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テンプレート:食の安全 食中毒(しょくちゅうどく)とは、有害・有毒なや化学物質等毒素を含む飲食物を人が口から摂取した結果として起こる下痢や嘔吐や発熱などの疾病(中毒)の総称である。
分類
因子・物質による分類
食中毒は、その原因になった因子・物質によって5つに分類される。
に大別される。なお、食物アレルギーは食中毒に含まれない。
かつては、食中毒が発症した患者から健康な第三者へと感染が及ばないものといわれていた。しかし、食中毒患者が発生された後従前の対応方法で医療行為を行った結果、対応を行った医療関係者にまで食中毒患者と同じ疾病に罹患する事態が度々発生するようになった。国内外の報告を持ち合わせて調査した結果、O157 などの腸管出血性大腸菌やノロウイルスが患者から患者へ感染することが判明した。それ以降、多くの国々は「食感染症」として伝染病に準ずる対策がとられるようになった。
発症様式による分類
食中毒の直接の原因は、飲食物などに含まれていた有害・有毒な原因物質を摂取することによるが、その原因物質が直接に毒物として作用する場合と、原因物質が微生物であり、その増殖によって感染症を発症する場合に分けられる。
- 毒素型食中毒 - 原因物質が毒物として作用。
- 化学性食中毒や自然毒食中毒はすべて毒素型食中毒である。
- 感染型食中毒 - 病原体への感染による作用。
- 細菌性食中毒やウイルス性食中毒では、その原因病原体によってタイプが異なり、感染型食中毒を起こすものと、毒素型食中毒を起こすものがある。細菌性の毒素型食中毒の場合、原因病原体が食品中で増殖するとともに毒素を産生し、その食品を汚染することで食中毒の原因となる。この場合、増殖後に加熱などにより病原体を不活化しても、毒素が残っていれば食中毒が発生する。
- 中間型食中毒 - 細菌性食中毒では、病原体が消化管内で増殖する際に初めて毒素を産生するものがあり、生体内毒素型食中毒と呼ばれるが、これは感染型と毒素型の中間に位置する。
梅雨で高温多湿となる夏期に、最も食中毒の発生件数が多くなる。そのほとんどは細菌性食中毒である。しかしこれ以外の季節でも、冬期には貝のカキが原因とみられるノロウイルスが原因の食中毒が多く発生する。また、キノコやフグなどによる自然毒食中毒は、それぞれその食材の旬にあたる秋から冬にかけて多く発生する。
代表的な食中毒
食中毒には数多くの原因菌などがあるがその中の代表的なものを以下に示す。
2006年度は、患者数別では、ノロウイルス、カンピロバクター、サルモネラ属菌の順であり、この3種が8割を占めた{{#invoke:Footnotes | harvard_citation }}。
細菌性食中毒
毒素型
細菌産生毒素の生理活性による食中毒。食品摂取時点で細菌類が不活化していても発症するため、抗生物質は不効。毒素が熱分解に弱い場合には加熱により不活化する。
- 黄色ブドウ球菌 - おにぎり、すし、おつくり。皮膚常在菌が食品へ移行し食品表面で増殖、毒素を産生する。潜伏期間が短く1-5時間、耐熱性毒素のため調理加熱程度で不活化できない[1]。耐熱性毒素ST(エンテロトキシンの一種)による。
- ボツリヌス菌 - 発酵食品、いずし類、真空パック食品、キャビアの瓶詰め、ソーセージ。毒素型としては潜伏期間が長く、12〜36時間で症状が出る事が多い。ものが飲み込みにくくなったり、発音がうまくできなくなるなどの神経症状(筋肉が麻痺するため)を引き起こす。ボツリヌス毒素自体は熱分解しやすい。また酸性(pH 4.5以下)に保つことで毒素の生産を抑えることができる[2]。食中毒の初報告は独・腸詰め(ソーセージ)。
感染型
感染により体内増殖した細菌が病原性をもつことにより発症する。
