鉱石ラジオ
鉱石ラジオ(こうせきラジオ、英: crystal radio)は、鉱石検波器により復調(検波)を行うラジオ受信機で、特に真空管やトランジスタなどのいわゆる能動素子による増幅等を行わない無電源のラジオ(受信機)を指す。半導体エレクトロニクスの発達後は、点接触ゲルマニウムダイオードなど鉱石検波器に特性が似ており、扱いがより容易な素子なども使われている。
電源を特に使わず、空中の電波を受信したエネルギーだけでイヤホンが鳴る点など科学実験の素材として人気がある。ただし、実際にはごくわずかな音量で聞こえるものであることや、放送局から遠い場合などには良いアンテナとアースの入念な準備と、コイルから適切なタップの選択といった細かい調整が必要で、場合によってはディップメータ等の測定器の活用や、適宜RF乃至AFのアンプを併用する等の必要もあり、子供向け教材としてはマニュアルだけでは不十分になり易く無線技術を良く理解している指導者が必要である。
鉱石の整流作用
AM(振幅変調)受信機(ラジオ)のうち、構造が最も簡単なものは、
から構成される。このうち検波(復調)回路に鉱石検波器を用いたものが鉱石ラジオである。
振幅変調の電波を受信する場合、電波(振幅変調された高周波の電気信号)から音声信号(低周波の電気信号)を取り出す(包絡線検波による)には、電流を一方向にだけ流す整流作用を持つ素子に電気信号を通す必要がある。これに鉱石検波器を用いるものが鉱石ラジオである。
包絡線検波の後、教科書的には、高周波成分を除去するローパスフィルタが必要である。しかし、実際には聴取に利用する圧電イヤホンの特性から、ローパスフィルタなしでも聴取可能である。
鉱石ラジオはアンテナから受けた電波のみを電源として利用するため、検波によって得られる音声信号は非常に微弱である。そのためレシーバーも微弱な電流を音声に変えられるものが必要になる。鉱石ラジオが発明された当時はマグネチックレシーバーなどが主流だったが、後にロッシェル塩などの結晶を用いた圧電素子による圧電イヤホン(クリスタルイヤホン)が登場する。ロッシェル塩の潮解性などのために、現代では圧電イヤホンはセラミックによる圧電素子を用いたもの(セラミックイヤホン。これをクリスタルイヤホンと呼ぶこともある)を使用する。
使用される鉱石
他にも検波器として使用できる鉱石は多数ある
ゲルマラジオ
上記の鉱石の代わりに、ゲルマニウムダイオードを用いたラジオをゲルマラジオまたはゲルマニウムラジオと呼ぶ。ゲルマニウムダイオードは鉱石よりも小さく、安定した性能が得られる。ゲルマニウムダイオードが出現した当時は既に真空管が広く使用されており、さらに直後にトランジスタの普及によりトランジスタラジオに取って代わられたため、ゲルマラジオが実用されたのは限られた用途と期間であった。しかし、現在でも電子工作の入門用としては定番のテーマとなっている。
ゲルマニウムダイオードはシリコンダイオードに比べ順方向降下電圧が小さく(前者は0.2V程度、後者は0.7V程度)、微弱な信号でも検波できる特性がある。イヤホンを鳴らすだけの電圧が検出されれば聴けるため、「無電源ラジオ」として若干の需要がある。順方向降下電圧は、ダイオードの順方向(電子記号の矢印の向き)に電流が流れ始める電圧で、ゲルマニウムダイオードの方が低い電圧から電気を通し、シリコンダイオードはゲルマニウムダイオードよりも高い電圧でなければ流れ難いということ。つまり、ゲルマニウムダイオードはシリコンダイオードよりも電気抵抗が小さく微弱な電流を整流する特性がある。
ゲルマニウムダイオードの代用としては、ショットキーバリアダイオードを使用する、シリコンダイオードに順方向に0.4V程度のバイアスをかけて使用する(電源が必要となってしまうが)、などがある。
主な構造的分類
もっとも構造が単純なものは塹壕ラジオである。これは適当な板、木片(角材)、銅線、安全ピン、ゼムクリップ、カミソリ刃、エンピツ芯などでラジオを作るものである。銅線を角材に巻いてコイルを作り、検波器は安全ピンに縛り付けたエンピツの芯をカミソリに接触させるものである。チューニングはコイルの任意の場所に針金を接触させ対応する周波数に当たる巻き数を得る。このラジオは戦時中に塹壕に缶詰となったアメリカ兵が暇つぶしに作った有名なラジオである。
昭和中期に流行したμ同調式ゲルマラジオは、コイルの中に棒状のフェライトを出し入れして同調(チューニング)するラジオで、検波器はゲルマニウムダイオードが主流である。構造に無駄が無く、非常に工夫され小型のものが多く作られた。
現在では贅沢な部品を使って楽しむことができる。図にあるように、コイル、バリコン、ゲルマニウムダイオードを使用するものである。このゲルマニウムラジオの場合、図にあるような単純なものから、ゲルマラジオ専門のコミュニティーともなるとダイオードのブリッジ回路まで利用した非常に高性能なものまである。中には、変圧器(トランス)の昇圧を使用して電波の電力のみでスピーカーを鳴らしたり、とてつもない巻き数のコイルを内蔵したスピーカーの自作を行なう者まで様々。コイルやバリコンなどの部品に最高のものを使用するなど、その楽しみ方は多様で奥も深い。
出典
解説
- The Xtal Set Society, Dedicated to once again building and experimenting with radio electronics.
