ワイエルシュトラスの因数分解定理
複素解析では、ワイエルシュトラスの因数分解定理(ワイエルシュトラスのいんすうぶんかいていり、英: Weierstrass factorization theorem)は、整函数はその零点に関係する積により表すことができるという定理である。さらに、無限大へ向かう任意の数列に対し、ちょうどその数列の点を零点に持つ整函数が存在する。
この定理の名前はカール・ワイエルシュトラスに因んでいる。 混同の恐れのない限り、単にワイエルシュトラスの定理(ワイエルシュトラスのていり、英: Weierstrass theorem)とも呼ばれる。
定理は有理型函数へ拡張され、与えられた有理型関数を 3つの要素の積として考えることが可能になる。3つの要素は、函数の極、函数の零点に依存するものと、これらに付帯する 0 でない正則函数である。
Contents
動機
- 複素平面内の有限列 [math]\{c_n\}[/math] は、正確に多項式の列 [math]p(z) = \,\prod_n (z-c_n)[/math] のゼロ点に一致する零点を持つような多項式 [math]p(z)[/math] を持っている。
- 複素平面内のすべての多項式函数は、因数分解 [math]p(z) = a\prod_n(z-c_n)[/math] を持っている。ここに、a は 0 でない定数で、cn は p の零点である。
ワイエルシュトラスの因数分解定理の 2つの形は、上の整函数の拡張であると考えることができる。余剰な機構の必要性は、数列 [math]\{c_n\}[/math] が有限でない場合に積 [math]\,\prod_n (z-c_n)[/math] を考えることで示された。無限積が収束しないため、決して整函数が定義できない。このように、一般には、事前に決められた零点の列から整函数を定義すること、あるいは、代数学の基本定理の結果を使い表現することでゼロ点から整函数を表現することはできない。
問題の無限積の収束の必要条件は、各々の因子 [math] (z-c_n) [/math] が [math]n\to\infty[/math] のとき、1 へ近づくはずで、従って、前もって与えられた点で 0 となるような函数を探すことが理由である。しかし、1 の近くにも 1 ではないが前に述べたような零点は持たない。ヴァイエルシュトラスの基本因子(elementary factors)は、これらの性質を持ち、上の因子 [math] (z-c_n) [/math] として同じ目的を果たす。
基本因子
これらは、素数因子とも言われる。[2]
[math]n \in \mathbb{N}[/math] に対し、基本因子を定義すると、次のようになる。[3]
- [math]E_n(z) = \begin{cases} (1 -z) & \text{if }n=0, \\ (1-z)\exp \left( \frac{z^1}{1}+\frac{z^2}{2}+\cdots+\frac{z^n}{n} \right) & \text{otherwise}. \end{cases}\ .[/math]
これらの使い道は、次の補題である。[3]
補題(15.8, ルーディン(Rudin)): |z| ≤ 1, n ∈ No に対し、
- [math]\vert 1 - E_n(z) \vert \leq \vert z \vert^{n+1}.[/math]
定理の 2つの形
特定の零点を持つ整函数の存在
時々、ワイエルシュトラスの定理 (Weierstrass theorem) と呼ばれることがある。[4]
[math]\{a_n\}[/math] を 0 にはならない複素数の数列で、[math]|a_n|\to\infty[/math] とする。[math]\{p_n\}[/math] がすべての [math]r\gt 0[/math] に対して、
- [math] \sum_{n=1}^\infty \left( r/|a_n|\right)^{1+p_n} \lt \infty,[/math]
であるような整数の数列とすると、函数
- [math]f(z) = \prod_{n=1}^\infty E_{p_n}(z/a_n)[/math]
は点 [math]a_n[/math] で零点を持つ整函数である。数が数列 [math]\{a_n\}[/math] の中にちょうど m 回あれば、関数 f は多重度 m を持つ零点を持つ。* 定理の中で述べられている数列 [math]\{p_n\}[/math] は常に存在することに注意する。たとえば、常に [math]p_n=n[/math] すると収束する。そのような数列は一意ではない。この数列を有限回位置を変えて、他の数列 p'n ≥ pn をとると、常に収束する。
- 定理は次のように一般化される。開集合の中の数列と、従って、リーマン球面の領域は、それらの部分集合の中で正則であり、数列の点で零点を持つ[3]。