- 腸炎ビブリオ - 夏期の未加熱魚介類、刺身、シラスなどから感染することが多い。調理器具などを介した2次汚染で他の食品が食中毒の原因になることもある。海水の常在菌で、食塩濃度0.5〜10%で生育。塩分の無い水道水などでは生存できない。海水温度が高いほど菌密度が高くなる[3]。発生ピークは6-10月。
- サルモネラ属菌(腸チフス・パラチフスは除く) - 内臓肉、鶏卵、鳥肉 -> 特に夏期の自家製マヨネーズ、アイスクリーム。
- カンピロバクター、カンピロバクター症 - 牛・豚・鶏肉、鶏卵、生乳、牛刺し、レバ刺し、馬刺し、生ユッケ。家畜・家禽類の常在菌であるため、その生食にリスクがある。特に鶏肉の加熱不十分が原因となることが多い。潜伏期間が2〜11日と長い[4]。近年、鶏肉の生食と関連するギラン・バレー症候群が注目されている。特に予後不良例が多いことが報告され、焼き鳥のレアを回避するよう注意喚起がなされている[5]。
- 病原性大腸菌 - 原因食品の傾向をつかみにくい。病原性を呈する大腸菌群全体を示す。→腸内での増殖、毒素産生をもつことから中間型に分類する諸家もいる。腸管出血性大腸菌O157(感染症法3類)がきわめて有名だが、感染症扱い。また、感染症にひきつづくベロ毒素(O111, O26他)による合併症TTP, 溶血性尿毒症症候群(HUS)も、用語としては一般的に「食中毒」として取り扱わない。接触感染することから、二次感染症との識別が極めて難しい。"「大腸菌」"
- リステリア属菌 - 食肉加工食品、生乳製品。潜伏期間は平均すると数十時間とされているが、患者の健康状態、摂取菌量、菌株の種類の違いにより発症するまでの期間は大きく左右されると考えられるため、その幅は数時間から数週間と長く、原因食品の特定が困難な場合もある。主に、胃腸炎症状。まれにインフルエンザ様症状。重篤な場合、脳脊髄膜炎などの神経系統症状。母子垂直感染による流産。
中間型
毒素型、感染型両方の中毒を起こす。
- ウェルシュ菌 - 学校給食、料理作り置きなど保冷=解凍サイクルに乗じて増殖する。加熱調理・煮込み課程において不活化を免れた芽胞が保冷サイクルにおいても生存し、解凍時の加熱によって食品内で増殖する。経口時までに活性量の芽胞・菌体量が確保されることにより体内に侵入、消化刺激から芽胞を形成するときにエンテロトキシンを生成し発症する。芽胞+, 耐熱性 潜伏期間8-24時間
- セレウス菌 - 土壌、水中、空気中など自然界に広く分布する。芽胞は100℃ 10分の条件でも不活化されず、加熱後においても芽胞を形成し体内に侵入、下痢・嘔吐等の発症にいたる。酸性では増殖しにくい[6][7]。
型不明
- エルシニア菌 - エルシニア属菌 (Yersinia) による食中毒をエルシニア感染症 (Yersiniosis) またはエルシニア食中毒という。おもに食中毒の原因になるのはYersinia.enterocoliticaである[8]。Y.enterocoliticaは海水中に生息する細菌だが、他にもいろいろな場所で生存できる。感染源は水、ミルク、魚介類、果物、野菜など[9]。28〜30℃が生育至適温度だが、0℃でも増殖できるものがある[8]。
ウイルス性食中毒
- ノロウイルス - ノロウイルス感染症を引き起こす小型のウィルス粒子の属名。例えばノーウォークウイルスなどがノロウィルス属に含まれる。直接ヒトからヒトに、また飲食物を介してヒトからヒトに感染する。潜伏期間は1〜2日で、激しい下痢と嘔吐が主な症状。感染性が非常に強い。老人ホームなど高齢者の集まる所で蔓延した場合、多数の死者を出しうる[10]。
- ロタウイルス - 抗原性によりA群からG群に分類され、ヒトに感染するのはA, B, C群である。A群は乳幼児下痢症の原因ウイルスとして重要。B群は成人に激しい下痢を引き起こす[11]。
