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(きり)とは、水蒸気を含んだ大気温度が何らかの理由で下がり露点温度に達した際に、含まれていた水蒸気が小さな水粒となって空中に浮かんだ状態。

雲との違い

水粒は雨粒に比べて非常に小さいが、通常、根本的な発生原因は大気中の水分が飽和状態に達したものなので、その意味で言えばと同じであると考えてよい。

雲との一番大きな違いは水滴の大きさなどではなく、両者の定義の違いである。すなわち、当現象は、大気中に浮かんでいて、地面に接しているものと定義され、地面に接していないものを雲と定義している。例えば、に雲がかかっているとき、地上にいる人からはそれは雲だが、実際雲がかかっている部分にいる人からは霧なのである。なお、山の地面に接する霧または雲のことをガスと呼ぶことがある。

外部から観察すれば、層雲であることが多く、標高の低い地域ではほとんどが層雲であるが、山や高地では層積雲乱層雲高層雲などである場合もある。

分類

濃度や状態による分類

大気中に浮遊する水滴が散乱するために、霧が発生している状態では大気は白く霞んで見え、視程(見通すことのできる水平距離)が狭くなる。気象観測においては視程が1km未満のものをいう。一般的に単位体積当たりの水分量が多いほど視程は小さくなるが、同じ水分量でも小さい水粒が多く存在する時の方が視程が小さい。

靄(もや)
本質的には霧と同じ現象だが、一般に霧よりも視程の広いものをと呼ぶ傾向にある。気象上は視程が1km以上10km未満のものを靄と呼んで区別する。
低い霧・地霧
視程が1km未満の、太陽を透かして見ることができるものを低霧または低い霧という。また、山などでは山のふもとの地面まで達するようなものを低い霧、山の中腹や山頂付近にだけ見られるものを高い霧と区別することがある。
視程が1km以上で、人間の視線の高さより低い地面付近にのみあるものを地霧という。こちらは気象観測上、霧には含めない。航空気象観測では MIFG と通報される。

発生要因による分類

その発生要因によって、主に以下のように分類される。

放射霧 
晴れたの日などには、地表面から放射され地面が冷える。そうして冷えた地面が、地面に接している水蒸気を多く含んだ空気を冷やすことで発生するもの。盆地や谷沿いで発生しやすく、それぞれ盆地霧、谷霧という。
移流霧 
暖かく湿った空気が水温の低い海上陸地に移動し、下から冷やされたことにより発生する。移流とは大気が水平方向に移動することを指す気象用語である。暖流上の空気が移動して、夏の三陸沖から北海道の東海岸などに発生させる海霧などがその代表的なもので、消滅までに非常に長時間かかり、厚さが600m程度に達することもある。
蒸気霧 
暖かく湿った空気が冷たい空気と混ざって発生する。冬に息が白くなるのと原理は同じ。暖かい水面上に冷たい空気が入り、水面から蒸発がおき、その水蒸気が冷たい空気に冷やされて発生するもので、実際は冷たい空気が暖かいの上に移動した際にみられる。風呂の湯気も原理は同じで、北海道などの川霧が代表的なもの。
前線霧 
温暖前線付近でが降り湿度が上がったところに温度の比較的高い雨が落ちてくると、雨粒から蒸発した水蒸気で飽和状態となり、余分な水蒸気が水粒となって発生する。
上昇霧 
山のに沿って湿った空気が上昇し、露点に達したところで発生する。遠くから見ると山に雲が張り付いて見え、その内部からの観察では濃い霧となっている。動かないように見えても実際は空気が下から次々と上昇している。滑昇風により発生することも多く、滑昇霧ともいう。

その他の分類

着氷性の霧 
着氷性の霧を参照。
氷霧 
氷霧を参照。
煙霧 
煙霧を参照。

天気記号

日本式の気象通報においては、「微小な浮遊水滴により視程が1km未満の状態」と定義している。また、陸上において視程が約100m未満、海上において視程が500m未満のときは「濃霧」ともいう。

国際式天気図の天気記号では、以下を表す(靄は含めない)。

  • 11.地霧または低い氷霧が散在(眼の高さ以下) → 20px
  • 12.地霧または低い氷霧が連続(眼の高さ以下) → 20px
  • 28.前1時間内に霧または氷霧があった → 20px
  • 40.遠方の霧または氷霧。前1時間内に観測所にはない → 20px
  • 41.霧または氷霧が散在 → 20px
  • 42.霧または氷霧、空を透視できる。前1時間内にうすくなった → 20px
  • 43.霧または氷霧、空を透視できない。前1時間内にうすくなった → 20px
  • 44.霧または氷霧、空を透視できる。前1時間内に変化がない → 20px
  • 45.霧または氷霧、空を透視できない。前1時間内に変化がない → 20px
  • 46.霧または氷霧、空を透視できる。前1時間内に濃くなった → 20px
  • 47.霧または氷霧、空を透視できない。前1時間内に濃くなった → 20px
  • 48.霧、霧氷が発生中。空を透視できる → 20px
  • 49.霧、霧氷が発生中。空を透視できない → 20px
  • 76.細氷。霧があってもよい → 20px
  • 77.霧雪。霧があってもよい → 20px
  • 78.単独結晶の雪。霧があってもよい → 20px

