「多項式の展開」の版間の差分
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数学において、多項式の展開 (たこうしきのてんかい、英: polynomial expansion) とは、複数の多項式の積をひとつの多項式で表すことをいう。これは、因数分解と逆の操作である。式の見た目として括弧が無くなるため、展開することを俗に「括弧を外す」ということもある。因数分解には統一的な方法論が無いのに対し、展開は分配法則を用いて機械的に行うことができる。この法則は、級数に対するものに自然に拡張される。
概要
分配法則
- a(b + c) = ab + ac
を用いることで、多項式の積をひとつの多項式で表すことができる。まず、帰納法により、第二因子が n 個の項の和である場合の分配法則を得る。
- a(b1 + ⋯ + bn) = ab1 + ⋯ + abn
第一因子も複数の項の和である場合、すなわち
- (a1 + ⋯ + am)(b1 + ⋯ + bn)
については、次のように計算される。
- 第一因子を A とおくと、A(b1 + ⋯ + bn) となる
- 分配法則により、これは Ab1 + ⋯ + Abn に等しい
- この式の第 i 項は (a1 + ⋯ + am)bi であり、再び分配法則を用いると、これは a1bi + ⋯ + ambi に等しい
- よって、全体は (a1b1 + ⋯ + amb1) + ⋯ + (a1bn + ⋯ + ambn) に等しい
この結果を記号 テンプレート:Sum を用いて書くならば
- [math]\Bigl( \sum_{i=1}^m a_i \Bigr)\Bigl( \sum_{j=1}^n b_i \Bigr) = \sum_{i=1}^m \sum_{j=1}^n a_i b_j[/math]
である。言葉で表現するならば、
第一因子の項と第二因子の項、全ての組み合わせについて積をとり、その和が展開の結果である
ということである。第一因子が m 個の項の和、第二因子が n 個の項の和であれば、第一因子の項と第二因子の項の組み合わせは mn 通りであるから、展開した結果は mn 個の項の和になる。
3つ以上の多項式の積についても同様のことがいえる。すなわち、
それぞれの因子からひとつずつ項を選ぶ、その全ての組み合わせについて積をとり、その和が展開の結果である
ことがしたがう。k 個の多項式の積であって、i 番目の多項式が ni 個の項の和であれば、展開した結果は n1 ⋯ nk 個の項の和になる。
具体例
(a + b + c)(x + y) を展開すると、ax + ay + bx + by + cx + cy となる。展開の様子は次の表のように表せる。
- [math]\begin{array}{c|cc} \times & a & b & c \\\hline x & ax & bx & cx \\ y & ay & by & cy \end{array}[/math]
展開したのち、さらに簡単にできる場合もある。例えば (a + b)(a - b) を展開する場合の表は
- [math]\begin{array}{c|cc} \times & a & b \\\hline a & a^2 & ab \\ -b & -ab & -b^2 \end{array}[/math]
であるが、ab と -ab が打ち消しあうため、aテンプレート:Exp - bテンプレート:Exp となる。通常はこのような計算も含めて「多項式の展開」と呼ぶ。数学教育においては、こういう場合の展開式、例えば次のような式を公式として教授することが多い。
- (a + b)(a - b) = aテンプレート:Exp - bテンプレート:Exp
- (a + b)(aテンプレート:Exp - ab + bテンプレート:Exp) = aテンプレート:Exp + bテンプレート:Exp
- (a + b)テンプレート:Exp = aテンプレート:Exp + 2ab + bテンプレート:Exp
右辺を左辺に変形することは因数分解であるから、これらは展開の公式であるとともに因数分解の公式ともみなせる。
冪級数への拡張
多項式は有限個の項の和であるが、無限個の項の和である(形式的)冪級数に対する積が定義され、多項式の展開の自然な拡張とみなせる。以下、簡単のために1変数の冪級数
- [math]\sum_{i=0}^\infty a_i x^i = a_0+a_1 x+a_2 x^2+\dotsb[/math]
についてのみ考える。ふたつの冪級数の積は
- [math]\Bigl( \sum_{i=0}^\infty a_i x^i \Bigr) \Bigl( \sum_{j=0}^\infty b_j x^j \Bigr)=\sum_{k=0}^\infty \Bigl( \sum_{i+j=k}a_i b_j \Bigr) x^k[/math]
と定義される。冪級数をその収束域に対する関数とみなした場合、これは関数の積に対応する。
例
- [math]e^x=1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{6}+\dotsb[/math]
の右辺の平方を上記の法則で「展開」すると、
- [math]\biggl( 1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{6}+\dotsb \biggr)^{\!2}=1+2x+2x^2+\frac{4}{3}x^3+\dotsb[/math]
となるが、この右辺は (eテンプレート:Exp)テンプレート:Exp すなわち eテンプレート:Exp のテイラー展開に等しい。これらの冪級数は、x にいかなる複素数を代入しても収束するが、収束域が限られたものも存在する。例えば、
- [math](1-x)(1+x+x^2+x^3+\dotsb)=1[/math]
であるが、1 + x + xテンプレート:Exp + xテンプレート:Exp + ⋯ は テンプレート:Abs < 1 の範囲でのみ収束する。表現を変えるならば、複素関数 1 + x + xテンプレート:Exp + xテンプレート:Exp + ⋯ の解析接続は 1/(1 - x) であり、これは x = 1 のみを1位の極に持ち、その他の点で正則である。
関連項目
外部リンク
- 転送 Template:多項式