中将

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中将(ちゅうじょう)は、もともとは律令制における官職の一つ。転じて軍隊の階級の一。将官に区分され、大将の下、少将の上に位置する。英呼称は、陸軍が lieutenant general(リューテネント・ジェネラル)、海軍が vice admiral(ヴァイス・アドミラル)。また、陸海空軍でそれぞれ呼称の異なる中将を総称しThree-star rankと呼ぶこともある。

将官の階級を部隊階梯で表現する国々では「軍団将軍」あるいは「師団将軍」と呼称される。詳細はフランスの項を参照。なお、アメリカ軍や、フランス陸軍、空軍の少将、およびフランス海軍の中将は正規階級(regular rank)の最高位とされ、それより上の二階級は役職に応じた臨時階級(temporary rank)とされる。

また、准将を置かずに「上級大将・大将・中将・少将」の将官4階級制を採る軍隊においては「大将」が一般的な中将に相当するとされる(上級大将参照)。

律令制における中将

左右近衛府次官

階級章・旗章

米国等の西側諸国では准将を含めた将官4階級制度を採る国が多く、その場合、准将が星1つで、順に星が1つずつ増える階級章を採る国が多い。自衛隊もそれに倣い(同盟国軍隊など他国軍隊との協同上は階級章が類似の方が好ましい)、陸将補・空将補の階級章では桜星2つ、陸将・空将を桜星3つとしている。 更に、統合幕僚長や幕僚長たる陸将・空将を桜星4つとしている。

また、海上自衛隊でも、統合幕僚長又は海上幕僚長を除く海将の階級章は、袖章が太線1条中線2条、肩章が錨と三角形に配置した桜3個で、米海軍の中将に類似した階級章が用いられている。

陸軍中将階級章

海軍中将階級章

空軍中将階級章

海軍中将階級旗

日本

旧日本軍

ファイル:Sankaku195.jpg
陸軍中将の辞令書(御璽が押印されている)

1869年(明治2年)に軍務官兵部省となった際に陸軍中将と海軍中将が設けられ、翌年の明治3年9月18日太政官布達第604号により兵部省に設けられた陸海軍大将から陸海軍權曹長までの11等級の2番目に位置した。これらは四等官に倣って職階と分掌事務がセットとなった職員の等級であったが、明治6年5月8日太政官布達第154号による官等表改正でも軍人の階級呼称として引き続き用いられ、西欧近代軍の階級呼称の序列におけるlieutenant general、vice admiralの訳語に中将の語が充られた。陸軍では中将は主に師団長軍司令官などに、海軍では艦隊司令長官などに補職された。また、文官としての親任官たる陸軍大臣および海軍大臣の職にある者は、相手が大将であっても行政命令を発することが出来た[2]

大日本帝国陸海軍の中将は高等官一等相当とされ、勲三等乃至一等に叙せられ、武功著しい場合は功三級乃至一級の功級に叙せられ金鵄勲章を授与された[3]

警察予備隊(保安隊)、海上警備隊(警備隊)

陸上自衛隊の前身である警察予備隊では警察監が、後の保安隊では保安監が、そして海上自衛隊の前身である海上警備隊では海上警備監が、後の警備隊では警備監が自衛隊の発足時に将に呼称を変更されていることから、中将相当されているが、実際には、長官の定める職に就く(甲)とそれ以外の職に就く(乙)に分かれ、(甲)は警察予備隊(保安隊)では3つ星、海上警備隊(警備隊)では中将相当の袖章を階級章にしていたのに対し、(乙)は警察予備隊(保安隊)は2つ星、海上警備隊(警備隊)が太、細、中の配列の金線の袖章[4]を階級章にしていた事から、(甲)は将の、(乙)は将と将補の中間の上級少将的な立ち位置にあった。自衛隊発足時にこの区分は無くなり、階級章も1962年12月まで3つ星に統一された。

自衛隊

自衛隊では統合幕僚長(2006年以前は統合幕僚会議議長)、陸上幕僚長海上幕僚長及び航空幕僚長(以下「幕僚長たる将」という。)の職にあるを大将の扱いとし、それ以外の将は中将の扱いとなっている。規定により60歳で退官する。瑞宝中綬章が授与される傾向にある。幕僚長たる将及び将の一部の補職は防衛大臣が内閣総理大臣に上申し、閣議での承認を経て発令される[5]

