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[[Image:México City at Night 2005.jpg|thumb|[[メキシコシティ]]の夜。空が照らされ明るくなっている]]
 
'''光害'''(こうがい、ひかりがい、{{Lang-en-short|light pollution}})とは、過剰または不要な[[光]]による[[公害]]のことである。夜空が明るくなり、[[天体]][[観測]]に障害を及ぼしたり、[[生態系]]を混乱させたり、あるいはエネルギーの浪費の一因になるというように、様々な影響がある。光害は、夜間も経済活動が活発な都市化され、[[人口]]が密集した[[アメリカ合衆国|アメリカ]]、[[ヨーロッパ]]、[[日本]]などで特に深刻である。
 
  
== 概要 ==
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'''光害'''(こうがい、ひかりがい、{{Lang-en-short|light pollution}})
[[File:BlackMarble20161km.jpg|thumb|right|200px|世界の夜の光(2016年)。人類の3分の1が「天の川が見えない明るい夜の地域」に居住している。]]
 
日本では、川崎市在住のアマチュア天文家川村幹夫により、「公害」の一種と捉え、敢えて同じ発音を持つ「光害(こうがい)」と命名され、この用語が広まった。最近では「公害」と発音が同じでまぎらわしいとの指摘から現在は「ひかりがい」の呼称が用いられる事が多い。
 
  
上記以外にも、昼間、ビルの窓ガラスに太陽光が反射して生じる影響についても、[[自動車]]の[[安全運転]]などに支障をきたすことなどにより、一種の光害とされる<ref>[http://www.pref.aichi.jp/cmsfiles/contents/0000021/21890/casbee3-2-3-2.pdf CASBEEあいち] 3.3 光害の抑制 - 3.3.2 昼光の建物外壁による反射光(グレア)への対策 愛知県</ref>。
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夜間に照明器具から発せられる光のなかで、明るく照らす目的の範囲以外に漏れた光が及ぼす悪影響のこと。「こうがい」とも発音されていたが、公害と区別するため「ひかりがい」が一般的になった。都市化や交通網の発達などによる照明の増加、過剰な照明の使用がおもな理由で、そこから漏れた光は人や自然界に対して多くの障害を引き起こす要因になっている。たとえば、眩(まぶ)しさが周辺居住者へ不快感を与え、睡眠を妨害することがある。また、農作物や家畜の生育不良を招き、野生動植物の生育に対しても深刻な悪影響を及ぼし、害虫を誘引する原因ともなる。天体観測にも悪影響を与え、エネルギー効率の点からも無駄である。
  
== 光害の実状 ==
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 環境庁(現、環境省)では大気汚染や光害を考える機会をつくろうと、年2回、全国の自治体で学校などから夜空を見上げるイベント、スターウォッチング・ネットワーク(全国星空継続観察)を1988年度(昭和63)から実施(2013年度から休止)。1998年(平成10)には光害対策ガイドラインを策定し、2006年(平成18)改訂した。ガイドラインでは、照明の目的によって視認性や安全性の確保のために必要な明るさやその領域、漏れた光の影響などを明確に示すと同時に、場所に応じて時間別に照度を変えるなど、悪影響を減らす照明のあり方が提案されている。1980年代後半からは自治体で独自の光害の対策に乗り出す地域が増え、美しい星空を守る美星町光害防止条例(1989年、岡山県美星町、現、岡山県井原市)、佐治村の美しい自然と星空を守る宣言(1996年、鳥取県佐治村議会決議、現、鳥取市佐治町)、高山村の美しい星空を守る光環境条例(1998年、群馬県高山村)などがある。
イタリアの光害科学技術研究所(Light Pollution Science and Technology Institute)のファビオ・ファルキ(Fabio Falchi)らは、光害が地球上のどの地域でどのぐらい進んでいるかについて、数万箇所の地上観測点および地球観測衛星[[スオミNPP]]からのデータにより推測し、可視化している<ref>
 
{{cite journal
 
|last=Falchi
 
|first=Fabio
 
|date=10 Jun 2016
 
|title=The new world atlas of artificial night sky brightness
 
|journal=Science Advances
 
|volume =2
 
|issue =6
 
|doi =10.1126/sciadv.1600377
 
|url =http://advances.sciencemag.org/content/2/6/e1600377.full}}</ref>。それによれば、世界人口の83%、日本のほぼ全人口が明るい人工光のもとで暮らしており、天の川を肉眼で視認できない人口は全世界の1/3以上、欧州の60%、北米のほぼ80%に達している<ref>{{Cite news |title=日本人の7割、天の川見えず 人工光が影響 |newspaper=日経新聞(共同通信) |date=2016-06-14  |url=https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG14H5S_U6A610C1CR8000/ |accessdate=2017-09-11}}</ref><ref>{{Cite news |title=天の川見えない人口、欧州60%、北米80% |newspaper=ナショナル ジオグラフィック日本版 |date=2016-06-15 |author=文・Michelle Z. Donahue/訳・堀込泰三 |url=http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/a/061400036/ |accessdate=2017-09-11}}</ref>。
 