- A型肝炎ウイルス
- E型肝炎ウイルス - 野生動物肉や狩猟肉(fr:gibier、en:game meat)喫食に起因する急性肝炎を起こすことがある[12]。
化学性食中毒
- アレルギー様食中毒
- ヒスタミンやアミン
- 発症例はマグロ、カジキ、サバが多く鮮度の落ちた魚、チーズ、発酵食品、腐敗した食品などが原因となる。また、キノコなどの食材自体の腐敗により生成される場合もある。
加熱調理用としてイカ、サバ、マグロ、ブリなどを常温で保管した場合、ヒスタミンが食物中に蓄積する[13]が、調理の加熱ではヒスタミンは分解されず[13]、摂食により発症する。ヒスタミンが原因物質となっているため、胃腸炎の他に頭痛、発疹などの症状を呈し[14]、発症までの時間は20分程度と短い場合もある。ヒスタミン生産菌のProteus morganiiなどにより汚染された魚(鮮度の落ちた魚)には多量のヒスチジンが存在し、このヒスチジンが脱炭酸化によりヒスタミンに変化する。サバでは温度5℃5日間の保存で、官能的に腐敗臭を感じない状態でも、ヒスタミン量が中毒の閾値をこえる場合もある[15]が、中毒症状を発生させる閾値(濃度)は、多数の変動要因があり明らかになっていない[16]。
- 発症例はマグロ、カジキ、サバが多く鮮度の落ちた魚、チーズ、発酵食品、腐敗した食品などが原因となる。また、キノコなどの食材自体の腐敗により生成される場合もある。
- ヒスタミンやアミン
自然毒食中毒
- 植物性自然毒
- 動物性自然毒
寄生虫食中毒
喫食した食物中に存在している寄生虫が体内で増殖、或いは体内を移動することによる
その他食中毒
- カビ毒( - カビが産生する毒素が原因となる食中毒で、消化器症状だけで無く発癌性、肝毒性、腎毒性、不妊、流産など様々な臓器に影響を与える。また、急性〜慢性まで様々な症状を呈する。
食中毒の発生
日本国内での食中毒事件の発生状況は、年間、患者数約2万人程度である。死者数はゼロか、多くても十数人であり、交通事故による死者数(年間4,000人〜5,000人)と比較しても非常に少ない。
日本の食品衛生法には食中毒が発生した場合の報告・調査・行政処分等が定められている。行政上の措置にとどまらず、刑事事件(業務上過失致死傷等)や民事訴訟(損害賠償請求訴訟)に至るケースもあり死亡時の賠償額は、高額になる事もある。
報告
- 食中毒患者等を診断し、又はその死体を検案した医師は、24時間以内に文書・電話・口頭により最寄りの保健所長にその旨を届け出なければならない(食品衛生法58条1項、食品衛生法施行規則72条)。
- 保健所長は医師から届出を受けたときその他食中毒患者等が発生していると認めるときは、速やかに都道府県知事等に報告する(食品衛生法58条2項)。
- 都道府県知事等は保健所長より報告を受けた場合に食中毒患者等が厚生労働省令で定める数以上発生し、又は発生するおそれがあると認めるときその他厚生労働省令で定めるときは、直ちに、厚生労働大臣に報告しなければならない(食品衛生法58条3項)。
調査
- 保健所長は医師から届出を受けたときその他食中毒患者等が発生していると認めるときは調査を行う(食品衛生法58条2項)。
行政処分
- 販売禁止命令
- 出荷停止措置
- 食品の回収命令・回収指示
- 飲食店に対する営業停止、営業禁止、営業許可取消し
- 給食施設に対する業務停止等
なお、食品衛生上の危害の発生を防止するため、食品衛生法違反者等(営業者名、施設名、所在地、食品名、行政処分の理由、行政処分の内容、病因物質)については都道府県等から公表される(食品衛生法63条)。
罰則
- 業務上過失傷害罪
- 業務上過失致死罪
- 食品衛生法違反
- 食品衛生法違反ほう助
- 製造物責任法違反
大規模な食中毒事件
日本
