精神科医

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精神科医
基本情報
職種 専門職
業種 医療
詳細情報
適性能力 分析力、忍耐力、寛容力
必須試験 医師国家試験
就業分野 精神科
関連職業 麻酔科医神経科医内科医臨床心理士作業療法士言語聴覚士音楽療法士精神保健福祉士医療ソーシャルワーカーカウンセラー看護師薬剤師
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精神科医(せいしんかい、: Psychiatrist)とは、精神医学を専門とする医師であり、精神障害依存症の治療を専門的に診察する医師免許を持つ[1]

精神科医の業務には、精神疾患の診療精神疾患の予防精神衛生の普及がある。これらの中でも中心的業務となる診療業務は、外来のみの診療を行う精神科クリニック入院施設を有する精神科病院総合病院内の一診療科としての精神科など、各医療機関において主に行われる[2]


分野

ファイル:Oecd-mentalhealthconsult.svg
OECD各国のメンタルヘルス問題時の受診先調査[3]
青は総合診療医、赤は精神科医、緑は臨床心理士

精神疾患の治療は、OECD諸国においては主にプライマリケアを担当する総合診療医が担っている[3]。日本ではプライマリケアは整備途上であるため、プライマリケア医との連携が今後の課題である[4]厚生労働省は「G-Pネット」としてプライマリケア医と精神科医の連携を進める政策を取っている[5][6]

専門とする精神医学には、児童精神医学老年精神医学など人間の発達年齢別の分野のほか、犯罪精神医学司法精神医学など特定の集団を扱う分野がある[7][8]。また、精神科医や臨床心理士が他科の患者心理的ケアを行うなど、チーム医療活動に力点を置いた分野にリエゾン精神医学がある[9][10][11]


各国の状況

ファイル:Oecd-mentalhealth-workers.svg
OECD各国の人口10万あたり精神保健従事者数。
青は総合診療医、赤は精神科医、緑は臨床心理士、橙は精神保健師

一般的に精神科医になるための要件は、諸外国では充実しているが、国によって異なる[7][12]

米国、カナダ

アメリカ合衆国カナダにおいては、学士号(M.D.、D.O.)を保持した後、精神科レジデントとして4年間の研修を経なければならない(カナダでは5年間)。すべての精神科レジデントは認知行動療法サイコドラマ支持的精神療法の技能を有することが要求される。

イギリス

イギリスにおける精神科医は、医学士号を保持する必要がある[13]。なおイギリスの総合診療医(GP)では、精神科研修が必須である[14]

ドイツ

ドイツにおいては、心理関係職は以下が挙げられる。

  • 精神科医(Psychiatrists)とは、精神医学および心理療法の専門家である。1994年より心理療法研修が義務化されている。
  • 心理療法家(Psychotherapists)とは、心理療法法Deutsch版とガイドラインに基づいて、自身の判断で患者に医薬品を処方し、また心理療法実施できる医師もしくは心理士である。その業務にはメンタルヘルス問題の診断と治療が含まれる。
  • 心理士(Psychologists)とは、心理学の学士号もしくは修士号を持つ者であり、法的規制された独占名称である。

日本

日本においては、6年制医学部を卒業し「学士(医学)」または「医学士」の学位を有する。

学会認定専門医

学会認定専門医として精神科専門医があり、日本精神神経学会が認定する。

精神保健指定医

精神科医療の臨床現場では、特に病識(自分が病気であるという認識)がない精神疾患患者の場合、患者本人および患者の周囲の人間の生命身体などに、甚大な損失を招く可能性(自傷他害の恐れ)が認められることがある。そのような場合などは、たとえ当該患者本人の意にそぐわずとも、患者の「医療を受ける権利」を擁護するため、患者に適切な医療や処遇を強制する必要性が生じる。このように、人権と医療との間の微妙なバランスへの配慮を迫られる臨床現場において、その全責任を負う存在として、精神保健指定医がある[15]