 
 
== 光害の影響 ==
 
=== 天体観測への影響 ===
 
[[Image:Light pollution country versus city.png|thumb|上が[[田舎]]の空、下が都市部の空。]]
 
光害の影響として最も代表的なのは、夜空が明るくなり、星が見えにくくなってしまうことである。自然のままの状態の夜空であれば、月明かりがない時には、肉眼で数千の星や、[[天の川]]が見える。しかし、光害が進んだ地域では、天の川が全く見えないのはもちろん、肉眼で見ることのできる星も極めて限られてしまう。現在の[[日本]]では、都市部で天の川を見ることはほとんど不可能と言ってよい。
 
<!-- (出典不明であり、天文教育関係者の間でも主要な論点にはなっていないのでコメントアウトします)「美しい星空が失われたことが、子供達の理科の力の低下にも繋がっている」(星が見えないので、今の子供達は普段から空を見るという習慣が無くなっており、太陽が西に沈むという事も理解していない・星や太陽の運行がいわゆる天動説であると思っている子供が増えた)という指摘もある。
 
-->
 
 
 
人工光により夜空が明るくなると、[[天文台]]での天体観測や、アマチュア天文家の天体[[観望]]や写真撮影([[撮像]])などの妨げとなることが多い。観測限界[[等級 (天文)|等級]]の上昇([[可視光]]の[[波長]]域では顕著であるが、[[赤外線]]の波長域ではほとんど問題にならない)、[[水銀灯]]などに由来する[[水銀]][[輝線]]の混入が代表的なものである。[[ナトリウム灯]]のオレンジ色の光の影響は、光量で見れば水銀に比べて軽微であり、観望や撮像の時には無視できる。[[分光]]観測においても、ナトリウム輝線は2本のみであることと([[ナトリウム]]それ自身を除いて)天体観測に重要な輝線と重ならないことにより、判別・分離が容易である。このため、天文台近辺で照明が必要な場合はナトリウム灯を採用することが多い。
 
 
 
=== 生態系への影響 ===
 
研究者の中には、光害が人間や[[動物]]、[[昆虫]]の行動に影響を及ぼしていると考えているものもいる。[[ウェルズリー大学]]で[[動物プランクトン]]について研究した[[マリアン・ムーア]]は、[[湖]]の周囲の光害が、[[魚]]が水面の[[藻]]を食べるのを妨げ、[[赤潮]]などの有害[[藻類ブルーム]]が魚を全滅させる原因になっていると考えている。また、光害は他にも生態系に影響を及ぼしている可能性がある。例えば、[[夜]]に開花する花を受粉させる[[ガ|蛾]]の行動の変化などである。多くの[[鱗翅目|鱗翅類]]学者や昆虫学者は、夜間の照明が、蛾の飛行能力を妨害していると考えている。[[鳥類]]にも同じ事が言えると考える学者もいる。
 
 
 
また、[[植物]]への影響も報告されている。明るい街灯のそばで夜間も長時間光を浴びつづける街路樹などには、紅葉の遅れなどの異常が起きることがある。これにより、植物の寿命が短くなってしまうことがある。[[イネ|稲]]にも、至近距離の明るい街灯から照らされつづけた場合、異常出穂や稔実障害が発生することが報告されている。
 
 
 
=== エネルギー資源への影響 ===
 
[[File:Akihabara in Tokio - 006.jpg|thumb|大量の光が空へ漏れることは、エネルギーの浪費である。]]
 
過剰な照明使用や、人の生活圏外である空に向けて光が漏れることは、エネルギーの浪費である。国際エネルギー機関による2006年の記者発表によれば、現状のまま不適切な照明利用が続けば2030年には照明に使われる電力は80%増加するが、適切な照明利用が行なわれれば2030年でも現在と同等の消費電力に抑えることができるという。
 
 
 