- 1925年 - 岐阜県高山で祭礼の会食から400人以上が集団食中毒を発症、9人が死亡。
- 1936年5月10日 - 浜松第一中学の運動会で配られた大福餅がサルモネラ菌に汚染、生徒とその家族2,244人が食中毒を発症し44人が死亡。
- 1942年3月20日 - 浜名湖で獲れたアサリの貝毒から大規模な食中毒が発生、4月4日に終息するまで334人が発症し144人が死亡(浜名湖アサリ貝毒事件)。
- 1946年 - サメのすり身が品質劣化によりプトマインを生成、これを原料としたはんぺんを食べた2,000人以上が発症。
- 1948年2月 - 食糧配給の大豆粉に黄色ブドウ球菌が付着、約800人が発症し2人死亡。
- 1950年10月21日 - 大阪府南部を中心に白子干しを食べた住民272人が下痢や腹痛を発症し、20人が死亡。発症者の糞便から腸炎ビブリオが分離され、原因菌として断定された。
- 1955年3月1日 - 東京都で児童1,936人が食中毒を発症。2日後に学校給食で供せられた脱脂粉乳で発症したものと判明し、製造元の雪印乳業で起きた製造設備の故障が原因と判明した(雪印八雲工場脱脂粉乳食中毒事件)。
- 1955年7月4日 - 横浜市立西前小学校で学校給食が原因と見られる食中毒が発生、学童700人以上が発症。
- 1963年 - 崎陽軒製造・販売の駅弁に黄色ブドウ球菌が付着、94人が発症。
- 1966年 - 生カキに付着していた病原性大腸菌による食中毒が12月から翌年1月にかけて多発、1,000人以上が発症。
- 1968年6月 - サルモネラ菌に汚染された薩摩揚げから岩手県・宮城県を中心として608人が発症、4人死亡。
- 1968年7月 - 北海道帯広市で学校給食に出された冷やし中華のタレがウェルシュ菌に汚染されたことから、教職員や生徒1,383人が発症。
- 1982年 - 北海道札幌市の西友清田店で、カンピロバクター・ジェジュニと病原大腸菌汚染された井戸水を使用したことで集団食中毒が発生、患者数は7751名にのぼり、当時の日本で最大級の被害となった[22]。
- 1984年 - 熊本県で製造された辛子蓮根が加工段階の滅菌の不充分と真空パックからボツリヌス菌に汚染、発症者は1都12県に及び11人が死亡。
- 1996年 - 5月28日に岡山県邑久郡邑久町(現瀬戸内市)で児童468人がO157を原因とする食中毒を発症し死者2人、7月13日にも大阪府堺市で学校給食から児童7,996人がO157に発症し3人が死亡した。O157による食中毒はこの年だけで発生件数179件・患者数14,488人・死者8人にまで達し、HACCPが注目される切っ掛けとなった。
- 2000年 - 雪印乳業が製造していた脱脂粉乳の製造プラントの故障から、同社製造の加工乳を飲んだ14,780人が黄色ブドウ球菌由来の毒素による食中毒を発症(雪印集団食中毒事件)。
- 2002年 - 宇都宮市の高齢者施設で調理室内の高温環境からO157が繁殖し、28人が発症し9人が死亡。
- 2011年 - 「焼肉酒家えびす」で供されていた牛肉ユッケなどを食べた客117人が腸管出血性大腸菌O111による食中毒を発症、24人が重症に陥り5人が死亡(ユッケによるO111集団食中毒事件)。
- 2012年 - 白菜の浅漬けが製造過程の消毒不充分からO157に汚染、高齢者施設の入居者など169人が発症し8人が死亡(白菜の浅漬けによるO157集団食中毒事件)。
- 2013年11月14日 - 学校法人香川栄養学園女子栄養大学坂戸キャンパス内で、同大「松柏軒」が運営するカフェテリア学生食堂にてノロウイルスが原因となり159人が発症した[23][24][25]。
- 2014年7月26日 - 静岡県静岡市で開催された安倍川花火大会において、露店で販売されていた冷やしキュウリを食べた客にO157を原因とする集団食中毒が発生。同年8月20日時点で508人が発症、うち115人が入院した[26]。
