産前産後休業

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産前産後休業(さんぜんさんごきゅうぎょう)は、女性労働者が母体保護のため出産の前後においてとる休業の期間である。産休(さんきゅう)とも称される。

法的規制

休業期間
産前においては、使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない(第65条1項)。起算日は原則として自然分娩の予定日であるが、医師の診断の元、予定帝王切開になった場合は、帝王切開オペ日が予定日となり、その日が起算日となる。(産前休暇に入る前に女性が請求した場合のみによる)実際の出産日が予定日後である場合、休業期間はその遅れた日数分延長される。なお、出産当日は「産前」に含まれる(昭和25年3月31日基収4057号)。女性が請求しなければ、出産日まで就業させて差し支えない。
産後においては、使用者は、産後8週間を経過しない女性を、就業させることができない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない(第65条2項)。起算日は、1項とは異なり、現実の出産日である。
この場合の「出産」には、妊娠第4月以降の流産早産及び人工妊娠中絶[1]、並びに、死産の場合も含む(昭和23年12月23日基発1885号、昭和26年4月2日婦発113号)。
使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない(第65条3項)。この「軽易な業務」については、他に軽易な業務がない場合において新たに軽易な業務を創設してまで与える義務はない(昭和61年3月20日基発151号)。また軽易な業務がないためにやむを得ず休業する場合においては、休業手当を支払う必要はない。
産前産後休業期間中に、その女性労働者が属する労働組合による争議行為ストライキ等)が行われたとしても、その期間は当該女性労働者の産前産後休業として取り扱われる(昭和27年7月25日基収383号)。
女性労働者が妊娠しているか否かについて事業主は早期に把握し、適切な対応を図ることが必要であり、そのため、事業場において女性労働者からの申出、診断書の提出等所要の手続を定め、適切に運用されることが望ましい(平成18年10月11日基発1011001号)。
これらの規定は女性が管理監督者等の、いわゆる第41条該当者であっても同様に適用される。
なお、船員には労働基準法の妊産婦等の規定は適用されないが(第116条)、妊娠中の女子を船内で使用することは原則禁止される(船員法第87条)。産後8週及び軽易な作業については船員についても労働基準法と同様である。
解雇の制限
使用者は、産前産後休業期間中、及びその後30日間は、当該労働者を解雇してはならない(第19条)。懲戒解雇の場合であっても同様である。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合には、行政官庁(所轄労働基準監督署長)の認定を受けた上で解雇制限が解除される。船員にも同様の規定がある(船員法第44条の2)[2]。なお、産前6週間の女性が休業を請求せずに就労している場合は解雇制限の対象とはならないが、労働基準監督署ではその期間は当該女性労働者を解雇しないよう行政指導を行っている(昭和25年6月16日基収1526号)。
事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、産前産後休業を請求し、又は産前産後休業をしたこと等を理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならず(男女雇用機会均等法第9条3項)、妊娠中及び産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇その他不利益な取扱いは、無効となる(最判平26.10.23)。ただし、事業主が当該解雇がこれらを理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない(男女雇用機会均等法第9条4項)。男女雇用機会均等法に罰則の定めはないが、厚生労働大臣は、違反した事業主に対して勧告することができ、事業主が勧告に従わなかったときは、その旨を公表することができる(男女雇用機会均等法第29条、第30条)。また事業主が職場における産前産後休業等に関する言動により労働者の就業環境が害されている事実を把握していながら、男女雇用機会均等法上の各種の雇用管理上の必要な措置を講じなかったことにより当該労働者が離職した場合、当該離職者は雇用保険の基本手当の受給に当たり、「特定受給資格者」として扱われ、一般の受給資格者よりも所定給付日数が多くなる。また特定受給資格者を発生させた事業主は、雇用保険法上の各種の助成金を当分の間受けられなくなる。

賃金支払等

産前産後休業期間中の賃金の支払については、労働基準法上は産前産後期間中の賃金保障を義務付けておらず、各企業の就業規則等による。そのために賃金の支払を受けられない者に対して、健康保険等の被保険者であって所定の要件を満たす者は、出産手当金として休業1日につき標準報酬日額の3分の2相当額が支給される。

法改正により、平成26年4月30日以降に産前産後休業が終了となる被保険者については、 産前産後休業期間中の健康保険・厚生年金保険の保険料が、事業主の申出により、被保険者分及び事業主分とも免除される。この申出書は、産前産後休業期間中に事業主が日本年金機構に提出する。被保険者が産前産後休業期間を変更したとき、または産前産後休業終了予定日の前日までに産前産後休業を終了したときは、速やかに「産前産後休業取得者変更(終了)届」を日本年金機構へ提出する。

産前産後休業の終了日が平成26年4月1日以降の被保険者を対象に、産前産後休業終了日に当該産前産後休業に係る子を養育している被保険者は、一定の条件を満たす場合、産前産後休業終了日の翌日が属する月以後3ヶ月間に受けた報酬の平均額に基づき、4か月目の標準報酬月額から改定することができる。つまり、休業による賃金の低下に即応して標準報酬月額を減額改定し、健康保険・厚生年金保険の保険料を安くできる。被保険者が事業主を経由して、「産前産後休業終了時報酬月額変更届」を日本年金機構へ速やかに提出する。ただし、産前産後休業終了日の翌日に育児休業を開始している場合は、この申出はできず、育児休業終了時に同様の申出を行う。またこれらの規定により標準報酬月額が減額改定されても、子が3歳になるまでは年金額の計算については、減額改定される前の標準報酬月額で計算され、保険料の負担が抑えられたまま従来の年金額が保障される。

罰則

第19条、第65条の規定に違反した者は、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する(第119条)。

産前産後休業取得の状況

労働基準法上は産前産後休業は労働者の権利として認められていて、事業主は産前産後休業の請求に応じなければならないが、日本の企業社会には、「男と女は異なる社会的役割がある。男は社会で働き家族を養う収入を得る。女は専業主婦として家事や育児をする。」という考えや、「産前産後休業を取得されたら、同じ職場で働く人にとっても、経営者にとっても迷惑でしかない。」という考えを持ち、法違反を承知で結婚・妊娠した女性を、様々な方法で退職に追い込む事業主も存在する(マタニティハラスメント)。結婚・妊娠した女性の側も、そのような職場を見限って、自分や家族の利益を守るためにやむなく退職・転職する事例も見られる。その結果、日本では、結婚・出産以前や、子供の成長により育児負担が少なくなる以後と比較して、結婚・出産から子供が小学校低学年の育児期の女性の就業率が低くなっている。このことは、女性の労働力率を示す指標において、いわゆる「M字カーブ」と呼ばれる現象に如実に現れている[3]

脚注

  1. 妊娠中絶の場合は産前6週の問題は生じない(昭和26年4月2日婦発113号)。
  2. 船員の解雇制限の解除についての認定は、国土交通大臣が行う。
  3. 女性の労働力率(M字カーブ)の形状の背景 内閣府男女共同参画局

関連項目

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