聖岳

提供: miniwiki
移動先:案内検索


聖岳(ひじりだけ)は、赤石山脈(南アルプス)南部の静岡市葵区長野県飯田市の境界に位置する標高3,013 mである。日本百名山に選定されている[1]

概要

南アルプス国立公園内にあり[2]、主峰は標高3,013 mの聖岳(前聖岳と表記される場合がある)で、その東側約500 m の地点に奥聖岳、南側約800mの地点に小聖岳を従えている。南アルプス中で最南端の3,000 m峰である。なお、富士山が日本で最南端の3,000m峰である。山頂周辺とその南側の標高2,300m ほどに位置する聖平に、大規模な高山植物の群生地がある[3]。山名は、南東を流れる聖沢が(ひじ)を曲げたような形で、その「ひじ折る」や「へずり」が転化したのとされている[4]。別名が「日知ヶ岳」(ひじりがたけ)[5]。南面にはカール地形がある。南西斜面には大規模な崩落地があり、赤色チャート(ラジオラリア盤岩)の露出地がある[6]

環境

梅雨時期に降水量が多い[7]。山頂部は5月下旬まで積雪することがある。6月初旬頃まで山頂部の登山道に残雪がある。11月に入ると、山頂部は本格的な冬山となる。 東側の斜面は特種東海製紙の井川社有林で、針葉樹林の植林地となっている[8]。山頂周辺は森林限界ハイマツ帯の花崗岩の岩山で、高山植物が自生し、ライチョウ(雷鳥)の生息地となっている。山腹は、針葉樹林に覆われていて、ニホンカモシカニホンジカなどが生息している。聖平周辺では地球温暖化などの影響によりニホンジカによる高山植物の食害が問題となっていて、毒性のあるバイケイソウ以外のライチョウが餌とする高山植物が食い尽されている山域がある。環境省はその対策調査のために、シカの防護柵を設置するなどの「グリーンワーカー事業」を行っている[9]。周辺の南アルプス南部で高山植物の保護対策を実施するため、2002年(平成14年度)に「南アルプス高山植物保護ボランティアネットワーク」が発足された[10]。周辺に民家はない。長野県側の西沢渡に営林署があったが、使用されなくなり荒廃している。山麓の飯田市の下栗の里付近からその山容を望むことができる。

歴史

  • 1905年明治38年)7月 - 陸地測量部の測量官が三角点選標したのが初登頂とされている[11]
  • 1912年(明治45年)7月 - 日本山岳会の中村清太郎らが南アルプス南部を縦走した際に登頂した記録が残されている[12]
  • 1919年大正8年) - 冠松次郎が聖岳南西にある遠山川西沢を初遡行した。
  • 1925年大正14年)- 長野県の上村の遠山尚岳会が神祠を上河内岳に安置するために、易老岳から赤石岳に縦走する際に登頂したことが記録されている[11]
  • 1928年昭和3年) - 慶応大学山岳部の国分貫一らが積雪期に登頂を行った[5]
  • 1944年(昭和19年) - 遠山川沿いの森林軌道が開通に伴い、この山への登頂する人が出てきた[11]
  • 1957年(昭和32年) - 静岡国民体育大会の登山競技が赤石山脈で開催されてから、一般の登山者が入山し始めた[5]
  • 1964年(昭和39年)6月1日 - この山域が南アルプス国立公園の特別保護地区に指定された[2]
  • 1991年平成3年) - 聖平の旧小屋の隣に新しい聖平小屋が新築された[13]

登山

ファイル:Mount Akaishi from Mount Hijiri 2002-11-06.jpg
聖岳頂上から望む赤石岳などの北側の展望

日本百名山に選定されていることもあり、奥深いこの山を訪れる登山者がある。複数の登山道がある。早朝に標高差2,000m以上の登山口を出発して日帰りで山頂を往復する例もあるが、山小屋キャンプ指定地を利用して何日かかけて登頂される。山頂西面は巨大なバットレス状の崩壊壁となっており、そのうちで岩盤が比較的安定しているE稜とF稜が岩稜登攀の対象となる。山頂から奥聖岳までの登山道がある。聖岳東尾根はバリエーションルートとして、冬期などに利用される場合がある[14][15]。山頂からは、周辺の南アルプス、西に中央アルプス、北西に北アルプス、東の白峰南嶺越しの富士山など360度の眺望がある。