=== その他の影響 ===
 
街灯の過剰な明かりは歩行者や車の運転者に危険を及ぼすこともある。夜、街灯の光源から届く眩しい光([[グレア]]と呼ばれる)が目に入ると、目がくらんで、暗いものまで見えるように開いていた[[瞳孔]]が収縮してしまい、影になった暗い部分が見えなくなってしまい危険である。また、防犯のために家庭に取り付ける明かりも、設置の方法が不適切な場合、照明で照らされた明るい場所のみが見えて、その影に侵入者が隠れていると逆に侵入者が見えなくなり、防犯灯としての正しい効果が得られなくなる場合がある、というテスト結果もある。理屈としては、夜間に自動車を運転している際に、自車のライトで照らすことで歩行者の顔は視認できるが、対向車に乗っている人の顔は(たとえハイビームにしても)全く見ることができないのと同じである。これと同様の理由から、道路を横断している歩行者を、歩行者の向こう側にある強力な光源=対向車のライトが逆光になる事によって全く視認できなくなり([[蒸発#交通に関して|蒸発現象]])、車ではねてしまうという事故例がよく知られるが、これがグレアによる危険の典型例である。もちろん不適切な構造の街灯などでも同じ危険が生じるので、順次対策品と入れ替える動きが広まってきている。
 
 
 
== 光害の原因 ==
 
[[画像:Empire State Building Night.jpg|thumb|300px|[[ニューヨーク]]の夜景。雲がオレンジ色に染まる]]
 
光害の原因となる光は、家庭や会社、工場、街灯、スポーツ場の照明、[[パチンコ]]店のライトなど、様々なところから出されている。
 
 
 
光害の主な原因のひとつとして、不適切な形態の街灯が挙げられる。例えば、光源の周りをただのガラス球などで覆ったような街灯は、光があらゆる方向に発されるが、上の方への光は全く無駄になってしまう。また、横方向の光は、グレアとして、運転者などの目をくらませる原因となる。このような不適切な街灯の使用により、日本で1年間に無駄にされるエネルギーは、電気代に換算して少なくとも2000億円相当になるという試算もある<ref>[http://www2a.biglobe.ne.jp/~wakaba/local17.htm わかばだい天文同好会:グローブ型水銀灯は本当に適切な屋外照明であろうか?]</ref>。
 
 
 
日本では、イカ釣り漁船の[[漁火]]によって、海までもが非常に明るいときがある。漁火の光は、船の消費燃料の約半分という莫大なエネルギーを使って点されているが、上空にそのまま逃げたり、船の甲板や海面で反射されたり、吸収されたりして、大半が無駄になっている。海岸地域では、光害の原因の一つとなっている。
 
 
 
また、道路脇などによく[[自動販売機]]が設置されており、夜間明るい光を放っている。これも光害の原因の一部となる。
 
 
 
== 光害への対策 ==
 
他の[[公害]]と同様で、光害を防ぐのは非常に難しい。明かりを消せば、暗い空がすぐに戻ってくる。しかし実際には、光害は社会の工業化と深く関わっている。
 
 
 
街灯は、上部に反射材を伴う覆いを付けるなどして、不必要な方向への漏れ光を防ぐとともに、それらを適切に反射し、必要な方向だけに効率よく光が当たるようにした街灯への切り替えが求められる。また、使用光源に関しても、水銀灯に代表されるエネルギー効率の悪い<ref>{{Cite web|date=1996-10-06|url=http://www2a.biglobe.ne.jp/~wakaba/info52j.htm|publisher=International Dark-Sky Association|title=効果的な屋外照明|accessdate=2010-12-16}}</ref>光源の使用を避け、効率の良い光源の利用の促進が求められる。しかし、まだまだそのような対策が全くなされていない照明も多い。
 
 
 
光害は、屋外での不要な照明を消すなどしても防ぐことができる。例えば、スポーツ場などの照明を、人が中にいるときにだけつけるなどの対策をとれば、その分光害を防ぐとともにエネルギーを節約できることになる。また、より暗い照明を使うことで、グレアを軽減させることができる。
 
 
 
[[画像:Lightmatter la at night 001.jpg|thumb|300px|大量の光を使用する現代の大都市]]
 
アメリカでは、主な天文台の周囲に、直径数十kmの、光の放射が厳しく制限されている地域が設けられていることがある。[[1980年]]には、[[カリフォルニア州]]の[[サンノゼ]]で、近くにある[[リック天文台]]への影響を防ぐために、全ての街灯が[[ナトリウムランプ|低圧ナトリウムランプ]]に取り替えられた。[[アリゾナ州]][[ツーソン]]市では条例により市内全域に光源規制を行っている。特に、[[キットピーク国立天文台]](Kitt Peak National Observatory)の半径35マイル及びマウントホプキンス天文台(Mount Hopkins Observatory)の半径25マイルについては屋外照明として[[水銀灯|石英灯]](quartz lamp)、[[メタルハライドランプ]]を使用禁止としているほか、その他の光源についても完全遮光、あるいは[[上方集束]]の遮光を求めている。似たような事業が[[ハワイ州]]などでも行われている。
 
 
 
