くるみ割り人形

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テンプレート:Infobox バレエ

くるみ割り人形』(くるみわりにんぎょう、(原題): Щелкунчик, : Casse Noisette, : The Nutcracker)は、ピョートル・チャイコフスキーの作曲したバレエ音楽作品番号71)、およびそれを使用した2幕3場のバレエ作品である。

チャイコフスキーの三大バレエの一つであり、初演から100年以上を経て数多くの改訂版が作られている。ちなみにくるみ割り人形とは、人形の形をしたくるみを割る道具のことである[1]

概要

チャイコフスキー作曲・プティパ振付で成功を収めた 『眠れる森の美女』(1890年)の次作として、マリンスキー劇場の支配人であったイワン・フセヴォロシスキーはドイツE.T.A.ホフマンの童話 『くるみ割り人形とねずみの王様』 を原作とするバレエを構想し、再度チャイコフスキーに作曲を依頼した。

筋立てはホフマンの童話に基づくデュマの小説に依拠しており[2]マリウス・プティパが台本を手掛け、振付も担当する予定であった。しかしプティパはリハーサル直前に病に倒れてしまい、振付は後輩のレフ・イワーノフに委ねられることになった。プティパとフセヴォロシスキーの要求の板挟みになったイワーノフは苦心惨憺して完成させ、初演は1892年12月18日ユリウス暦では6日)、サンクトペテルブルクマリインスキー劇場にて行われた。

観客の反応はまずまずであったものの、主題が弱いと考えられたことなどから大成功とまでは言えず、ポピュラーな作品となるまでにはやや時間を要したという[3]

初演が大成功と呼べるものでなかったことから、定番となる演出・振付がなく、21世紀に入った現在も新演出・新振付が作成されている。主な演出・振付についてはen:List of productions of The Nutcracker参照。

現在では大きく分けると、1幕の主役であるクララと2幕の主役である金平糖の精を同じダンサーが踊る演出と、クララは子供が演じ金平糖の精は大人が踊る演出の2パターンある。後者では1幕にそのバレエ団のトップダンサーであるプリンシパルは登場せず、プリンシパルが踊るのは2幕の後半のパ・ド・ドゥのみと登場時間の短い演出になる。

細かく見ると、次のバリエーションがある[4]

  • 主人公の名前 – マリー クララ マーシャ
  • 連れて行かれる先 – おとぎの国 お菓子の国
  • 踊りの見せ場 – 主人公が踊る 金平糖が踊る

あらすじ

第1幕

ファイル:Nutcracker set designs.jpg
コンスタンチン・イワノフによる初演の舞台装置スケッチ(第2幕)
ファイル:Vsevolozhskys design for Nutcracker.jpg
劇場支配人イワン・フセヴォロシスキーによる初演の衣装スケッチ。第2幕“ジゴーニュ小母さんと子供たち”

とある王国にて、王子が誕生する。しかし、その場にいた人間がねずみの女王を踏み殺してしまったために王子は呪われ、くるみ割り人形になってしまう。

第1場

クリスマス・イブの夜、ドイツのシュタールバウム家の大広間ではパーティーが行われている。少女クララはドロッセルマイヤー老人からくるみ割り人形をプレゼントされる。ところが、取り合いになり弟のフリッツが壊してしまったので、ドロッセルマイヤー老人が修理する。

客も帰りみんなが寝静まってから、クララは人形のベッドに寝かせたくるみ割り人形を見に来る。ちょうど時計の針が12時を打つ。すると、クララの体は人形ほどの大きさになる(舞台ではクリスマスツリーが大きくなることで表現される)。そこに、はつかねずみの王様が指揮する、はつかねずみの大群が押し寄せる。くるみ割り人形の指揮する兵隊人形たちがはつかねずみ達に対し、最後はくるみ割り人形とはつかねずみの王様の一騎討ちとなり、くるみ割り人形あわやというところで、クララがスリッパをつかみねずみの王様に投げつけ、はつかねずみたちは退散する。倒れたくるみ割り人形が起きあがってみると、凛々しい王子になっていた。王子はクララをお礼に雪の国とお菓子の国に招待し、2人は旅立つ。

第2場

雪が舞う松林に2人がさしかかる(雪片の踊り - 雪の精たちのコール・ド・バレエ

第2幕

お菓子の国の魔法の城に到着した王子は女王ドラジェの精(日本では「こんぺい糖の精」と訳されてきた)にクララを紹介する。お菓子の精たちによる歓迎の宴が繰り広げられる。劇末はクララがクリスマスツリーの足下で夢から起きる演出と、そのままお菓子の国にて終わる演出がある。