登山道

  • 南アルプス縦走路
赤石岳 - 大沢岳 - 中盛丸山 - 小兎岳 - 兎岳 - 聖岳 - 小聖岳 - 聖平 - 南岳 - 上河内岳
南アルプスの主稜線の縦走路が山頂を通過している。
  • 便ヶ島からのルート(長野県側)
便ヶ島(聖光小屋) - 西沢渡 - 薊畑 - 聖平 - 小聖岳 - 聖岳 ( - 奥聖岳)
西側(長野県側)の便ヶ島(たよりがしま)からの登山道がある[16]。その一部が遠山森林鉄道の跡地を通っている[17]。便ヶ島から先の西沢渡(にしさわど)には渡渉点があり、滑車を利用した荷物運搬用の籠渡しが設置されている。
  • 聖沢からのルート(静岡県側)
東俣林道(聖沢登山口)- 聖沢吊橋 - 聖平(聖平小屋) - 小聖岳 - 聖岳 ( - 奥聖岳)
聖沢の登山道が、東側(静岡県側)の大井川赤石ダムと聖平を結んでいる[18]
ファイル:Mount Hijiri hut 2002-05-22.jpg
営業期間前の聖平小屋

周辺の山小屋

登山口や稜線上には、山小屋キャンプ指定地がある[6][19]。登山シーズン中の一部の期間に有人の営業を行っている。最寄りの山小屋は聖平小屋で、キャンプ指定地が併設されている[20]。南アルプス国立公園内であり、キャンプ指定地を除き、全山幕営禁止となっている。各山への登山基地となる椹島(さわらじま)には、東海フォレストが管理・運営を行っている椹島ロッヂがあり、2007年に南アルプス白旗史朗写真館が併設され[21]。東海フォレストの山小屋の宿泊者のみ、畑薙第一ダムからこの山小屋までのリムジンバスを利用することができる。

聖岳周辺の山小屋
名称 所在地 標高
〔m〕
聖岳から
の方角
聖岳からの
距離 〔km〕
収容
人数
キャンプ
指定地
備考
椹島ロッヂ 大井川右岸椹島 1,123 16 cardinal points E.png 6.2 150 テント50張 東海フォレスト[21]
百間洞山の家 赤石岳と大沢岳との鞍部南 2,430 16 cardinal points N.png 3.3 60 テント20張 静岡市営
兎岳避難小屋 兎岳山頂直下の東 2,740 30px西 1.7 8 2009年に改修、飯田市
聖平小屋 聖沢源流部・聖平 2,260 30px 1.7 120 テント50張 静岡県営[20]
茶臼小屋 茶臼岳北東下 2,400 30px 5.6 60 テント45張 静岡県営
聖光小屋 便ヶ島 970  30px南西 6.0 24 テント40張 長野県側の聖岳登山口[22]

水場

  • 聖岳小屋の脇にある沢の水が利用できる。涸れている場合は、さらに下流で入手できる場合が多い。
  • 小聖岳の下部の稜線鞍部の信州側(西側)に、細い岩清水がでていることがある。カップなどの水を汲むための道具が必要となる。
  • 西沢渡の渡渉点で、西沢の水が利用できる。
  • 椹島ロッジの給水施設が利用できる。

地理

ファイル:Fujimi Fuji view field in the Owari province.jpg
葛飾北斎富嶽三十六景尾州不二見原名古屋富士見ヶ原から望む聖岳。富士山に見立てられた。

赤石山脈(南アルプス)の南部の主稜線上にある。東側に聖岳東尾根が延びる[6]

周辺の山

聖岳周辺の山
山容 山名 標高[23]
(m)
三角点等級
基準点名[24]
聖岳から
の方角
聖岳からの
距離(km)
備考
80px 赤石岳 3,121  一等
「赤石岳」
(3120.53 m)
 16 cardinal points N.png 4.6 日本百名山
80px 兎岳 2,818 (三等)「兎岳」
(2799.80 m)
 30px西 1.8 兎岳避難小屋
80px 奥聖岳 2,982 (三等)「聖岳」
(2978.74 m)
 16 cardinal points E.png 0.6 聖岳東尾根
80px 聖岳 3,013 30px 0.0 前聖岳
日本百名山
80px 小聖岳 2,662  30px 0.8
80px 上河内岳 2,803  二等
「上河内岳」
(2803.36 m)
 30px 3.8 日本二百名山
80px 光岳 2,592  三等
「光岳」
(2591.52 m)
  30px南西 10.6 日本百名山
80px 笊ヶ岳 2,629  二等
「笊ケ岳」
(2,629.39 m)
 16 cardinal points E.png 10.9 白峰南嶺
日本二百名山
ファイル:Mount Hujiri from Mount Akaishi 1994-07-28.jpg
赤石岳登山道の東尾根(大倉尾根)から望む聖岳と兎岳。聖岳北面の赤石沢の支流の獅子骨沢のⅤ字谷には、夏でも雪渓が残る。

源流の河川

以下の源流となる河川太平洋へ流れる。山頂から東5.5 kmの聖沢には赤石ダムがあり、東3.3 kmには聖沢大がある[6]

交通・アクセス

長野県側(便ヶ島)

  • 公共交通機関利用の場合、聖岳登山口の便ヶ島近くには、公共交通機関がない。JR飯田線飯田駅平岡駅で下車して、タクシーを利用するか、そこから路線バスに乗り換えた後に、タクシーを利用することとなる。
  • マイカー利用の場合、三遠南信自動車道喬木インターチェンジが、最寄りのインターである。国道474号矢筈トンネルが利用できる。聖光小屋と光岳登山口の易老渡(いろうど)に、登山者専用の駐車場がある。

