カラビ予想

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数学においてカラビ予想: Calabi conjecture)とは、ある種の複素多様体上に「良い」性質を持つリーマン計量が存在することを主張する予想である。テンプレート:Harvs が1950年代に提出し、1977年頃にテンプレート:Harvsにより解決された。この証明を理由のひとつとしてヤウは1982年フィールズ賞を受賞した。

カラビ予想とは、コンパクト ケーラー多様体は、2-形式により与えられる任意のリッチ曲率[1]に対し、リッチ曲率の所属する第一チャーン類に対し、多様体上に一意にケーラー計量が決まるであろうという予想である。特に、第一チャーン類がゼロである場合には、リッチ曲率がゼロとなる同じクラスのなかに一意的にケーラー計量が決まり、これらをカラビ・ヤウ多様体と言う。

さらに公式に、カラビ予想を記述すると、

M がケーラー計量 [math]g\;[/math] とケーラー形式 [math]\omega\;[/math] を持つコンパクトケーラー多様体で R が多様体 M の第一チャーン類を表す(1,1)-形式とすると、一意にケーラー計量 [math]\tilde{g}[/math] とケーラー形式 [math]\tilde{\omega}[/math] が M 上に存在し、[math]\omega\;[/math][math]\tilde{\omega}[/math]コホモロジー H2(M,R) の同じクラスを表し [math]\tilde{\omega}[/math] のリッチ曲率が R となる。

カラビ予想は、どのようなケーラー多様体がケーラー・アインシュタイン計量を持つのかという問題と密接に関連する。

ケーラー・アインシュタイン計量

カラビ予想と密接な関連する予想として、コンパクトケーラー多様体が負、ゼロ、正の第一チャーン類を持つと、定数倍を除外してケーラー計量としてチャーン類に対応するケーラー・アインシュタイン計量を持つという予想がある。この予想の証明は、負のチャーン類に対して、ティエリー・オービンEnglish版(Thierry Aubin)とシン=トゥン・ヤウ(Shing-Tung Yau)により1976年になされた。チャーン類が 0 のときは、ヤウにより、0 の場合の結果より証明された。

第一チャーン類が正の場合は、ヤウが 2点でブローアップした複素射影平面English版はケーラー・アインシュタイン計量を持たないことを証明した。従って、正の場合の反例となる。また、ケーラー・アインシュタイン計量が存在しても一意には決定されないことも証明した。正の第一チャーン類に対して、さらに多くの結果がある。ケーラー・アインシュタイン計量が存在するための必要条件は、正則ベクトル場のリー代数が簡約的であることなどがある。ヤウは、正の第一チャーン類に対しケーラー多様体がケーラー・アインシュタイン計量を持つことと、幾何学的不変式論の意味でケーラー多様体が安定なことが同値であることを予想した。

複素曲面の場合は、ガン・ティアン(Gang Tian)により研究された。正のチャーン類を持つ複素曲面は、2つの射影直線(明らかにケーラー・アインシュタイン計量を持つ)の積か、もしくは一般の位置にある多くとも 8個の点ブローアップされた射影平面である。一般の位置の意味は、一直線上に 3つの点が並ばないこと、二次曲線の上に 6つの点が載っていないことを言う意味である。射影平面はケーラー・アインシュタイン計量を持っていて、1つまたは 2つの点でブローアップされた射影平面は、正則ベクトル場のリー代数が簡約的ではないので、ケーラー・アインシュタイン計量を持たない。ティアンは、一般の位置にある 3, 4, 5, 6, 7, 8 個の点でブローアップされた射影平面はケーラー・アインシュタイン計量を持つことを示した。

カラビ予想の証明の概要

カラビは、予想を複素モンジュ・アンペール方程式English版(Monge–Ampère equation)のタイプの非線形偏微分方程式として解釈し、この方程式が多くとも 1つの解しか持たないこと、従って求められているケーラー計量は一意であることを示した。

ヤウは、この方程式の解を連続の方法を使いカラビ予想を証明した。連続の方法とは、最初はより簡単な方程式を解き、続いて難しい方程式へ連続的に変形することができる簡単な方程式の解を示すことを意味する。ヤウの解法の最も困難な部分は、解の微分に対するあるアプリオリ評価English版(a priori estimate)を証明するところにある。

