時計

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置き時計
山田訓氏所蔵「MADE IN JAPANの置時計 1960年代を中心に」展より

時計土圭、とけい)とは、時刻を知るための、また時間を計るための器機・道具。

概説

11世紀以降の機械時計には、動くための力、一定の速度で動かすための調速機、計った時を外部に伝える部分の三要素がある。動力としては、錘を引く重力ぜんまい(ネジ)、電気などが主に使用される。調速機としては、振り子テンプ音叉、電力線、水晶、原子などが利用されている。外部に伝える部分は、一般的には針(アナログ)や文字(デジタル)、音などである。

1970年代頃までは、腕時計や置時計では動力にぜんまいを使った機械式、掛時計では電気(トランジスタ)式がほとんどであったが、1980年代以降、現在のほとんどの時計は、動力に電気、調速機に水晶振動子を使ったクォーツ時計となった。但し、機械式時計が完全に廃れたわけではなく、その完成度の高さから機械式時計の愛好家は多い。

市販のクォーツ時計の多くは 1 秒間に 32,768(2の15)回振動する (32.768kHz) 水晶振動子を用いて時を刻む。必ずこの数値でなければならないわけではないが、時計に組み込むのに適切な大きさの振動子で発生しやすい周波数であり、また、簡易な回路で分周を行い周波数を半分にする操作を繰り返して1秒を得る為に、2のべき乗の値であると都合が良いことからこの周波数がよく用いられる。他の周波数の水晶振動子が用いられることもある。

また、近年はセシウム原子の振動 (9,192,631,770Hz=9.19263177GHz) を用いた原子時計の時刻を基に発信された電波(標準電波JJY)を受信し、クォーツ時計の時刻を自動修正する電波時計も利用されている。日本での標準電波の発信基地(電波送信所)は、福島県田村市都路地区(大鷹鳥谷山、40kHz)と佐賀県佐賀市富士地区(羽金山、60kHz)の2か所。更に進んで、地球上どこでも受信できるGPSの電波により時刻修正を行う衛星電波時計も出現している。

一方、動力については、電池交換の手間を省くため、腕時計の分野では手の動きから力を取り出して発電機を駆動して (AGS) 電気を得る方法や、文字盤や盤面以外の部分に組み込まれた太陽電池などにより発生した電気を、二次電池、もしくはキャパシタに充電しながら作動するタイプが出てきている。

また時計は電子機器の多くにも内蔵されている。これは、ビデオの録画予約や、電子レンジの加熱時間など、タイマーとして使われる。

英語で時計を指して「クロック」(clock)と言うが、同じ語はデジタル回路論理回路)のクロック同期設計における同期のための信号(「クロック信号」)を指しても使われる。クロックの記事を参照。パソコンなどではそれより他にリアルタイムクロックという、時刻を刻む「時計」も持っていることも多い。またオペレーティングシステム内では通常、さらにそれらとは別のタイマーを利用した時刻管理系を持っている。

時計の歴史

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砂時計で一定の時間を測ることができる。機械を使用しない、初期の計時器具のひとつである

有史以前より人類(おそらく他の動物にも)は太陽の位置などにより、朝-昼-夕程度の曖昧で不明確な時の概念を持っていたと考えられる。太陽の位置を知る方法に「固定された適当な物の影を見る」というのがあり、これはいわゆる紀元前約2000年頃に発明されたといわれる日時計である。

しかし日時計は晴天の日中しか利用することができない欠点がある。そのため、別の物理現象を使って時間の流れを測定する時計が考えられた。例えば特定の大きさで作った蝋燭線香、火縄が燃える距離を使う(燃焼時計)、が小さな穴から落ちる体積を使う(水時計砂時計)などであり、紀元前1400年 - 紀元前700年頃の間にエジプトイタリア中国などで考案された。なかでも水時計は流速を一定とした水を使用することから、それを動力とした機構を発達させ、かなり複雑な機構を使用するものへと変化し、やがて機械式時計を生み出すこととなった[1]

北宋時代、より正確に時間を計るため駆動軸の動きを制限する脱進機が発明され、1092年蘇頌によって世界初の脱進機つき時計台である水運儀象台開封に建設された[2]。水運儀象台は時計台であると同時に天文台でもあった。同時期、イスラム世界においても水時計の進化は進み、その機構の多くはヨーロッパへと伝播した[3]

14世紀にはヨーロッパで、定期的に重錘を引き上げ、それが下がる速度を棒テンプと脱進機で調節する機構が発明された。また1510年頃、ニュルンベルクの錠前職人ピーター・ヘンラインゼンマイを発明し携帯できるようになった。

