攻撃ヘリコプター

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攻撃ヘリコプター(こうげきヘリコプター、Attack Helicopter)は、武器を搭載し、対地攻撃を主任務とする軍用のヘリコプターである。

防衛省および自衛隊においては、日本国憲法第9条との兼ね合いから「攻撃」という表現が避けられる傾向にあるため、陸上自衛隊では装備するAH-1S対戦車ヘリコプターAH-64D戦闘ヘリコプターと呼んでいる。

概要

攻撃ヘリコプターとは、主に機関砲ロケット弾対戦車ミサイルなどの対地攻撃兵器を装備する機体を指す軍用ヘリコプターの一種。自衛用対空装備として短距離空対空ミサイルを搭載する機種も存在する。輸送用ヘリコプターに武装を施したガンシップから、その当初から攻撃用として開発されたものまで幅広い。なお、その当初から攻撃能力を有するヘリコプターを攻撃ヘリコプターと呼び、輸送用ヘリコプターに武装を施すなど、後に改良によって攻撃能力を取得したヘリは武装ヘリコプターと呼ばれる。

だが、攻撃ヘリコプターも他のヘリコプターと同じく、戦場においては携行式地対空ミサイルによる攻撃によって撃墜されるリスクが大きく、いくら防弾装備を施した機体であっても、本格的な対空陣地相手には、やはり「力負け」するなど、脆弱性は存在する。また、遍在性に欠け、常に特定の地域を確保するといった任務には不向きであり、天候にも一定程度その活動は左右される。

歴史

武装ヘリの芽生え

ファイル:Sikorsky S-58 ground bw.jpg
ロケットランチャーを搭載したUH-34(S-58)

第二次世界大戦末期にナチス・ドイツで初めて発明・配備されたヘリコプターは、後にアメリカ合衆国ソビエト連邦に実用化されて急速に進歩し、朝鮮戦争の頃には航空戦力として欠かせない存在と認知されていた。しかし、当時のヘリコプターの能力はまだまだ低劣で、着弾計測を始めとする目視偵察連絡任務、撃墜された航空機搭乗員の捜索、負傷兵の搬送などが主な任務であった。アメリカ海兵隊の史上初のヘリボーン作戦が行われ、注目を集めたのもこの頃であるが、やはりヘリが戦闘に直接参加する事態は避けられた。

1950年代後半に入り、シコルスキー・エアクラフト社のUH-34パイアセッキ[注釈 1]CH-21などの新型ヘリが登場し、その能力は大幅に向上した。だが、アメリカ陸軍内部ではヘリコプターはあくまで補助的な機種に過ぎないとする見解が依然有力であった。これに対し、アラバマ州フォート・ラッカーの陸軍航空学校では、ヘリコプターに兵装を施し、地上部隊に火力支援を行うという構想が芽生えていた。1956年、陸軍航空学校長のカール・ハットン准将は、同校の戦闘開発部長を務めていたジェイ・バンダープール大佐に対し、武装ヘリコプターに関する研究を進めるように指示した。これは、陸軍上層部の許可を得ていたわけでないため、人員や機材は航空学校内の予算などでやり繰りが行われた。

航空学校ではベル・エアクラフトH-13に7.62mm機関銃を搭載した武装ヘリコプターを手はじめに、H-19、CH-21、UH-34に7.62mm機関銃、12.7mm重機関銃、20mm機関砲、2.75inロケット弾を搭載して試験が繰り返された。この試験の存在はほどなく陸軍上層部の知るところとなり、1957年には武装ヘリコプター関連を専門に行う航空戦闘偵察小隊(ACRP)の編成が、航空学校内に認めている。この小隊は翌年3月には中隊規模に拡張され、名称を第7292臨時航空戦闘偵察中隊と改称された。

