アラワク語族

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アラワク語族
話される地域: カリブ海地域および南アメリカ
言語系統: アラワク語族
下位言語:

アラワク語族(アラワクごぞく、: Arawakan family)またはアラワク諸語(アラワクしょご、: Arawakan languages)とは、いわゆる新世界において最大の規模を誇る語族である。中南米の広域にわたって分布し、この言語群の中ではワユ語が最も大きく、ガリフナ語がこれに続く[1]。場合によってはマイプレ諸語(マイプレしょご、: Maipurean, Maipuran)という括りが用いられることもある。

分布

既に死語となったものも含めればアラワク諸語の話される地域はグアテマラベリーズホンジュラスニカラグアアンティル諸島仏領ギアナスリナムガイアナベネズエラコロンビアブラジルパラグアイアルゼンチンボリビアペルーと非常に広域にわたる[1]

歴史

アラワクという語は16世紀の探検記に現れる[2]大アンティル諸島小アンティル諸島北部などに暮らしていたタイノ族(島嶼アラワク)の祖先は紀元前後の数百年の間にオリノコ川河口からカリブ海の島々に移住したと考えられている[3]が、アラワクという集団全体の歴史的な起源や移動に関しての定説はまだ確立されていない[2]。アラワクという集団は通常地理的な観点から内陸アラワクと島嶼アラワクとに区別されるが、言語的な観点からしてもこの二者同士の差は大きい[2]

アラワク系、その中でも特にマイプレ系とされた言語に関する記録自体は18世紀後半から行われてきたものの、その大半は語彙の一覧表レベルにとどまり、個別言語について緻密な言語学的分析に基づいた研究が出るまでには1960年代を待たねばならなかった[4]。やがて1972年にはエスター・マッテソン(Esther Matteson)が17の言語からアラワク祖語: proto-Arawakan)の再構を試みるようになる(Matteson 1972)。しかしテランス・カウフマンEnglish版はこれに対し、アラワク語族ではないアラワ語族English版ハラクムブット語English版を含むことでようやく同源語や再構形が成り立っている点やパレシ語English版、ワユ語、ガリフナ語のデータからの引用が含まれる点、ごく一部の言語において以外は証明されていない分節音English版や形態の合成による再構が行われている点、また認められていない超分節的屈折接頭辞が扱われている点を挙げ、マッテソンの研究内容を痛烈に批判している[1]。カウフマンはその一方でデイヴィッド・ペイン(David Payne)の研究については当時現存していたマイプレ諸語のほぼ全てを集めて音韻の再構を行い、分岐の道筋を追っていると紹介した上で、Payne (1990) で祖語由来と考えられる語彙に基づいた分類を行ったことは、「アラワク系の比較研究におけるきわめて大きなステップである」と評している[1]

分類

分類は諸説あり、Noble (1965) で提案されて以来語族には Arawakan、語派には Maipuran を用いることが多くの研究者によって受容されている[4]。Kaufman (1994) は、現存するアラワク諸語はマイプレ言語系(: Maipurean stock)としてすでに定着している言語も含めて、全て下位分類を見直す必要性があるのではないかとし、「マイプレ」と「アラワク」という標識の区分は当時の比較研究の段階では限界があるとしている。

ここでは Hammarström (2016) をベースとする。ラテン文字表記は特に脚注がない限り Hammarström (2016) や Lewis et al. (2015) に、日本語名は細川(1988)やカウフマン(2000)などによる。†は死語であることを表す。

Hammarström (2016) では除かれているが、資料によってはイランシェ語English版(Iranche、Irantxe)やカナマリ語English版(Kanamarí, Canamari, Canamarí)、ハラクムブット語(ハラクンベット語 (Harákmbet))がアラワク語族に含まれるとしている場合もある[4]

文法

アラワク系とされた言語の構造においては、接辞の付加による派生が主な特徴である。マイプレ語派とされた言語の大半は動詞の主語や名詞の所有者を表す人称接辞が一人称では接頭辞 nu-(あるいは n-) または接尾辞 -naを、二人称では接頭辞 pi-(あるいは p-) または 接尾辞 -bu をとる。この特徴を有する言語は Nu-Arawak と呼ばれ、アラワク祖語における形を継承したものと見做される[4]。これに対し、ワユ語やタイノ語、ロコノ語などの場合は一人称の接辞が t(V)- であるため Ta-Arawak という括りによって Nu-Arawak との区別が為される場合がある[20][4]#分類におけるCaribbean諸語に相当する区分は、たとえばカウフマン(2000)では「TA・マイプレ下位語派」(: Ta-Maipurean sub-branch)、Lewis et al. (2015) でも "Ta-Maipurean" として表されている。以下は、Aikhenvald (2001:172) による共通アラワク語(: Common Arawak)における人称絡みの接辞である相互照応接辞(: cross-referencing affixes)の一覧である。

他動詞の主語、動作自動詞の主語、所有者を表す接頭辞と目的語、状態自動詞の主語を表す接尾辞
単数 複数
接頭辞 接尾辞 接頭辞 接尾辞
一人称 nu- もしくは ta- -na, -te wa- -wa
二人称 (p)i- -pi (h)i- -hi
三人称 非女性 ɾi-, i- -ɾi, -i na- -na
女性 thu-, ɾu- -thu, -ɾu, -u na- -na
「非人称」 pa- - -
仮の目的語や状態自動詞の主語(: dummy O/So - -ni -
焦点が当てられない他動詞主語または動作自動詞主語 i- /(a-か) - -