- 2017年2月17日 - 東京都立川市で同じ学校給食を食べた市立小学校7校の児童・教職員1098人が、刻み海苔に付着していたノロウイルスによる嘔吐・下痢を発症。
北米
- 1941年8月 - アメリカ合衆国からの帰船命令で日本に向かう途上の龍田丸で食中毒が発生、125人が発症し9人が死亡。
- 1974年 - ニュージャージー州でサルモネラに汚染されたアップルサイダーが原因で、200人が発症。
- 1977年 - ミシガン州のレストランで供せられたペッパーのピクルスがボツリヌス菌に汚染されていたことから、59人が発症。
- 1984年 - オレゴン州ワスコ郡でサルモネラによる食中毒で751人が発症。当初はサラダバーの野菜の汚染が疑われたが、翌年にバグワン・シュリ・ラジニーシ等の主催するコミューンを捜索した結果バイオテロだったことが判明(ラジニーシによるバイオテロ)。
- 1985年 - カリフォルニア州でメキシコチーズのケソ・フレスコがリステリアに汚染されていたことから大規模食中毒が発生、乳児や胎児を含めて52人が死亡。
- 1987年 - カナダ・プリンスエドワード島で養殖されていたムラサキイガイ(ムール貝)が原因で、ドウモイ酸中毒が発生。107人が発症し、うち4人が死亡・12人が重度の記憶障害に陥った。
- 1993年 - アメリカのハンバーガーチェーン「ジャック・イン・ザ・ボックス」で、ハンバーガーに使われていたビーフパティを生焼けのまま使用したことによって子どもを中心とした732人が腸管出血性大腸菌O157に感染し、うち4人が死亡した。(ジャック・イン・ザ・ボックスの大腸菌集団感染)
- 1998年 - アメリカ・サラ・リー社のデリカテッセンやホットドッグがリステリアに汚染、100人が発症・21人が死亡。
- 2008年 - カナダ・メープルリーフ社の製造したコールドミートがリステリアに汚染、57人が発症し23人が死亡。
- 2011年 - コロラド州で収穫されたマスクメロンがリステリアに汚染されていたことから集団食中毒が発生、全米で146人が発症し30人が死亡した。
欧州
- 2011年 - ドイツを中心として欧州全域で腸管出血性大腸菌O104による集団食中毒が発生、13ヶ国で43人が死亡(2011年の欧州における腸管出血性大腸菌感染事件)。
予防
細菌やウイルスによる食中毒を予防する三大原則[27] といわれているのは、以下の3つである。
- 付けない(清潔)
- 増やさない(迅速、冷却、乾燥)
- 殺す(加熱など)
多くの場合、原因病原体が増殖して食中毒を発症しうる状態となっていても味や臭いを変えないため、飲食の直前に安全を確認するのは困難であり、これらの予防策に頼らなくてはいけないのが実情である。
細菌やウイルス以外の原因による食中毒の予防策は、「誤食しない」ということにほぼ尽きる。どのようなものを食べてはいけないかは、古来からの経験則そして専門家や医療関係者などからの見聞によって各自において対応することになる。逆に、寄生虫による食中毒は、細菌による食中毒の予防原則の「付けない」と「殺す」を守ることで予防できる。
本節の以降の記述は、細菌やウイルスによる食中毒の予防に関するものである。
付けない
一般に、生の魚介類や肉類には食中毒の原因となる菌が多く付着している。これらの食材自身は、加熱殺菌して食べたり、あまり時間を置かずに食べるなどして食中毒を防止できるが、しばしば盲点となるのはこれらを加工調理した器具に付着した菌である。調理器具の洗浄が不十分であった場合、器具上で菌が増殖してしまい、次に加工する食材に毒素とともに付着してしまうことがある。また、菌が調理器具を経由して生で食べる食材に付着してしまうこともある。包丁の柄は洗い残しやすい部分である。