1583年ガリレオ・ガリレイは、振り子の周期が振幅によらず一定であること(正確には振幅がごく小さい場合に限られる)を発見し、振り子時計を思いついた。1656年クリスティアーン・ホイヘンスは、サイクロイド曲線を描く振り子および振り子に動力を与える方法を発明し、振り子時計を作った[4]

1654年ロバート・フックはひげゼンマイの研究を行い、それが振り子と同じく一定周期で振動することを発見し、1675年ホイヘンスはこの原理を利用した懐中時計を開発した。18世紀初頭に入ると時計技術の進歩はさらに進み、ジョージ・グラハムによってシリンダー脱進機が発明され、彼の弟子であるトーマス・マッジはレバー式脱進機を発明した[5]

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ジョン・ハリソンの開発したクロノメーターH5

中世ヨーロッパでの時計の意義は主に宗教目的で、神に祈りを捧げる時を知るためのものであった。しかし大航海時代に入り、天測航法および計時によって現在位置の経度を知るためには、揺れる船内に長時間放置してもくるわない正確な時計(クロノメーター)が必要となった。時刻にして1分の誤差は経度にして15(1/4、赤道上で28km)もの誤差となり、時計の狂いが遭難や座礁につながるという事故が多発したためである。1713年イギリス政府は「5か月間の航海で誤差は1分以内」という懸賞条件に2万ポンドの賞金をかけ[6]1736年ジョン・ハリソンが見合う時計を完成させた。しかしハリソンが単なる職人だったためか、イギリス議会はいろいろと難癖を付けて賞金を払わず、40年に渡って改良を重ねさせた。ハリソンはジョージ3世の取りなしがあって、ようやく賞金を手に入れられたが、それは彼の死の3年前であった。

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アブラアム=ルイ・ブレゲが1795年頃に製作した置時計(チューリッヒバイヤー時計博物館所蔵)

時計制作の歴史に革命を起こしたのが天才時計師として名高いアブラアム=ルイ・ブレゲであり、彼によって時計の進歩は200年早まったとされる[7]。ブレゲはスイスのヌシャテルで生まれたのち、フランスを中心に時計制作を行い、トゥールビヨン永久カレンダーミニッツ・リピーターなど、現代の機械式時計にも用いられている画期的な発明を数多く行った。ブレゲの顧客にはフランス国王ルイ16世ナポレオン・ボナパルトイギリス国王ジョージ3世ロシア皇帝アレクサンドル1世などがおり、当時の最高権力者たちはこぞって彼に時計制作を依頼していた。ブレゲがその生涯に制作した時計は約3,800個と言われ、数々の傑作を生み出したが、そのなかでも最高傑作として名高い逸品が、王妃マリー・アントワネットの注文に応じて制作された懐中時計「マリー・アントワネット」である。

その後、機械式時計は精度や携帯性を求めて様々な改良が施された。また、この17 - 19世紀初頭は、職人の徒弟チームによる手工芸的な少量生産から、いかに大量生産で高精度の時計を作れるか・定期的な保守を誰でもできるかという要求により改良がなされていった時代である。ぜんまい動力の掛かる駆動部の歯車はなるべく均一な力がかかるように歯車の歯数を互いに割り切れないようにする工夫もなされた。気温によって振り子の長さやひげゼンマイの弾性が変化することも精度に影響するため、20世紀初頭に熱膨張率の小さなインバー合金、温度によって弾性率の変化が小さなエリンバー合金が発明され、大きな貢献を与えた。各種あった脱進機も、現在のアンクル脱進機にほぼ絞り込まれていった。

20世紀に入ると、動力として電動機が使われるようになった。当初は調速機構を在来機械式時計と同じくしながら動力源をぜんまいの代わりに電動機としたのみであった。更に第二次世界大戦後には、小型置時計や腕時計の分野で、電気の安定にトランジスタを使ったトランジスタ時計、調速機にRC発振回路を使った時計、音叉を使った音叉時計などが開発されたが、一般向けの実用時計としては水晶振動子を使ったクォーツ時計、実験施設等の高度な計時装置としてはセシウム原子の振動を利用した原子時計等、新たな高精度な時計の出現によりほとんど姿を消した。

