梶田隆章

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ノーベル賞受賞者ノーベル賞
受賞年:2015年
受賞部門:ノーベル物理学賞
受賞理由:ニュートリノに質量があることを示す、ニュートリノ振動の発見

梶田 隆章[1](かじた たかあき[1]1959年3月9日[2] -)は、日本物理学者天文学者である。埼玉県東松山市[3]出身。東京大学卓越教授、同大特別栄誉教授[4]東京大学宇宙線研究所長・教授、兼同研究所附属宇宙ニュートリノ観測情報融合センター長[5]、東京大カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員、埼玉大学フェロー東京理科大学理工学部物理学科非常勤講師。専門はニュートリノ研究。理学博士[1]ニュートリノ振動の発見により、2015年アーサー・B・マクドナルドと共にノーベル物理学賞を受賞した[6]2017年度より朝日賞選考委員を務めている。

生い立ち

1959年3月9日、埼玉県東松山市農家に生まれる。幼少期から特に自然に興味があったわけではなかったが、読書が好きで、両親に「お茶の水博士になりたい」と話したこともあった[7]

暗記よりも考える勉強を好み、高校の授業では物理、生物世界史日本史などに興味を持ち、特に地学が好きだった。苦手科目は古文漢文。中学時代の身長は150センチメートル程度だったが、高校に入ってから180センチメートルを超えるまで伸びた[8][9]

埼玉大学物理学を専攻して素粒子に興味を持つようになる。研究者になれる自信はなくあまり勉強していなかったが、大学3年次に大学院に進学することを決意した[10][11]

成績は小中学校では一夜漬けの勉強でもトップクラスだったが、県内の進学校である高校では中の下程度で、大学時代は高校から続けていた弓道の部活動に熱中し、大学院入試は全く解けなかったという。妻とは埼玉大学弓道部で3年次に共に副将を務めた[12]。大学院で研究に本腰を入れるようになる[13][14]

学歴

埼玉大学理学部を卒業後、東京大学大学院理学系研究科に進学する。小柴昌俊研究室に所属し[15]、この頃から小柴、戸塚洋二の下で宇宙線研究に従事する[16]素粒子に特に強い関心があったわけではなかったが、「何となく興味があった」という理由で研究室を選んだという[17]

業績

ニュートリノ研究を始めたのは、東大理学部附属素粒子物理国際研究センター助手になって間もない1986年のことである。ニュートリノの観測数が理論的予測と比較して大幅に不足していることに気づき、それがニュートリノ振動によるものと推測した。ニュートリノ振動とは、ニュートリノが途中で別種のニュートリノに変化するという現象であり、ニュートリノに質量があることを裏付けるものである。これを明らかにするためには膨大な観測データが必要であり、岐阜県神岡町(現・飛騨市)にあるニュートリノの観測装置カミオカンデで観測を始めた。転機となったのはカミオカンデより容積が15倍大きいスーパーカミオカンデが1996年に完成し、観測データが飛躍的に増大してからであった。

1996年よりスーパーカミオカンデで大気ニュートリノを観測、ニュートリノが質量を持つことを確認し、1998年ニュートリノ物理学・宇宙物理学国際会議で発表。1999年に第45回仁科記念賞を受賞した。これらの成果はすべてグループによる研究の賜物であった[18][19][20]。2015年、アーサー・B・マクドナルドと共にノーベル物理学賞を受賞[6]。受賞理由は「ニュートリノが質量をもつことを示すニュートリノ振動の発見」[6]である。同年、ノーベル生理学医学賞を受賞した大村智らと共に文化勲章を受章した[21]

2015年の梶田のノーベル物理学賞の受賞理由となった「ニュートリノが質量をもつことを示すニュートリノ振動の発見」は、梶田の先輩であり師でもあった戸塚洋二を中心として行われた研究の賜物であり、梶田は戸塚の後継者としてノーベル物理学賞を受賞する形となったが、戸塚本人は2008年にがんで亡くなっており、もし戸塚が生きていれば梶田との共同受賞は確実だったと惜しまれた。梶田自身もノーベル物理学賞受賞発表時の記者会見の場において、「戸塚氏が生きていたら共同受賞していたと思いますか」との質問に「はい、そう思います」と即答している[22]

人物

ファイル:Takaaki Kajita 0195.jpg
梶田隆章(2015年12月7日、ストックホルムにて)