- 代数学の基本定理により与えられる場合も含まれることに注意する。もし数列 [math]\{a_n\}[/math] が有限であれば、[math]p_n = 0[/math] として [math]\, f(z) = c\,{\displaystyle\prod}_n (z-a_n)[/math] をえることができる。
{{safesubst:#invoke:Anchor|main}}ワイエルシュトラスの因数分解定理
ワイエルシュトラスの定理は、ワイエルシュトラスの積/因子定理と呼ばれることもある[5]
f を整函数とし、[math]\{a_n\}[/math] を多重度に従った f の 0 以外の零点とする。f が z = 0 で位数 m ≥ 0 である零点を持つとする( z = 0 で位数 m = 0 の零点とは、ƒ(0) ≠ 0 を意味する)と、整函数 g と整数の数列 [math]\{p_n\}[/math] が存在し、
- [math]f(z)=z^m e^{g(z)} \prod_{n=1}^\infty E_{p_n}\!\!\left(\frac{z}{a_n}\right)[/math]
となる[6]。
因数分解の例
- [math]\sin \pi z = \pi z \prod_{n\neq 0} \left(1-\frac{z}{n}\right)e^{z/n} = \pi z\prod_{n=1}^\infty \left(1-\frac{z^2}{n^2}\right)[/math]
- [math]\cos \pi z = \prod_{q \in \mathbb{Z}, \, q \; \text{odd} } \left(1-\frac{2z}{q}\right)e^{2z/q} = \prod_{n=0}^\infty \left( 1 - \frac{4z^2}{(2n+1)^2} \right) [/math]
アダマールの因数分解定理
f が有限の位数[7]の整函数は、因数分解
- [math]f(z) = z^m e^{g(z)} \displaystyle\prod_{n=1}^\infty E_p(z/a_n)[/math]
を持つ。ここに g(z) は次数 q の多項式であり、q ≤ ρ で p=[ρ] である[6]。
参照項目
脚注
- ↑ Knopp, K. (1996), “Weierstrass's Factor-Theorem”, Theory of Functions, Part II, New York: Dover, pp. 1–7.
- ↑ Boas, R. P. (1954), Entire Functions, New York: Academic Press Inc., ISBN 0-8218-4505-5, OCLC 6487790, chapter 2.
- ↑ 3.0 3.1 3.2 Rudin, W. (1987), Real and Complex Analysis (3rd ed.), Boston: McGraw Hill, pp. 301–304, ISBN 0-07-054234-1, OCLC 13093736.
- ↑ Weisstein, Eric W. “Weierstrass's Theorem”. MathWorld(英語). Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
- ↑ Weisstein, Eric W. “Weierstrass Product Theorem”. MathWorld(英語). Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
- ↑ 6.0 6.1 Conway, J. B. (1995), Functions of One Complex Variable I, 2nd ed., springer.com: Springer, ISBN 0-387-90328-3
- ↑ z = 0 で m 位の零点 (m ≧ 0) を持ち、その他の零点が α1, α2,...,αn, αn+1,... (0 < |α1| ≦ |α1| ≦ |α3| ...→ ∞) である超越整函数 f(z)を、ワイエルシュトラスの標準乗積で、
- [math]f(z)=e^{g(z)}z^m\prod^\infty_{k=1}\biggl(1-\frac{z}{\alpha_k}\biggr)e^{g_k(z/\alpha_k)}[/math]
- [math]g_k(z)=z+(1/2)z^2+(1/2)z^3+\cdots+(1/p_k)z^{p_k}[/math]
- [math]\rho=\limsup_{r\rightarrow\infty}\log\log{M(r)}/\log{r}[/math]