自衛隊は、軍隊ではないという建前があるため、階級章のみ定められ、統合幕僚会議議長は統合幕僚会議議長章[6]を、他の三幕僚長は幕僚長章を左胸に着けるのみで、もともと全て3つ桜の階級章[7]であり、日本軍の大将と同じである一方で海外では3つ星は中将相当の階級章だった。1962年(昭和37年)8月17日発行の防衛庁訓令第51条「自衛官の階級章の略章に関する訓令」により、統合幕僚会議議長たる陸将、海将、または空将、陸上幕僚長たる陸将海上幕僚長たる海将、および航空幕僚長たる空将の4名の階級章が4つ桜に変更、他の将と区別され、同時に幕僚長章は廃止された[8]。ただしこれらは諸外国軍の大将相当者との釣り合いを取るための措置を意図した待遇であり正式な階級ではない。自衛隊の最高階級である陸将・海将・空将には大将・中将に相当する階級の定めはない。

自衛隊における階級(法令上)として最上級であるが、細かく分類すると俸給表・役職により同じ将の階級でもランクが存在する。3つ桜階級の位置づけでの最高ランクは陸上総隊司令官で、次いで方面総監となる。なお、方面総監も内規により序列が規定されている(5名の方面総監の序列は東部、中部、西部、北部、東北の順[9])。

他に3幕共通のポストとして、統合幕僚副長、統合幕僚監部運用部長、統合幕僚学校長、情報本部長、等がある。

また、実際には上記の他、補職によりアメリカ軍の大将、中将および少将の取り扱いを受けるいわゆる対外的な階級区分が内在しており、4スターランクである幕僚長が大将相当、方面総監等やそれに同位あるいは準じた要職にある将は中将相当、師団長や防大幹事等とそれと同位あるいは準じる職にある将は国内では中将の取り扱いを受けるが、これはあくまでも国内限定であり、対外的には少将扱いを受ける。

アメリカ合衆国

総説・呼称について

アメリカでは現在、国防総省の管轄下にある陸軍海軍空軍海兵隊の主要四軍、および国土安全保障省管轄下の準軍事組織である沿岸警備隊[10]では中将の階級が恒常的に存在・運用されている。また、成立・活動内容の都合上、構成員を武官(ただし士官のみ)としている公衆衛生局士官部隊[11]海洋大気庁士官部隊[12]にも同様に中将の階級が存在する。ただし、前述の「五軍」においては中将の階級は恒常的に存在・運用されており、複数人の将官が中将に任じられているのに対し、公衆衛生局士官部隊で中将の階級をもって充てることとされているのは長(司令官)である公衆衛生局長官1人だけである。また、海洋大気局士官部隊に至っては、最高位である長官(司令官)は少将(Rear Admiral upper half)の階級をもって充てられており、過去には中将に昇る者があったものの、現在では事実上廃止(In-active)された階級となっている。

同じ英語圏であるイギリスと比較すると、陸軍中将・海兵隊中将は“Lieutenant General”、海軍中将は“Vice Admiral”と呼ばれるなど共通点がある一方で、空軍中将に関してイギリス空軍では“Air Marshal”と呼称されるのに対し、アメリカ空軍では陸軍・海兵隊と同じ“Lieutenant General”と呼ばれるなど相違点もある。中将の階級が存在する七武官組織における中将位の呼称は以下の通りとなっている。

ちなみに、1866年まで中将位は無く、少将から大将(当時の呼称はGeneral in chief)に昇任していた。アメリカ独立戦争で植民地軍を率いた総司令官であり、アメリカ合衆国建国後はその初代大統領となったジョージ・ワシントンの最高階級は大将である。

これは、当時のアメリカには、平時には少将を最高位とする規定が存在したため、ワシントンに対しては前述の通り、当時、中将位が無く、それを超える「破格の待遇」として大将の階級をもって遇したものである。しかし時代が進むにつれて、中将大将の階級が常設され、さらには元帥がされるようになると、ワシントンを階級的には追い越してしまう軍人が続出する事態が生じた。これを憂慮したアメリカ政府と軍は、1976年にワシントンに元帥(5つ星を超える6つ星相当)を追贈して、彼が永久的にアメリカ合衆国の歴史上最高位の将官であるとする規定を定めたのである。