全タイトル

ファイル:Nussknacker.jpg
くるみ割り人形の実物。1幕ではこの姿で登場する
ファイル:Snowdance.jpg
第1幕 雪片のワルツ

全曲の演奏時間は約1時間25分(第1幕約45分、第2幕約40分)である。録音や演奏会などでは組曲や抜粋で演奏されることもある。以下、譜面に明記された各曲のフランス語名称[5]の日本語訳と、【 】内に音盤などで慣例的に用いられている名称、[ ]内に説明を記す。

  • 序曲 (Ouverture)
  • 第1幕
    • 第1曲 情景 (Scène) 【クリスマスツリー】
    • 第2曲 行進曲 (Marche)
    • 第3曲 子供たちの小ギャロップと両親の登場 (Petit galop des enfants et entrée des parents)
    • 第4曲 踊りの情景 (Scène dansante) 【ドロッセルマイヤーの贈り物】(Distribution des cadeaux)
    • 第5曲 情景と祖父の踊り (Scène et danse du grand-père)
    • 第6曲 情景 (Scène) 【招待客の帰宅、そして夜】(Départ des invités - Nuit)
    • 第7曲 情景 (Scène) 【くるみ割り人形とねずみの王様の戦い】(La Bataille)
    • 第8曲 情景 (Scène) 【松林の踊り】(Une forêt de sapins en hiver)
    • 第9曲 雪片のワルツ (Valse des flocons de neige)
  • 第2幕
    • 第10曲 情景 (Scène) 【お菓子の国の魔法の城】(Le Palais enchanté du Royaume des Délices)
    • 第11曲 情景 (Scène) 【クララと王子の登場】(L'Arrivée de Casse-noisette et de Clara)
    • 第12曲 ディヴェルティスマン (Divertissement) [登場人物たちの踊り]
      1. チョコレート (Le Chocolat - Danse espagnole) 【スペインの踊り】 [ボレロ
      2. コーヒー (Le Café - Danse arabe) 【アラビアの踊り】 [コモード
      3. お茶 (Le Thé - Danse chinoise) 【中国の踊り】
      4. トレパック (Trépak - Danse russe) 【ロシアの踊り】
      5. 葦笛[6] (Les Mirlitons) 【フランスの踊り】
      6. ジゴーニュ小母さんと道化たち (La Mère Gigogne et les Polichinelles)
    • 第13曲 花のワルツ (Valse des fleurs)
    • 第14曲 パ・ド・ドゥ (Pas de deux) 【金平糖の精と王子のパ・ド・ドゥ】
      1. 【アダージュ】
      2. ヴァリアシオン I (Var. I)[タランテラ
      3. ヴァリアシオン II ドラジェ(日本では金平糖)の精の踊り (Var.II Danse de la Fée-Dragée)
      4. コーダ (Coda)
    • 第15曲 終幕のワルツとアポテオーズ (Valse finale et apothéose)

楽器編成

テンプレート:管弦楽編成

舞台上におもちゃのトランペット、太鼓、シンバル他打楽器数種、24名の児童合唱(または女声合唱)。

バレエ組曲「くるみ割り人形」

バレエ組曲「くるみ割り人形」作品71aは、チャイコフスキーがバレエ音楽から編んだ組曲である。「くるみ割り人形」作曲中のチャイコフスキーはこの頃、自作を指揮する演奏会を企画していたが、あいにく手元に新作がなく、また作曲する暇もなかったため、急遽作曲中の「くるみ割り人形」から8曲を抜き出して演奏会用組曲とした。バレエの初演に先立ち、1892年3月19日初演された。組曲版の演奏時間は約23分。作曲家自身のセレクトということもあり、「白鳥の湖」「眠れる森の美女」の組曲[7]と異なって、この構成は大抵の演奏において不変である。以下は慣例名による。

第1曲 小序曲 (Ouverture miniature)
Allegro giusto、変ロ長調、4分の2拍子(複合2部形式。展開部を欠くソナタ形式とも取れる)。この小序曲のみ編成から低弦、つまりチェロコントラバスが除かれ、Tacetを指示されている。このバレエ全体のかわいらしい曲想を感じさせる。おとぎ話のような主題がヴァイオリンにより提示される。これらはクラリネットフルートなどに引き継がれ、次第に大編成化する。すると一転してオーボエによる叫びがあり、メロディックで優雅な第2主題(ヘ長調)が提示される。この後、第1主題・第2主題(変ロ長調で再現)はそのまま反復される。
性格舞曲 (Danses caractéristiques)
第2曲 行進曲 (Marche)
Tempo di marcia viva、ト長調、4分の4拍子(ロンド形式)。A-B-A-C-A-B-Aの形を取る。
第3曲 金平糖の精の踊り (Danse de la Fée Dragée)