クォーツ時計は廉価で小型化が可能で、1か月の誤差が15秒ほどと実用上十分の精度があるため現在では一般的に使われている。一方原子時計は2000万年に1秒くらいの狂いという高精度を持つものの、21世紀初頭の段階では廉価・小型化が難しい。そこで、原子時計による時報を適当な頻度で電波によって受信し、クォーツ時計の時刻を自動修正する電波時計も利用されている。またこれ以上に正確な時刻を知る必要がある(科学技術用途など)場合、GPSにより10億分の1秒オーダの正確な時刻が地球上どこでも容易に得られるようになったことも特筆に値する。

クォーツ時計が一般化する前の電気式時計では、アナログ式では電源周波数に同期して回転するサーボモータを使ったり、デジタル式では電源周波数より1秒毎のパルスを得て駆動していた(後者は現在でもビデオテープレコーダなどのタイマー予約用時計に使われることがある)。このため商用電源(日本では50/60Hz)は長時間で誤差が累積されないように進み遅れの制御がなされている。

一方機械式時計の新しい発明として20世紀末には、ジョージ・ダニエルズによるコーアクシャル脱進機が提案されている。これはアンクル脱進機以来の発明といわれている。また、セイコーによるスプリングドライブの発明は、機械式時計とクオーツ式時計の融合として革命的である。

時計産業

時計産業は、17世紀には手工芸的な産業であり、イギリス、フランス、スイスによって激しい技術競争が起こっていた。このうちフランスにおいてはナントの勅令ルイ14世によって1685年に廃止され、ユグノーが多かった時計職人たちは迫害を逃れてスイスへと移住し、まずジュネーブで、ついでその北東に位置するヌシャテルにおいても時計産業が栄えるようになり、この2都市がスイス時計産業の中心となっていった[8]。先発であるジュネーブが高級時計を主力としたのに対し、ジュネーブからの職人移住によって形成された[9]ヌシャテルやジュラ山地の時計生産においては廉価な時計の生産が主力となっていた[10][11]。時計の制作は複雑なため、個人ではなく職人たちがチームを組んで分業により制作する方式を採用していたが、これには一つ一つの部品が正確に製作され、それが組み合わされて狂いなく動作することが必要であり、この職人集団は結果として正確な機械製作技術を身につけることとなった。この技術は他の機械製作にも応用されるようになり、産業革命の技術的基礎となった[12]。このころまでの時計は、航海の安全に直結するクロノメーターを除けば、ほとんどは装飾品に過ぎなかった。しかし産業革命時代に入ると、正確な時間を知ることが必要になり、それまでの装飾品としての時計から実用品としての比重が急速に高まった。このころはいまだそこまで正確な時計は完成していなかったが、アメリカ西部開拓時代になると、正確かつ規格化された鉄道時計の需要が生まれ、精度の高い時計が求められるとともにアメリカに開発・生産の重心を移していった。ところが労働コストの上昇等により、20世紀前半までにはアメリカの時計産業は衰退した。19世紀末から労働コストが安いスイスドイツなどが時計産業の中心となった。

日本での工業としての時計生産は、明治時代中期(1880年代)以降に東京大阪名古屋周辺で掛時計、置時計の製造が始まったのが嚆矢であるが、懐中時計・腕時計等の精密時計の大量生産は20世紀に入ってから始まった。1927年にはアメリカにおいてクォーツ時計が発明されていた[13]が、1960年代には急速に改良が進んで実用化されるようになり、1969年にはアナログ式クォーツ腕時計が日本において初めて商品化され、さらに1970年代以降のデジタル化へのシフトにより、スイスの時計産業は衰退し日本へとその主軸を移していった[14]。20世紀末には生産地がさらにアジア諸国にシフトしていった。

この頃にはクロノメーター時代の最高精度の何倍もの精度の時計が廉価で買えるようになり、デジタル時計なども実用的にはこれ以上進歩のしようがなくなった。ただし大量生産されたクオーツ式時計には物としての所有感が乏しいため、スイス・ドイツ・日本の高級精密時計産業がまた盛り返した[15]。『実用的な道具としての時計』と『高級な嗜好品としての時計』に二極化していったといえる。

その後21世紀になると、携帯電話等に付属する時計を利用するユーザが多くなったため、前者の『実用的な道具としての時計』産業は衰退しつつある。後者の高級精密時計産業は、特にスイスの時計生産業者やファッションコングロマリットによりグループ化され統合されて発展しつつある。ファッションブランドとの統合による資本の安定、他の産業(自動車・光学・精密・電子機器など)との複合経営による資本の安定や技術の応用・還元などにより、機械式時計も技術的にもさらなる発展をしつつある。

