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(R. biwaensis, taxobox)
 
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ヨシノボリ(葦登)は、アジアの熱帯・温帯の淡水から汽水域に広く分布するハゼの1グループである。 「ヨシノボリ」という呼び名は特定の種類を指さず、ハゼ亜目ハゼ科ヨシノボリ属 (Rhinogobius) に分類される魚の総称として用いられる。

特徴

成魚の体長はどの種類も5-10cm前後である。体の模様は種間でさまざまな変異が見られるが、頭部には赤褐色の線が入るものが多い。

ロシア沿海地方から東南アジアまでの熱帯・温帯域に分布する。多くの種類に分かれるが、類似種が多いことなどの分類学的問題により種の総数は不明で、詳細な研究は現在進行中である。日本産は少なくとも14種に分けられる(後述)[1]

各地の河川湖沼などに生息する。吸盤状の腹鰭で川底の石や護岸にはりつくことができ、種類によっては水流が速い渓流にも生息する。これらの未成魚が川を遡上するときなどは、流れの横の濡れた岩場をさかのぼることもある。この様子から「にも登る」という意味でこの名がついたが、実際には自分から葦を登ることはない。

川底の藻類やデトリタスを食べることもあるが、食性はほぼ肉食性で、水生昆虫ミミズエビ、魚の卵や稚魚などを捕食する。。よって飼育下では一緒に飼う動物の大きさに注意しなければならない。

雄は繁殖期になると縄張りを作り、縄張りに侵入する他の雄を激しく攻撃する。一方で川底の石の下に巣穴を掘って雌を誘い、産卵を行う。巣穴には捨てられた空き缶などを使うこともあり、春から夏にかけて川の中の空き缶を拾うと中にこの魚が入っていたということがある。他にウキゴリチチブなども空き缶をよく利用する。

産卵後は雄が雌を追い出して、巣穴で仔魚孵化するまで卵を守る。孵化した仔魚は海へ降河し、海で成長して再び川をさかのぼる。ただし降河せずに一生を川で過ごす種類や、海の代わりにダムや湖で成長するものもいる。

山地の渓流から都市部の河川までよく見られ、身近な川魚の一つに数えられる。地域によっては食用にされ、観賞用に飼育する人もいる。

また赤色を好み黄色を好まない。

日本産ヨシノボリ類の分類

かつて日本に生息するヨシノボリ属魚種は「ヨシノボリ Rhinogobius brunneus」「ゴクラクハゼ Rhinogobius giurinus」の2種だけであるとされていたが、1960年に卵の大きさや鰭条数の違いからヨシノボリから分離される形で「カワヨシノボリ Rhinogobius flumineus(記載当時はTukugobius flumineus)」が新種記載された。

その後「ヨシノボリ」の、それまでは模様の違いから型として扱われていたものも、生態の違いなどからそれぞれ別種とみなされるようになってきたため、学術的混乱を避けるために1989年に学名が未決定のまま、標準和名ならびに、学名の仮の代わりとして Rhinogobius sp. の後に、それぞれの種をアルファベット大文字2文字で表す方法が提唱された。現在までのところ日本に生息するとされるヨシノボリ属魚種は以下の通りである。

2010年に、トウヨシノボリ(縞鰭型)に新標準和名「シマヒレヨシノボリ」が提唱された(後述)[2]。さらに2011年には、オオヨシノボリ・クロヨシノボリ・トウヨシノボリ・オガサワラヨシノボリの4種の学名が確定している(後述)[3][4]

