Knol
Knol(日本語表記は未公表)はGoogleがホスティングしていたユーザー生成型ナレッジ・ベースのプロジェクト。2012年4月30日をもって終了した。
概要
この計画は2007年12月13日にGoogleの公式ブログにおいてGoogleの技術担当副社長ウディ・マンバーにより公表された。マンバーによれば、knolが対象とするトピックは、科学的概念から医療情報、地理歴史から娯楽、製品情報からハウツー記事[1]までと幅広い。またknolのページは「そのトピックについて初めて検索する人が読みたいと思うようなもの」となる[1]。 "knol" という言葉は、"unit of knowledge"(知識のユニット、単位)という意味のGoogleによる造語[2]で、プロジェクト自体を指すと共に、このプロジェクトにおける個々の記事をも指す[1]。BBCによれば、knolはGoogleがウィキペディアに対抗するための企画であると多くの人から目されている[3]。
Googleサイトでは、knolのスクリーンショット、「不眠症」のknolが一例として公開されている[4]。knolのサイトは最初、非公開の招待制ベータ版であり[1]、Search Engine Land編集長Danny Sullivanによれば、この形式は今後変更されるかもしれないし、knolのサービスそのものが結局公開されないままに終わる可能性もあるとされたが[5]、その後一般公開された。
しかしながら、2011年11月22日に、Knolの終了が発表された。サービスは2012年4月30日に停止され、同年5月1日〜10月1日の間は閲覧できないが記事のダウンロードがGoogle Takeoutから行えるようになっている。
"knol"の日本語表記は未公表であるが、ニューズウィーク日本版は記事の中で「ノル」としている[6]。
形式
knolの記事はそれぞれ、一人の著者によって執筆されていた。他のユーザーは、著者の許可がある場合のみ執筆が可能となった。[5][7][8]。読者は評価やコメントをつけることができた。同じトピックに関して、複数の著者がそれぞれ独自の記事を書くことが可能だった。Googleは、誰が何を書いたかわかれば、コンテンツを利用する読者にとって大きな助けになるだろうとしていた[1]。
マンバーによれば、Googleは「knolが執筆者それぞれの意見と視点を含むものとなる」ことを希望しており、執筆者は自分のknolに広告を表示させるかどうかも決めることができ、その代わりにクリエイティブコモンズ(CC)ライセンスを適用することもできるとしていた。広告表示を許す場合には、その広告収益からかなりの利益分配を受け取ることも可能だった。Google以外の会社の広告を表示できるようにするかどうかについては、Sullivanによれば、マンバーは可能性がないわけではないと言ったとのことである。マンバーはまた、「Googleはどんな意味においても編集者としてかかわることはなく、特定のコンテンツを優遇することもないだろう。編集責任と管理権はすべてそれぞれの執筆者にゆだねられる」と言っていた。
外部の反応
knolが2007年12月に発表されて以来、knolを企画したGoogleの動機や、運営者というよりむしろコンテンツの作り手としての立ち位置についてさまざまの憶測が流れた。ガーディアンのJack Schofieldは、「knolはメディア産業全般への攻撃を象徴している」[9]と説く。
knolは、ウィキペディアやスカラーペディア、About.com[10]のような百科事典サイトのライバルとして描写される[11][8][12]と同時に、ウィキペディアへの補完物ともみなされてきた。[13][14][15] ウィキペディアを運営している非営利のウィキメディア財団は、「良質のフリー・コンテンツは多ければ多いほど良い」とGoogleのknolを歓迎した[16]。 ウィキペディアの記事が複数執筆者により「中立的な観点」という方針[17]で執筆されるのに対して、knolは著者の存在を強調することにより個人に焦点を当て[8]、Everything2 や Helium.comの記事同様、knolは著者の個人的見解を含んでいた。[1][18]
knolの形式を見て、ウィキペディアよりむしろAbout.comに近いという人々もいた[12]。 DailyTechのライター、Wolfgang Hanssonによれば、knolはそもそもGoogleがAbout.comの買収を検討した時に企画されたのかもしれないという。Hassonは、About.comの買収を良く知る複数のソースによれば、GoogleはAbout.comを買収しようと計画していたが、About.comの幹部はGoogleがAbout.comのモデルをウィキスタイルに変更する予定だと知ったという。これが実現していれば、およそ500人のAbout.comの「ガイド」はレイオフされることを意味した。[19]
Googleの検索結果が利害の対立がある時にも中立的であり続けられるかどうかについて議論した人々もいた。[20][21] Search Engine Landの編集者、Danny Sullivanによれば、「knolのページをサーチエンジンで見つけやすくするというGoogleのゴールは、不偏・無作為であるべきというGoogleの必要と対立する」という[21]。 Center for Digital Democracyのexecutive director、Jeff Chesterも同様の懸念を示す「結局のところ、Googleのビジネスとその社会的目標との間には基本的な対立がある。今目にしているのは、Googleが広告モデルを採用しつつあるところであり、そこでは、人々が自由にアクセスできるものに対して金銭が大きなインパクトを持つだろう」[22]。