その他パソコンの画面上ではタスクバーで時間が標準表示される他、主にガジェットフリーソフトとして各種アナログ・デジタル時計が多数公開されている。

時計の構成

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クォーツ式の腕時計

作動原理

機械式以外のもの
  • 日時計
  • 水時計(漏刻)
  • 砂時計
  • 火時計
    • 最古の火時計は蝋燭時計で、西洋では西暦900年ころまで用いられた。当時の蝋燭時計は長さ12インチで、1インチごとに印を入れて火を点じ、1インチの蝋の燃え尽くす経過から時を知るようにしてある。目盛りには白い角の粉を透明なほど薄く煉って、文字を溝のように彫り、それに塗りこんだ。日本でもこの法に準じて時を計った時代があった。
    • ランプ時計はフェリペ2世の室に夜間時を示すのに用いられたものが最初であるといわれる。ガラス製の油入に目盛りを刻み、時間を計るしかけで、近世までドイツ、オランダで使用された。
機械式時計

表示方式

アナログ式

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アナログ式電波置時計

アナログ式は長針と短針を組み合わせた針式。通常、長針1回転が60分、短針1回転が12時間を表す。通常、円周の等分の位置にアラビア数字ローマ数字を配置した文字盤を用いる(12方向あるいは4方向に数字を置く)。背景に数字を入れないデザインのものもあるが、時計の針は同一の周回を回転しているため上下方向が定まっていないと時刻を認識できないことになる。そのため、実用的な時計においては少なくとも上下方向は決まっている(背景が無地の壁掛け時計など)。

レギュレータ
長針・分針・秒針(秒針は無い場合もある)がすべて独立しており同軸にないもの(文字盤もそれぞれ別々に独立している)。機械式時計の基本原理としてはこの形態になる(機械式時計の項参照)。
2針式
長針と短針のみで二つが同軸にあるもの(秒針が付いていても同軸でないものを含む)。レギュレータに歯車を1個追加して分針を駆動している。
3針式
秒針が長針・短針と同軸にあるもの。2針式の機構に歯車を1 - 2個追加して秒針を駆動している。

アナログ式はほとんど12時間表示(12等分)であるが、24時間表示の数字を小さく併記するものもある。文字盤の時間間隔については、日長により変化する不定時法(一部の和時計など)のものもあるが、基本的に現代の時計は時間間隔が常時一定の定時法をとる。その他文字盤に多数の目盛りが追加され、クロノグラフ(秒・分・時)やカレンダーが針で表示できるものもある。日付や月齢などは回転する板を穴からのぞくようにして文字盤地板に表示するものも多い。なお、「12時方向」や「3時方向」などアナログ式時計の文字盤に見立てて方向・方角を表す方法をクロックポジションという。

デジタル式

デジタル式は数字で直接表示する方式。デジタル式には12時間表示のものと24時間表示のものがあり切り替え可能なものも多い。


時計の構造

機械式時計

時計を動かす動力はぜんまいばね(おもり)である。ぜんまいばねはゆっくりとほどけながら動力主軸を回し、おもりはゆっくりと下がりながら動力主軸に撒きついた鎖を引いて主軸を回す。ぜんまいばねがほどけきったら巻き直し、おもりが下がりきったら巻き上げる。ぜんまいばねがほどけきるまで数日から数十日のものが一般的だが、万年時計のように長期間動き続けるものも作られた。

動力主軸(1番車)の回転は短針を回転させ、歯車を経て回転比を上げた軸(2番車)が長針を回転させる。さらにこれより回転比を上げた軸(3番車・秒針付き時計の時代には秒針に用いられるようになった)・最後の軸(4番車)にいくに従いトルクは小さくなり速度は速くなる。4番車には調速機構である脱進機English版(エスケープメント)が取り付けられ、速度を調節するようになっている。現代の代表的な脱進機はアンクル脱進機であり、腕時計・懐中時計から柱時計にまで応用されている。

保守

以前は数年に一回の分解掃除が必要とされて来たが、多数所有が当然となって使用頻度が落ちていることやオイルが改良されて来たことから十数年に一度で良いという意見も、初期馴染みが出た購入後2年位で整備しその後は整備間隔を広く取る等の意見もある。分解掃除は主にオイルを足したり、機械バーツの摩耗により発生する金属粉を取り払うために行われるが、使用オイルを指定する機種もあり、適正量は極めて少量[16]であるし、また部品の破損・紛失の危険性も高いため試行は難しい。結果として専門の業者に依頼することになるが、機械時計が主流でなくなってから久しいため、正しく分解掃除ができる業者が減り、また機械式時計ブームに乗ってちゃんと分解掃除ができないのに受け付ける業者も増えて来たことから、業者の選定には注意が必要である。

