エアバッグ

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ファイル:AIRBAG driver for automotive.jpg
エアバッグ作動の状態 (完全展開時)
ファイル:Airbag SEAT Ibiza.jpg
エアバッグ作動後の状態(スペインの自動車セアト・イビサ、衝突を感知してから0.3秒で膨らむ)

エアバッグ英語: airbag)とは、膨らんだ袋体を用いて移動体の運動エネルギーを吸収、もしくは衝撃緩和する装置のことである。

身近なところでは自動車の乗員保護システムの中の1つとしてエアバッグがあり、SRSエアバッグシステムSRSSupplemental Restraint System(補助拘束装置)の略)と呼ばれる。Supplemental(補助)とあるように、エアバッグはあくまでシートベルト着装を前提とした上で、その効果を最大限に発揮する乗員保護システムの1つである。したがって、シートベルトを着用していないとその効果は発揮されない。それどころか、最悪の場合はエアバッグにより死亡する場合もある(後述)。

前席(運転席と助手席)に加え、一部車種では後部座席用も用意された。現在では側面からの衝突に対応するサイドエアバッグやカーテンエアバッグ、膝にかかる衝撃を緩和するためのニーエアバッグ、さらにはシートベルトを膨らませる方式のものもある。

オートバイ自転車のライダー用や歩行者用のエアバッグも販売されている。また、火星探査機が火星に着陸する際にエアバッグを利用して着陸するなど、さまざまな方面で衝撃吸収のために利用されている。なお、エアバッグは保安基準の対象外であるため取り外しても特に罰則等はないが、取り外しや故障によって警告灯が点灯している場合は車検が受け付けられない[1]

エアバッグの仕組み

エネルギー吸収の原理

ファイル:AirbagEA Conception diagram.jpg
エアバッグによるエネルギー吸収の概念図

例えばブレーキは、車体の運動エネルギーを熱エネルギーに変換して吸収するが、エアバッグは移動体の運動エネルギーを、ガスの運動エネルギーに変換し吸収する。

移動体がエアバッグに衝突するとエアバッグの容積を減少させる。この時エアバッグ内の圧力が高まるが、予めエアバッグには排出口(ベントホール)が開けられており、そのベントホールよりガスが勢いよく噴出する。(右図参照)

つまり、移動体がエアバッグに衝突するとエアバッグ内のガスが外へ噴出する構成とされている。このエアバッグの中から外へ移動するガスの運動エネルギーに置換されるのである。

ガスの運動エネルギーは、移動するガス重量とその速度で算出することが可能である。自動車用エアバッグの場合、移動するガス重量を25g、エアバッグに開いたベントホール(vent hole)から出るガス速度を350m/sec(高温の音速程度)とした場合、エネルギーの公式:E=mv2/2に当てはめると、2000Jのエネルギーを持つものとわかる。

また余談ではあるがこれらの作用はロケットジェットエンジンが推力を発生する際の、「気体や燃料を燃焼(化学反応)させ気体を噴出し、その気体の移動による反作用を推力とする」現象と同様で、ロケットやジェットエンジンは加速、エアバッグは減速だが、用いる現象は同じ「気体を高速で移動させる反作用を用いること」である。

エアバッグ特有のエネルギー吸収特性

ファイル:Airbag GS Curve-11.jpg
FMVSS 208試験による電気計測値グラフ(シートベルトなし、速度:25mph、助手席における)

ところで、上記のエネルギー吸収(以下EA:Energy Absorption)メカニズムは、エアバッグ内の圧力が充分高まった後にもたらされる作用で、移動体の接触直後には一定程度、空走が必要であることが知られている(右図赤線参照)。つまり、移動体がエアバッグに接触し、押し潰して容量が減少することにより、圧力が上昇するというプロセスが必要ということである。

これは同じくEAを目的とするショックアブソーバーと大きく異なる点で、ショックアブソーバーは「定型の容器」と内容物にはオイル等の非圧縮体を用いることが出来るので、荷重が加わると即時に内圧が高まり、最小限のストロークで抗力が立ち上がることが出来る。またその後一定の効力を保つことも容易で、効率的なEAとすることが可能である。

ファイル:Airbag GS Curve-2.jpg
理想的なEA波形とエアバッグのエネルギー吸収波形の比較

対してエアバッグは、形が定まっていない「不定形の袋体」と可圧縮体のガスを用いるので、接触初期には空走距離が構造的に必要で、ストロークの後半にやっと抗力が発生してEA効果を発揮することになるため、理想的なEAには程遠いものとなる。これは通常使用時に、コンパクトに収納できることとの相反で「エアバッグ」の宿命である(右図:エアバッグとショックアブソーバーのGS波形比較。面積がエネルギー)。

自動車用エアバッグにおける展開初期のアスピレート(aspirate)効果について:コンパクトに折り畳まれたエアバッグは、展開プロセスの初期にインフレーターのガス圧で急に移動させられるが、この時「発生したガス量はバッグ容量よりも少ない」場合、バッグ内は負圧となる。この時、ベントホールより周辺の空気をバッグ内へ吸引するアスピレート現象が発生し、インフレーター出力よりも多くのガスをエアバッグに取り入れることがある。