ゴクラクハゼ Rhinogobius giurinus (Rutter,1897)
頬に迷路のような細かい模様があり、体の横に黒っぽい大きな斑点と青い小さな点が並ぶ。汽水域に多い。
カワヨシノボリ R. flumineus (Mizuno,1960)
稚魚が海に降りず、一生を淡水で過ごすことが和名の由来。成魚の全長は4-6cmほどと小型。胸鰭の条数が15-17と他種に比べ少ない。佃煮などで利用される。
オオヨシノボリ R. fluviatilis Tanaka, 1925
大きな河川に多い。成魚は全長12cmに達し、大型になることが和名の由来。胸鰭のつけ根の上側に、黒色の円形斑が入る。
クロヨシノボリ R. brunneus (Temminck and Schlegel, 1845)
温暖な海域に面した、流れが速い小川に分布する。胸鰭のつけ根が黒く、尾鰭のつけ根に太い"Y"字型の模様がある。また、体色をよく変え、興奮すると体の横に黒い太い線が浮き上がる。黒っぽい体色のことが多いことが和名の由来。
シマヨシノボリ R. sp. CB
CBとは Cross-Band type の略。頬に細かいミミズのような模様がある。繁殖期の雌は腹が鮮やかな青色になる。和名は頬や各鰭の模様に由来する。
トウヨシノボリ R. kurodai (Tanaka, 1908)
雄の尾鰭のつけ根に大きな橙色の斑点があることからこの名があるが、個体群によっては見られないものも多い。最も分布が広く、体の模様も地域差や個体差が大きい。現在ではさらに橙色型、偽橙色型、宍道湖型、縞鰭型の4型に分けられている。2010年に縞鰭型については、「シマヒレヨシノボリ」の新標準和名が提唱された。さらに2013年に出版された、日本産魚類検索全種の同定 第三版では、トウヨシノボリが消え、オウミヨシノボリ R. sp. OM (琵琶湖流入河川+コアユ放流河川)、クロダハゼ R. kurodai (関東平野)、 カズサヨシノボリ R. sp. KZ (房総丘陵)、ヨシノボリ属の1種 (その他の地域の旧トウヨシノボリ)の種に分類された。
ルリヨシノボリ R. mizunoi Suzuki, Shibukawa & Aizawa, 2017[5]
正式な記載以前にはR. sp. CO(COは CObalt type の略)と呼ばれていた。和名は頬に小さな青い点があることに由来する。成魚の全長は10cmを超え、オオヨシノボリと同じくらいの大きさになることもある。急流を好み、分布地は各地に点在する。
ヒラヨシノボリ R. sp. DL
DLとは Depressed Large-dark type の略。和名は流れの速い川に適応して平たい体をしていることに由来する。
アヤヨシノボリ R. sp. MO
MOとは MOzaic type の略。他の何種類かのヨシノボリの持つ色彩的特徴をモザイクのように持っていることに由来する。頬には瑠璃色の点が入る。繁殖期の雌は腹部が青みを帯びる。
アオバラヨシノボリ R. sp. BB
BBとは Blue Belly medium-egg type の略。一生を淡水で過ごすが、卵の大きさがカワヨシノボリと稚魚が海に降りるタイプのヨシノボリとの中間の大きさをしているため、キバラヨシノボリとともに中卵型と呼ばれていた。抱卵した雌の腹部が青くなることが和名の由来。沖縄島北部のみに分布する種。勾配の緩やかな水量の多い河川の淵を好んで生息する。比較的大規模な生息地が2箇所あったが近年のダム建設により1つは個体数が激減、もう1つもダムが完成し生息数の減少は時間の問題となった。グッピー等の外来生物の侵入や乱獲も、本種の減少に拍車をかけており、人間活動によって近々の絶滅が危ぶまれている種の1つである[6]絶滅危惧IB類 (EN)環境省レッドリスト
キバラヨシノボリ R. sp. YB
YBとは Yellow Belly medium-egg type の略。琉球列島に生息。一生を淡水で過ごすが、卵の大きさがカワヨシノボリと稚魚が海に降りるタイプのヨシノボリとの中間の大きさをしているため、アオバラヨシノボリとともに中卵型と呼ばれていた。抱卵した雌の腹部が黄色になることが和名の由来。河川環境の改変、グッピーパールダニオソードテールブルーギル等の外来生物の侵入、乱獲等により存続が懸念されている[6]絶滅危惧IB類 (EN)環境省レッドリスト
オガサワラヨシノボリ R. ogasawaraensis Suzuki, Chen and Senou, 2011
小笠原諸島に生息する両側回遊魚。頬に朱色の点が入り、腹部は黄色。体の横に黒い大きな斑点が並び、尾鰭のつけ根に2個の黒点が垂直に入る。河川環境の改変・生息地の少雨化・カワスズメ等の外来生物の侵入・遺伝的多様性の喪失などにより絶滅の危機に瀕している[7]絶滅危惧IA類 (CR)環境省レッドリスト
トウカイヨシノボリ R. sp. TO
TOとは TOkai type の略。東海地方に生息している。全長4cmほどの小型種で、頭部の前鰓蓋管が見られない。ため池・それらにつながる水路・川岸の止水域で一生を過ごす。平野部の池沼の埋め立て・オオクチバスの侵入・トウヨシノボリやビワヨシノボリとの交雑などの要因で生息状況が悪化している[8]準絶滅危惧(NT)環境省レッドリスト
ビワヨシノボリ R. biwaensis Takahashi and Okazaki, 2017[9]
正式な記載以前にはR. sp. BW(BWは BiWa lake type の略)と呼ばれていた。琵琶湖固有種で、全長4cmほどの小型種。頭部の背面には鱗がない。テンプレート:情報不足
シマヒレヨシノボリ(新標準和名提唱) R. sp. BF
BFとは Banded Fin の略。広島県・岡山県・兵庫県・大阪府・奈良県・和歌山県・愛媛県・香川県・徳島県から採集された、全長4cmほどの小型種。第1背鰭は雌雄とも伸長しない。尾鰭には横縞が入って、雄の尾鰭下部に赤色斑が見られる。池や沼・ワンドなどの止水域で泥底である所を好む。一生を淡水域で過ごす[8][10]