アンクル脱進機

アンクル脱進機では、4番車の同軸に特別な歯車(雁木車)と雁木車を止めるためのアンクルが取り付けられる。アンクルの2つのツメは雁木車を2つの位置で止める。またアンクルは規則的に往復運動する振り子やテンプに動力を供給し、逆に振り子・テンプは押されると一定時間後に反対側でアンクルのロックを解除する。

アンクルが片側に振れたときには一方のツメは雁木車から外れて、もう一方のツメが雁木車に掛かるようになっている。雁木車の歯やアンクルのツメの形状には工夫がしてあり、アンクルのツメが外れて雁木車が回転する際に僅かにツメを押し返すようになっている。アンクルが左右に振れるたびに雁木車はちょうど一歯分だけ回転する。アンクルの左右の振れを規制するためにバンキングピンと言われる部品があり「チクタク」と聞こえる時計の音は、アンクルがバンキングピンにぶつかる際の衝撃音である。

振り子は重力加速度と錘までの腕の長さによってほぼ振動周期が決定される。テンプはクロノメータ・懐中時計から腕時計に至るまで振り子を携帯する必要性のためにこれを往復回転する輪にしたもので、周期は渦巻きバネの長さによってほぼ決定される。振り子の振れ幅・テンプの回転角度によって周期は厳密には異なるが、ほぼ一定とみなすことができる程度であるため、巻きはじめと巻き終わりで著しくトルクが異なるぜんまいの動力により振り子またはテンプがはじかれる強さが異なっても、ほぼ一定の周期が保たれるわけである。

コーアクシャル脱進機

ジョージ・ダニエルズによって発明された。アンクルが雁木車を止める際に大きな衝撃が加わらないような動作をするもので、理論上構成部品の金属が全く摩耗しない強さの衝撃に抑えられているため機械の寿命低下を軽減すると期待されている。3つの爪をもつアンクル、同軸の2枚の雁木車(ちなみに2枚とも歯は雁木 = もはや雁の首の形をしていない)、バランスローラーをもつのが特徴である。

スプリングドライブ

機械式時計の輪列を用いゼンマイを動力としながら、脱進機部分に発電機を備えクオーツ機構により等時性を制御するものである。進み遅れをクオーツ部分の時刻と比較し、発電機の抵抗を増減することにより調整する。

電気式アナログ時計

電気式アナログ時計では、機械式と輪列は同様であるが、動力が伝わる向きは逆である。すなわち調速機構の位置にある動力源(電磁テンプやモータなど)・秒針位置にある動力源(ステッピングモータなど)で駆動する。

なお、伝統的な輪列により時-分-秒針が同期動作するのではなく、複数のステッピングモータを搭載し、時-分と秒針、または時針と分針と秒針を独立に動かせるコンピュータ制御の時計も一部にある。モード切替(ワールドタイム、クロノグラフなど)により針がジャンプしてシンプルな文字盤で多機能を実現するためである。

クオーツ式アナログ時計

水晶発振を分周したデジタル電子回路で、低速のパルス(多くは1Hz = 秒1回)を発生させ、ステッピングモータをそれに応じた角度だけ回転させる。1Hzでモータが60ステップの場合、直接秒針を駆動する。アナログとはいいながら中間の針位置がない(6度刻み)動作になる。現在の電気式アナログ時計の主流である。

音叉時計

アナログ電子回路を発振させた電気振動で電気音叉を駆動し、その先についた爪で秒針同軸の円盤に刻まれた細かい歯車を送る機構。アナログ電子回路では1Hzなどの低速のパルスは精度よく発生しにくいため、このような機構が発明された。小型化され腕時計にもなっている。

温度差式時計

1928年ニューシャテルの技術者ジャン=レオン・リュッテ(Jean-Léon Reutter)は気温の変化により駆動される時計を発明した。

丸型でガスと塩化エチルが注入されたタンクが取り付けられ、その温度変化による膨張収縮によりアコーディオンを動かしゼンマイを巻き上げる構造になっている。15℃から30℃の間で1℃の温度変化が生じれば2日間動く。

