アンダースロー

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アンダースローとは、野球投手投法のひとつ。下手投げと呼ばれる。投手がボールリリースする際に身体が沈むこと、またはボールが下から上に上がってくることから、潜水艦になぞらえてサブマリン投法とも呼ばれる。「アンダースロー」という呼称は和製英語であり、英語ではsubmarineと呼ぶのが一般的である。

概要

ファイル:Shunsuke Watanabe 2010 (2).JPG
渡辺俊介は特に低いリリースポイントで投球する
ファイル:00089841 Darren O'Day.jpg
上体を立て肩より下からリリースするアンダースローの一例、ダレン・オデイ。ケント・テカルヴやダン・クイゼンベリーらもこのようなフォームのサブマリナーであるが、サイドアームに分類される事も多い。

アンダースローとは、投手の手からボールがリリースされるときに、ボールを持っている腕が水平を下回る角度にある投法のことである。ワインドアップまたはセットポジションから急激に重心を下降させ[1]、投球腕を水平を下回る角度にまで下げた後、腕をしならせて投げる[2]オーバースローとは違う投球リズム、投球動作であるため、アンダースローを長く続けている投手はオーバースローで投げることが難しくなる場合がある。一方で、肩や肘を痛めた投手がアンダースローに転向する例も多い。なお、杉浦忠永射保など、サイドスローに近い腕の角度で投球する投手もいる。

長所

スピードのある速球を投げることは難しいが、低いリリースポイントから浮き上がるような軌道でボールが投球されるため、打者を幻惑することが出来る[3][4]。例えば、内角高めに速球を投げると、打者はボールの下を叩いてしまいやすく、凡フライを打ってしまいやすい。アンダースローでも球威がある投手の場合、これを利用して、打者の胸元への速球を武器とすることが多い。2008年にマサチューセッツ工科大学のサル・バクサムサ教授がオーバーハンド投手のジョー・ブラントンと、アンダースロー投手のブラッド・ジーグラーの速球の投球軌道(球筋)を比較したところ、ブラントンの投球はリリースポイントからキャッチャーミットに到達するまで約1.3メートル落下したのに対し、ジーグラーの投球はリリースポイントから約30センチメートルしか落下しなかった[5]。バクサムサはこの投球軌道の違いが打者を幻惑する要因となっていると指摘している[5]。また、右打者に対する右投げ、左打者に対する左投げではより角度のある投球となるため、これを苦手とする打者もいる[6]。また、シンカーやスクリューボールカーブなどの球種は一旦浮き上がってから曲がり落ちる特有の軌道を描く[7]。さらに、アンダースロー投手は絶対数が少なく、アンダースローの軌道を再現できるピッチングマシンも少ないため、打者はこれを打ち返す練習をすることが難しい[8]

短所

欠点のひとつは、走者を背負った際のクイックモーションが難しく、盗塁を企図されやすいことである[9]。しかし渡辺俊介は、フォームの無駄を減らすことと捕手との協力で対応可能としている[9]。また、この投法をする投手は与死球が多いことがある。NPBの通算与死球数上位10人のうち6人がアンダースローである(2018年7月28日現在)[10]。これはアンダースローによる投球の軌道は独特であるため、打者側が反応できず回避動作が遅れることも一因である。1920年8月16日ニューヨークポロ・グラウンズで行われた試合において、クリーブランド・インディアンスレイ・チャップマンニューヨーク・ヤンキースのアンダースロー投手カール・メイズから頭部に受けた死球のために、翌日未明に死亡するという事故が発生している[11]。また、この投法でフォークボールを投げることは難しい[7]。ただし、落ちる球としてはシンカーなどで代用が可能である。さらに、アンダースローを指導できる指導者は少なく、指導法も未確立である[12]

野球大国である米国でもこの傾向は変わらず、1970年代のMLBを代表するサブマリナーであったケント・テカルヴも、2011年時点においても米国内にアンダースローについて適切に書かれた指導書がほとんど存在しない事を指摘している。テカルヴは良いサイドアーマーやサブマリナーにとって重要な事は痩せた身体と長い手足を有する事で、強い腕力はそれほど重要ではないと述べており、アンダースローが伝統的なオーバースローやスリークォーターと上半身や腰の使い方が全く異なり、むしろゴルフにおけるスイングEnglish版に身体の使い方が近い事も、投手コーチからの適切な指導をより難しくしている要因であると述べている。その上で、アンダースローを志す投手はまずサイドスローとアンダースロー双方の投球のバイオメカニクスを自らでよく理解した上で、横手で投げるか下手で投げるかは最終的に自身の身体特性と照らし合わせた上で決定するのが望ましいであろうと結論づけている。テカルヴ自身もサイドスローからアンダースローへ転向した投手であり、日本の杉浦や永射らと類似した上体を立てた姿勢から腕のみを肩より下ろしたフォームで投球しており、ボールに下向きのスピンを掛ける事に適している事から、サブマリナーの100人に99人はシンカー・スクリューボールの使い手であるだろうとも述べている[13]