定時飛行場実況気象通報式 (METER) では、「視程障害」の欄のFGが霧を表す。

注意報・海上警報

濃霧注意報は、濃霧によって交通機関への障害が出ることが予測されるときに地元気象台から発表される。大体の地方では、視程が陸上で100m、海上で500mを下回る場合に出されるが、より厳しい基準の地域もある。例えば、釧路地方気象台をはじめとする北海道では、陸上での視程が200mで濃霧注意報が発表される。海上では、海上の視程が約500m(瀬戸内海では1km)以下の状態に既になっているか、24時間以内にその状態になると予想される場合の警戒喚起として「海上濃霧警報」が発表される。

霧害

主に、本現象による、農業で生じる被害をいう。日射の長期間遮断による温度低下と光合成の阻害により、作物等の生産量が減少する。日本では、岩手県三陸地方やませや北海道太平洋岸の海霧が代表例。対策として、根釧原野では防霧林(多くは防霧保安林)を設定して、林帯で霧粒の捕捉を行っている[1]

都市化・大気汚染との関係

都市化の進行はその都市の湿度の低下、すなわち乾燥化を招くことが知られているが、乾燥化によって発生回数が減少する例が多数確認されている。東京大阪など多くの都市で20世紀中盤から21世紀にかけて発生日数の減少傾向が観測されている[2]。また大気汚染の影響もあり、大気汚染物質の微粒子が地表付近の凝結核となって生成に寄与すると考えられている。大阪や京都では終戦後数年間は発生日数が減少し、その後再び増加に転じているが、これは戦時中の空襲により工場等が被害を受け大気汚染が緩和、復興によって再び大気汚染が悪化したことが原因とする見方もある。なお、大都市の中でも仙台では減少がほとんど見られないが、これは仙台のものは主に厚い移流霧であることが1つの原因と考えられている。

有名な都市

  • 釧路市 - 年間の発生回数は100日を越える。5月~8月が特に多い。
  • 函館市 - 函館山山頂で初夏のころ見られる、幻想的な「霧夜景」は知る人ぞ知る見所。
  • 仙台市仙台平野) - 年間平均20〜30回観測されており、政令指定都市の中では発生回数が極端に多い。仙台の気候を参照。
  • 成田市 - 発生年間平均日数は、羽田空港の10日以下に対し、成田空港は50日を超えると言われる。
  • 箱根町
  • 飯田市 - 霧の街で有名であり、晩秋から初冬、盆地特有の朝晩の厳しい冷込みと天竜川の川霧は名物の干し柿をゆっくりと干し上がることに一役買っているという。
  • 佐久市
  • 軽井沢町 - 霧の軽井沢ともいわれ、年間100日は発生する。
  • 亀岡市亀岡盆地) - 晩秋から早春にかけて年間30〜40日程度。霧の都と呼ばれる。
  • 丹波市 - 丹波霧とも呼ばれる低く濃い霧が発生する
  • 篠山市 - 丹波霧とも呼ばれる低く濃い霧が発生する
  • 佐用町 - 晩秋から冬にかけての早朝に町全体をおおう「佐用の朝霧」と呼ばれる霧が発生する。
  • 高梁市 - 晩秋から冬にかけて雲海がしばしば見られ、吉備高原の山々が、「無数の小島のよう」と評される。
  • 三次市 - 秋から早春にかけて霧の海と呼ばれる雲海が展望台から望める。
  • 大洲市 - 初冬の朝に発生する「肱川あらし」が有名。
  • 由布市由布院盆地) - 秋から冬に見られる朝霧は、温泉を含有する湖の水がもとだと言われ、温泉街をすっぽり包む。
  • 薩摩川内市川内平野) - 冬の晴れた朝に川内川を沿って海に流れ出す「川内川あらし」が有名。
  • 人吉市人吉盆地) - 12月〜2月の晴れた日はほぼ100%濃霧が発生する。
  • サンフランシスコ - 6月から9月くらいが発生しやすい。朝方の僅かな時間、大地を覆う霧がうねり出す時があり「霧の波」ともいわれる。影響でサンフランシスコ空港のダイヤは頻繁に乱れることとなる。
  • ロンドン - 「霧の都」と呼ばれる。原因は「ロンドンスモッグ」と呼ばれる石炭の煤や排気ガスであり、昨今は大気汚染も収まり殆ど発生しないとも。
  • 蘇州市 - 「霧の蘇州」といわれている中国緑茶の名産地。亀岡市と友好交流都市を提携している。

人工霧

スプレーノズルを用いて発生させた、水粒およそ数μmから数十μm程度の人工霧により、冷却・冷房・液体散布・加湿などを行う(ミスト散布)ほか、超音波を液体に照射することでも発生させることができ、加湿(ネブライザー加湿器[3]などに利用)・消臭や、液体の分離・濃縮(超音波霧化分離[4][5]などに利用される。

関連事象・作品

文学上の区分(霞と霧)

気象学上の用語ではないが、春に起こる霧状の現象(特に山腹などの遠景に淡く掛かっているもの)は一般に「」と呼ばれ、「霧」は主として秋に用いる使い分けがされている。季語では霞が春、霧が秋と分類されている。

映画

日本映画

外国映画

音楽

ゲームソフト

その他

参考文献

  1. 羽生寿郎・中川行夫『農業気象学』p199文永堂
  2. 霧日数の月別平年値 理科年表オフィシャルサイト、2012年7月25日閲覧。
  3. 超音波で霧をつくり出す加湿器のしくみ”. TDK 電気と磁気の?(はてな)館. . 2015閲覧.
  4. 日本酒製造に使った霧化技術を、廃液処理やリサイクルに活用”. 日経テクノロジーonline (2013年9月10日). . 2015閲覧.
  5. 松浦一雄「超音波霧化分離の工業的応用」2011年NAID 130000655178

関連項目