日本でも、1988年から、光害と[[大気汚染]]問題に関心を持ってもらおうと、全国の一般市民に参加を募り[[全国星空継続観察]]が開始された。また、[[1998年]][[3月30日]]には、環境庁(現[[環境省]])により、「光害対策ガイドライン」が策定された。
 
全国各地の自治体でも、パチンコ店などから発せられる無駄な[[サーチライト]]を禁止する[[条例]]が制定されている。[[岡山県]][[美星町]](現[[井原市]])で、[[1989年]][[11月22日]]に、美しい星空を守るための「光害防止条例」が制定されたのをはじめ、岡山県、佐賀県、熊本県では県としてサーチライト禁止条例を制定している。また、群馬県では[[群馬県立ぐんま天文台]]の設置を機に「星空憲章」を制定し、[[群馬県]][[高山村 (群馬県)|高山村]]では「高山村の美しい星空を守る光環境条例」を[[1998年]][[3月10日]]に制定している。
 
 
 
漁火の問題への対策としては、青色[[発光ダイオード]]を用いた[[集魚灯]]が試験中である。従来の[[メタルハライドランプ|メタルハライド灯]]を用いる集魚灯と比較して消費電力は1/50~1/100程度で、指向性が高いために必要外の方向への漏れ光も少なく、機器の寿命も長い。現段階では必ずしも従来のメタルハライド灯と同等の漁獲を得られるわけではないといった問題点もあるが、実用化されればイカ漁業者の経費の大幅削減、イカ漁船による二酸化炭素排出量の大幅削減、周辺地域の星空の改善といった効果が期待されている。
 
 
 
== 脚注 ==
 
<div class="references-small"><references/></div>
 
  
 
== 関連項目 ==
 
== 関連項目 ==
 
* [[天体観測]]
 
* [[天体観測]]
* [[天体観望]]
 
* [[サーチライト]]
 
* [[灯火管制]]
 
* [[ライトアップ]]
 
* [[イルミネーション]]
 
  
== 外部リンク ==
+
{{テンプレート:20180815sk}}
{{commons|Light pollution}}
 
* [http://www.env.go.jp/air/life/hikari_g/index.html 光害対策ガイドライン]
 
* [http://www.aml.gr.jp/kougai/ 光害防止委員会]
 
* [http://members.jcom.home.ne.jp/nkhoshi/amabun/hikarigai/slpa.html 光害の部屋]
 
* [http://www2a.biglobe.ne.jp/~wakaba/local12.htm 光害対策の要点]
 
* [http://www2a.biglobe.ne.jp/~wakaba/kougai.htm 光害の資料と対策]
 
* [http://hkescastro.blog82.fc2.com/ 浜松北高地学部天文班]
 
* [http://lightassess.matsushitas-lighting.com/index.html 光害評価サイト]
 
* [http://www.matsushitas-lighting.com/beans-lightpollution.html 松下進建築・照明設計室「住まいのあかり豆事典」]
 
  
 
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2018/8/27/ (月) 00:52時点における版

光害(こうがい、ひかりがい、: light pollution

夜間に照明器具から発せられる光のなかで、明るく照らす目的の範囲以外に漏れた光が及ぼす悪影響のこと。「こうがい」とも発音されていたが、公害と区別するため「ひかりがい」が一般的になった。都市化や交通網の発達などによる照明の増加、過剰な照明の使用がおもな理由で、そこから漏れた光は人や自然界に対して多くの障害を引き起こす要因になっている。たとえば、眩(まぶ)しさが周辺居住者へ不快感を与え、睡眠を妨害することがある。また、農作物や家畜の生育不良を招き、野生動植物の生育に対しても深刻な悪影響を及ぼし、害虫を誘引する原因ともなる。天体観測にも悪影響を与え、エネルギー効率の点からも無駄である。

 環境庁(現、環境省)では大気汚染や光害を考える機会をつくろうと、年2回、全国の自治体で学校などから夜空を見上げるイベント、スターウォッチング・ネットワーク(全国星空継続観察)を1988年度(昭和63)から実施(2013年度から休止)。1998年(平成10)には光害対策ガイドラインを策定し、2006年(平成18)改訂した。ガイドラインでは、照明の目的によって視認性や安全性の確保のために必要な明るさやその領域、漏れた光の影響などを明確に示すと同時に、場所に応じて時間別に照度を変えるなど、悪影響を減らす照明のあり方が提案されている。1980年代後半からは自治体で独自の光害の対策に乗り出す地域が増え、美しい星空を守る美星町光害防止条例(1989年、岡山県美星町、現、岡山県井原市)、佐治村の美しい自然と星空を守る宣言(1996年、鳥取県佐治村議会決議、現、鳥取市佐治町)、高山村の美しい星空を守る光環境条例(1998年、群馬県高山村)などがある。

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