左打者に対する右アンダースロー投手は球筋が見易く球速もさほど速くない為、慣れてしまえばくみし易い。ただし、アンダースロー投手の絶対数が少なく対戦も多くないので打者が圧倒的有利とはなっていない。

故障について

アンダースローは全身を使わないと投げられないため、肩や肘に疲労が集中しない[14]。そのため山田久志や渡辺、スティーブ・リード (en) はアンダースローは故障が少ない投法であると証言している[14][15]。また、日本ではアンダースロー投手には「先発完投型」が多い。しかし、股関節膝関節をうまく使うことが出来ず、胴体のみを極端に屈曲させるフォームになってしまうと、前鋸筋筋膜炎を起こしたり、ひどい場合には肋骨にひびが入ったり疲労骨折することもある[1][14]

歴史

ファイル:Baseball1866.JPG
1866年にエリシアン・フィールズで行われたミューチュアル・クラブアトランティック・クラブの試合を描いたリトグラフ"The American National Game of Baseball"。アンダーハンドで投げる投手が描かれている。

1845年アレクサンダー・カートライトがルールを整備した初期の野球では、投手の投球は全てアンダーハンドで行われていた[16]。当時のルールでは「ピッチ(pitch=放ること)」だけが許され、「スロー(throw=投じること)」が禁止されていたため[17]、その投法は今で言うスローピッチ・ソフトボール投手の投法に近いものであった[17]

しかし、1860年以降ジム・クレイトンなどの投手がフォームに改良を加え[17][18]、速球派の投手が増加したことからそのルールは徐々に死文化して行き[17]1872年にはルールが改正され、アンダーハンドでも手首のスナップを使って投げることが正式に認められた[19]

その後、アンダースローは1882年サイドハンドピッチが、1884年オーバーハンドピッチがそれぞれ更なる投球ルール改正によって解禁されるまでは主流の投法であった[18]。また、野球の球種の内、カーブ、チェンジアップを初めて投げたのはアンダースロー投手(カーブはキャンディ・カミングス、チェンジアップはハリー・ライト)である[17]

日本に野球が伝来したのは投球ルール改正前の1871年お雇い外国人ホーレス・ウィルソンによってである[20]。さらに1908年11月22日に行われたメジャーリーグベースボール選抜チーム対早稲田大学野球部の試合で始球式を行った大隈重信の投球はアンダースローであった[21]。NPBにおいて最初に活躍したアンダースロー投手は1936年阪急軍に入団した重松通雄である。重松と1949年南海ホークスに入団した武末悉昌には共に「アンダースローの元祖」という渾名が付いている。その後1960年代には南海の杉浦忠大洋ホエールズ秋山登といった名手が登場するが、この時代までのアンダースローの投手は概ね上体を立てた姿勢で振りかぶり肩より下の角度でサイドスロー気味に投球する者が多かったが、杉浦や巨人の大友工など軸足を極端に大きく踏み出す事でリリースポイントをより低くする投手も散見された。

前述の通り1920年にカール・メイズが死球による死亡事故を起こすと、アメリカ合衆国ではアンダースローは危険な投法であるという認識が広がり、アンダースロー投手は減少していった[22]1972年(日本では1976年)に、スピードガンが野球界に導入され始めると、投手の投球術よりも球速が注目されるようになり[23]、球速の出にくいアンダースロー投法を採用する投手の減少傾向がより進んだ[15]1970年代のNPBには阪急足立光宏山田久志という時代を代表する名手が登場するが、この時代のアンダースローの投手はリリースポイントを下げる為に上体を倒した姿勢で振りかぶり、サイドスロー気味に投球する者が多く、アンダースローであっても剛球派で鳴らす投手も数多く存在した。武末や杉浦と類似した上体を立てたフォームの投手では永射保高橋直樹が活躍したが、山田や金城基泰仁科時成らの上体を倒したフォームと比較した場合、純然たるサイドスローとして分類されるケースも多かった。

山田ら70年代の名手が引退した1980年代後半以降は、NPBでは先発をこなせる目立ったアンダースローの名手が不在となり、アンダースロー自体が一時衰退する。リリースポイント自体は山田らのフォームよりも更に低くなっていったが、軟投の技巧派として分類される投手が多くなり、活動の場も専らワンポイントリリーフなどの中継ぎ抑えなどに移り変わっていった。1990年代には福岡ダイエーホークスに、上体を極端に倒して地面スレスレの位置からリリースするフォームの足利豊が在籍。同年代後半にはアンダースローの中継ぎ陣を数多く擁した阪神タイガースのような事例[24]もあったが、いずれもそれほど活躍することなく終わっている。