この原理を利用し1936年よりジャガー・ルクルトが「アトモス」の名称で発売している。

トランジスタ時計

永久磁石がついたテンプ(または振り子)を駆動コイル磁力で駆動し、駆動コイルに流す電流の制御に発電コイルとトランジスタを利用する。

  1. 電池を入れると、駆動コイルに電流が流れて磁力線ができ、永久磁石が反発され、テンプがひげゼンマイを巻く方向に回る(最初は電流が流れず、レバー等でテンプに動きを与える必要がある時計もある)。
  2. テンプの回転で永久磁石が動くので、電磁誘導の働きにより発電コイルに電気が起き、トランジスタは駆動コイルに電流を流し続ける。
  3. 永久磁石が発電コイルから出ると、発電コイルに電気が起きなくなり、駆動コイルの電流が止まる。
  4. テンプはひげゼンマイの力で元に戻る。この時、発電コイルには逆向きの電気が起きるので、トランジスタは駆動コイルに電気を通さない。

時計の形態

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静岡県土肥温泉松原公園にある「世界一の花時計」
ウォッチとクロック
時計業界では腕時計(ないし懐中時計)のような、ごく小型の身に付ける時計を「ウォッチ」、それ以外を(たとえば旅行用の小型の時計でも「トラベルクロック」と言うように)「クロック」に大別している(英語のwatchとclockの用法にほぼならったもの)。
腕時計
腕にバンドで取り付けて持ち運ぶもの。
懐中時計
鎖で衣に取り付け、ポケットに入れて持ち運ぶもの。
ナースウォッチ
防水機構が進歩していなかった時代に、頻繁に手を洗う看護師がすぐに時刻を見られるよう6時側(12時側ではなく)に短い鎖を取り付けてあり、反対側にはピンがついていて、胸につけるようになっている。防水腕時計が当然になった現在でも、患者に怪我をさせないよう手に金属製品をつけない要請から一部で使用されている。
置き時計
棚や机の上に据え置くもの。
クロノメーター
航行する船舶内で正確に時刻を刻めるように、ケースに収められたり水平を保つ台座に取り付けられたりしている時計。
掛時計
壁(など)に掛けて使用するもの。
柱時計
掛け時計が大きく重かった時代には柱に取り付けていたためこの名がある。
壁時計
壁に掛けられた掛時計、といったような意味で、英: wall clock の訳であるが、wall clock というフレーズは、オフィスの全員から見える、時刻を共有するための時計、というような、役割的な意味を含んでいることがある。
親子時計 
親時計からの30秒ごとのパルス信号で子時計を駆動するシステム。
からくり時計
毎正時などに、装飾が動いて時刻を知らせるもの。
鳩時計
鳥を象った木像が飛び出して鳴き声を模した音を出し、その数で時刻を知らせるもの。
花時計
主に屋外に設置される、花壇と一体となった時計をさす。
バーバークロック
針が逆回転し文字も裏返し文字となっており、鏡に映したときに正しい表示になる時計。理容店等前面が大きい鏡で覆われて時計を置くスペースがない場合のために製造されたことからこの名がある。

など

時計の付加機能

目覚し時計
ベル・電子音・ラジオコンパクトディスクなどの音声鳴動(アラーム)、あるいは光によって、また特殊なものでは寝具の下部に敷いておいたエアークッションを膨らませるなどして起床させることを目的としたもの。
タイマー
音による通知を目的としたものではなく、他の機器の電源ON・OFFや周期的な制御を目的としたもの。
時報・チャイム・リピータ
主に定置される時計において、毎時00分などに音を鳴らしたり音で時刻を示すものがある。簡単な音列(ウェストミンスターチャイムが有名である)を演奏するものもあり、近年の電子制御の時計では百貨店などの人形が踊る時計もある。任意の時間に操作により現在の時刻を鐘の数により示すものをリピーターと呼び、複雑機構のひとつである。
世界時計
時差に対応し、世界各地の時間を表示するもの。特に2つの同期する時計・独立した時計をもつもの(デジタルの場合は内部で時差を加算することも多い)はデュアルタイムとよばれ、自国の時間と現地時間・世界時などを同時に読み取れる。
カレンダー
日・月からはじまって年・月齢などを表示するものもある。デジタル式では内蔵ハードウェア・コンピュータのプログラムにより簡単であるが、これらを機械式で制御するものは複雑時計とよばれ、特に大の月・小の月、閏年の自動判別をし無調整とするものは最高級のものとして永久カレンダーと称される。
天文時計
星図板の表示・月や太陽など天体の運行を表示するものもある(純粋な機械式時計でこれを実現する超複雑時計もある)。これらはカレンダー機能の一種であるが、もともとジョン・ハリスンの時代には不等時法であったため季節による均時差を表示する・加える機能は古くから実現されていた。
クロノグラフ
使用者の制御により、通常の時・分・秒の表示に影響を及ぼすことなく特定の事象の経過時間を測定するためのもの。特に技術者や医療関係者向けに開発された。
カウントダウンタイマー
一定時間経過したことを知らせるもの。
ラップタイム・スプリットセコンド
クロノグラフを止めることなく経過時間を一時停止し読み取れるようにしたもの。読み取りが終わったら再度、計測表示に戻る・計測秒針に追いつく。機械式時計では2つのクロノグラフ秒針が同時に動き、スプリット操作により片方が止まることで実現される複雑時計である。
フライバック
定期的に起こる事象の計測のため、停止操作をすることなく再スタート(リセット)操作が行なえるもの。
テレメータ・プロダクツメータ・パルスメータ
主に機械式時計において、クロノメータの秒表示に逆数表示を加え、時速(テレメータ)・生産数量(プロダクツメータ)・脈拍(パルスメータ)などを測定できるようにしたもの。テレメータは特定の長さの走行開始・終了を計れば、時速などが算出できる。プロダクツメータは一個あたりの生産開始・終了を測定すれば、時間当たりの生産数量が算出できる(なお1分を10等分・100等分したデシマル時間表示も併記されることが多い)。パルスメータは少数(10拍など)の脈動の所要時間をカウントすれば、一分計測しなくとも脈拍がカウントできる。
ムーンフェイズ
月相を表示する。