しかし、当時のヘリコプターは、レシプロエンジンを搭載したものが主流であり、振動や飛行性能、搭載能力などの点で問題も多く、テストは決して順調とは言えなかった。だが、1960年代に入り、武装ヘリコプターに関するコンセプトは一応、完成の域に達した。

ガンシップの登場

ファイル:Hueyrockets.jpg
武装が施されたアメリカ陸軍のUH-1

ベトナム戦争において、アメリカ陸軍ヘリボーン作戦を多用した。初のヘリボーン作戦は1961年12月23日のことであり、サイゴン北方のタンソンニュット基地所属のアメリカ陸軍第8、第57輸送中隊が、CH-21を用いて南ベトナム陸軍空挺部隊を、サイゴン西方約16kmの解放戦線拠点に展開させた。以降、アメリカ軍ヘリコプターによる輸送作戦の重要性を認識し、翌1962年には更にヘリ三個中隊をベトナムに派遣した。アメリカ海兵隊も同年にヘリ部隊を送り込んでいる。この大規模なヘリボーン作戦に、当初解放戦線側は激しい反撃を行う事はなかったが、それでも着陸・進入時などに小火器による反撃を行った。これに対し、アメリカ陸軍はCH-21の前部ドアに7.62mm機銃を搭載し、着陸時の制圧射撃を行うようになったが、機銃の射角やヘリ自体の機動性の低さから効果は上がらなかった。

ヘリボーン作戦にエスコートヘリの必要性を迫られたアメリカ陸軍は、1962年春から当時最新鋭輸送ヘリコプターであったUH-1 イロコイ(採用当初はHU-1)汎用ヘリコプター武装型(ガンシップ型)の研究を開始した。同年7月25日から沖縄で、15機のUH-1を有するUTTHCO(汎用戦術輸送ヘリコプター中隊)が編成され、10月9日にはベトナムへと派遣された。この中隊のUH-1は、M60、またはM37C 7.62m機関銃二挺とロケット弾ポッド二個をスキッド上に搭載していた。翌年の1963年にはエンジンを換装し、メーカーによる本格的な艤装を施したUH-1Bを11機追加で配備している。このガンシップ型UH-1BはXM-156ユニバーサル・マウントが胴体後部に装着され、このマウントにはXM-6Eアーマメント・サブ・フライトシステムが取り付けられていた。

UTTHCOは、1962年10月から約5ヵ月間、武装ヘリの実戦運用試験を行った。1,800時間にもおよぶ試験の結果、護衛する輸送ヘリの被弾率は50%以上減少し、その有効性を証明した。また、その運用性格上、制圧射撃時による反撃を多々受けたが、損害は1機のみであった。この試験でUTTHCOは、総じて5-7機のガンシップで20-25機の輸送ヘリを護衛する事が可能という結論を出した。

一方で、1963年1月2日に第93輸送中隊が離着陸時を待ち伏せされ、CH-21が4機と護衛についていた1機のUH-1、計5機のヘリが解放戦線の重機関銃迫撃砲によって撃墜されるという大損害が発生している。この時は、アメリカ空軍による支援で事なきを得たが、これを戦訓とし、アメリカ空軍は武装ヘリ・ガンシップへの過度な依存は危険であると強く指摘した[注釈 2]

また、武装ヘリコプターはその武装や装甲故に速度が低下し、護衛すべき輸送ヘリコプターに追従できなくなる事態も発生し、運用に困難な面が多発し始める。よって、本格的な武装(攻撃)ヘリコプターの導入が急務である事は明白であったが、アメリカ陸軍が入手可能な攻撃ヘリは当面存在しなかった。しかし、UH-1Bの多彩な兵装システムは、その後登場する本格的な攻撃ヘリコプター(AH-1G)の開発に大きく寄与する事となる。