- Building a simple crystal radio.Field, Simon Quellen, Scitoys.
- Stay Tuned. Crystal radio plans and projects.
- "SWDXER" ¨The SWDXER¨ - with general SWL information and radio antenna tips.
- Build the Mystery Crystal set A simple and surprisingly effective and sensitive design.
- A website that has instructions on many different kinds of crystal radios, including a design only incorporating an earphone and a diode
- A website that lots of information on early radio and crystal sets
- Hobbydyne Crystal Radios History and Technical Information on Crystal Radios
- Ben Tongue's Technical Talk Section 1 links to "Crystal Radio Set Systems: Design, Measurements and Improvement".
- "Semiconductor archeology or tribute to unknown precusors". earthlink.net/~lenyr.
- Nyle Steiner K7NS, Zinc Negative Resistance RF Amplifier for Crystal Sets and Regenerative Receivers Uses No Tubes or Transistors. November 20, 2002.
- Crystal Set DX? Roger Lapthorn G3XBM
- Building a crystal radio set A guide to building a simple crystal radio receiver.
- Website which has a large selection of homebuilt crystal and tube radios built by Dave Schmarder.
- The Bose Institute
- Varun Aggarwal of MIT's page on Bose
特許
- アメリカ合衆国特許第766,840号 "Detector for Electrical Disturbances", 1904, Acharya Jagadish Chandra Bose
- アメリカ合衆国特許第836,531号 "Means for receiving intelligence communicated by electric waves", 1906. G. W. Pickard.
- アメリカ合衆国特許第876,996号 "Intelligence intercommunication by magnetic wave components", 1908. G. W. Pickard.
- アメリカ合衆国特許第956,165号, "Space communication", 1910. G. W. Pickard.
- アメリカ合衆国特許第1,206,911号, "System of radio communication", 1916. G. W. Pickard.
- アメリカ合衆国特許第1,224,499号, "Radio telegraphy and telephony receiver", 1917. G. W. Pickard.
- アメリカ合衆国特許第1,245,266号, "Radio telegraphy and telephony receiver", 1917. G. W. Pickard.
- アメリカ合衆国特許第1,249,482号, "Radio telegraphy and telephony receiver", 1917. G. W. Pickard.
- アメリカ合衆国特許第1,485,524号, "Crystal detector for radio communication", 1924. Hugo H. Pickron.(ed., uses "crystal radio" term in the patent.)
- アメリカ合衆国特許第1,575,067号,"Functioning parts of mineral type detectors", 1926. L. B. Lambert.
- アメリカ合衆国特許第1,648,521号, "Radio receiving set", 1927. A. Wikstrom.
- アメリカ合衆国特許第1,748,435号, "Crystal radio apparatus", 1930. H. Adams.
- アメリカ合衆国特許第1,825,070号, "Radio receiving set", 1931. W. J. Kayser.
- アメリカ合衆国特許第2,805,332号, "Subminiature portable crystal radio", 1957. Keith L. Bell.
関連書籍
- ぼくらの鉱石ラジオ - 小林健二著作 出版社:筑摩書房 発売日:1997年 ISBN 4480860452。鉱石ラジオについての詳しい解説や作り方など、図版も豊富に掲載されている。
関連項目
外部リンク
- 銀河通信社 - 「ぼくらの鉱石ラジオ」の著者小林健二の設計、監修の鉱石ラジオのキットを販売
- 「夜の住人」鉱石ラジオの項 - ラジオの設計で参考になるサイト
- XTALRADIO59's CRYSTALRADIO WEBSITE - 鉱石検波ラジオ(レプリカ)制作において秀逸
- NPO 法人:ラジオ少年 - 学校や一般が利用できる低価格で良質なラジオキット・パーツ販売
- 鉱石検波器 - 大正から昭和にかけて輸入販売されていた、Blende Crystal of Radio Corp N.Y. U.S.A.の鉱石検波器の説明と写真。