旅行者下痢

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旅行者下痢(りょこうしゃげり)は、渡航者下痢とも呼ばれ、主に国外旅行者が滞在先で遭遇する激しい下痢症状を指す。高齢者よりも若者がなる例が多いという。俗にいう食あたり、水あたりを発症したことをさす。

水分を摂ってホテルなどで安静にしていれば快復するケースが多いが、感染症が原因の場合は治療が必要である。

原因

主に外国の飲食物の摂取によるものとみられる(手洗いを徹底しないなど、接触のケースもありうるだろうが)。俗に外国の水や食物が「あわない」と言うが、これは外国の細菌や微生物への耐性や免疫が低かったり、外国特有の食材・物質・成分の処理能力が欠如していたりすることである。また、外国ならではの多量な使用量や、成分濃度に対して処理しきれないということもある。

病原体

細菌ウイルス寄生虫毒素など。

約2割が該当し、体調不良による抵抗力低下が引き金になりがちである。一般細菌による食中毒腸炎ビブリオ、ナグビブリオ菌、サルモネラ菌ウェルシュ菌クリプトスポリジウムキャンピロバクターなどの事例が多いとされる。この他、病原性大腸菌セレウス菌A型肝炎アメーバ赤痢赤痢腸チフスコレラ貝毒などによる症例もある。伝染病に該当する場合は現地の医療機関で診察・治療を受け、帰国後は検疫所で申告する必要がある。

水質によるもの

生水(加熱処理していない水道水)の衛生が問題な時は、上記の病原体に感染するリスクがある。

その他に原因と考えられるものに水の硬度がある。日本国内の水は世界的に見て超軟水であるため、主にヨーロッパなどの硬水による下痢が多い。また、地元では馴染みの衛生的な食材でも、食べ慣れない者にはが受け付けないことがある。

慣れない食材

調理香辛料ほか、普段は摂取しない食材などによる一過性の胃腸障害もある。
発酵食品など複雑な成分をもつものは、加熱後であっても多量に摂ることは避けるべきである。油や香辛料は酸化による変性が原因となりがちである。早ければ3~4日で快復するが、10日以上あるいは帰国するまで長引く場合もある。

ストレスによる体調不良

旅行のスケジュールにより疲労が蓄積したり、ストレスをきたしたがために、胃腸炎をおこし、下痢の症状がでることもあろうが、こうしたタイプのストレスは、別に外国旅行の条件下でなくとも本人の健康管理などの問題次第でおこりうるので、果たしてわざわざ「旅行者下痢」と称するべきか疑問である。

渡航中のエコノミークラス症候群船酔いに起因したり、飛行機による時差ぼけが尾を引いたりするせいで下痢気味になるのも、滞在先で受けるものではないので、本来の旅行者下痢の延長線上とみるべきであろう。もちろん、症状が出たときは何が原因か必ずしもはっきりするものではないので、これらは正しい診断を受けた場合の結果論である。

旅行前からすでに不調を感じていることも多く、出発前後の無理なスケジュールや、不潔・不安感を刺激される滞在先環境などにより引き起こされる。多くの場合は次第に慣れることなどで、ほどなく改善する傾向にある。

予防

体調管理
体調不良そのもの、あるいは感染症に見舞われる引き金となることから、出発前の体調管理は重要な予防策となる。基本的に食中毒に対する注意が有効で、生ものを避け、手洗いうがいを心がける。ただし、一部の病原体は加熱調理でも防げない。
予防接種
特定の感染症が流行している地域へ向かう場合、その感染症のワクチンが接種可能ならば予防策となりうる。そのほか腸管毒素原性大腸菌(ETEC)に対するワクチンが旅行者下痢専用として開発されている。但し、リスクのない予防接種は存在しない事を十分理解して行う必要がある。

治療

もし帰国後も症状が続くようなら、早急に医師の診察を受ける。以下に現地での応急処置に関する情報を記す。

水分補給
下痢で危険なのは、水分と電解質の損失による脱水症状である。従って、コレラなどの重大な感染症でも適切な水分補給で脱水症状を防げば、高い確率で重症化を回避することが出来る。下痢の治療のための水分補給では、単なる水では効果が期待できず、糖分と塩類濃度の溶液を摂る必要がある。これを経口補液療法(Oral rehydration therapy)といい、排泄物と同じ量の電解質溶液をとり続けて回復を待つ。WHO推奨レシピは、水1リットルに食塩3.5g、塩化カリウム1.5g、重曹2.5g、ブドウ糖20g、である。薬局で手にはいるが、無ければ粉末タイプのスポーツドリンクを2倍に薄く作ったものが最も好適で、その他ヤシ果汁や適当な菓子類を塩水で溶いたもの、あるいは薄めた海水等が利用可能である。
ただし、水分を補いながら半日程度安静にしていても回復しなければ、または患者が小児だったり、ひどい腹痛や高熱を伴う、排泄物に多量の血液が見られる、などの場合は早急に予定を変更し、医療機関を頼るべきである。
治療薬
抗生物質や下痢止めの使用は要注意。これらは往々にして症状を悪化させる。
かつて病原性大腸菌の患者に下痢止めを処方して重態化を招いてしまった様に、激しい下痢症状には下痢止めを控え、排泄を促すべきとされる。下痢止めが治療効果を発揮するのは、脱水症状の防止や下痢による体力消耗を防ぐ目的で使用する場合に限られる。抗生物質はさらに適切な使用が難しく、少なくとも不用意な服用は避けるべきである。

関連項目