精神保健指定医は、専門医などのように学会が認定する民間資格ではなく、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律精神保健福祉法)第18条に基づき厚生労働大臣が指定する法的資格である。従って、上記の様に一歩間違えれば人権侵害の恐れもあるが「病識の欠如」「自傷他害の恐れ」「医療を受ける権利を擁護する必要性」が認められる場合などでは、精神保健指定医の診察・判定をもって精神疾患患者に入院などを強制できることが法的に担保されており、同時にその裏返しとして、強制的な処遇には精神保健指定医の診察・判定が法的に義務づけられている。例えば、措置入院緊急措置入院医療保護入院応急入院退院制限などを行うには、精神保健指定医の診察・判定を要する。また、保護室への隔離身体拘束などの行動制限を行う時にも、一般の精神科医よりも精神保健指定医の法的な権限は大きい[16]

日本での現状と問題点

医師の水準に関わる問題

長崎大学名誉教授の中根允文は「適切な治療を受けているうつ病患者は全体の4分の1に過ぎない」とし、誤診による治療や投薬を続け、治療期間が長引き完治が望めなくなる患者が増えていると指摘する。うつ病などの適切な治療法を知らない医師が多く、精神科医の養成のための研修は急務だとしている[17]。うつ病や不安障害などの患者が訪れるのは、外来専門の診療所がほとんどであり、大学や派遣される精神科病院の関連病院では、これら疾病の新規の患者を診る機会が少なく、外来治療で必要な、トレーニングを十分積まずに一人前になる医師が多いなどが原因として挙げられている[18]

体系化された研修システムが、医学部を含め不十分である、診断法や治療法が標準化されておらず、個人や指導医の直感に頼らなければいけない、臨床医学で必要な、鑑別診断精神科においては、実質的にほとんど行われていない、他科に比べ、客観的検査所見での診断がつきにくいことや、死亡などの医療事故自殺以外)及び訴訟が少ないことで、誤診に対する意識が低いなども、精神科医の水準低下に関与している[18]

誤診の結果、医療機関を何度も変えた経験がある神奈川県の男性患者は「迷惑するのは何よりも患者です。精神疾患の確実で客観的な診断法の早期確立を強く求めます」と訴え、茨城県の女性患者は、診断基準にない病名もどきを押しつけられ、親子関係まで悪化した経験をし「安易で画一的な診断はこりごり」と吐露している[19]

患者の思いをくみ取らず、診察を一方的に進める精神科医も一定数存在し、こうした医師達が、精神医療の質を著しく低下させている。精神科医の中には、セカンド・オピニオンの希望を伝えただけで「信じられないのか!」「もう来るな!」などと怒り出し、患者に対して逆上する「ドクターハラスメント精神科医」が少なくない。また「逆上する精神科医」以上に、他科の医療機関ごとの治療成績の情報公開が進む日本の情勢でも、精神科の治療成績がほとんど情報公開されていないことを、読売新聞の佐藤光展記者は問題視している[19]

アメリカ合衆国では、医学部卒業後、義務付けられたプログラムを3 - 4年かけ修了し、学科試験に合格しなければ、精神科医として認められない。日本では、ほとんど教えられることのない、認知療法を含むエビデンス(根拠)に基づく、複数の個人精神療法を実践し、学習する事も求められる。イギリスでは、6年間のプログラムの前半3年間で、精神療法を学ぶなど、精神療法の習得は大半の国で必須義務化されている。さらに指導者も、日本の様に、医局独自のやり方を教えるというのは少数派で、18ヶ国で指導者資格を定めている[20]

また、エビデンスのない多剤大量処方、十分量を投与しない、効果が出ない薬剤を切り替えず、漫然と延々に使い続けるなど、適切な薬物療法ができない医師も増えている。医学部教授などが教育指導する場合でも、精神薬理や薬のメカニズムのみで、臨床的な使い分けを習わない医師が多いという[18]