自動車用エアバッグにおいてベントホールの無いものもある。一般的なカーテンエアバッグ、サイドエアバッグ、ニーエアバッグ等がそうであるが、これらは袋体の厚みが運転席・助手席用に比べて薄いため、ベントホールを付けることが出来ず、袋体の容量も小さいため袋体内のガス移動によるEA効果も期待できない。そのためエネルギー吸収効果はほとんど無く、バッグを圧縮して上がった圧力は、ゴムボールのように再度移動体を跳ね返す仕事に変換される。しかし、これらは車室内構造物に直接接触するのを防ぐ事で衝撃を緩和し、ピークGの低減に貢献している。また、膨らんだ後にしばらく(数秒〜十数秒)形状を保持する製品もあり、その形状(カーテン状等)が機能として衝突安全に寄与するものもある。

非自動車用途では、落下する物体を受け止めるためのエアバッグが存在するが、これらはスペース的な制約があまり無く、バッグの容量も自動車用に比べると非常に大きいため、バッグ内だけのガス移動のみで、エネルギー吸収が可能である。(参考:[1]

歴史

技術者でありアメリカ海軍に所属していたJohn W. Hetrickは、現在のエアバッグにあたる安全クッションを1952年に設計し、翌年1953年に特許を取得した。彼は魚雷で用いられている空気圧縮技術を応用して、自動車事故の安全性を高めることを思いついた。Hetrickはアメリカの自動車会社でも働いていたが、会社側は彼の発明を製品化することに興味を示さず、この発明から10年以上たつまで市場に出ることはなかった。

Allen K. Breedは衝突検知の技術を発明し、開発した。Breedコーポレーションは、1967年にこの技術をクライスラーの車に搭載し初めて市場に出た。同様の衝突抑制器 "Auto-Ceptor" はEaton YaleとTowne Inc.によって開発され、フォードに搭載された。この技術はすぐにアメリカで自動車安全システムとして販売された[2][3]。一方、イタリアのEaton-Liviaカンパニーはこれを改良したローカライズされたエアバッグを販売していた[4]

現在、一般的に世界中で広く各社に使用されているエアバッグは上記のエアバッグではなく、日本人の発明である[5][6]。日本でのエアバッグの発明は1963年に遡る。特許申請事務代行業のGIC(グッドアイデアセンター)を経営していた小堀保三郎が、航空機事故などで、衝撃を緩和させ、生存率を改善させる装置として考案した。後に一般的に搭載されるようになったエアバッグではあるが、当時としてはあまりに奇抜な発想だったため、発表の場では、日本人の関係者からは失笑を買い、相手にされることはなかった。また、エアバッグが、火薬の使用が当時の日本の消防法に抵触してしまうことから、日本でエアバッグが開発されることはなかった。一方、欧米の企業では、エアバッグの研究、開発が進められ、それにあわせて法規も整えられていった。開発が進むにつれ、その有用性が認められ、1970年頃からは日本でも本格的な開発が始まった。現在、エアバッグは、世界中の自動車で、ほぼ標準装備となっているが、小堀が特許を有していた間は、実用化されていなかったため、特許による収入がなく、研究費などで借金を抱えていた。なお小堀はエアバッグの世界的な普及を知ることなく、1975年8月30日、生活苦から夫婦でガス心中を遂げている[7]

エアバッグが最初に実用化されたのは、1970年代中盤のアメリカ合衆国においてである。当時のアメリカでは、シートベルトの着用義務付けを法制化することに対し、「ロマンがなくなる」などという理由から反発があった。そのため、シートベルトを締めずとも死なないシステムをメーカーは用意する必要があった。1971年フォード社が顧客の車両にエアバッグを取り付け、モニター調査を行った。1973年にはゼネラルモーターズ(GM)が、キャデラックビュイックなど数車種でのオプション装備を可能とした。GMはこの装備をAir Cushion Restraint Systemと銘打っている。特にキャデラックでは、運転席と助手席ともにエアバッグを装備することが可能だった。ただし極めて高価であり、加えて誤作動による事故が発生したため1976年モデルを最後に姿を消している。

1980年には、ダイムラー・ベンツ社が、高級車Sクラス2代目モデル)にオプションとして装備した。同社が開発時に取得した特許は安全はすべてのメーカーが享受すべきという信念のもと、無償公開された。初期のエアバッグは、一部の限られた高級車にオプション装備として搭載されるのみであったが、次第に乗用車のほとんどでオプションとして搭載されたり、上級モデルには標準装備されるようになった。一時期、エアバッグ設定のない自動車でも装備できるよう、後付の機械式エアバッグ(レトロフィット エアバッグ)を製造・販売した会社もあったが、あまり売れず、現在は入手不可能となっている。そのため、ユーザーが、自らの好みに合わせて汎用の市販ステアリング・ホイールに変更した場合、原則として運転席エアバッグが装備できないことになる[8]

