太政官布告・太政官達

提供: miniwiki
2018/8/11/ (土) 00:33時点におけるAdmin (トーク | 投稿記録)による版 (1版 をインポートしました)
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
移動先:案内検索

太政官布告(だじょうかんふこく)・太政官達(だじょうかんたっし)とは、ともに太政官によって公布された明治時代初期の法令の形式である。

概要

太政官布告および太政官達は、いずれも、明治時代初期に最高官庁として設置された太政官によって公布された法令の形式である。

布告の区別については当初から厳密な区別はなかったが、1873年明治6年)に、各官庁および官員に対する訓令としての意味を持つものについては、その結文を「云々候條此旨相達候事」又は「云々候條此旨可相心得候事」とし、全国一般へ布告すべきものについては、「云々候條此旨布告候事」として、区別することにした(明治6年太政官布告第254号)。後年、前者が「太政官達」と、後者が「太政官布告」と呼称されるようになる。

しかし、実際の取扱いとしては、その後もそのような区別が厳密にされていたとは言い難く、一般国民を拘束する内容を持つものであっても太政官達の形式により定めたものもあった[1]

また、明治初期の国家意思形成の不統一性の問題もあり、規制対象を同じくする法令が何度も公布され、法令の名称についても、「法」、「条例」、「規則」、「律」などさまざまであった。また、太政官名義ではなくその下部組織の名義で公布された法令もあったが、効力関係に上下はなかったとされている。

1885年(明治18年)12月22日内閣制が発足したことに伴い、太政官制は廃止された。翌1886年(明治19年)2月26日には、法令の効力や形式を定式化するため、公文式(明治19年勅令第1号)が制定され、太政官布告・太政官達という法形式は廃止された。

明治憲法以後の効力

公文式施行以前に公布された太政官布告・太政官達は、以後に成立した法令に反しない限り、その効力を保有する。

1889年(明治22年)に公布された大日本帝国憲法(明治憲法)は、その第76条1項で「法律規則命令又ハ何等ノ名稱ヲ用ヰタルニ拘ラス此ノ憲法ニ矛盾セサル現行ノ法令ハ總テ遵由ノ効力ヲ有ス」と規定しており、従前の法令も、その内容が違憲でない限り有効なものとして扱われた。したがって、太政官布告・達が対象とした事項が明治憲法下で法律事項とされる場合(天皇に立法権があるが、帝国議会の協賛を必要とする)には法律としての効力を有し、命令事項である場合は命令としての効力を有するものとされた。

1946年昭和21年)に公布された日本国憲法には同憲法施行前の法令の効力に関する明文の規定はない。この点、第98条1項が「その条規に反する法律、命令……の全部又は一部は、その効力を有しない。」としており、その解釈につき、明治憲法下の法令については、法令の内容が違憲である場合にのみ無効とする見解(内容説)、内容が合憲であっても法令の形式が違憲であれば効力はなく、効力存続のためには別途特別の措置が必要とする見解(形式説)とに見解が分かれる。

現実の扱いとしては、明治憲法下で法律として制定されたもの(法律としての効力を有する太政官布告・達も含む。)は、内容が違憲でない限り効力が存続するものとして扱われる。一方、明治憲法下で命令として制定されたもの(命令としての効力を有する太政官布告・達も含む。)は、当該命令の対象が日本国憲法下でも命令事項である場合は引き続き命令としての効力を有するが、法律事項である場合は原則として1947年(昭和22年)12月31日限りでその効力が打ち切られ、必要なもののみ国会により再度制定された(日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律1条)。

ただ、前述した明治初期における国家意思形成の不統一性の問題や、規制対象を同じくする法令が何度も公布されたこともあり、布告・達が後の法令で明示的に廃止されなかった場合は、後に、内容が矛盾する法令が制定されたとの解釈により効力を失ったのか否か疑義が生じたものもある。

現行法令としての効力があると解されているもの

2014年平成26年)現在、現行法令としての効力を有すると解される太政官布告・太政官達は、法令データ提供システムには11件、日本法令索引本編には9件が掲載されている。ただ、効力が存続しているか否か解釈が分かれるものもあるため、掲載されている布告・達には若干違いがある[2]