この問題を避けるためには、魚介類・肉類用の調理器具と、野菜など用の調理器具を分けるのが効果的である。特にまな板は一般家庭の調理においても、魚介類・肉用とその他用で分けることが強く推奨される。複数のまな板を準備するのが困難である場合、まな板の両面で使い分けるだけでも効果がある。集団給食の調理場などではこれを徹底するために、色違いのまな板を用いるなどの工夫がなされていることが多い。また、できるだけ生食の食材の加工を先に行ない、肉類は最後に切り刻むように心がけることも予防につながる。
調理器具とともに、手の洗浄も料理人にとっては重要である。糞尿には菌が極めて多数含まれているので、調理中にトイレに行った場合には必ず石鹸で手を洗わなくてはいけない。集団調理においては、着衣を着替えた上でトイレに行き、石鹸による洗浄の後に消毒用アルコールによる殺菌を義務づけているところも多い。
飲み物の容器
ペットボトル入りの飲み物の場合、直飲みする(飲み口に口を付けて飲む)と、口内の雑菌が飲み口に間違いなく付着するし、一旦口に入った飲み物がたとえ少量でもボトルに戻ってしまうことがあり、食中毒の原因になる可能性がある。常温の場合、その程度の雑菌が健康を害する条件に増殖するまでボトルを放置しておくケースはほぼ考えられないが、高温、長時間放置、飲む人の体力低下などといった悪条件が重なった場合、無視できない危険性が出てくる。また、ストローを使って飲むタイプの容器に入った飲み物の場合、ストロー内に吸い込んで口にまで達した飲み物が口を離した後にストロー内に残って容器に戻るという問題ある現象が頻繁に起こるため、すみやかに飲みきらない場合、直飲みするより不衛生である。
- インド飲み
インドでは回し飲みをする習慣がありながらも、それが食中毒の原因にはなっていない。これは、直飲みをせず、容器を高く掲げて口を付けないまま開けた口に飲み物を注ぐという、いわゆる“インド飲み”が、この地域に浸透しているからで、雑菌だらけの口と接触が無いという意味では極めて衛生的である[* 1]。他にも、共用の飲み物(誰でも自由に飲んでよいペットボトル入り飲料水など)があるが、現地の習慣によりインド飲みをすることが大前提になっている。
増やさない
食材を冷蔵・冷凍することは、原因体の増殖を抑えるのに非常に効果的である。一般には、10度以下で菌の増殖は鈍り、-15℃程度で増殖が停止するとテンプレート:誰2範囲。しかし、いずれも菌が不活化(死滅)するわけではない(実際、細菌研究者は実験に使用する菌を一般的な冷凍庫よりも低温で冷凍保存している。すなわち、あくまでも増殖が停止しているだけであって滅菌効果はない)。一度冷凍した食材でも解凍すれば菌の増殖は再開し、保存温度が十分に低くない場合にはゆっくりではあるが増殖は進む。家庭用の冷凍庫は冷却能力が低いことが多く、大きめの食材においては中心温度が十分に下がるまでにだいぶ時間がかかることがあり、その間に菌の増殖が進んでしまうことがある。加熱調理用の魚でも、調理の直前まで低温で保管し原因菌の増殖を防ぐ。
冷蔵庫に食材を大量に詰め込んだ場合、冷気の循環がうまく行かず、庫内といえども場所によっては十分に冷却されないということが発生する。一般には、最大容量の7割以上の食材を入れないことが、冷蔵庫の正しい使い方であるとされる。
高濃度の塩分には菌の増殖を抑える効果がある。しかし、効果が期待できるほどの濃度の場合、一般的にはそのまま食べるのには適さないので、梅漬けなどの少量を食べるもの以外では塩抜きをしてから食べることになる。また、黄色ブドウ球菌や腸炎ビブリオなどは好塩菌とも呼ばれ、比較的高濃度の塩分存在下でも増殖が可能であるため、これらの菌に対する効果は若干低い。リステリア菌では耐塩性が強く30%の塩分濃度でも生き抜くことが出来る。