時計に関するマナー

時計を身に付けることが一般化するにつれ、以下に挙げる時計に関するマナーも自然発生的に広まった。

  • 丸型の外形、銀色か白色文字盤、2針または3針などのシンプルなデザインのモノ、黒い艶有り革ベルト、ケースは金色か銀色の光沢があるもの、文字盤の文字はローマ数字かバーなどの記号、それらの特徴をすべて持つものが最もフォーマルである。
  • カジュアルシーン以外では時計は必ず着ける。
  • フォーマルな場では腕時計とブレスレットを同じ腕につけてはいけない。
  • 男性用時計は30〜35mm女性用時計は20~25mm程度のサイズが一般的であり、それを大きく外れるサイズはどのようなデザインであったとしてもカジュアルな時計である。
  • 時計の種類は履く靴に合わせる。例、ドレスシューズならドレスウォッチ、スニーカーならスポーツウォッチ、ブーツならミリタリーウォッチなど。
  • 手首の骨の出っ張りよりも手前の部分につけ、立った時にシャツから少しだけ見えるまたは完全に隠れるようにつける。そうしなければシャツの袖口と時計が干渉し袖口を痛める可能性がある。

[17][18]

  • その他日本の年長者の間でのみ結婚式に時計は着けないほうが良いという意見や、女性は手首の内、男性は外につけるという考え方もある。

時計を題材にした作品

童話、小説
  • 小川友忠 『西洋時辰儀定刻活測』 鈴木光尚 (校訂)、1853年。
  • 大塚楠緒子 『金時計』 東京新詩社 (編集)、文友堂、1901-10。
  • 石井研堂 『時計』15、博文館〈少年工芸文庫〉、1903年。
  • 高林兵衛 『時計発達史』 東洋出版社、1924年。
  • 資料社編集部 『時計に関する資料』 資料社、1948年。
  • まついのりこ 『とけいのほん』 絵本、フクインカン〈福音館のペーパーバック絵本〉、1973年。
  • まついのりこ 『とけいのほん 2』 絵本、フクインカン〈福音館のペーパーバック絵本〉、1973年。ISBN 4834005607。
  • 黒井千次 『小説家の時計』 構想社、1977-05。
  • 永田萌 『夢時計のまわる夜』 画集、CBS・ソニー出版〈Artback〉、1980-12。
  • 日影丈吉 『地獄時計』 徳間書店、1987-12。ISBN 4191235737。
  • 伊井直行 『進化の時計』 講談社、1984年。ISBN 4062056976。
  • 角山栄 『シンデレラの時計』2、ポプラ社〈ポプラ・ノンフィクション books〉、1996-04。ISBN 459105088。
  • 和田光孝 『水の記憶』 近代文芸社、1996-7。ISBN 4773349204。
  • 『シロクマくんのおきゃくさん : かずととけいの本』 童話、偕成社、1997年。ISBN 9784032350302。[19]
  • 黒井千次 『夢時計』上、講談社、1997-11。ISBN 4062089653。
  • 黒井千次 『夢時計』下、講談社、1997-11。ISBN 4062089661。
  • 伊藤正道 『大きな古時計』 ヘンリー・クレイ・ワーク (原曲の作詞・作曲); 保富康午 (訳詞)、白泉社、2003-11。ISBN 4592761014。 [20]
  • 『いまなんじ? : とけいのほん』 絵本、コンセル、戸田、2009年。
  • アレクサンドル・イワーノヴィッチ・クプリーン. The Missing Watch(失われた時計). 
童謡、歌
映像外部リンク
16px 童謡ダンス「とけいのうた」 - YouTubeハピクラワールド
16px 山のワルツ - YouTube(ハピクラワールド)