現行法令としての効力があると解されている太政官布告・太政官達
題名/
件名
法令番号 内容 旧憲法下の効力の形式 現行の効力の形式 法令データ提供システム(総務省行政管理局)における取扱い 日本法令索引
(国会図書館)
における取扱い
判例における取扱い
改暦の布告 明治5年
太政官布告
第337号
太陽太陰暦(旧暦、天保暦)から太陽暦(新暦)への改暦を定めた詔書を公布したもの。グレゴリオ暦の導入を目的としたが、グレゴリオ暦の重要な要素である「西暦の年が、100で割り切れて、かつ400で割り切れない年は閏年としない。」というルールが脱落していたことが後に判明した。このため、閏年に関する件(明治31年勅令第90号)により不備が補われた。
[3]

[4]
政令・勅令 現行法令 確認できない
絞罪器械図式 明治6年
太政官布告
第65号
死刑の執行に使用する器械の形状を定めたもの。

政令・勅令 現行法令 最大判昭和36年7月19日刑集15巻7号1106頁[5]が、現行の法律としての効力を肯定。
勲章制定の件[6] 明治8年
太政官布告
第54号
栄典の一種である勲章について定めたもの。

[7]
政令・勅令 現行法令 確認できない
不用物品等払下のとき其管庁所属の官吏入札禁止の件 明治8年
太政官達
第152号
国有財産の払い下げにおいて、その所管官庁に所属する公務員による入札を禁じたもの。国有財産法16条に類似の規定がある。

政令・勅令 実効性喪失 確認できない
裁判事務心得 明治8年
太政官布告
第103号
裁判の際の法源の適用原則などを明らかにしたもの。刑事に関する事項が失効していることは争いはないが、民事に関する事項について現在でも効力が残っているか、残っているとしてその範囲等については争いがある。

政令・勅令(3条、4条および5条) 現行法令(ただし、〔明治前期編〕では、裁判所構成法(明治23年法律第6号)および民事訴訟法(明治23年法律第29号)により消滅とする) 東京地判平成14年8月27日(平成9(ワ)16684)では、条理は補充的にのみ法源となることについて、「裁判事務心得3条参照」とされている。
大勲位菊花大綬章及副章製式の件 明治10年
太政官達
第97号
大勲位菊花大綬章および副章の製式を規定したもの。

[8]
政令・勅令 現行法令 確認できない
刑法 明治13年
太政官布告
第36号
現行刑法(明治40年法律45号)の制定に伴い廃止された、いわゆる旧刑法。刑法施行法(明治41年法律第29号)により、公選の投票を偽造する罪に関する規定(旧刑法233条から236条まで)が当分の間は効力を有するものとされているほか(刑法施行法25条)、附加刑としての剥奪公権・停止公権の内容に関する規定(旧刑法31条、33条)はこれらの規定があるために人の資格に関し別段の規定を設けていない場合については人の資格に関し刑法施行前と同一の効力を有するとされている。公選の投票を偽造する罪に関する規定については公職選挙法の適用を受けない公選の選挙に適用される。

政令・勅令(31条、33条、233条から236条まで) 現行法令として一部有効 最大判昭和24年4月6日刑集3巻4号456頁が、旧刑法234条(公選投票賄賂)の現行の法律としての効力を肯定。これを踏まえ、最判昭和53年7月7日集刑211号637頁が、旧刑法235条(加重的投票偽造)および236条(公選投票詐偽報告)を適用。
褒章条例 明治14年
太政官布告
第63号
栄典の一種である褒章について定めたもの。

[9]
政令・勅令 現行法令 確認できない
官報の発行 明治16年
太政官達
第27号
官報を明治16年7月1日より発行するとしたもの。

政令・勅令 廃止法令。ただし、〔明治前期編〕によると平成18年現在効力を有する。 確認できない
爆発物取締罰則 明治17年
太政官布告
第32号
治安を妨げまたは人の身体財産を害する目的による爆発物の使用等を処罰するもの。

