ウィーナー過程

提供: miniwiki
2018/8/19/ (日) 17:39時点におけるAdmin (トーク | 投稿記録)による版 (1版 をインポートしました)
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
移動先:案内検索
ファイル:Wiener process zoom.png
一次元ウィーナー過程の一例

数学におけるウィーナー過程(ウィーナーかてい、Wiener process)は、ノーバート・ウィーナーの名にちなんだ連続時間確率過程である。ウィーナー過程はブラウン運動数理モデルであると考えられ、しばしばウィーナー過程自身をブラウン運動と呼ぶ。最もよく知られるレヴィ過程右連続かつ定常独立増分確率過程)の一つであり、純粋数学、応用数学、経済学、物理学などにおいてしばしば現れる。

概要

ウィーナー過程は純粋数学、応用数学の両方で重要な役割を演じる。純粋数学においては、ウィーナー過程は連続時間マルチンゲールの研究から生じ、より複雑な確率過程を記述する鍵となる確率過程である。それゆえに、確率解析拡散過程、あるいはポテンシャル論においてさえも、極めて重要な役割を果たすのである。応用数学においては、ウィーナー過程はホワイト・ノイズの積分を表すものとして用いられ、それゆえに電子工学におけるノイズ、フィルタリング理論における機器誤差、制御理論における未知の力 (unknown force) などの数理モデルとして有用である。

ウィーナー過程の応用は数理科学の様々なところに現れる。物理学においては、ブラウン運動、流体に浮遊する微粒子の拡散、フォッカー-プランク方程式ランジュバン方程式を通した様々な拡散の様子などを研究するのに用いられる。こういった応用は量子力学における経路積分の厳密な定式化(ウィーナー積分として表されるシュレーディンガー方程式の解であるファインマン-カッツの公式によるもの)や宇宙論における永久インフレーションの研究の基礎を形成している。また、数理ファイナンスの理論、特にブラックとショールズのオプション価格モデルなどにも顕著に現われている。

特徴づけ

ウィーナー過程 Wt は次の三つの条件

  1. W0 = 0
  2. Wtほとんど確実に(確率 1 で)連続である。
  3. Wt は独立増分を持ち、0 ≤ s < t なる任意の s, t に対して、WtWs は正規分布 N(0, ts) に従う。

によって特徴付けられる。ここで、"N(μ, σ2)" は期待値 μ, 分散 σ2正規分布を表す。また、独立増分とは、0 ≤ sts′ ≤ t′ であるならば、WtWsWtWs とが独立な確率変数となることを意味する。

別の特徴づけとして、レヴィ条件 (Lévy characterization) と呼ばれるものは、ほとんど確実に連続なマルチンゲールで W0 = 0 かつ二次変分 [W_t,W_t] が t になるものとしてウィーナー過程を特徴付ける。

また、係数が標準正規分布 N(0,1) に従う独立な確率変数であるような正弦級数で表されるスペクトル表現を持つ確率過程としてウィーナー過程を特徴付ける方法もある。このような表現はカルーネン-レーヴェの定理 (Karhunen-Loève theorem) を用いることで得られる。

平均 0、分散 1 の独立同分布な離散時間連鎖のスケーリングの極限は、ウィーナー過程に確率収束する(これをドンスカーの定理と言う)。乱歩と同様にウィーナー過程は、一次元または二次元において再帰的 (recurrent) (つまり、出発点の半径任意の近傍に確率 1 で無限回戻ってくる)となるが、三次元以上では過渡的である。乱歩と異なる点は、それがスケール不変であることである。つまりいかなる非零定数 α についても

[math]\alpha^{-1}W_{\alpha^2 t}[/math]

はウィーナー過程となる。ウィーナー測度はウィーナー過程によって誘導される、g(0) = 0 を満たす連続関数 g たちの成す関数空間上の確率分布である。ウィーナー測度に基づいて定義される積分をウィーナー積分と呼ぶことがある。

一次元ウィーナー過程

各時間 t において、確率密度関数

[math]f_X(x;t) = \frac{1}{\sqrt{2 \pi \alpha t}} e^{-x^2/{2 \alpha t} }[/math]

で、期待値

[math]\mu _X = 0[/math]

で、共分散相関

[math]R_{XX} (t_1, t_2) = K_{XX} (t_1, t_2) = \alpha \min\{ t_1, t_2 \}\,[/math]

で与えられる[1]

関連のある確率過程

以下のように定義される確率過程

[math] {X_t = \mu t + \sigma W_t} [/math]

はドリフト項 μ と無限小分散 σ2 を持つウィーナー過程と呼ばれる。

ウィーナー過程に、条件 W0 = W1 = 0 が与えられることによって定まる条件付確率分布をブラウン橋 (Brownian bridge) と呼ぶ。

幾何ブラウン運動 (geometric Brownian motion)

[math] e^{[\beta t-(\alpha^2 t/2)+\alpha W_t]} [/math]

と表され、株価のように決して負の値をとることのない確率過程のモデルとして用いられる。

関連項目

参考文献

  • Kleinert, Hagen, Path Integrals in Quantum Mechanics, Statistics, Polymer Physics, and Financial Markets, 4th edition, World Scientific (Singapore, 2004); Paperback ISBN 981-238-107-4 (also available online: PDF-files)
  1. Henry Stark, John W. Woods, Probability and Random Processes with Applications to Signal Processing, 3rd edition, Prentice Hall (New Jersey, 2002); Textbook ISBN 0-13-020071-9