イロレーティング
イロレーティング (Elo rating) とは、チェスなどの2人制ゲームにおける実力の測定値(レーティング)の算出法である。「イロ」とはこの算出法を考案した、ハンガリー生まれでアメリカの物理学者であるアルパド・イロに由来する。
チェスでは国際チェス連盟の公式レーティングに採用されるなど、強さを示す指標として用いられている。日本では、将棋倶楽部24などで、イロレーティングを簡素化した算出法を採用している。
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算出方法
イロレーティングでは、次の3点を基本とする。
- ゲームの結果は一方の勝ち、一方の負けのみとし、引き分けは考慮しない(0.5勝0.5敗と扱うものとする)。
- 200点のレート差がある対局者間では、レートの高い側が約76パーセントの確率で勝利する。
- 平均的な対局者のレートを1500とする。
3人の対局者[math]A,B,C[/math]について[math]A[/math]が[math]B[/math]に勝利する確率を[math]E_{AB}[/math]、[math]B[/math]が[math]A[/math]に勝利する確率を[math]E_{BA}[/math]などと定める。対局者間の勝率について次のような仮定を置く。
- [math]\frac{E_{AC}}{E_{CA}}=\frac{E_{AB}E_{BC}}{E_{BA}E_{CB}}[/math]
例えば[math]A[/math]が[math]B[/math]に平均3勝2敗、[math]B[/math]が[math]C[/math]に平均5勝6敗の成績だとすれば、[math]A[/math]は[math]C[/math]に平均15勝12敗(=5勝4敗)でなければならない。
2人の対局者[math]A[/math]、[math]B[/math]の現在のレートを[math]R_A[/math]および[math]R_B[/math]としたとき、それぞれが勝利する確率[math]E_A[/math]、[math]E_B[/math]は以下の式で算出される。
- [math]E_A = \frac 1 {1 + 10^{(R_B - R_A)/400}}[/math]
- [math]E_B = \frac 1 {1 + 10^{(R_A - R_B)/400}}[/math]
実際に何局か対局した結果、[math]A[/math]の勝ち数が[math]S_A[/math]であった場合、[math]A[/math]のレートを以下のように補正し、新たなレート[math]R_A^\prime[/math]とする([math]E_A[/math]は各対局の勝利する確率を足し合わせる)。
- [math]R_A^\prime = R_A + K(S_A - E_A)[/math]
ここで、[math]K[/math]は定数値であり、プロレベルでは16、通常は32をとることが多い。
例として、レーティング1613の対局者[math]A[/math]が5局戦い、レート1609の対局者に敗れ、1477の対局者と引き分け、1388の対局者に勝ち、1586の対局者に勝ち、1720の対局者に敗れたものとする。このときの[math]A[/math]の勝ち数[math]S_A[/math]は2.5(2勝2敗1引き分け)となる。上記の式より、[math]E_A[/math]の合計は 0.506 + 0.686 + 0.785 + 0.539 + 0.351 = 2.867 と算出されるので、対戦後の新たなレートは 1613 + 32×(2.5 − 2.867) = 1601 となる。
擬似的な算出方法
日本での囲碁や将棋のオンライン対戦サイトでは、参加者の棋力を示すためにレーティングを用いているところもある。これらの多くはイロレーティングではなく、対戦後のレーティングを簡単に算出できる方法を用いている。
2人の対局者[math]A[/math]、[math]B[/math]の現在のレートを[math]R_A[/math]および[math]R_B[/math]とし、[math]A[/math]が[math]B[/math]に勝った場合、レーティングの変動値[math]\Delta R[/math]([math]R_A[/math]は[math]\Delta R[/math]だけ増加し、[math]R_B[/math]は[math]\Delta R[/math]だけ減少する)は各サービスごとに以下のようになる。
- 将棋倶楽部24・近代将棋道場
- [math]\Delta R = 16 + (R_B - R_A) \times 0.04[/math]
- 小数点以下は四捨五入。上記で算出した[math]\Delta R[/math]が1未満のときは1に、31を超えるときは31になる。
ただし0未満ならびに32以上の場合は先手の権利が下手と確定している。 詳細については割愛する。
- TAISENの囲碁対局
- [math]\Delta R = 12 + \{R_B - (R_A \pm H)\} \times 0.03[/math]
- ※[math]H[/math]はハンデ(置き石やコミの調整による)ごとに定められた点数。
- 小数点以下は四捨五入。上記で算出した[math]\Delta R[/math]が1未満のときは1になる。
ただし、極端にレートが離れたもの同士が対局する場合などには、特例が設けられている。
問題点
FIDEの公式レーティングは1985年ごろから年に数点ずつインフレを起こしており、これがグランドマスターをはじめタイトル保持者の増加につながっている。
インフレ問題を解決するため、標準偏差を考慮したグリコレーティングが考案され、一部の団体(オーストラリアチェス連盟など)、インターネット上のチェスサイトで利用が始まっている。
チェスにおける棋力評価の算出についてはチェスのレーティングを参照。
文献
- The Rating of Chessplayers, Past and Present (1978), Arco. ISBN 0-668-04721-6 - 考案者による解説