脚注

  1. 「図説 時計の歴史」p13 有澤隆 河出書房新社 2006年1月30日初版発行
  2. 『世界文明における技術の千年史 「生存の技術」との対話に向けて』p66 アーノルド・パーシー 林武監訳、東玲子訳、新評論、2001年6月。ISBN 978-4-7948-0522-5
  3. 『世界文明における技術の千年史 「生存の技術」との対話に向けて』p77 アーノルド・パーシー 林武監訳、東玲子訳、新評論、2001年6月。ISBN 978-4-7948-0522-5
  4. 「図説 時計の歴史」p17 有澤隆 河出書房新社 2006年1月30日初版発行
  5. 「図説 時計の歴史」p37 有澤隆 河出書房新社 2006年1月30日初版発行
  6. 『ジョージ王朝時代のイギリス』 ジョルジュ・ミノワ著 手塚リリ子・手塚喬介訳 白水社文庫クセジュ 2004年10月10日発行 p.125
  7. 「図説 時計の歴史」p36 有澤隆 河出書房新社 2006年1月30日初版発行
  8. 「図説 時計の歴史」p35 有澤隆 河出書房新社 2006年1月30日初版発行
  9. http://www.fhs.jp/jpn/origins.html 「原点から現在まで」スイス時計協会 2016年7月9日閲覧
  10. 森田安一『物語 スイスの歴史』中公新書 p138-139 2000年7月25日発行
  11. 「図説スイスの歴史」p70 踊共二 河出書房新社 2011年8月30日初版発行
  12. 「興亡の世界史13 近代ヨーロッパの覇権」p183-184 福井憲彦 講談社 2008年12月17日第1刷
  13. http://www.jcwa.or.jp/etc/history.html 「時計の歴史」一般社団法人日本時計協会 2016年7月9日閲覧
  14. http://www.jcwa.or.jp/etc/history01.html 「日本の時計産業概史」一般社団法人日本時計協会 2016年7月9日閲覧
  15. http://www.fhs.jp/jpn/watchindustrytoday.html 「今日のスイスの時計産業」スイス時計協会 2016年7月9日閲覧
  16. オイルが多すぎると精度が出ず、また毛細管現象でオイル切れが早く起きる。
  17. 『フォーマルウエア ルールブック』 日本フォーマル協会
  18. 『フォーマルウエア講座』 清家 寿子 2002/4 繊研新聞社
  19. 原題 Paul Owen Lewis (1989). P. Bear's new year's party!, : A Counting Book, Berkeley, CA: Tricycle Press. ISBN 9781582461915. OCLC 671817083. 
  20. 同名の歌大きな古時計を絵本にしたもの。
  21. 古い版の楽譜は3種類。『尋常小学読本唱歌』1912年発行(明治43年)、『尋常小学唱歌 第二学年用』1913年発行(明治44年)、『新訂尋常小学唱歌-第二学年用』1932年発行(昭和7年)
  22. 初演の題名は「大きな古時計」ではなかった。ミミー宮島は吉本興業(東京吉本)所属の子供歌手兼タップダンサー。
  23. 2000年代初頭の出版例。テンプレート:Cite AV media
  24. NHKラジオの幼稚園・保育園むけリズム遊び番組「あそびましょう」で初演
  25. ひらけ!ポンキッキ」の大ヒット曲

参考文献

  • Sobel, Dava (1995). Longitude: The True Story of a Lone Genius Who Solved the Greatest Scientific Problem of His Time. New York: Penguin. ISBN 0-14-025879-5. 
  • Sobel, Dava & Andrewes, Willam J.H. (1998). The Illustrated Longitude: The True Story of a Lone Genius Who Solved the Greatest Scientific Problem of His Time. New York: Walker Publishing Co.. ISBN 0-8027-1344-0. 
  • North, Thomas (1882). The Church Bells of the County and City of Lincoln. Leicester: Samuel Clark, 60–61. 
  • 経度への挑戦—一秒にかけた四百年 ISBN 9784881355053

関連項目

時計に関わる比喩表現等

外部リンク


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