カシミール語

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カシミール語 (Kashmiri, कॉशुर, کٲشُر) は、主にインドジャンムー・カシミール州西部で話されている言語である。パキスタンにも少数の話者がいる。インド・アーリア語派ダルド語群に属し、この語群の中ではもっともよく知られた言語である。話者の人口は約558万人(2001年)[1]

インド憲法第8付則に定められた22の指定言語のひとつである。スリナガル一帯で話される方言が標準的と考えられている[2]。ただし、ジャンムー・カシミール州の公用語はウルドゥー語である[3]

インド語派の大部分の言語の語順が SOV であるのに対し、カシミール語はドイツ語と同様のV2語順を取る。

カシミール地方は、14世紀以降イスラム国家の支配を受け、イスラム化が進んだ。1907年まではペルシア語が公用語であり、それ以降はペルシア語の影響を強く受けたウルドゥー語が公用語になった。このため、カシミール語はペルシア語の強い影響を受けている[4]

音声

ほかのインド語派の言語と異なり、カシミール語には /a i u e o/ それぞれの短母音と長母音に加えて、中舌母音 /ɨ ɨː ə əː/ および短い /ɔ/ が存在するため、短母音が8つ、長母音が7つ存在する。さらに鼻母音も発達している[5]。インドの言語の中でも非常に多くの種類の母音のある言語である。ただし、カシミール語の母音の分析は学者による意見の違いがある[6]

子音では ts tsh と c ch とを区別する。いわゆる有声帯気音が存在しないのはパンジャーブ語と同様だが、パンジャーブ語のように声調を発達させてはいない。

カシミール語の子音のもうひとつの特徴は口蓋化子音であり、c ch j š 以外のすべての子音について口蓋化子音を音韻的に区別する[7]。語末でも対立がある。

意味 カシミール語 ヒンディー語
庭師 bāgvān bāgvān
幸運な bāg'vān bhāgyavān

文法

カシミール語の文法は基本的にはヒンディー語などとあまり変わらない。名詞は男女2種類の性に分かれ、単数と複数で変化し、格は後置詞によって表され、属格の後置詞は形容詞的に変化する。形容詞は修飾する名詞と性・数・格を一致させるが、不変化の形容詞もある。形容詞や名詞属格は修飾する名詞の前に置かれる。冠詞はないが、不定をあらわす接尾辞がある。代名詞は独立形と、動詞の主語や目的語を表す後倚辞形がある。

動詞の現在は分詞とコピュラ(人称・性・数によって変化する)を組み合わせ、過去では能格構文を取って動詞は自動詞の主語・他動詞の目的語と性・数を一致させるが、人称後置詞(二人称のみ、単数または複数)は主語と一致する。未来は接尾辞を加えることで表す。完了は接尾辞をつけた分詞形をコピュラと組み合わせて表現する。

カシミール語の風変わりな点は動詞が文の二番目に来ることで(V2語順)、南アジアのほとんどの言語(インド・アーリア語派だけでなく、イラン語派ドラヴィダ語族ムンダー語派チベット・ビルマ語族も同様)が SOV であるのとくらべ、いちじるしく例外的である。一番目の要素は主語である必要はなく、目的語であっても、場所や時間を表す語であってもよく、その場合は主語は動詞のあとに置かれる。また、コピュラと分詞、助動詞と不定詞を組み合わせた形では、コピュラ・助動詞が二番目に、分詞・不定詞は通常文末に置かれる[8][9]

表記

かつてナーガリー文字の系統のシャーラダー文字を用いたが、現在は主にアラビア文字系のペルシア文字を用いる。

デーヴァナーガリーを使用する場合は、中舌母音を表すためのいくつかの記号を追加して用いる[10]

脚注

  1. 引用エラー: 無効な <ref> タグです。 「ethno」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません
  2. Koul (2007) 1.1
  3. (2014-07-16) “Jammu and Kashmir”, 50th Report of the Commissioner for Linguistic Minorities in India (July 2012 to June 2013). “The Official Language of the State is Urdu.” 
  4. Koul (2011)
  5. Koul (2007) pp.900-901
  6. Masica (1993) pp.112-113
  7. 例は Koul (2007) p.902 より
  8. Masica (1993) pp.335-336
  9. Koul (2007) p.931
  10. Koul (2007) 1.3

参考文献

  • Koul, Omkar N [2003] (2007). “Kashmiri”, in George Cardona; Dhanesh Jain: Indo-Aryan Languages. Routledge. ISBN 020394531X. 
  • Koul, Omkar N (2011). “KASHMIR iv. Persian Elements in Kashmiri”, イラン百科事典, 56-61. 
  • Masica, Colin P [1991] (1993). The Indo-Aryan languages, paperback, Cambridge University Press. ISBN 0521299446. 

関連項目

外部リンク