静岡県側(畑薙第一ダム)

  • 公共交通機関利用の場合、静岡駅から、畑薙第一ダム行きのバスが利用できる。
  • マイカー利用の場合、新東名高速道路新静岡インターチェンジが、最寄りのインターである。畑薙第一ダムの先にゲートがあり、その先の東俣林道には、一般車両は乗り入れることができない。指定された駐車場を利用することになる。また畑薙第一ダムまでの県道は、土砂崩れ等で通行止めとなる場合がある。

聖岳の風景と展望

x110px x110px x110px x110px
聖岳から望む
笊ヶ岳富士山
聖平から望む
冠雪後の聖岳
南岳方面から望む
聖岳
下栗の里方面から望む
兎岳と聖岳

テレビ番組

脚注

  1. 深田久弥 『日本百名山』 朝日新聞社、1982年7月、pp.314-317。ISBN 4-02-260871-4。
  2. 2.0 2.1 南アルプス国立公園の公園区域概要”. 環境省自然環境局. . 2010閲覧.
  3. 山下春樹 『赤石・聖・荒川三山を歩く』 山と溪谷社〈フルカラー特選ガイド〉、1998年7月、p.67。ISBN 4635171213。
  4. 『コンサイス日本山名辞典』 三省堂、1992年10月、p.436。ISBN 4-385-15403-1。
  5. 5.0 5.1 5.2 『新日本山岳誌』 日本山岳会ナカニシヤ出版、2005年11月、pp.1065-1067。ISBN 4779500001。
  6. 6.0 6.1 6.2 6.3 『塩見・赤石・聖岳』 昭文社〈山と高原地図 2011年版〉、2011年3月。ISBN 978-398757821。
  7. 梅ヶ島の気象観測データ(2009年の月ごとの降水量)”. 気象庁. . 2010閲覧.
  8. 井川社有林”. 特種東海製紙. . 2016閲覧.
  9. 南アルプス国立公園のグリーンワーカー事業”. 環境省自然環境局. . 2011閲覧.
  10. 南アルプス高山植物保護ボランティアネットワーク”. 静岡県環境局自然保護課 (2010年4月28日). . 2011閲覧.
  11. 11.0 11.1 11.2 『日本三百名山』 毎日新聞社、1997年3月、pp.254-257。ISBN 4620605247。
  12. 『目で見る日本登山史・日本登山史年表』 山と溪谷社、2005年10月、p.17。ISBN 4635178145。
  13. 『日本の山1000』 山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、1992年8月、p.463。ISBN 4635090256。
  14. 『山と溪谷 2010年11月号』 山と溪谷社、2010年9月、ASIN B0044TIMEO。
  15. 『新版・日本雪山登山ルート集』 山と溪谷社、2006年12月。ISBN 9784635180092。
  16. 『改訂版 長野県の山』 山と溪谷社〈新・分県登山ガイド〉、2010年1月、pp.150-152。ISBN 9784635023658。
  17. 現代に残る森林鉄道の面影”. 遠山郷観光協会. . 2011閲覧.
  18. 『改訂版 静岡県の山』 山と溪谷社〈新・分県登山ガイド〉、2009年12月、pp.55-57。ISBN 9784635023719。
  19. 『山と溪谷2011年1月号付録(山の便利手帳2011)』 山と溪谷社、2010年12月、pp.134-139、ASIN B004DPEH6G。
  20. 20.0 20.1 聖平小屋の紹介”. 聖平小屋. . 2016閲覧.
  21. 21.0 21.1 椹島ロッヂ”. 東海フォレスト. . 2016閲覧.
  22. 便ヶ島・聖光小屋”. 遠山郷観光協会. . 2011閲覧.
  23. 引用エラー: 無効な <ref> タグです。 「kokudo」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません
  24. 基準点成果等閲覧サービス”. 国土地理院. . 2014閲覧.
  25. NHKクロニクル 保存番組検索結果詳細 日本百名山 聖岳(1994年12月12日放送)”. NHK. . 2016閲覧.
  26. 小さな旅:今回の旅【山の歌(3) 深山 誘う 南アルプス 聖岳”. NHK. . 2016閲覧.

関連書籍

  • 白籏史朗・大森弘一郎 『北岳・甲斐駒・赤石―10コース』 山と溪谷社〈空撮登山ガイド 6 南アルプス編〉、1981年1月。ISBN 4635020061。
  • 『南ア・中ア・八ガ岳』 山と溪谷社〈諸国名山案内〉、1994年8月。ISBN 4635021459。
  • 『アルペンガイド10 南アルプス』 山と溪谷社〈ヤマケイ・アルペンガイド〉、2010年6月。ISBN 9784635013581。

関連項目