現在のアメリカ軍における中将位と任務

現在のアメリカ軍では、中将クラスの将官をもって充てることとされているポストは、以下のようなものが挙げられる。他国の軍隊に比して規模が大きいアメリカ軍では、同じレベル・単位の部隊であっても、指揮官にはより上位の階級の将官をもって充てているケースが見られる。

統合軍に代表される統合任務分野では、統合参謀本部事務局長(Director of the Joint Staff)や国防長官付上級軍事補佐官(Senior Military Assistant to the Secretary of Defense)、統合参謀本部議長付補佐官(Assistant to the Chairman of the Joint Chiefs o Staff)などに代表される上級レベルの参謀・補佐官職、実働部隊における統合軍の副司令官(deputy commander)のように、大将級ポストを補佐するナンバー2の役割を担う役職に中将が充てられていることが多い。また、国防情報局(DIA)長官やミサイル防衛局(MDA)長官のように、軍と密接な関係にある国防総省部局の長官職も中将をもって充てられているケースがある。

各軍については以下のようになっている。

  • 陸軍では、陸軍参謀本部の事務局長(Director of the Army Staff)や各陸軍参謀次長(Deputy Chief of Staff)には中将が充てられている。これは後述する海軍作戦本部や空軍参謀本部、海兵隊総司令部でも同様である。また、各統合軍隷下の陸軍部隊(クラス、例えば中央軍隷下の第3軍など)や軍団(例えば第1軍団など)クラスの部隊司令官には中将が充てられている。また、陸軍州兵局長(Director of the Army National Guard)や陸軍予備役司令官といった非現役部隊の司令官、あるいは陸軍法務部長(Judge Advocate General of the United States Army)、陸軍医務総監(Surgeon General of the United States Army)など主要な後方支援部隊の司令官も、役割の重要性増加などにより中将をもって充てられている。

イギリス

英語では、陸軍中将は"lieutenant general"である。"lieutenant"は代理者を意味するから、陸軍大将(general)の1つ下の階級として、("lieutenant"という名詞の形容詞的用法として)このようなネーミングになっているかのようにも思えるが、沿革的には、ここでいう"general"は名詞(「大将」「将軍」の意味)ではなく後置修飾としての形容詞(「総~」の意味)であった。

ドイツ

中国人民解放軍

中国語版中国人民解放軍中将のページも参照の事。

中国人民解放軍における中将は、1955年から1965年にかけての階級制度下においては177人の高級将校が授与された。1988年に階級制度が復活して以降は、2012年までに689人が授与されている。(最終階級上将の将校も含む。)現役では2013年7月31日時点で(陸軍)中将が86人、海軍中将が15人、空軍中将が22人、武警中将が10人で全軍合わせて133人いる。

  • 四総部では総参謀部副総参謀長及び助理、総政治部副主任及び主任助理、総後勤部副部長及び副政治委員、総装備部政治委員及び副部長等が充てられる。
  • 七大軍区では軍区司令員、軍区政治委員、軍区副司令員、軍区副政治委員、軍区参謀長等が充てられるが、軍区司令員または軍区政治委員経験者は上将に昇進する例が多く、最低いずれか2年間以上務める事が上将昇進の条件となっている。軍団に相当する集団軍も、司令員は中将をもって充てる事も可能であるが、実際はほとんど少将の指定職となっている。
  • 海軍、空軍、武装警察部隊では副司令員、副政治委員、参謀長等が共通の指定職であり、それに加えて海軍では艦隊司令員、艦隊政治委員、空軍では軍区空軍司令員、軍区空軍政治委員、武装警察部隊では政治部主任が個別の指定職となっているが、艦隊司令員や軍区空軍司令員等は軍管区副司令員との兼務職である。

なお、副のつく役職は1人だけでなく、複数の将校が充てられている役職である事が多い。

フランス

現行の階級呼称は第二次世界大戦後のものである。それ以前は1788年に当時の准将が廃止されて以来、陸軍および空軍でも海軍同様准将位は無く、上級中将相当であった[13]