細菌の増殖には水が欠かせないことから、乾燥させることは食中毒の予防になる。一部の食材を除いて、食材を完全に乾燥させることはできないので、この観点が重要になるのは調理器具である。調理器具を洗浄した後はすみやかに水分を拭き取り、湿気の少ない場所に置くことが推奨される。特に木製の器具は水分が浸透して乾燥しにくいので、引き出しの中などではなく風通しの良い場所に吊るすなどの工夫が必要になる。また、ふきんは食器を拭いた後よく乾くように、やはり風通しの良い場所に吊るさなければいけない。
酸(酢など)が存在すると増殖に至適な環境では無くなるので細菌の増殖が抑えられることが多い。特に生の魚介類に酢やレモン汁をかけて食べる料理はマリネと呼ばれ、世界中の魚介類が豊富な地域で食べられている。しかし、酸による制菌効果はそれほど高いものではない。腸炎ビブリオなど酸に弱い菌もあるが、一般的な食事に適した濃度の酸で不活化(殺菌)できる菌は少ない。しかし、日本酒、ワイン、焼酎程度のアルコール濃度では、一部の原因菌は不活化することはできない。従って、病原体の増殖防止あるいは滅菌(殺菌)目的でアルコール飲料を使用することは予防方法にはならない。
殺す(不活化)
細菌を不活化させるのに最も効果が高いのは、対象食物を加熱することである。食中毒の原因菌は、75度以上の環境で1分以上経つとほとんどが不活化する。大きな食材では食材の中心が75度以上に1分以上ならなくてはいけない。例えば、厚さ3cm程度のハンバーグを焼く場合、中心温度が75度以上になるまでに9分近くかかるという実験結果もある[28]。ただし75度1分という加熱条件には、明らかに加熱し過ぎでこの加熱条件では製品が成り立たなくなる、という批判もある。実際、アメリカ合衆国政府やカナダ政府などの食品安全のガイドラインではさらに弱い条件での加熱を示している[29]。例えば、カナダ保健省(Health Canada)ではハンバーグは71度に到達することとしている。また、ノロウイルスを不活化するためには、中心温度85度以上で1分間以上加熱する必要がある[30]。
中心まで十分に加熱するためには、食材の切り方を工夫したり、低火力で長時間加熱するなどの必要がある。電子レンジによる加熱は、表面を焦がさず中心まで均等に加熱することができる。大きなハンバーグなどは電子レンジで予備加熱を行なってからフライパンなどで焼くと、安全でおいしく仕上がる為この作業を行う食品企業が多い。しかし、加熱して不活化するのはあくまで細菌であり、腐敗により生成されるアミン類や芽胞の不活化および毒素の分解温度ではない。細菌が既に毒素を作り出している可能性がある場合には、加熱は食中毒の防止手段にはなり得ない。例えば、黄色ブドウ球菌が作り出すエンテロトキシンは通常の加熱調理ではほとんど分解(失活)しない為である。但し、E型を除くボツリヌス毒素の一部は100度で10分以上、あるいは80度で30分以上加熱しないと失活しないものもあるが、E型の毒素は63度で10分の加熱により失活するなど、細菌・毒素のタイプによる違いもある。
さらに気をつけるべき点は、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌、セレウス菌など耐熱性の高い芽胞をつくる細菌があり、これらの芽胞は100度でも完全に不活化させることができない。75度1分以上の加熱で人体に影響を与える量以下に十分抑えることができるが、加熱後長時間放置しておけば生き残った少数の菌が増殖してしまうことになる。
大量調理の現場では、まな板などを乾燥するための装置を備えていることも多い。夜間、ヒトが不在なときに紫外線を発する蛍光灯が付いていて、光による殺菌を同時に行なうようになっているものもある。ヒトに対して紫外線は有害であり、その利用は時間・空間的に限定されるため補助的な殺菌方法として利用される。