Andante non troppo、ホ短調、4分の2拍子(複合三部形式)。タイトルの原題は「ドラジェの精の踊り」だが、日本ではドラジェは一般的でなかったためにこの邦題が定着して現在に至っている。同様に英語圏ではクリスマスのキャンディーである「シュガープラムの精の踊り(Dance of the Sugar Plum Fairy)」となっている。当時、発明されたばかりであったチェレスタを起用した最初の作品として広く知られる。当初、このパートは天使の声と喩えられた珍しい楽器アルモニカ(または別種の「ガラス製木琴」)のために書かれており、後に旅行先でチェレスタと出会ってから楽器指定を変えたことが明らかになっている。なお、チャイコフスキーは初演まで、チェレスタを使用することを公言しなかった。チャイコフスキーはパリから楽器を取り寄せる際、モスクワの業者に送った手紙の中に「他の作曲家、特にリムスキー・コルサコフグラズノフに知られないように」と言う趣旨のことを書いており、先に使われるのを防ぐ目的があったようである。
第4曲 ロシアの踊り(トレパック) (Danse russe (Trepak))
Tempo di Trepak, Molto vivace、ト長調、4分の2拍子(複合三部形式)。
第5曲 アラビアの踊り (Danse arabe)
Allegretto、ト短調、8分の3拍子(変奏曲形式)。この曲のベースになった曲はグルジア民謡の子守唄である。
第6曲 中国の踊り (Danse chinoise)
Allegro Moderato、変ロ長調、4分の4拍子(小三部形式)。
第7曲 葦笛の踊り (Danse des mirlitons)
Moderato Assai、ニ長調、4分の2拍子(小ロンド形式)。A-B-A-C-Aの形を取る。おもちゃの笛「ミルリトン」が踊る。
第8曲 花のワルツ (Valse des fleurs)

Tempo di Valse、ニ長調、4分の3拍子(複合三部形式)。クラシック音楽の全体の中でも非常にポピュラーな曲であり、単独で演奏されることも多い。序奏にはハープが効果的に用いられる。ハープカデンツァののちに、ホルンにより主題が提示される。続くワルツは弦による有名な旋律である。さらにウィーン風の旋律がフルートに、情熱的な旋律がヴィオラチェロに提示される。前者2つは結尾部でまとめられ、大交響楽的なクライマックスを迎える。

脚注

  1. 小さなミュージアム
  2. Beaumont, Cyril W., Complete Book of Ballets, 1949, Putnam, p.633. "Histoire d’un casse-noisette" (1844). がこれに当たる。
  3. ibid., p.634
  4. チャイコフスキーの前作『白鳥の湖』『眠れる森の美女 (チャイコフスキー)|眠れる森の美女』が成功して、このバレエ版を作曲したが、初演は不評に終わる。台本が悪すぎたのが原因の一つだった。ホフマンのお伽話を元にアレクサンドル・デュマ・ペールが描いた童話がロシアで広く知られていて、これを脚色してバレエの台本が書かれたが、前半は物語はおもしろいが踊りが地味、後半は踊りは美しいが物語が展開しない、しかも結末があいまいで、上演されなくなった。チャイコフスキーはバレエの初演より先に演奏会用の組曲版を作っていてオーケストラの演奏会用の新作を依頼されたが忙しくて、下書きがほぼ終わっていたバレエ用の曲から8曲を選び、先に完成させた。チャイコフスキー自らが指揮をした組曲版が大成功し、8曲中7曲がアンコール演奏された。組曲版の成功からバレエ版もロシアで復活して、世界に広まった。しかし、一度バレエ版が途絶えていたことから原典版=決定版がなくなり、解釈が自由になったためである(NHKEテレららら♪クラシック「バレエを救った音楽の力 チャイコフスキーの“花のワルツ”」2015年12月19日放送)。
  5. "The Nutcracker, Complete Ballet in Full Score", Dover Publications, 2004 ISBN 0-486-43836-8 による。
  6. ロシア語の名称は Танецъ пастушковъ (若い牧人たちの踊り、フランス語ではDanse des bergers)。ibid, p.353
  7. どちらも『組曲版』の楽譜が出版されているが、前者は作曲家の意志が反映されているか不明であり、後者はアレクサンドル・ジロティが作曲者に提案して決めたものとされる。

関連項目

外部リンク

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