遅れネット

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遅れネット(おくれネット)とは、放送番組を、例えばそれを制作した放送局(発局)以外の放送局でも放送する(ネットする)時に、発局と同日・同時刻に放送するのではなく、発局の放送から数十分 - 数日、場合によっては数週間から数年の遅延を以って放送することである。つまり、ある番組がA地点で放映され、その時刻よりt分[1]が経過した後にB地点で放映されるならば、A地点からB地点までt分以内に移動することができれば、同じ番組を複数回視聴することができる。

概要

遅れネットに対し、発局とネット局で同時に放送すれば同時ネットである。発局と同日・同時刻だとしても番組の内容が違えば同時ネットではない。極稀にだが、発局より早い先行ネットもある。遅れネットと先行ネットを合わせて時差ネットと言う。

また、必ずしもネットの場合に限らず時差放送とも言う。ディレイ放送遅延放送とも言うが、これには、(本放送と遅延放送の間ではなく)撮影と放送の間に遅れがある場合、つまり、生中継風の収録放送や、生放送の際にトラブル防止のため数秒から数分遅らせて放送することも含む。

遅れネットの場合、「この番組は○月○日に(制作局の放送局名)で放送されたものです」旨の断りを示すテロップを表示することがある[2]

遅れネットの場合は、同時ネット局とは放送時間帯が異なる場合も多々あるため[3]、番組によっては遅れネット局では放送時間帯を反映させたセリフや映像を差し替えるケースもある(お詫び放送で見られる)。

発局とは異なる系列のネット局で遅れネットが実施される場合もある。当該地域に系列局が存在しない場合に多く見られるが、中には当該地域に系列局が存在するにも関わらず別系列の局で実施される場合もある。

遅れネット・遅れ放送の目的

編成の独自性

キー局とローカル局

日本の民間放送ネットワークは、いわゆるキー局ローカル局との上下関係によるものと見られがちであるが、日本では、経営の異なる放送事業者(各放送局)は互いに対等であり、あくまでも、放送事業者同士の契約(業務協定)によって成立しているものがネットワークである。すなわち、基本的に各放送局は独立した存在であり、基本協定(ネットワーク基本協定)においては、それぞれの自主編成権と放送免許条件は互いに尊重されることが大前提となっている。しかしながら現実問題として、東京都・大阪府と「それ以外の地域」の放送局では、特に番組制作能力などについて大きな差があることから、業務協定においては事実上、キー局とローカル局の主従関係が成立している。ただしこれについては民間放送業界内部でもネットワークのデメリット(ローカル局の個性が発揮されず、日本の放送の大原則である「地域放送」の存在意義そのものが問われるもの。)としてとらえられている[4]

ネットワークによる利便性は大きい(ナショナルスポンサーの全国展開要請に応じられる、番組制作費の回収や営業面で大きなメリットがあるなど。)ので、今日、ほとんどの放送局がいずれかのネットワークに属しているが、発局の番組を受けて同時刻に放送するか、あるいは放送しないのかといったことは、全て契約によるものであり、遅れネットもその契約の中に存在する[4]

具体的には、例えばキー局がその番組を放送する時間帯に、ローカル局の自社制作の番組が編成されたとき、あるいは複数の系列に属している放送局が一方の系列局の番組を受けて放送するといった編成がされたときにとられる方法で、裏送りのものを自社収録して後日放送する、あるいは番組素材を収録媒体として受け(テープネット)、放送するといったものが、遅れネットになる。

NHKの地方局

ネット放送とは元来、全く独立した放送局が同じ内容の放送をおこなうというものであるが、NHKの各地方局にも番組編成上、民放の「地域枠」「全国枠」に相当する枠がある。そのため、ごく稀にではあるが、地域枠を優先した結果、時差放送となることがある。

同一事業者の別チャンネル

同一放送事業者が同じ放送区域の複数チャンネルで同じ番組を放送する場合でも、各チャンネルの編成の独自性が強いと、時差放送となる。

NHKの総合教育の間で稀に見られたが、多チャンネル化により、衛星波地上波の間などで増えてきた。

再放送(狭義には同一チャンネル内)の一種とも言える。

時差の調整

複数のタイムゾーンにまたがる国で、全国同時ではなく同じ地方時に放送するためには、タイムゾーンごとに1時間ずつ放送時刻を遅らせることになる。

アメリカ合衆国の場合、本土には4つのタイムゾーンがあるので、1時間ごとに遅らせれば、東部標準時帯が最速で、他は1・2・3時間遅れとなる。ただし実際には、東部中部山岳部標準時帯では同時ネットし太平洋標準時帯でのみ遅らせるなど、さまざまなパターンがある。

タイムシフトチャンネル

複数のチャンネルで同一内容(個々の番組ではなくチャンネル全体)を時間差で放送することがある。本放送を見られない視聴者を想定しているが、家庭用録画機器の普及により、かつてより必要性は減っている。

多チャンネル化の進んだ国でよく行われている。日本では、地上デジタル音声放送試験放送のDRP大阪が4チャンネルを使って、2010年6月まで放送していた。

他言語での放送

報道番組など本来なら同時ネットしたい生放送番組を他言語で放送する場合、翻訳や権利上の都合で放送できない映像を編集するために1時間程度遅らせることがある。

日本ではNHKがBS1の海外ニュース番組で行われている。また、日本語国際放送のNHKワールド・プレミアムでも、オリンピック期間中はほとんどのニュース番組で、FIFAワールドカップ期間中は一部のニュース番組で権利上の都合で放送できない部分が多い映像を編集(部分削除)するために1時間程度配信を遅らせる措置がとられる(ただし、災害・地震・その他重大なニュースなどがあった場合は期間中であっても国内同時放送に変更される場合がある)。

キー局での放送終了後のネット開始の場合

アニメ・特撮・ドラマでは、ローカル局でのネット開始日(放送開始日)が、キー局での放送が終了した日より遅いケースもあり、遅れネットで放送することにより、以下のような不都合もある。

  • 正月バレンタインデークリスマスなど特定の季節を舞台にしたシナリオ(劇中の季節)と、放送される時期が一致しない。これは、キー局および同時ネットでの本放送に合わせることを前提にしているためで、遅れネットによる季節のずれや不一致が考慮されていない(クリスマスのシナリオが正月 - 春に放送されることもある[5])。
  • アニメの放送期間中に番組改編期をまたぎ、その時間帯がキー局でのバラエティ・ドラマ・ドキュメンタリーなどの放送枠と重複する場合、それらの同時ネットが優先されて打ち切りになることがあり、最後まで放送されないケースがある。

脚注

  1. 時間の単位であれば、分以外であっても同じ。
  2. 局によっては「○月○日に(制作局の放送局名)で放送されました」と表示される所もある。
  3. 例えば同時ネット局Aでは毎週土曜日18:00 - 19:00に放送しているが、遅れネット局Bでは毎週日曜日10:00 - 11:00に放送しているなど。
  4. 4.0 4.1 『放送ハンドブック:文化をになう民放の業務知識』 日本民間放送連盟編、東洋経済新報社、1992-03-16(原著1991-05-23)、第4刷 p248-251。ISBN 4-492-76085-7。
  5. 再放送で季節がずれる場合はこの限りではない。

関連項目


カテゴリ:放送