自身について、真面目で楽観的な性格だから研究を続けられた、としている。妻や同僚の塩澤眞人教授、共同研究者の中家剛教授などによると、冷静で感情を表に出すことはあまりなく、温厚で怒っているのを見たことがないという。指導教官の小柴昌俊によると、謙虚かつ控えめで、学生時代は議論ではあまり活発に発言しなかったが、実験には熱心だったという。中学時代の担任によると、先生の言うことをよく聞く素直な子供だったが、温和で控えめな性格で、授業中に積極的に発言するようなことはなかったという。趣味はなく、飲酒や喫煙もせず、休日は富山市の自宅で寝ていることが多いという。また、テレビではニュース番組を見るという[8][10]。子供の頃は親から注意されるほど読書が好きで、隠れて本を読んでいた[9]

後進の育成のため東京大学や東京理科大学で教鞭を執る他、母校の埼玉県立川越高校でも授業や物理部の指導を行っている[12][17][23]

略歴

学術賞

栄典

著書

単著

  • 梶田隆章 『ニュートリノで探る宇宙と素粒子』 平凡社、2015年。

共著

論文

単著

  • 「カミオカンデにおける大気ニュートリノ観測の最新結果」、『日本物理学会誌』第49巻第12号、1994年
  • 「スーパーカミオカンデにおけるニュートリノの観測」、『日本物理学会誌』第52巻第11号、1997年
  • 「ニュートリノの質量―スーパーカミオカンデの大気ニュートリノ観測から」、『科学』第68巻第3号、岩波書店1998年
  • 「大気ニュートリノの異常とニュートリノ振動」、『パリティ』第13巻第3号、丸善1998年
  • 「ニュートリノ振動の証拠:スーパーカミオカンデにおける大気ニュートリノの観測から」、『日本物理学会誌』第53巻第10号、1998年
  • 「ニュートリノの質量の発見―素粒子の標準理論を越える物理への第一歩」、『科学』第69巻第2号、岩波書店、1999年
  • 「ニュートリノ振動と質量―大気ニュートリノと太陽ニュートリノ」、『パリティ』第14巻第4号、丸善、1999年
  • 「ニュートリノや宇宙線をどのように見るか」、『可視化情報学会誌』第19巻、1999年
  • 「スーパーカミオカンデにおける大気ニュートリノの観測とニュートリノの質量の証拠」、『天文月報』第92巻第8号、日本天文学会、1999年
  • 「巨大地下実験装置「スーパーカミオカンデ」」、『特殊鋼』第49巻第7号、2000年
  • 「ニュートリノ天文学」、『学術月報』第56巻第2号、日本学術振興会、2003年
  • 「大気ニュートリノ振動の発見」、『日本物理学会誌』第58巻第5号、2003年

共著

  • 有坂勝史、藤井忠男、梶田隆章、小柴昌俊、ほか「陽子崩壊実験I:モンテカルロ計算」、『日本物理学会年会予稿集』第36巻第1号、1981年
  • 有坂勝史、藤井忠男、梶田隆章、小柴昌俊、ほか「陽子崩壊実験II:20インチ光電子倍増管テスト」、『日本物理学会年会予稿集』第36巻第1号、1981年
  • 中村健蔵、梶田隆章「陽子の崩壊-バリオン数の非保存」、『数理科学』第26巻第11号、サイエンス社、1988年
  • 戸塚洋二、梶田隆章「超新星ニュートリノの観測」、『数理科学』第31巻第1号、サイエンス社、1993年
  • Kearns Edward、梶田隆章、戸塚洋二「ニュートリノの質量の発見」、『日経サイエンス』第29巻第10号、1999年

脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 日外アソシエーツ編 『新訂現代日本人名録2002』 日外アソシエーツ、2002年1月28日、1876頁。 
  2. 2.0 2.1 2.2 梶田隆章”. デジタル版 日本人名大辞典+Plus. 講談社 (2009年). . 2015閲覧.
  3. “ノーベル賞:物理学賞に梶田氏 ニュートリノに質量実証”. 毎日新聞社. http://mainichi.jp/feature/news/20151007k0000m040028000c.html . 2015閲覧. 
  4. 4.0 4.1 東京大学特別栄誉教授”. 東京大学. . 2016-7-25閲覧.
  5. メンバー”. 宇宙ニュートリノ観測情報融合センター. 東京大学宇宙線研究所. . 2015閲覧.
  6. 6.0 6.1 6.2 6.3 The Nobel Prize in Physics 2015”. Nobel Media AB. . 2015閲覧.
  7. 梶田さん 小さい頃の憧れは「お茶の水博士」”. NHK (2015年10月7日). . 2015閲覧.
  8. 8.0 8.1 祝! ノーベル物理学賞 梶田隆章先生の恩師からのコメント”. 東松山市 (2015年11月17日). . 2015閲覧.
  9. 9.0 9.1 祝! ノーベル物理学賞 梶田隆章先生のご両親からのコメント”. 東松山市 (2015年11月17日). . 2015閲覧.
  10. 10.0 10.1 “「予想外の結果」きっかけ=目立たない子、物理学のとりこに-ノーベル賞”. 時事ドットコム (時事通信社). (2015年10月6日). http://www.jiji.com/jc/c?g=soc&k=2015100600973 . 2015閲覧. 
  11. ノーベル賞・梶田隆章教授に高校生記者が聞く 高校の勉強の先に広がる、ワクワクする学問の世界”. 高校生新聞 (2015年11月). . 2015閲覧.
  12. 12.0 12.1 “副将同士、弓道部けん引 大学時代の梶田さん夫妻”. 日本経済新聞. (2015年10月7日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG07H71_X01C15A0CR8000/ . 2015閲覧. 
  13. “埼玉の農家の生まれ 弓道打ち込み、理数系の成績トップクラス”. 産経ニュース (産経新聞社). (2015年10月6日). http://www.sankei.com/life/news/151006/lif1510060039-n1.html . 2015閲覧. 
  14. “「先生は怖かった」 師匠・小柴昌俊さんとつかんだ栄誉”. 産経ニュース (産経新聞社). (2015年10月6日). http://www.sankei.com/life/news/151006/lif1510060041-n2.html . 2015閲覧. 
  15. 梶田隆章 教授”. 東京大学基金. . 2015閲覧.
  16. “ノーベル賞、梶田隆章さん「認められるまで、自分の道が正しいと思って頑張った」”. ハフィントン・ポスト. (2015年10月6日). オリジナル2015年10月7日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20151007053856/http://www.huffingtonpost.jp/2015/10/06/nobel-prize-kajita-takaaki_n_8250890.html?utm_hp_ref=japan . 2015閲覧. 
  17. 17.0 17.1 “ノーベル賞:梶田さん「消去法」で科学への道”. 毎日新聞社. (2015年10月7日). http://mainichi.jp/feature/news/20151007k0000m040133000c.html . 2015閲覧. 
  18. 小柴昌俊 『ニュートリノ天体物理学入門』 講談社〈講談社ブルーバックス〉、2002-11-21。ISBN 978-4062573948。
  19. 小柴昌俊 『ニュートリノの夢』 岩波文庫〈岩波ジュニア新書〉、2010-01-21。ISBN 978-4005006465。
  20. 戸塚洋二 『がんと闘った科学者の記録』 立花隆文芸春秋社〈文春文庫〉、2011-06-10。ISBN 978-4167801359。
  21. 21.0 21.1 平成27年秋の叙勲等”. 内閣府 (2015年11月3日). . 2015閲覧.
  22. 【感動秘話】ノーベル物理学賞に残された「もう一枠」~梶田隆章さんが師と仰ぐ戸塚洋二氏の功績とは”. 週刊現代 (2015年10月24日). . 2015閲覧.
  23. 物理学特別講義3ーB (9962321)”. 東京理科大学理工学部物理学科. . 2015閲覧.
  24. 楽しむ科学教室”. 公益財団法人平成基礎科学財団. . 2015閲覧.
  25. 研究者”. 東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構. . 2015閲覧.
  26. [1]埼玉大学
  27. 東京大学初の「卓越教授」決定 (本部人事給与課)
  28. 「第24期日本学術会議会員日本学術会議
  29. 朝日賞 過去の受賞者一覧”. 朝日新聞社. . 2015閲覧.
  30. HEAD ASS Rossi Prize Winners”. アメリカ天文学会. . 2015閲覧.
  31. 朝日賞 過去の受賞者一覧”. 朝日新聞社. . 2015閲覧.
  32. 仁科記念賞”. 仁科記念財団. . 2015閲覧.
  33. Prize Recipient”. アメリカ物理学会. . 2015閲覧.
  34. ★第1回「折戸周治賞」「戸塚洋二賞」選考結果発表”. 平成基礎科学財団. . 2015閲覧.
  35. 恩賜賞・日本学士院賞・日本学士院エジンバラ公賞授賞一覧 第102回”. 日本学士院. . 2015閲覧.
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  37. Julius Wess Award 2013” (英語). KIT Center Elementary Particle and Astroparticle Physics (KCETA). . 2016閲覧.
  38. Takaaki Kajita and the Super K Collaboration”. 基礎物理学賞財団. . 2015閲覧.
  39. 第66回~第69回受賞者:中日文化賞:表彰事業:中日新聞社から”. 中日新聞 (2016年5月3日). . 2016閲覧.
  40. [2]
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外部リンク

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