主語の人称は接頭辞で示される[4]テンプレート:例文テンプレート:例文

一方、目的語の人称は接尾辞で示され、動詞派生接辞に後接する[4]

動詞の時制は接尾辞で示される[4]

名詞の複数も通常は接尾辞によって表示される[4]テンプレート:例文テンプレート:例文

また、複数の形態素同士が連なる場合には母音が脱落したり母音調和が起こる言語も存在する[4]

脚注

  1. 1.00 1.01 1.02 1.03 1.04 1.05 1.06 1.07 1.08 1.09 1.10 1.11 1.12 1.13 1.14 1.15 1.16 1.17 1.18 1.19 1.20 1.21 1.22 1.23 1.24 1.25 1.26 1.27 1.28 1.29 1.30 1.31 1.32 カウフマン(2000)。
  2. 2.0 2.1 2.2 原(2013)。
  3. 長谷川(2013)。
  4. 4.00 4.01 4.02 4.03 4.04 4.05 4.06 4.07 4.08 4.09 4.10 4.11 4.12 4.13 4.14 4.15 4.16 4.17 4.18 4.19 4.20 細川(1988)。
  5. 5.0 5.1 Kaufman (1994) では「非マイプレ・アラワク系、またはほとんど分っておらず分類できない言語」とされている。
  6. 6.0 6.1 カウフマン(2000)では「ワウラ・メイナク語」(: Waurá-Meinaku language)扱いである。
  7. Lewis et al. (2015) は Crevels (2007) を引用して話者数を1人としている。
  8. 細川(1988)では「クリム語」(Kurrim)の別名の一つとして Corripaco が見られ、カウフマン(2000)では「カル語(域)」(: Karu language (area))の下位区分として「イペカ・クリパコ方言群/(新生)語」(: Ipeka-Kurripako dialect group / emergent language)が置かれ、「クリム」(Kúrrim)は自称とされている。
  9. 細川(1988)では「クリム語」の別名として Baniwa や Issana、Maniba が挙げられ、カウフマン(2000)では「カルタナ・バニワ方言群/(新生)語」(: Karútana-Baniwa dialect group / emergent language)が置かれている。
  10. 10.0 10.1 Kaufman (1994) ではテレナ語の方言扱いとされている。
  11. ほぼ Lewis et al. (2015) の Campa に相当する(参照: カンパ語English版)。
  12. カウフマン(2000)にはアシェニンガ新生語(: Ashéninga emergent language)アプルカヤリ方言が見られる。
  13. カウフマン(2000)にはアシェニンガ新生語アトゥシリ方言が見られる。
  14. カウフマン(2000)にはアシェニンガ新生語上ペレネ方言(Upper Perené)が見られる。
  15. カウフマン(2000)にはアシェニンガ新生語ピチス方言が見られる。
  16. カウフマン(2000)にはアシェニンガ新生語ウカヤリ方言が見られる。
  17. カウフマン(2000)にはマツィゲンガ新生語カキンテ方言が見られる。
  18. カウフマン(2000)にはマツィゲンガ新生語ノマツィゲンガ方言が見られる。
  19. 19.0 19.1 Lewis et al. (2015) においては蔑称扱いとされている。
  20. Aikhenvald (2001:172).

参考文献

和書:

  • カウフマン, テランス (2000). 「南アメリカの先住民語」 R. E. アシャー、クリストファー・マーズレイ 編、土田滋、福井勝義 日本語版監修、福井正子 翻訳『世界民族言語地図』東洋書林、41-88頁。ISBN 4-88721-399-9 (原書: Atlas of the World's Languages, 1994, London: Routledge.)
  • 長谷川悦夫 (2013). 「タイノ」 大貫良夫、落合一泰、国本伊代恒川惠市松下洋、福嶋正徳 監修『[新版]ラテンアメリカを知る事典』平凡社、222-223頁。ISBN 978-4-582-12646-4
  • 原毅彦 (2013). 「アラワク」 大貫良夫、落合一泰、国本伊代、恒川惠市、松下洋、福嶋正徳 監修『[新版]ラテンアメリカを知る事典』平凡社、48頁。ISBN 978-4-582-12646-4
  • 細川弘明 (1988). 「アラワク語族」 亀井孝河野六郎千野栄一 編『言語学大辞典』第1巻、三省堂、499-506頁。ISBN 4-385-15213-6

洋書:

関連文献

  • Crevels, M. (2007). "South America." In C. Moseley (ed.), Encyclopedia of the world's endangered languages, pp. 103–196. London: Routledge.
  • Matteson, Esther (1972) "Proto Arawakan." In Esther Matteson (ed.) Comparative Studies in Amerindian Languages, pp. 160–242. Mouton.
  • Noble, G. Kingsley (1965) Proto-Arawakan and Its Descendants. (Publications of the Indiana University Research Center in Anthropology, Folklore and Linguistics 38). Bloomington.
  • Payne, David (1990) "Some widespread grammatical forms in South American languages." In Doris L. Payne (ed.) Amazonian Linguistics: Studies in Lowland South American Languages. Austin: University of Texas Press.

関連項目


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