奄美方言

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奄美方言(あまみほうげん)または奄美語(あまみご)は、琉球語(琉球方言)の内、鹿児島県奄美群島奄美大島を中心とした地域で話される方言(言語)の総称である。広義には奄美群島全域の方言を指す。狭義には、このうち奄美大島加計呂麻島徳之島喜界島北部などで話される方言を指し、喜界島南部、沖永良部島与論島で話される方言は沖永良部与論沖縄北部諸方言として分けられる。狭義の奄美方言は奄美徳之島諸方言(あまみとくのしましょほうげん)とも言う。以下では狭義の奄美方言について扱う。

2009年2月にユネスコにより消滅危機言語の「危険」(definitely endangered)と分類された[1][2]

下位区分

ファイル:Ryukyuan dialects map.png
奄美方言は琉球語の最北部に位置する。

音韻

奄美大島・徳之島では、i、ï、u、e、ë、o、aの7母音体系、またはこのうちëを欠いた6母音体系を持つ。日本語本土方言のoがuになって元々のuと統合している。また日本語のeは中舌母音ïになって、iとの区別を保っている。ëは連母音の融合により成立した音だが、個人により、地域によりeに変化しており、特に喜界島北部でこの傾向が進んで6母音となっている。(以下、iと区別するために中舌母音ïは赤字で示す。)

喜界島では北部の小野津・志戸桶には中舌母音ïがあるが、南部ではiになっており、i、u、e、o、aの5母音体系である。この5母音体系は、沖永良部与論沖縄北部諸方言と同じものである。

奄美大島南部(瀬戸内町)では、語中・語尾の狭母音が脱落する現象が盛んで、p、t、k、r、c、s、mは子音だけで拍を成すことができる[6]。(与路方言での例)[ʔikuts](いくつ)、[ʃipsa](渋い)[7]

奄美方言では母音・半母音の前で声門破裂音ʔの有無が弁別される。また無声の破裂音破擦音に、有気音と無気喉頭化音との区別がある。多くの場合、日本語のイ段・ウ段の子音が変化して喉頭化し、ア段・エ段・オ段の子音との区別が保たれている。奄美大島北部方言では喉頭化したmʔ、nʔがある。

カ行の子音は、奄美大島・徳之島ではkあるいはkʔであり、キ→チの変化は起こらない。日本語のカ・ケ・コに対応する拍が有気音のk、キ・クに対応する拍が無気喉頭化音のkʔとなっている。一方、奄美大島北端の佐仁および喜界島では、語頭のカ・ケ・コに対応する拍の子音はhに変化しており、沖永良部与論沖縄北部諸方言と軌を一にする。さらに喜界島南部ではキはtʃiまたはtʃʔiに変化している[8]。キ→チの変化は、北琉球の中では沖永良部島東部や沖縄中南部方言でも起きている。一方語中では、カ・ケ・コの子音は、奄美方言全体でhまたはx(無声軟口蓋摩擦音)に変化するか脱落する傾向にある。例えば大和村思勝で[taxasa](高い)、[dëxë](竹)、与路島で[taːsa](高い)、[dëː](竹)など[9]

ハ行の子音は、奄美大島・徳之島ではほとんどがhかɸ(F)である。奄美大島の佐仁のみ、pを残している。喜界島では北部でp、南部でhまたはɸである[10]

与路方言および奄美大島北部の佐仁方言では、マ行音が変化して ̃w(鼻音化したw)または鼻母音が現れる。

文法

動詞

奄美諸方言の「書く」の活用形[11][12]
  志向形 終止形1 終止形2 連体形 命令形 禁止形
奄美大島北部
奄美市名瀬
kakoː kakjuri kakjun kakjun kakï kaku(na)
奄美大島北部
宇検村湯湾
kakoː kakjui kakjun kakjun kakï kaku(na)
奄美大島南部
瀬戸内町古仁屋
kakoː kakjur kakjum kakjun kakï kak(na)
徳之島
井之川
kaka kakjuri kakjun kakjun kakï kaki(na)
喜界島
志戸桶
kakoː
kaka
kakjui kakjun kakjun kakï kaku(na)

琉球語の動詞活用で特徴的なのは、「連用形+をり」から派生した活用形である。奄美方言での動詞の終止形には2つの形が併用されており、両者には微妙な意味の違いがある。「書く」を例にとると、「書きをり」に由来する形(kakjuri、kakjuiなど)と、「書きをりむ」(または「書きをむ」、「書きをるもの」か)に由来する形(kakjum、kakjun)である。徳之島では、これらのほかに連用形のみのkakiという形も文の言い切りに用いられ、この点で南琉球の宮古方言に似ている。連体形には、諸方言ともに「書きをる」に由来するkakjunという形が用いられる。[11][12]

「~しよう」という意味を表す志向形は、「書く」を例にとると、kakoːとkakaの2種類がある。kakoːは未然形に助動詞「む」の付いた「書かむ」に由来する。kakaは「書かむ」に由来するという説と、未然形単独の「書か」に由来するという説がある。命令形は、諸方言ともにkakïで、「書け」にさかのぼる。禁止形は、kaku(na)またはkak(na)で、これらは「書く(な)」に由来するが、徳之島井之川の禁止形kakiは、連用形に由来する。[11][12]