しかし、2000年代にはMLBに足利と同じく極端に低いリリースポイントから投球するチャド・ブラッドフォードが登場、日本でも千葉ロッテマリーンズに「世界一低いリリースポイント」とも謳われる渡辺俊介が入団、後者は主力の先発投手としてワールドベースボールクラシックでも活躍し、NPBにおいてアンダースローが復権する端緒ともなった。渡辺がMLBに移籍した2010年代現在は、サンディエゴパドレス牧田和久が渡辺に匹敵する低いリリースポイントから投げるフォームで、NPBでは著名なアンダーの投手となっている。

主なアンダースロー投手

引退投手

MLB

左投げ
プロ野球リーグ成立以前

日本

台湾

現役投手

MLB

日本

中国

韓国

ブラジル

架空のアンダースロー投手

ソフトボール

ファイル:Brookhuis Run 71.jpg
ファストピッチ・ソフトボールの下手投げによる投球。ソフトボール女子オランダ代表English版選手、カリン・ブルックホイスNederlands版によるもの。

児童競技やレクリエーションとして一般的に行われるスローピッチ・ソフトボールや、オリンピック種目ともなっていたファストピッチ・ソフトボールEnglish版は、共に上体を立てた姿勢から腰より下の高さでリリースする古典的なアンダースローで投球を行うが、ファストピッチルールはその歴史上いくつかの投球フォームが変遷してきた経緯がある。

  • スリングショット (投球法) - 頭上に両腕を振りかぶり、腕を回転させず一挙動で投球する最も古典的な投法[26]。振りかぶった際の両腕の形がスリングショットを引く動作に類似することから名づけられたものであるが、頭上で腕の動きが止まる為に球の握りが見破られやすいことから、ウインドミル投法の普及以降はほとんど見られなくなった[27]
  • ウインドミル (投球法) - 2010年代現在、ファストピッチルールで一般的な「腕を二回転させる」投法。腕を大きく振り回すことでより強い遠心力が得られ、ボールの握りも見破られにくくなる利点がある[28]。ウインドミル投法は日本と米国でややフォームが異なっており、米国式は上体を大きく前方に折り曲げて振りかぶり、踏み出しを非常に大股に行うことでより強い遠心力をボールに与えることを志向している[29]
  • フィギュアエイト (投球法) - ウインドミル投法がファストピッチルールで寡占的な地位を占める様になった後に登場した新しい投法で、ボールを持った腕を水平方向に振り、背中の後方に大きく振りかぶってから投げる[30]。腕の動きが「8の字」を描くように見えることからこの名がついたもので、エイトフィギュア投法とも呼ばれる。腕を勢いよく振り回せないためウインドミル投法に比べて球速は劣るが、使い手が少なく変則的なフォームのため打者を幻惑してタイミングを外すのに役立つとされる。

脚注

  1. 1.0 1.1 高崎 (p.5)
  2. 渡辺 (2006, pp.81 - 84)
  3. 渡辺 (2006, pp.45 - 52)
  4. 渡辺 (2006, p.155)
  5. 5.0 5.1 Sal Baxamusa (2008年8月2日). “Brad Ziegler, AL Rookie of the Year” (英語). The Hardball Times. . 2010年10月26日閲覧.
  6. 渡辺 (2006, pp.204 - 205)
  7. 7.0 7.1 渡辺 (2006, pp.164 - 165)
  8. 渡辺 (2006, pp.155 - 156)
  9. 9.0 9.1 渡辺 (2006, pp.71 - 73)
  10. 一般社団法人日本野球機構 (2018年7月29日). “歴代最高記録 与死球 【通算記録】” (ja-JP). http://npb.jp/bis/history/ltp_hb.html . 2018閲覧. 
  11. 出野 (2004年, p.513)
  12. 高崎 (p.14)
  13. Former Submarine Pitcher Kent Tekulve Explains Mechanics - baseballnews.com、2011年11月1日。
  14. 14.0 14.1 14.2 渡辺 (2006, p.91 - 93)
  15. 15.0 15.1 Doyle (2000, p.54)
  16. 佐山 (2007, p.7)
  17. 17.0 17.1 17.2 17.3 17.4 内田 (2007, pp.69 - 75)
  18. 18.0 18.1 高崎 (p.1)
  19. 佐山 (2003年, p.41)
  20. 佐山 (2003, pp.71 - 75)
  21. 佐山 (2005, p.27)
  22. 高崎 (p.2)
  23. Joe Posnanski (2007年7月15日). “You can't always judge a pitcher by his fastball”. The Kansas City Star. . 2016年12月27日閲覧.
  24. 御子柴進田村勤葛西稔伊藤敦規らであるが、葛西以外はサイドスローとして分類されることも多い。
  25. Rhodes (2007, p.43)
  26. テンプレート:Youtube
  27. 投法(ウインドミルとスリングショット) - 日本ソフトボール協会
  28. テンプレート:Youtubeソフトボール女子日本代表選手、上野由岐子による日本式ウインドミル投法。
  29. テンプレート:Youtubeソフトボール女子米国代表English版選手、アマンダ・スカボローによる米国式ウインドミル投法。
  30. テンプレート:Youtube

参考文献

関連項目