AAFSSの始動

タンデム式コックピットに推進用プロペラを備えるAH-56 シャイアン
AH-1 コブラ

ベトナム戦争で浮き彫りとなった武装ヘリガンシップの問題点は、その重量増加による巡航速度の低下と生存性の低さであった。元々が輸送用ヘリコプターとして開発された機体に、後付けで機関銃ロケット弾ポッド装甲板などを付け加える訳であるから、本来の機体バランスを低下させるには十分であった。これによって、設計の段階から重火器を搭載する事を前提とした攻撃ヘリコプターの開発が求められた。

当時、UH-1の開発メーカーであったベル社は、自社資金で攻撃ヘリコプターの独自研究を行っていた。1962年にはD225 イロコイ・ウォリアと呼ばれるモックアップを完成させ、攻撃ヘリにはタンデムコックピットと、機首下面にターレットを備えさせる事が有効であるとした。続いて、OH-13を改造した実験機「モデル207」を製作する。この機体もタンデム式コックピットを採用し、胴体のスタブウィングにはロケット弾ポッドが搭載されていた。「モデル207」は飛行性能こそ低かったものの、約300時間の試験飛行でタンデム式コックピットとその兵装システムが、攻撃ヘリコプターに最も適していることが確認された。

1964年アメリカ陸軍は、これらの研究結果や成果を踏まえ、本格的な攻撃ヘリコプター開発計画「AAFSS(Advanced Aerial Fire Support System、発展型空中火力支援システム)」を立案し、アメリカ国内の各メーカーに要求仕様を提示した。いくつかの機体の検討を行った上で、ロッキード社のAH-56が採用された。しかし、開発が順調に進んだとしても、本格的な配備が1970年以降になるとの見通しが既に立てられていたため、アメリカ陸軍はAAFSSの機種選定の段階で、暫定的攻撃ヘリコプターの開発を念頭に置いていた。暫定攻撃ヘリは現用ヘリを攻撃ヘリに転換させるという方法をとったが、1965年にAAFSSのコンペティションにベル社が提出した「モデル209」がAH-1 ヒューイコブラとして採用されている。よって、このAH-1が世界初の攻撃ヘリコプターとなった。

その特徴は、大量の武装を搭載しても輸送ヘリコプターに追随できる速力・地上攻撃のための高い機動性・重武装搭載能力にあった。特に、錯綜する地形でも使い勝手がよく、敵の拠点を襲撃したり、敵機甲部隊を攻撃するのには非常に向いた兵器となり、対戦車ミサイルの発達に伴い対戦車攻撃が攻撃ヘリコプターの重要な任務となっていく。

このAH-1(というよりモデル207)が採用したタンデム式コックピットや機首下面やスタブウィングに武装を搭載する兵装システムは、後に登場する各国の攻撃ヘリコプターのスタンダードとなった。一方のAH-56は、コスト高や開発の遅滞、構想の大幅な見直しなどによりキャンセルされている。

多様・多彩化

AH-1の登場以降、世界各国において攻撃ヘリコプターの開発・運用が相次いだ。1980年代アフガニスタンにおいては、ソビエト連邦軍が山岳地帯の対ゲリラ攻撃や、輸送機などの護衛にMi-24を多用した。1991年湾岸戦争においては、アメリカ陸軍AH-64A アパッチイラク軍戦車を多数撃破。2003年イラク戦争でもAH-64D アパッチ・ロングボウAH-1W スーパーコブラが戦果を上げている。搭載される兵装は対地攻撃兵器のみならず、自衛用の空対空ミサイルを保有する機体も登場した。また、火器管制装置を含む、アビオニクス類の発展も目覚ましく、偵察任務にも高い性能を発揮できるようになり純粋な偵察・観測ヘリコプターを駆逐しつつある状況になっている。

一方で、イラク戦争ではAH-64部隊が不用意にイラク軍の防空網に踏み込んだ結果、大多数が損害を受けるなど脆弱性も露わになっている。加えて、近年では大規模な戦車戦が展開される可能性がほとんどなくなったこともあって、優れたセンサーとネットワーク機能を活かしたISR(情報収集・監視・偵察)任務や火力支援へと主任務が移行しており、高価でオーバースペックな割には意外に「撃たれ弱い」攻撃ヘリコプターの有用性を疑問視する声も出ている。