カラビ予想の微分方程式への変換

M をケーラー形式 ω を持つコンパクト複素多様体とする。同じクラスに中の任意の他のケーラー形式は、定数を加えることを除き、一意に M 上のある滑らかな函数 φ に対し

[math]\omega+dd'\phi[/math]

となる。従って、カラビ予想は次の問題と同値となる。

F=ef を平均値 1 を持つ M 上の正の滑らかな函数とする。すると、滑らかな実函数 φ が存在して、
[math](\omega+dd'\phi)^m = e^f\omega^m[/math]
を満たし、φ は定数を加えることを除き一意に決まる。

これは、単一の函数 φ についての複素モンジュ・アンペールタイプの方程式である。この方程式は、高次の項が非線形であるため、解くことが特に困難な偏微分方程式である。f = 0 のときに、φ = 0 が解であることは簡単である。連続の方法のアイデアは、全ての解かれた f の解に対して、開いている場合と閉じている場合の双方での解となっているような f の集まりを示すにより f を求める方法である。f の解くことのできる集まりが空集合でなければ、全ての f は連結で、このことは全ての f に対して解くことが可能なことを示している。

次の式により定義される φ から F への滑らかな函数どうしの写像は、単射でも全射でもない。

[math]F=(\omega+dd'\phi)^m/\omega^m[/math]

φ に定数を加えることで F は変化しないので単射ではないし、F は正であり、かつ平均値 1 を取らねばならないので全射ではない。従って、平均値 0 を取るように正規化された φ に函数を限定した写像を考え、この写像が平均値 1 を取る正の F=ef の集合の上への写像となるかを問うことになる。カラビとヤウは、実際、この写像が同型となることを証明した。下記に示すように、この証明はいくつかのステップを踏む。

解の一意性

解の一意性を証明することは、

[math](\omega+dd'\varphi_1)^m = (\omega+dd'\varphi_2)^m[/math]

の時に、φ1 と φ2 が定数のみ異なることを示すことである(すると、正規化されていて、平均値が 0 であることの双方を示すと同一であるはずである)。カラビは、このことを

[math]|d(\varphi_1-\varphi_2)|^2[/math]

の平均値が多くとのゼロである表現により与えられることを証明した。少なくともゼロであることが示すと、ゼロとなるはずであるから、

[math]d(\varphi_1-\varphi_2) = 0[/math]

となり、このことは φ1 と φ2 が定数しか異なっていないことを示していることとなる。

F の集合が開いている場合

可能な F の集合が開いている(滑らかな函数で平均値が 1 である集合)を証明することは、ある F に対して解を求めることができる場合は、全ての閉じた集合で F の解となることができることを示すことである。カラビは、バナッハ空間陰函数定理を使い証明した。これを適用するために、主要なステップは上の微分作用素の「線形化」が可逆なことを示すステップである。

F の集合が閉じている場合

証明の最も困難な部分で、ヤウによりこの部分が証明された。

F が可能な函数 φ のイメージの閉包とする。このことは、函数の列 φ1, φ2, ... が存在し、対応する函数 F1, F2,... が F へ収束することを示すことを意味し、問題はある φの部分列が解 φ へ収束することを示すことである。この収束性を証明するために、ヤウは、函数 φi とそれらの高次導関数に対して、log(fi) の高次導函数の項の中に前提的境界English版(a priori bound)を見つけた。これらの境界を見つけることは、困難な見積もりの長い列を必要とし、前の見積もりを少しずつ改善する必要がある。ヤウの得たこの境界は、函数 φi は全て適当な函数バナッハ空間の中のコンパクトな部分集合の中にあることを示すに十分であったので、収束列を見つけることが可能となった。この部分列は、F にイメージを持つ函数 φ へ収束し、F の可能なイメージの集合が閉じていることを示している。

脚注

  1. 本記事では、Ricci curvatureとRicci formを同じ訳語とし、「リッチ曲率」に統一する。

参考文献

外部リンク