エタノールの殺菌効果は70%w/w程度の濃度で最大であるが、通常の食品に使用される濃度では、殺菌できるほど効果は強くない。また、胞子状態や菌種によって無効である。
- 香辛料による効果に関して
ニンニク、ワサビなどの香辛料にも古来からの経験則により殺菌効果があるとされる。特にワサビは、その辛みの主成分であるイソチオシアン酸アリルに強い殺菌作用がある。ただし、イソチオシアン酸アリルは揮発性が高いので、長時間に渡る殺菌効果の持続は望めない。一方、生姜には原因菌の増殖抑制効果は無く[31]、逆に増殖を促進してしまう[32]。また、香辛料は収穫から流通までの過程でかび[33]や細菌類に汚染されていると指摘され[34]汚染源となる可能性がある[35][36]ほか、香辛料の抗菌性は組合せにより大きく変わり期待できないとの指摘もある[36]。
脚注
注釈
- ↑ その飲み方を見苦しいと感じるか、所属する地域文化に照らして許容できる範囲内かどうかという、別の問題はある。
出典
- ↑ 『スタンダード栄養・食物シリーズ8 食品衛生学(第3版)』p.62-63
- ↑ 『スタンダード栄養・食物シリーズ8 食品衛生学(第3版)』p.64-65
- ↑ 『スタンダード栄養・食物シリーズ8 食品衛生学(第3版)』p.59-61
- ↑ 『スタンダード栄養・食物シリーズ8 食品衛生学(第3版)』p.71-72
- ↑ カンピロバクター食中毒予防について(Q&A) 厚生労働省
- ↑ 『スタンダード栄養・食物シリーズ8 食品衛生学(第3版)』p.70-71
- ↑ 感染症の話 セレウス菌感染症 国立感染症研究所 2003年第5週号(1月27日〜2月2日)掲載
- ↑ 8.0 8.1 『スタンダード栄養・食物シリーズ8 食品衛生学(第3版)』p.72-73
- ↑ 『ブラック微生物学(第2版)』p.695
- ↑ 『スタンダード栄養・食物シリーズ8 食品衛生学(第3版)』p.79
- ↑ 『スタンダード栄養・食物シリーズ8 食品衛生学(第3版)』p.81
- ↑ 野生動物等の肉を生食してE型肝炎発症!福岡県庁ホームページ
- ↑ 13.0 13.1 ヒスタミン食中毒防止マニュアル10.3.9 (PDF) 大日本水産会 国際・輸出促進部 品質管理課
- ↑ ヒスタミンによる食中毒新宿区保健所衛生課
- ↑ 赤身魚類の貯蔵中におげるヒスタミンの消長 (PDF)
- ↑ ヒスタミン食中毒の統計に関する調査研究 The Investigation Study on Statistics of Histamine Fish Poisoning 国立医薬品食品衛生研究所 (PDF)
- ↑ 自然毒のリスクプロファイル 厚生労働省
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- ↑ 2013年11月16日付【学校法人香川栄養学園】「本学坂戸キャンパス内カフェテリアにおける食中毒の発生について」
- ↑ 2013年11月22日付【学校法人香川栄養学園】「本学坂戸キャンパス内カフェテリアにおける食中毒の発生について(その2)」
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参考文献
- 『スタンダード栄養・食物シリーズ8 食品衛生学(第3版)』 一色賢司編、2010年、東京化学同人、ISBN 978-4-8079-1603-0
- Jacquelyn G. Black 『ブラック微生物学 第2版』 林英生ほか監訳、2007年、丸善出版、ISBN 978-4-621-07808-2
- 厚生労働省 (2007), 平成18年(2006年)食中毒発生状況, 過去の食中毒発生状況 . 2008閲覧.