なお、武装ヘリコプターは、攻撃ヘリコプターの登場後も、調達コストが安くつくことや対地攻撃以外の任務に就くことも可能なことから、中小国を中心に広く使用されている。特に冷戦終結後の非対称戦争においては、主敵が対空装備の不十分な武装組織やテロ組織に移行したこともあり、安価で数が揃えられる武装ヘリコプターを好んで採用している国も多い。その一方でMi-24シリーズは、安価であること、限定的ながら兵員輸送能力を持つことなどから、後継のMi-28ハボックが存在する2017年現在でも発展途上国や紛争国での需要があるといわれる。

近年、遠隔操作式の無人偵察機対戦車ミサイルを搭載して対地攻撃能力を付与した機体が登場・実戦参加しており、攻撃ヘリコプターを代替し得るか注目されるところである。

主な攻撃ヘリコプター

戦闘ヘリコプター

戦闘ヘリコプターとは、対地攻撃を前提に設計された高性能ヘリコプターで、軽快な機動力、頑丈な機体、対地攻撃兵器などを装備する戦闘専用のヘリコプター

Mi-24 ハインド
AH-2 ローイファルク
A129 マングスタ
HAL 軽戦闘ヘリコプター

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

ソビエト連邦の旗 ソビエト連邦/ロシアの旗 ロシア

イタリアの旗 イタリア

ドイツの旗 ドイツ/フランスの旗 フランス

 南アフリカ共和国

中華人民共和国の旗 中国

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武装ヘリコプター

汎用ヘリコプターUH-1 イロコイUH-60 ブラックホークなどに代表される中型汎用ヘリコプターやOH-6 カイユースのような小型ヘリコプター武装ヘリとして運用されることが多い。

なお、一般的な汎用ヘリコプターにおいても、自衛用やヘリボーン時の「人払い」(機銃掃射をする事により、敵を地面に伏せさせ一時的に反撃を休止させる)を目的として機銃(ドアガン)を搭載するケースは多い。

ポーランド陸軍のW-3W ソクウ
ドイツ陸軍のMBB PAH-1
インド陸軍のHAL ルドラ

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

ロシアの旗 ロシア

ポーランドの旗 ポーランド

西ドイツの旗 西ドイツ

西ドイツの旗 西ドイツ日本の旗 日本

  • BK-117 - 旧西ドイツ側での計画のみ。ただし現在も改良型のEC 145をベースにした武装型の開発自体は続けられている。

フランスの旗 フランス

フランスの旗 フランスドイツの旗 ドイツ

イギリスの旗 イギリス

中華人民共和国の旗 中国

 ルーマニア

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観測ヘリコプター

偵察機観測機としての任務も兼ね備えて設計された、比較的軽武装ヘリコプター。攻撃ヘリコプターに同行する索敵機としても使用される。

機銃や短距離空対空ミサイルを用いてヘリコプター同士の空対空戦闘(=攻撃ヘリコプターの護衛)能力を備えた物もある。現在は戦闘ヘリコプターとの能力差が大きくなったことや無人偵察機の発達により、純粋な観測ヘリコプターは数を減らしつつある。

日本の旗 日本

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

ポーランドの旗 ポーランド

イランの旗 イラン

脚注

注釈

  1. バートル社の旧名(現ボーイング・ロータークラフト・システムズ)
  2. これは、陸軍側が自前の航空戦力・対地攻撃能力を手にする事を、空軍側が嫌ったためでもあった。この後の本格的な攻撃ヘリコプター開発構想の段階でも、空軍側は当初強い反対の姿勢を取っている

出典

参考文献

  • ミリタリー・イラストレイテッド22「戦うヘリコプター」ワールドフォトプレス編:ISBN 4334707963 光文社

関連項目