日本車初のエアバッグ搭載市販車は、1987年ホンダが発売したレジェンド(運転席のみ)で、日本車で最初に運転席側を全車に標準装備としたのは1992年発売の同社のドマーニである[9]。日本車では1990年代中盤から急速に普及した。当時の日産は、自動車そのものはそっちのけで、エアバッグのみを宣伝するようなCMを放送したほどだった。1999年までに販売された車種のエアバッグの火薬には人体に有害なアジ化ナトリウムが使用されていたが有害なことが問題視され、2000年以降の販売車両には使用されていない。

2009年現在では一部の安価な車種を除き、日米欧の大手自動車メーカーのほぼ全ての車種の運転席・助手席に標準装備されている(それ以外は、現在もオプション装着のものが多い)。唯一、ボルボでは、車の購入時に助手席エアバッグを装備しない選択もできる。また、助手席エアバッグの作動を一時的にキャンセルする機能や、車の購入後でも助手席エアバッグを作動しない状態にするサービスがある。これは、助手席に小さな子供を乗せて走るユーザーへの配慮である[10]

運転席・助手席の座席サイド部分に内蔵されているサイドエアバッグ、ルーフライニングのサイド部分に内蔵されているカーテンエアバッグインパネ下部に内蔵されている下股部を保護するニーエアバッグも搭載されるようになった。その後、乗用車はもちろん、軽自動車貨物自動車バスにも搭載されている。しかし、欧州メーカーと比較すると多くの日本メーカーはサイド・カーテンエアバッグの標準搭載が遅れており、廉価グレードではオプションですら選択できないことも多い。そればかりか、マイナーチェンジを機にオプション設定からはずされてしまった車種も存在する。軽自動車では現在においてもサイド・カーテンエアバッグの設定がない車種が多い。

一部の車種では、ハンドルや助手席エアバッグに外から見て盛り上がりや切れ目のない(つまり、装備されていないように見える)車種が増加した。その理由として、質感の向上やドライバーの視線の妨げにならないようにすることを目的としている。部品モジュール化やCAD技術の発達、ドイツ製レーザーカット機の導入によるところが大きい。

なお、機械式エアバッグ内蔵ステアリング・ホイール(例:エアバッグ搭載が始まった頃のトヨタ・カリーナトヨタ・コロナ等)ステアリングの場合、ステアリング・ホイールに関わる整備(取り付け・取り外し含む)の際の衝撃による意図しない作動を防ぐための安全装置(デアーミング機構)がステアリング・ホイール本体に設置されている場合が多いので、取り扱いの際には注意を要する。

関連する法令

エアバッグは火薬を使用する火工品であるが、「火薬類取締法施行規則第1条の4第7号の規定に基づき、火薬類取締法の適用を受けない火工品を指定した件」(平成17年経済産業省告示第346号)によって火薬類取締法施行規則(昭和25年通商産業省令第88号)第1条の4第7号の規定に基づく、火薬類取締法(昭和25年法律第149号)の適用を受けない火工品に指定されている。使用済自動車の再資源化等に関する法律施行令(平成14年政令第389号)第3条において、使用済自動車の再資源化等に関する法律(自動車リサイクル法)(平成14年法律第87号)第2条第6項に掲げる「指定回収物品」として定めている。

歩行者保護用エアバッグ

乗員保護用のエアバッグ以外に、歩行者保護用のエアバッグの開発も行われている。日野自動車は同社が発売する小型トラックデュトロのフロントバンバー下にエアバッグを展開し、歩行者の巻き込み事故を防ぐ装置を2004年に発表した。

乗用車では2012年にボルボ・V40のオプションとして搭載された[11]。衝突と同時にボンネット上部の隙間からU字型のエアバッグを展開し、歩行者の頭部がフロントガラスに衝突することを防ぐ。

注釈・出典

  1. 警告灯放置なら車検通らず 2月から - 毎日新聞 2017年1月29日 08時30分
  2. Popular Science May, 1968
  3. Inventor of the Week: Archive”. Web.mit.edu. . 2010閲覧.
  4. Safety Design, John Fenton, The Times Jan 24 1969
  5. http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150321-00818815-sspa-soci
  6. http://nikkan-spa.jp/818815/airbag
  7. 誰が昭和を想わざる 昭和ラプソディ
  8. メーカー装備のエアバッグを活かしたままステアリング・ホイールの意匠を変更する業者もいる。
  9. モーターショーにおいては1970年代中盤から各社より発表されていた。
  10. その他エアバッグにおいても、競技・曲技等、事故以外の状況でも大きな衝撃を受けることが予測される場合、あえて作動をキャンセルすることもある。なお、ハンドルに装備されたエアバッグの場合、取り外してしまうとホーンボタンがなくなるなど、他の操作に支障があるために取り外さずに作動回路をキャンセルする場合が多い。また、一般には自動車メーカーが指定した以外の方法でエアバッグの作動をキャンセル(取り外しを含む)した場合はECUの自己診断によって計器盤内の警告灯が点灯し、イベントログに記録もされる場合もあるが、警報並びに記録機能を不作動とする方法を採用している場合もある。
  11. ボルボ V40 【海外試乗】 : 2012/09/12 - Carsensor.net、2012年9月12日閲覧

関連項目

外部リンク