黒曜石

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黒曜石(黒耀石)(こくようせき、: obsidian)は、火山岩の一種、及びそれを加工した宝石岩石名としては黒曜岩(こくようがん)という[1]。 英語名の「オブシディアン」は、エチオピアでオブシウス(Obsius)なる人物がこの石を発見した、という、大プリニウスの『博物誌』の記述による。

成分・種類

化学組成上は流紋岩(まれにデイサイト)で、石基はほぼガラス質で少量の斑晶を含むことがある。流紋岩質マグマが水中などの特殊な条件下で噴出することで生じると考えられている。同じくガラス質で丸い割れ目の多数あるものはパーライト(真珠岩)という。 二酸化珪素が約70~80%で酸化アルミニウムが10%強、その他に酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化鉄、酸化カルシウム等を含む。外縁部と内側では構造が異なる。また、内部に結晶が認められるものもある。

黒曜石のモース硬度は 5。比重は 2.339 - 2.527。水を 1 - 2% 含む。

性質・特徴

ファイル:ObsidianDomeCA.JPG
米国カリフォルニア州のObsidian Dome
ファイル:TakaharaSan0707Tagged.JPG
採掘坑遺跡がある高原山・剣ヶ峰(画像中央山頂)

外見は黒く(茶色、また半透明の場合もある)ガラスとよく似た性質を持ち、割ると非常に鋭い破断面(貝殻状断口)を示すことから先史時代より世界各地でナイフや(やじり)、槍の穂先などの石器として長く使用された。日本でも後期旧石器時代から使われていた。当時の黒曜石の産地は大きく3つに分かれており、その成分的な特徴から古代の交易ルートが推測できる。

産出地

黒曜石は特定の場所でしかとれず、日本では約70ヶ所以上が産地として知られているが、良質な産地はさらに限られている[2]。後期旧石器時代や縄文時代の黒曜石の代表的産地としては北海道白滝村長野県霧ヶ峰周辺や和田峠、静岡県伊豆天城(筏場や柏峠)、熱海市上多賀、神奈川県箱根(鍛冶屋、箱塚や畑宿)、東京都伊豆諸島神津島恩馳島島根県隠岐島大分県姫島、佐賀県伊万里市腰岳、長崎県佐世保市周辺などの山地や島嶼が知られる。このうち、姫島の黒曜石産地は、国の天然記念物に指定されている[3]

黒曜石が古くから石器の材料として、広域に流通していたことは考古学の成果でわかる。例えば、伊豆諸島神津島産出の黒曜石が、後期旧石器時代紀元前2万年)の南関東の遺跡で発見されているほか、伊万里腰岳産の黒曜石に至っては、対馬海峡の向こう朝鮮半島南部の櫛目文土器時代の遺跡でも出土しており、隠岐の黒曜石はウラジオストクまで運ばれている。また北海道では十勝地方も産地として非常に有名で、北海道では現在でも「十勝石」という呼び名が定着している。

日本最古と推定される黒曜石採掘坑遺跡がある高原山

栃木県北部にある活火山高原山を構成する一峰である剣ヶ峰が原産の黒曜石を使用した石器矢板市より200km以上離れた静岡県三島市長野県信濃町の遺跡で発見され研究が進められている。産出時期は古いものでは石器の特徴より今から約3万5千年前の後期旧石器時代と考えられており、その採掘坑遺跡(高原山黒曜石原産地遺跡群)は日本最古のものと推定されている。氷河期の寒冷な時期に人が近付き難い当時の北関東の森林限界を400mも超える標高1,500m近い高地[4]で採掘されたことや、従来の石器時代の概念を覆すような活動・交易範囲の広さ、遺跡発掘により効率的な作業を行っていたこと等が分かってきて注目が集まっている。またこの新しい発見により日本人の起源、人類の進化をたどる手掛かりになるという研究者の発言も報道もされている[5][6][7]

黒曜石は流紋岩が噴出した所に見られ、世界ではアルメニア、カナダ、チリ、ギリシャ、アイスランド、アルゼンチン、イタリア、ケニア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、スコットランド、米国などで知られる。米国ではカスケード山脈のニューベリー火山やメディシン・レイク火山、カリフォルニア州シエラネバダ山脈のイニョ火口、イエローストーン国立公園ほか数多く分布する。

ファイル:Obsidian Sources by Country.png
国別黒曜石原産地数(国際黒曜石学会サイトの原産地カタログによる)


用途

上述の通り、石器時代において、その切れ味の良さから石器素材として広く使われた。刃物として使える鋭さを持つ黒曜石は、金属器を持たない民にとって重要な資源であった。現にヨーロッパ人の来訪まで鉄を持たずに文明を発展させた南アメリカは、15世紀頃まで黒曜石を使用していた。メキシコのアステカ文明などではマカナなどの武器を作り、人身御供で生贄の身体に使う祭祀ナイフもつくっていた。一説にはアステカが強大な軍事力で周辺部族を征服し帝国を作れたのは、この黒曜石の鉱脈を豊富に掌握していたからだともいう。

現代でも実用に供されている。その切れ味の良さから、海外では眼球/心臓/神経等の手術でメス剃刀として使われることがある。また、黒曜石を1000℃で加熱すると、含有された水分が発泡してパーライトとなる。白色粒状で軽石状で多孔質であることから、土壌改良剤などとして用いられる。

様々な色の混じった美しいものは、研磨されて装飾品や宝飾品として用いられている。

文化

石とも黒耀石とも表記される場合がある。「耀」の字が常用漢字外であるため、慣用的に黒曜石と表記したと言われることがあるが、常用漢字の制定以前から黒曜石の表記はあった。安永2年(1773年)に初めて黒曜石を取り上げた木内重暁の『雲根誌』では黒曜石としており、Obsidian の訳語として採用した和田維四郎も黒曜石としている。黒耀石という用字が現れるのはおそらく太平洋戦争後で、藤森栄一など考古学者の一部が好んで用いる[8]

石言葉は、摩訶不思議。2016年には、日本地質学会により、長野県県の石(岩石)に選ばれている。

脚注

参考文献

  • 堤隆『黒曜石 3万年の旅』、日本放送出版協会、2004年。

関連項目

外部リンク