次試験の受験または中小企業大学校の養成課程もしくは国に登録された登録養成課程の受講が可能。

なお、第2次試験(筆記試験)は4つの事例問題で構成され、その表題および対象は以下のとおりである。

  • 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例 I (組織(人事を含む)):80分
  • 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例 II (マーケティング・流通):80分
  • 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例 III (生産・技術):80分
  • 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例 IV (財務・会計):80分

平成21年度第2次試験(筆記試験)出題の趣旨 平成22年度第2次試験(筆記試験)出題の趣旨 平成23年度第2次試験(筆記試験)出題の趣旨 平成24年度第2次試験(筆記試験)出題の趣旨 平成25年度第2次試験(筆記試験)出題の趣旨 平成26年度第2次試験(筆記試験)出題の趣旨

※1事例ごとに500字~800字の論述式で、計4事例出題される。事例IV(財務・会計)のみ計算問題+論述式。

過去の試験結果

第1次試験

年度 申込者数(人) 受験者数(人) 試験合格者(人) 試験合格率(%)
平成13年度 10,025 8,837 4,529 51.3
平成14年度 12,447 10,572 3,355 31.7
平成15年度 14,692 12,449 2,021 16.2
平成16年度 15,131 12,554 1,970 15.7
平成17年度 13,476 11,000 2,445 22.2
平成18年度 16,595 12,542 2,791 22.3
平成19年度 16,845 12,776 2,418 18.9
平成20年度 17,934 13,564 3,173 23.4
平成21年度 20,054 15,056 3,629 24.1
平成22年度 21,309 15,922 2,533 15.9
平成23年度 21,145 15,803 2,590 16.4
平成24年度 20,210 14,981 3,519 23.5
平成25年度 20,005 14,252 3,094 21.7
平成26年度 19,538 13,805 3,207 23.2
平成27年度 18,361 13,186 3,426 26.0
平成28年度 19,444 13,605 2,404 17.7
平成29年度 20,118 14,343 3,106 21.7
注 試験合格者に科目合格者は含まれない。また、平成18年度以降の受験者数は欠席科目がない受験者である。

平成22年度の申込者数21,309人は過去最高である。

第2次試験

年度 申込者数(人) 受験者数(人) 筆記合格者(人) 試験合格者(人) 試験合格率(%)
平成13年度 5,976 5,872 628 627 10.7
平成14年度 6,549 6,394 651 638 10.0
平成15年度 4,281 4,186 714 707 16.9
平成16年度 3,237 3,189 648 646 20.3
平成17年度 3,646 3,589 704 702 19.6
平成18年度 4,131 4,014 806 805 20.1
平成19年度 4,060 3,947 800 799 20.2
平成20年度 4,543 4,412 877 875 19.8
平成21年度 5,489 5,331 955 951 17.8
平成22年度 4,896 4,736 927 925 19.5
平成23年度 4,142 4,003 794 790 19.7
平成24年度 5,032 4,878 1,220 1,220 25.0
平成25年度 5,078 4,907 915 910 18.5
平成26年度 5,058 4,885 1,190 1,185 24.3
平成27年度 5,130 4,941 944 944 19.1
平成28年度 4,539 4,394 842 842 19.2
平成29年度 4,453 4,279 830 828 19.4
注 平成18年度以降の受験者数は欠席科目がない者(有効数)。

合格率

第1次試験の合格率は20%程度、第2次試験の合格率も20%程度、第2次試験合格者数を第1次試験受験者数で割った最終合格率は4%程度となっている。

脚注

  1. 中小企業診断協会 中小企業診断士って何 (PDF)
  2. 国が直接、または特別の法律により設立した民間法人(特別民間法人)に委託して試験認定する資格ではなく、登録資格と呼称される。
  3. 費用的に高額になるため、すでに頭打ちとも言える。
  4. 中小企業診断協会 中小企業診断士って何
  5. 独立行政法人中小企業基盤整備機構のウェブサイト(J-Net21)では名称独占という記述が見られる。[1]
  6. 中小企業診断士制度のQ&A集 (PDF)
  7. データでみる中小企業診断士 - 2011年1月の社団法人中小企業診断協会アンケート調査結果
  8. 第1次試験の概要 - 中小企業診断士 | 資格のことなら合格のLEC

関連項目

外部リンク