次に奄美大島の瀬戸内町古仁屋と徳之島の井之川の「書く」の全活用形を示す[13]

瀬戸内町古仁屋方言
  志向形 未然形 条件形 命令形 禁止形 連用形 連体形1 終止形1 終止形2 連体形2 du係結形 準体形 接続形
書く kakoː kaka kak kakï kak kaki kak kakjur kakjum kakjun kakjur kakju katʃi
主な接辞 m(否定)
z(否定)
sjum(せる)
rïm(れる)
ba(条件)
ba na busja(たい)
du(ぞ)
ga(に)
m(も)
gadii(まで)
had(はず)
mï(か。疑問)
徳之島井之川方言
  志向形 未然形 命令形1 命令形2 禁止形 連用形 終止形1 終止形2 終止形3 連体形 du係結形 準体形 接続形 条件形
書く kaka kaka kakï kakë kaki kaki kaki kakjuri kakjun kakjun kakjuru kakju katsï katsïka
主な接辞 n(否定)
da(否定)
sun(せる)
run(れる)
na tʃahan(たい)
ba(否定)
gatʃana(ながら)

形容詞

奄美方言の形容詞は、古い語幹に「さあり」の付いた形から派生してできている。奄美方言では、動詞と同じように形容詞の終止形にも2種類の形があり、一つは「高さあり」系、もう一つは「高さありむ」系である。「高さあり」に由来する終止形は、瀬戸内町古仁屋でtahasar、徳之島の井之川でtaːhari、宇検村湯湾・喜界島志戸桶でtaːsaiとなっている。「高さありむ」に由来する終止形は、古仁屋でtahasam、湯湾でtaːsaːn、志戸桶でtaːsan、井之川でtaːhanとなっている。連体形は「高さある」にさかのぼり、古仁屋でtahasan、湯湾でtaːsaːn、志戸桶でtaːsan、井之川でtaːhanとなっている。[14]

連用形は、「高く」にさかのぼり、古仁屋でtahak、湯湾・志戸桶・井之川でtaːkuとなっている。[14]

奄美大島の瀬戸内町古仁屋方言と、徳之島の井之川方言の「高い」と「珍しい」の活用を示す[15]

瀬戸内町古仁屋方言
  未然形 連用形 条件形 終止形1 終止形2 連体形 du係結形 準体形 接続形
高い tahasara tahak tahasar tahasar tahasam tahasan tahasar tahasa tahasatï
珍しい mïdraʃara mïdraʃak mïdraʃar mïdraʃar mïdraʃam mïdraʃan mïdraʃar mïdraʃa mïdraʃatï
主な接辞 ba(条件) najur(なる)
du(ぞ)
ba(条件) m(も)
si(で)
tu(と)
徳之島井之川方言
  連用形 終止形1 終止形2 連体形 du係結形 準体形 接続形 条件形
高い taːku taːhari taːhan taːhan taːharu taːha taːhati taːhatika
珍しい mïdzïraʃiku mïdzïrahari mïdzïrahan mïdzïrahan mïdzïraharu mïdzïraha mïdzïrahati mïdzïrahatika

文例

『琉球方言文法の研究』より、瀬戸内町古仁屋方言の文例。

  • ʔura ja katʃi m wan na kaka m(君は書いても私は書かない)
  • wa ga kak gadiː ʔarrja koː mta(私が書くまで彼は来なかった)
  • tahasan mun na kwëːkirja m(高いものは買えない)

他の方言群

北琉球方言
南琉球方言(先島方言群)

関連項目

脚注

  1. 消滅の危機にある方言・言語,文化庁
  2. 八丈語? 世界2500言語、消滅危機 日本は8語対象、方言も独立言語 ユネスコ”. 朝日新聞 (2009年2月20日). . 2014閲覧.
  3. 3.0 3.1 中本(1976)353頁。
  4. 4.0 4.1 中本(1976)347頁。
  5. 中本(1976)336-337頁。
  6. 飯豊ほか(1984)127頁。
  7. 中本(1976)354頁。
  8. 中本(1976)338頁。
  9. 中本(1976)355頁。
  10. 中本(1976)338頁。
  11. 11.0 11.1 11.2 内間(1984)「動詞活用の通時的考察」
  12. 12.0 12.1 12.2 名瀬方言については、飯豊毅一・日野資純・佐藤亮一編『講座方言学 10 沖縄・奄美の方言』国書刊行会、1984年、64頁。
  13. 内間(1984)「動詞活用の記述的研究」
  14. 14.0 14.1 内間(1984)「形容詞活用の通時的考察」
  15. 内間(1984)「形容詞活用の記述的研究」

参考文献

  • 内間直仁(1984)『琉球方言文法の研究』笠間書院
  • 中本正智(1976)『琉球方言音韻の研究』法政大学出版局
  • 飯豊毅一・日野資純・佐藤亮一編(1984)『講座方言学 10 沖縄・奄美の方言』国書刊行会

外部リンク

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