オリーブ

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オリーブ: olive [ˈɒlɨv]、学名: Olea europaea)は、モクセイ科常緑高木。日本語では稀に「橄欖(かんらん)」と呼ぶことがある。

概要

果実は油分を多く含み、主要な食用油の一つであるオリーブ・オイルの原料である。 古代から重要な油糧作物として知られている。また原産地が西洋文明の発祥区域であった地中海沿岸であるため、聖書の記述をはじめ多くの文化的記録が残っている。

地中海地方が原産とされる。葉が小さくて硬く、比較的乾燥に強いことからスペインイタリアなどの地中海地域で広く栽培されている。

紀元前700年頃から古代ギリシアはオリーブの栽培によって国力を蓄え、今日の産油国のように繁栄を迎えた。オリーブには希少価値があり、ヘロドトスは紀元前5世紀頃に「アテナイを除き、世界のどこにもオリーブの木は存在しない」と記述している。ギリシアが地中海各地に植民市を建設するとともに、オリーブの木も移植され広まっていった。紀元前370年頃イタリア半島に移植され、やがてオリーブの主要生産地の一つとなった[1]

名称

原産地のギリシアのギリシア語ではἐλαία (「エライア」と読み、オリーブの木やオリーブの実を指す)、あるいはἔλαιον (「エライオン」、オリーブ・オイルを指す)。地中海沿岸を広く支配したローマ帝国の言語であるラテン語ではŏlīva(オリーブの木、オリーブの実を指す)と呼び、それがラテン語の方言であるロマンス諸語のイタリア語oliva・スペイン語oliva・フランス語oliveになり、古フランス語の語彙が大量に流入した中期英語ではoliveとなった。 日本語では基本的には英語やフランス語を音写した「オリーブ」と呼ばれ、まれに「橄欖(かんらん)」と呼ばれることもあるが、橄欖は本来オリーブとは全く異なるカンラン科の常緑高木である(カンラン (カンラン科)参照)。これは、オリーブに似た緑色の鉱物オリビン(olivine)を和訳する際に、まったく違う樹木である橄欖の文字を誤って当てて「橄欖石(かんらんせき)」と名づけてしまい、植物のほうも同様に誤字が流布してしまった結果であるという説がある。ただし、明治初期に和訳された新約聖書マタイによる福音書のなかに「橄欖山の垂訓」があり、当時はオリーブを用法の似た「かんらん」と混同ないし、同一視されていたため、鉱物の誤訳説には疑問がある。また別の説では、カンランの果実を塩蔵したものを英語で chinese olive と称したことによるとも言われる。

用途

オリーブの果実は油を搾るほか食用にされる。そのまま生食すると苦味が強いが、加熱するとそれはやわらぎピクルスピザの材料としたり、塩漬けにしてカクテルマティーニに必須の材料である。また種子からも油が取れるが、これはオリーブ核油といい、オリーブ油よりも品質が劣る。

オリーブの木材は硬く(爪の先で押してもほとんど傷つかない)重く(比重は約0.9)緻密で、油分が多く耐久性があり、装飾品や道具類、特にまな板、すりばち、すりこぎ、スプーン、調理用へらなどの台所用品を作るのによく用いられる。木製品としてはかなり高価である。日本では印鑑の材料にされることもある。辺材は黄白色、心材は黄褐色で、褐色の墨流しのような不規則なしま模様がある。オリーブ材の加工はフランス・イタリアなどで盛んだが、ヨーロッパのオリーブは幹が細いものが多く、加工用のオリーブ材はチュニジアなどのアフリカ産が多い。日本でも小豆島でオリーブ材をわずかに生産している。

害虫

4月頃から先端が青虫に食害されることが多い。これを防ぐためにフェニトロチオン等の乳剤の希釈液を幹にだけ塗布する樹幹散布が行われる。他にもオリーブアナアキゾウムシによる被害もある。

生産

オリーブは重要な商品作物である。FAOの統計資料によると、98%以上の生産国は地中海に面し、そのうち、2/3がヨーロッパ州に集中している。

2002年のオリーブの実の生産量は1398万トンであり、全体の30.8%をスペインが生産(430万トン)していた。生産上位10カ国は、スペインイタリア(19.5%)、ギリシャ(14.3%)、トルコ(10.7%)、シリア(7.1%)、モロッコ(3.0%)、ポルトガルエジプトアルジェリアヨルダンである。

1960年には年産400万トンだったが、1990年に1000万トンを超えた。2002年までの10年間に生産量が著しく増加した国は、スペイン(140万トン)、シリア(80万トン)、トルコ(70万トン)、エジプト(30万トン)。ギリシャ(20万トン)、ヨルダン(15万トン)である。逆に、減少が著しい国はイタリア(50万トン)、チュニジア(20万トン)である。

2002年時点で、地中海に面した国のうちオリーブ生産量(果実)が少ないのはアルバニア(2.7万トン)、キプロス(1.8万トン)、フランス(2万トン)、マルタのみである。地中海以外であっても、地中海性気候に属する地域を含む国ではオリーブは生産されている。例えば、イラン(4万トン)である。中央アジアでもわずかに生産されているが統計データとしてはごく少量である。