フランス海軍では、アメリカ海軍と同様に現在でも准将位が無く、上級中将が陸軍および空軍の中将に、中将が陸軍および空軍の少将に対応するものとされている。今日の陸軍中将および海軍上級中将の階級は1921年3月17日に制定されたもので、当時は陸軍中将を「Général de division commandant un corps d'armée」海軍上級中将を「Vice-amiral commandant d'escadre」と呼称していた。現呼称は1939年6月6日に改称されたものである。

フランスのみならずイタリアやスペイン等部隊階梯によって将官の階級を表現する国々において、他国の陸軍や空軍将官を同様の表現をする場合、法令で中将が軍団長級の将官と定められている国のみ「軍団将軍」、日本や台湾、下記のブラジルをはじめとするラテンアメリカの幾つかの国々のように師団長級の将官と定められている国の場合は「師団将軍」と使い分けされる。海軍中将や海上自衛隊の幕僚長を除く海将は「副提督」と呼称する。

イタリア

陸軍や空軍はフランス陸軍および空軍の表現方法に準ずる。海軍は中将にViceammiraglioを用いず、艦隊の提督、上級少将も戦隊の提督と独特の表現をする。

ブラジル

ブラジル陸軍では軍団将軍は無く、師団将軍が中将に、旅団将軍が少将にそれぞれ相当する。チリ、ペルー、エクアドル等でも同様の例がみられる。また、空軍では将官に本来旅団長を意味するBrigadeiroを使用する独特のシステムを採っている。

イスラエル

イスラエル国防軍における中将相当の階級、陸海空軍共通で「ラヴ・アルーフ」(רב-אלוף,Rav Aluf)は、イスラエル国防軍における最高位の階級で(大将以上の階級はない)、陸海空全軍を通してただ一人参謀総長のみに中将の階級が与えられる。陸軍空軍の階級章はあるが、海軍出身の参謀総長がいないため、海軍の階級章はいまのところ存在しない。

ポルトガル

陸軍および空軍の現行の呼称は1999年以降のものである。それ以前は大将とは階級章が3つ星か4つ星かの違いだけで、一括りにGeneralと呼称されていた。

脚注

  1. ナポレオン戦争時のイギリス陸軍でも、ワーテルローの戦いで第5歩兵師団長であったトーマス・ピクトン将軍のように、中将の師団長も多かった。
  2. 奥宮正武著『大艦巨砲主義の盛衰』<新戦史シリーズ47>、朝日ソノラマ、1992年、 318頁。
  3. 岩倉規夫、藤樫準二 『日本の勲章-日本の表彰制度-』 第一法規出版、1965年1月。
  4. 世界の艦船増刊第59集『海上自衛隊の50年』、22頁。
  5. 防衛大臣記者会見概要2017-12-12
  6. 後の統合幕僚長章。
  7. ただし、海将の袖章は今日までと同じ1本の金太線と2本の金中線であり、肩章も1960年3月まで袖章と同じデザインだった。
  8. 防衛庁訓令第51条「自衛官の階級章の略章に関する訓令」
  9. 冷戦構造崩壊前の序列は東部・北部・中部・西部・東北。東部・中部はそれぞれ隷下に政経中枢型師団を1つ持つことから、以前は北部方面隊が対ソビエト連邦戦略の最重点区に指定されていたことから東部方面隊に次ぐ第2位であったが、東西冷戦構造の崩壊及び南西諸島海域への中国海軍の進出及び北朝鮮によるミサイル発射実験等による影響で防衛計画の大綱が改正され、最重点区域が南西諸島海域に変更されたことから現在は第4位となっている
  10. 陸・海・空・海兵の主要四軍とともに、アメリカ軍を構成する「五軍」として扱い称される。
  11. 保健社会福祉省公衆衛生局の管轄下にある。
  12. 商務省海洋大気庁の管轄下にある。
  13. 『知っておきたい現代軍事用語【解説と使い方】』78頁、「著」・高井三郎、「発行」・アリアドネ企画、「発売」・三修社、2006年9月10日。
  14. 14.0 14.1 表現的にはオランダ海軍のLuitenant-Admiraalに近いものである。
  15. 統合幕僚長と海上幕僚長を除く海将や、外国海軍の中将はViceammiraglioと表現する。

関連項目