こういった懸念に対して、GoogleはYouTubeやBlogger、Google Groupですでに大量のコンテンツをホスティングしていて[20]、knolのケースもこれらと大差はない[15]という指摘もあった。テクノロジー分野のコメンテイター、ニコラス・G・カーは、Googleはもっとも人気のあるknolページが検索結果の中で自然に上位に来て、ウィキペディアに対抗してGoogleの広告を表示する新たなコンテンツ領域を提供することを期待していると述べて、Googleが検索結果を操作するかもしれないという予測は却下した[23][24]。
脚注
- ↑ 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 Manber, Ubi (2007年12月13日). “Encouraging people to contribute knowledge”. Google. . 2008-12-7閲覧. “Earlier this week, we started inviting a selected group of people to try a new, free tool that we are calling "knol", which stands for a unit of knowledge. Our goal is to encourage people who know a particular subject to write an authoritative article about it.”
- ↑ Monaghan, Angela (2007年12月14日). “"Google's 'knol' may challenge Wikipedia”. The Daily Telegraph. . 2007閲覧.
- ↑ “Google debuts knowledge project”. BBC (2007年12月15日). . 2007閲覧. “Many experts see the initiative as an attack on the widely used Wikipedia communal encyclopaedia.”
- ↑ http://www.google.com/help/knol_screenshot.html 写真の女性はRachel Manber。ただしランク付けやレビューはサンプル。
- ↑ 5.0 5.1 Sullivan, Danny (2007年12月13日). “Google Knol - Google's Play To Aggregate Knowledge Pages”. Search Engine Land. . 2007閲覧. “Google Knol is designed to allow anyone to create a page on any topic, which others can comment on, rate, and contribute to if the primary author allows. [...] Google also stressed to me [...] that the service might not launch at all.”
- ↑ 「ネット事典 打倒ウィキペディア グーグルの狙い」ニューズウィーク日本版新年合併号2008・1・2/9 13ページ
- ↑ Needleman, Rafe (2007年12月14日). “Google's Knol experiment to rival Wikipedia?”. CNET Networks . 2007閲覧.. "Since Knol pages will be authored, users won't, presumably, be able to dive in and edit another page. They'll be able to submit edits to the author for approval, though."
- ↑ 8.0 8.1 8.2 Blakely, Rhys (2007年12月15日). “Google to tackle Wikipedia with new knowledge service”. The Times. . 2007閲覧. “[K]nol looks set to foster rivalry. Contributors to knolwill not be able to contribute anonymously and will not be able to edit each other’s work, [...]. Whereas on Wikipedia, readers find only one entry on, say, the First World War, on knol authors will submit separate pieces that will compete for advertising dollars.”