防衛医科大学校精神科学講座教授の野村総一郎は、適切な薬物療法の指針として、

  1. 標準治療を知っている。
  2. 副作用とその対策を熟知。
  3. 向精神薬の種類を減らす(単剤化率)を上げる努力をする。
  4. 複数の薬を使う際,納得できる説明(インフォームド・コンセント)ができる。
  5. 薬の少量投与をしない。
  6. 薬の飲み心地をいつも聞く。

の6条件を挙げている[17]

また診療報酬の7割を占めるのは、通院精神療法と呼ばれる、いわば「問診」に対する診察報酬であるが、初診は500点(1点10円)、再診では30分以上の診察で400点、5分以上30分未満は330点であり、30分以上時間をかけても、レセプトはわずか700円しか違わない。この事から、病院経営を考えると、短時間で大量に診療を行い、大勢の患者を診察し、患者の回転率を上げることにつながりやすい反面、患者側からは診察に対する不満だけが募り、ドクターショッピングに陥る。獨協医科大学越谷病院こころの診療科教授の井原裕は「7割の診療報酬収入を精神療法から得ているのだから、精神科医は技術料に見合うだけの意味のある面接をするべきではないのか」と語る[21]

著名な精神科医

出典

  1. American Psychiatric Association. (Unknown last update). What is a Psychiatrist. Retrieved March 25, 2007, from http://www.healthyminds.org/whatisapsychiatrist.cfm
  2. 厚生労働省 (2008年). “平成20年患者調査の概況 - 結果の概要 受療率 (PDF)”. . 2010閲覧.
  3. 3.0 3.1 OECD 2014, p. 63.
  4. OECD 2014, Country press releases - Japan.
  5. G-Pネット”. 一般医・精神科医ネットワーク研究会事務局. . 2015閲覧.
  6. 平成19年版 自殺対策白書 (Report). 内閣府. Chapt.2.2. http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2007/html/part2/jirei13.html. 
  7. 7.0 7.1 The Royal College of Psychiatrists. (2005). Careers info for School leavers. Retrieved March 25, 2007, from http://www.rcpsych.ac.uk/training/careersinpsychiatry/careerbooklet.aspx
  8. American Board of Psychiatry and Neurology, Inc. (5 March 2007). ABPN Certification - Subspecialties. Retrieved March 25, 2007, from http://www.abpn.com/cert_subspecialties.htm
  9. EACLPP Training Guidelines”. EACLPP.org. . 2008閲覧.
  10. 藤田保健衛生大学医学部精神科 (2006年). “特殊診療 リエゾン精神医学部門”. . 2010閲覧.
  11. 福山市民病院 (2009年). “精神科・精神腫瘍科”. . 2010閲覧.
  12. Psychiatry.com (Unknown last update). Student Information. Retrieved March 25, 2007, from http://www.psychiatry.com/student.php
  13. Careers info for School leavers
  14. Training to become a doctor”. 国民保健サービス. . 2015閲覧.
  15. 三重大学大学院 医学系研究科 神経感覚医学講座 精神神経科学分野 (2010年). “精神保健指定医 (PDF)”. . 2010閲覧.
  16. e-Gov (2010年). “精神保健及び精神障害者福祉に関する法律”. . 2010閲覧.
  17. 17.0 17.1 「うつ病:適切な治療を受けているのは1/4 学会、研修の実施検討」『毎日新聞』2006年9月27日
  18. 18.0 18.1 18.2 斉尾武郎 『精神科医 隠された真実〜なぜ心の病を治せないのか』〈東洋経済新報社〉2011年
  19. 19.0 19.1 佐藤光展 (2015年2月17日). “患者の4割が誤診・誤診疑い経験”. 読売新聞 (読売新聞社). http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=112065 . 2015閲覧. 
  20. 西城有朋 『精神科医はなぜ心を病むのか』〈PHP研究所〉2008年
  21. “WEDGE REPORT 名医求めてさまよう うつ病患者「うつ100万人」は減らない”. WEDGE. (2012年3月19日). http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1759 . 2012閲覧. 

参考文献

関連項目

外部リンク