脚注

  1. 鈴木寿之ほか「トウヨシノボリ縞鰭型の再定義と新標準和名の提唱」、『大阪市立自然史博物館業績第418号』、2010年、1頁。
  2. 鈴木ほか(2010)、1-14頁。
  3. 鈴木寿之・陳義雄「田中茂穂博士により記載されたヨシノボリ属3種」、『大阪市立自然史博物館業績第424号』、2011年、9-24頁。ならびに、MJP van Oijen, T Suzuki, IS Chen (2011) .“On the earliest published species of Rhinogobius. With a redescription of Gobius brunneus Temminck and Schlegel, 1845”. J Natl Taiwan Mus, 64:pp.1-17.
  4. Suzuki, Chen and Senou (2011) . Journal of Marine Science and Technology 19(6):pp.693-701.
  5. Toshiyuki Suzuki, Koichi Shibukawa & Masahiro Aizawa (2017). “Rhinogobius mizunoi, A New Species of Freshwater Goby (Teleostei: Gobiidae) from Japan”. Bull. Kanagawa prefect. Mus. (Nat. Sci.) 46: 79-95. http://nh.kanagawa-museum.jp/files/data/bull46_79_95_suzuki.pdf . 2017閲覧.. 
  6. 6.0 6.1 立原一憲「琉球列島の中卵型ヨシノボリ属2種:島嶼の河川で進化してきたヨシノボリ類の保全と将来」、『魚類学雑誌』第56巻第1号、2009年、70-74頁。
  7. 横井謙一・佐々木哲朗・鈴木寿之「オガサワラヨシノボリ:海洋島における淡水生態系の保全に向けて」、『魚類学雑誌』第56巻第1号、2009年、67-70頁。
  8. 8.0 8.1 鈴木寿之・向井貴彦「シマヒレヨシノボリとトウカイヨシノボリ:池沼性ヨシノボリ類の特徴と生息状況」、『魚類学雑誌』第57巻第2号、2010年、176-179頁。
  9. Takahashi, Sachiko, and Toshio Okazaki (2017). “Rhinogobius biwaensis, a new gobiid fish of the “yoshinobori” species complex, Rhinogobius spp., endemic to Lake Biwa, Japan”. Ichthyological Research: 1-14. doi:10.1007/s10228-017-0577-4. 
  10. 鈴木ほか(2010)、7頁。

関連項目

参考文献

  • 瀬能宏・矢野維幾・鈴木寿之・渋川浩一『決定版 日本のハゼ』平凡社 ISBN 4582542360
  • 川那部浩哉・水野信彦・細谷和海編『山渓カラー名鑑 改訂版 日本の淡水魚』 ISBN 4635090213