日本での栽培は香川県小豆島で1910年頃はじめて成功した(それ以前に平賀源内がオリーブ栽培に取り組んだが、ホルトノキをオリーブと誤認し失敗している)。現在は香川県を含む四国全域、岡山県広島県兵庫県九州関東地方中部地方東北地方など全国各地で栽培されている。宮城県石巻市東日本大震災からの復興の一環として、"北限のオリーブ"栽培に取り組んでいる[2]。なお、果実から種を取り出すための専用器具も販売されている。

程度差はあるが自家不和合性が有るため同一品種の花粉では結実し難い[3]

ギャラリー

象徴としてのオリーブ

  • オリーブの樹は「太陽の樹」とも呼ばれる。
  • 古代エジプトでは、女神イシスがオリーブの栽培と利用を教えたとされる。ラムセス3世太陽神ラーに神殿の灯油のためのオリーブ畑を捧げたとされる。
  • ホメーロスはオリーブオイルを「液体の黄金」と謳った。オリーブオイルは古代地中海貿易の主要商品の一つであった。オリーブは豊穣・富の象徴とされる。
  • オリーブはフクロウとともに、女神アテーナーに付随するシンボルである。
  • アテナイの発行した4ドラクマ銀貨は、表に女神アテーナー、裏にフクロウとオリーブの枝と三日月が刻印されていた。
  • オリーブは勝利の象徴ともされる。
  • ギリシア神話では、女神アテーナーは海神ポセイドーンアッティカの領有権を争い、どちらが市民に役立つ贈り物をするかを競い、ポセイドーンは塩水の湧き出る泉もしくは戦に役立つ馬を、アテーナーは食用となる実とオリーブオイルの採れるオリーブの樹(の森)を贈り、アテーナーはアッティカの守護女神に選ばれ、アッティカの中心となるポリスは「アテナイ」と呼ばれるようになった。
  • オリュンピア大祭(古代オリンピック)では、勝者に授けられる冠にクレタ島のオリーブの樹から作られたオリーブ冠が使われた。これを月桂冠とするのは誤りで、月桂冠は太陽神アポローンの聖地であるデルフォイで行われるピューティア大祭の勝者に授けられた。
  • ユダヤ教キリスト教イスラム教では、オリーブオイルは戴冠式聖別などの宗教儀礼での「聖油」としても用いられる。
  • オリーブの枝は、と伴に「平和の象徴」となっている。これは『旧約聖書ノアの箱舟のくだりで「が起こした大洪水のあと、陸地を探すためにノアの放った鳩が、オリーブの枝をくわえて帰ってきた。これを見たノアは、水が引き始めたことを知った」との一節(創世記8章8-12節)に基づいている。斜に構えた見方をすれば、オリーブや鳩の象徴する「平和」とは、「(神罰・世界の終末による)大災厄により、ほとんどの(悪しき)人間が滅びた後の、「新世界」における平和」ともいえる。
  • 旧約聖書やギリシヤ神話の故事から、オリーブの花言葉は、「平和」・「安らぎ」・「知恵」・「勝利」である。
  • 聖書は、イエス・キリストは普段からオリーブ山のふもとのゲッセマネ(「オリーブの油搾り」)の園で祈ることを好み[4]最後の晩餐の後もゲッセマネの園で最後の祈り(ゲツセマネの祈り)を捧げた[5]、と伝えている。
  • オリーブの枝は、ベネディクト会のシンボルであり、同会は「オリーブ会」とも呼ばれる。
  • オリーブの枝は、国際連合旗や、いくつかの国の国旗国章にも使われている。
  • オリーブは、ギリシャ(国樹)、イスラエル(国樹)、ポルトガル(国花)の、国樹・国花である。
  • イタリア政党連合にも「オリーブの木」というのがあった。
  • 1米ドル紙幣に描かれたハクトウワシの右脚には「オリーブの枝」、左脚には「」が握られている。
  • 日本では、香川県の県の木、県の花に指定されている。


耐用年数

平成20年度税制改正において、法人税等の「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」が改正され、別表第四「生物の耐用年数表」によれば平成20年4月1日以後開始する事業年度にかかるオリーブ樹の法定耐用年数は25年となった。

脚注

  1. ビル・ローズ著 柴田譲治訳『図説:世界史を変えた50の植物』 原書房、2012年、pp140-143
  2. “北限のオリーブ栽培実験の取組創設”. 石巻市. (2016年5月20日). http://m-nkaigi.sub.jp/wadai/20160520/20160520_ishinomaki.pdf/ 
  3. 大場和彦、下高敏彰、泉哲也、中道隆広、長崎県におけるオリーブ栽培適地性の農業気象学的解析 長崎総合科学大学紀要 2012, No.52
  4. ルカによる福音書』 22:40
  5. 『ルカによる福音書』22:43~44

関連項目

外部リンク