- ↑ Schofield, Jack (2007年12月15日). “Google tries Knol, an encyclopedia to replace Wikipedia”. The Guardian . 2007閲覧.
- ↑ About.comは英語圏のAll Aboutにあたるものである。
- ↑ Riley, Duncan (2007年12月14日). “Google Knol: A Step Too Far?”. TechCrunch. . 2007閲覧.
- ↑ 12.0 12.1 Frederick, Lane (2007年12月14日). “Death Knell Sounds for Wikipedia, About.com”. NewsFactor Network . 2007閲覧.
- ↑ Masnick, Mike (2007年12月14日). “Google Decides Organizing The World's Information Is Easier If That Info Is Online”. techdirt. . 2007閲覧.
- ↑ Manjoo, Farhad (2007年12月14日). “Truthiness showdown: Google's "Knol" vs. Wikipedia”. Salon.com. . 2007閲覧.
- ↑ 15.0 15.1 Hof, Rob (2007年12月14日). “Google's Knol: No Wikipedia Killer”. Businessweek. . 2007閲覧.
- ↑ Levy, Ari (2007年12月14日). “Google Starts Web Site Knol to Challenge Wikipedia”. Bloomberg . 2007閲覧.
- ↑ “Wikipedia:Neutral_point_of_view”. . 2008-12-7閲覧.
- ↑ Murrell, John (2007年12月14日). “Google’s philosophy: Knol thyself”. SiliconValley.com. . 2007閲覧.
- ↑ Hansson, Wolfgang (2007年12月14日). “Google Announces Knol Wikipedia-like Service”. DailyTech . 2007閲覧.
- ↑ 20.0 20.1 Greenberg, Andy (2007年12月14日). “Google's Know-It-All Project”. Forbes . 2007閲覧.
- ↑ 21.0 21.1 Helft, Miguel (2007年12月15日). “Wikipedia Competitor Being Tested by Google”. New York Times . 2007閲覧.. "Some critics said that shift could compromise Google’s objectivity in presenting search results."
- ↑ Schiffman, Betsy (2007年12月14日). “Knol Launch: Google's 'Units of Knowledge' May Raise Conflict of Interest”. Wired. . 2007閲覧.
- ↑ Carr, Nicholas (2007年12月13日). “Google Knol takes aim at Wikipedia”. . 2007閲覧.
- ↑ Scott Morrison, "Google Targets Wikipedia With New 'Knol' Pages", Wall Street Journal, December 14, 2007
外部リンク
- knol.google.com
- Google Takeout(終了後のデータダウンロードサイト)
- Google公式ブログによる発表
- Encouraging people to contribute knowledge Posted by Udi Manber, VP Engineering 12/13/2007 (Google Codeページ)
- 外部の反応
- ITmedia - Google版Wikipedia? 知識共有ツール「knol」をテスト(2007年12月14日)
- Duncan Riley (TechCrunch翻訳記事) - Knol―GoogleがWikipedia+Squidoo的なユーザー生成型知識コンテンツをテスト中 (2007年12月14日)
- Duncan Riley (TechCrunch翻訳記事) - GoogleのKnolは「やりすぎ」か?(2007年12月15日)
- 産経MSN (共同) - グーグル、ネット百科参入 記名でウィキペディア対抗(2007年12月15日)
- Scott Gilbertson Wired News(WIRED VISION翻訳記事) - Googleの情報ハブ構想『Knol』:『Wikipedia』+専門家ブログ (2007年12月17日)
- ウォールストリートジャーナル Scott Morrison (ITmedia翻訳記事) - Google版Wikipediaは成功するか 2007年12月17日
- Michael Arrington(TechCrunch翻訳) - Google Knolについての考察 (2007年12月18日)
- 坂東慶太 - Gpedia?「対」で考えるのではなく知識の増量を歓迎しよう(2007年12月18日)
- 吉田健一 ZDnet Japan - Googleの人中心のナレッジマネジメント「knol」 - Google版「All About」(2007年12月23日)