法律 現行法令 最二判昭和34年7月3日刑集13巻7号1075号[10]が、現行の法律としての効力を肯定。
海底電信線保護万国連合条約 明治18年
太政官布告
第17号
海底電信線保護万国連合条約への加入するとの勅旨を公布したもの。

政令・勅令 本編に掲載なし。〔明治前期編〕によると平成18年現在効力を有する。 確認できない
外国勲章佩用願規則 明治18年
太政官布告
第35号
外国勲章を受けた者の佩用願に関する手続を定めたもの。

掲載なし[11] 本編によると日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律1条に基づき、1947年(昭和22年)12月31日限り失効。〔明治前期編〕によると平成18年現在効力を有する。 確認できない

脚注

  1. ただし、1869年の版籍奉還以前にに対して出された指示は全て「太政官達」である。これは、幕藩体制においては、藩(藩主)が自己の所領内の版(土地)と籍(人民)を支配する唯一の公権力であり、公儀江戸幕府→明治政府)は藩に対しては命令を出来てもそこに属する藩士(陪臣)・領民に対して直接命令できる権限を有していなかったため。諸藩に命令を強制できるだけの直属の軍事力もなかった(戊辰戦争官軍は全て諸藩連合軍)ため、当時の太政官は緩やかな「太政官達」の形式で藩に要請し、その内容を藩が改めて自己の藩士・領民に対して下命する形式を取った。版籍奉還によって明治政府は初めて諸藩の藩士・領民に対して法令を直接下せる権限を得た。
  2. 不用物品等払下ノトキ其管庁所属ノ官吏入札禁止ノ件(明治8年太政官達第152号)は、法令データ提供システムでは現行法令に挙げられているものの、日本法令索引では廃止法令に挙げられている。また、外国勲章佩用願規則(明治18年太政官布告第35号)は、法令データ提供システムでは挙げられておらず、日本法令索引でも昭和22年法律72号1条により昭和22年12月31日限りで失効とされているものの、日本法令索引〔明治前期編〕では平成18年現在においても効力を有するとされている。
  3. 閏年に関する件(明治31年勅令第90号)により実質的に改正されている。
  4. 旧憲法下では勅令としての効力を有するものとして取り扱われ、かつ、現行憲法下において法律としての効力を付す特段の措置がとられていないことから。
  5. 判例検索システム、2017年3月12日閲覧。
  6. 勲章従軍記章制定の件等の一部を改正する政令(平成14年政令第277号)による改正(2003年5月1日施行)までは「勲章従軍記章制定の件」
  7. この行政解釈に従い、勲章従軍記章制定の件等の一部を改正する政令(平成14年政令第277号)1条によって改正されている。もっとも、憲法学者の間では、栄典の授与は日本国憲法の下では法律事項であるとして、違憲ではないかとする見解も有力であり、この見解によれば、日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律1条に基づき、1947年(昭和22年)12月31日限り失効したと解される。
  8. この行政解釈に従い、勲章従軍記章制定の件等の一部を改正する政令(平成14年政令第277号)2条によって改正されている。もっとも、憲法学者の間では、栄典の授与は日本国憲法の下では法律事項であるとして、違憲ではないかとする見解も有力であり、この見解によれば、日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律1条に基づき、1947年(昭和22年)12月31日限り失効したと解される。
  9. この行政解釈に従い、褒章条例の一部を改正する政令(昭和30年政令第7号)および褒章条例の一部を改正する政令(平成14年政令第278号)によって改正されている。もっとも、憲法学者の間では、栄典の授与は日本国憲法の下では法律事項であるとして、違憲ではないかとする見解も有力であり、この見解によれば、日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律1条に基づき、1947年(昭和22年)12月31日限り失効したと解される。野中俊彦ほか『憲法II 〔第4版〕』(有斐閣)202頁〔高橋和之〕、宮沢俊義著・芦部信喜補訂『全訂 日本国憲法』(日本評論社)137頁参照。
  10. 判例検索システム、2017年3月12日閲覧。
  11. 法務大臣官房司法法制調査部編集による『現行日本法規』では、日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律により失効した法令として扱われている。

関連項目

外部リンク