グランゼコール

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グランゼコール(Grandes Écoles 発音例、またはグランド・ゼコール)とは、フランス社会における独自の高等職業教育機関である。大学のような教養としての学問や教育ではなく、社会発展に直接寄与する「高度専門職業人の養成」を理念とした学問の普及と教育を行っている。国際標準教育分類(ISCED)では6レベルに相当する。

概略

理工系を中心に政治・経済・軍事・芸術に至るまで職業と関連した諸学について、フランスにおける最高クラスの教育が与えられる。卒業生は近代以降のフランス社会での支配階層を占めており、一例を挙げれば政治系グランゼコールであるフランス国立行政学院はこれまで数十名の大統領首相を輩出してきた。その存在は大学よりも格上と看做される事も多く、特に名門中の名門とされるグランゼコールには高等教育機関に所属するフランス国民の内、全体の数パーセントしか進学できないとされている。

一方で学位の付与などの権限はなく、国際的な知名度という点では限定的で制度としての理解も乏しい現状にある。またあらゆる実践的学問が教えられるグランゼコールであるが、医学法学神学の分野は存在しない。そのために、医師弁護士神学者を志望する学生には大学に進学する以外に選択肢はない。

歴史

最初のグランゼコールは国立土木学校であり、1747年ルイ15世の勅令によって、国家建設に不可欠な土木・建築領域におけるテクノクラート養成を目的として創立された。

現在名門とされる国立のグランゼコールの多くは18世紀に設立された。これらの歴史の古いグランゼコールのほとんどが理工系技術者の専門職養成機関である。これは、フランス革命によって貴族制が否定され、新国家再建のために高度な専門知識・技術を有する人材が求められたのに対して、フランスの大学はリベラルアーツ教育を目的としており、実学の専門教育を高度に行う機関が存在せず、それを国家が用意する必要があったためである。その後、理工系グランゼコールを卒業した者は、フランスの富国強兵政策の技官として、また富国強兵政策の立案者としての役割を担ってきた。

理工系のグランゼコールが充実すると、経済・商業関系のグランゼコールも設立され始める。しかし、この時期に設立されたグランゼコールが現在のような専門分野での名門としての地位が高まるのは、下記の国立行政学院の設立以降である。

第二次世界大戦後には、国際的にも知られているフランス国立行政学院が設立された。

評価

グランゼコールでは教師が一人で多数の生徒を相手にするという"マス教育"ではなく、"少数精鋭"の高度専門教育を行う。いずれも難関で知られ、入学難易度の高さは世界的にも高水準である。しかし、広範にわたる知識と教養の伝播を目的とし、また研究機関としての役割も重要な大学とは、性質が大きく異なるため、単純に比較することはできない。また、グランドゼコールでは学位は授与されないため、多くの学生は通常の大学で試験だけを受けて学位を取得する。

各種存在する世界大学ランキングなどでは、専門的な教育レベルや学生のレベルだけでなく、研究水準・設備・出版論文数なども評価の対象とされるため、少数で特定の専門分野における精鋭教育を行うことが売りのグランゼコールは評価されにくい。そのため、教育機関として絶大な支持を集める名門グランゼコールでも、フランス国外の一般人にはその存在や影響力が詳しく知られていないことも多々ある。


進学キャリア

グランゼコール準備級(CPGE)

グランゼコールのひとつ(=グランデコール)への入学を希望する生徒は、Classes préparatoires aux grandes écoles (CPGE, グランゼコール準備級)に所属する必要がある。CPGEは独立した学校ではなく、主に、名門中高一貫校におけるバカロレア取得後の進学コースのようなものであり、ISCED-5Aに位置づけられる[1]

CPGEに進学できる子女の数は限られており、そこからさらにグランゼコールに進学できる学生数も制限されている(高等師範学校のような文系の場合は合格率は1~3パーセント程度。ただし理系の学校は専門が細分化されており定員枠も文系よりも遙かに多いため、合格率は過半を越える)。1974年頃以前は、余程優秀な学生を除き、労働者階級出身者は少なかった。ただし、これは必ずしも階級的な差別が存在したが故のことではなく、準備学級への進学やグランゼコールの受験に要する費用が多大で教育環境の整備が必要だったため、結果的に有産者階級や知識人層家系の出身者が大多数を占めていたことによる。

なお、かつてはCPGEの選抜試験は学校単位で実施されていたが、現在は試験は全国で一括して実施され志望者が特定の学校を選択することはできず、試験結果に応じて入学する学校が指定され、その判断の理由は公表されていない。学生はこのCPGEで2年間勉学を行うが、1年次から2年次への進級は難しくかつ卒業も難関であり、グランゼコールを目指す者は「太陽を見ることがない」と言われるほどの猛勉強をすることとなる。そのためCPGEの学生はモグラと揶揄されることもある。2年次進級できなかったものは、大学に編入することが多い。なお、グランゼコールに受験できる回数は3回までに限られており(合格するまでは「留年生」として準備学級に在籍できる)、3回以内で合格できなかった場合には通常の大学に進学せざるを得ない。

また、CPGEの大半は公立で無償であるが、高収入の家庭でなければ授業料を払うことすらも難しい私立校も若干ある。なお、サルトルフーコーといったフランスを代表する人物を輩出してきたリセ・ルイ・ルグランやアンリ・キャトルは公立であるため無償である。

入学試験

CPGEを卒業したものは、グランゼコールの選抜試験へと進む。選抜試験は、筆記(論文形式)と面接による試験である。試験内容は、専攻する学問に関連する領域における論文を記述するもの。

例えば高等師範学校(文系)の場合には試験は二次に渡って実施される。一次試験では歴史学、哲学、社会学などの領域を対象(専攻領域によって対象は異なる)として、「××(歴史的な出来事)のフランスにおける意義」と言った広汎な設問に対して論理的かつ詳細な論述が求められ、同時に数十ページに渡る外国語テキストの翻訳の語学試験(二カ国語以上)も実施される。試験時間は論述試験は一領域あたり6時間程度、語学は4時間程度を要するため、一週間程度の期間に連続して試験を受けることになる。この一次試験を通過した後に一次試験と同様の二次の論述試験と共に、数時間で論文を読破した後にその内容に関する詳細な説明や討論が求められる面接試験が実施される。したがって、面接試験と言っても日本における面接試験のような、志望動機や入学するに当たっての希望や心構えなどが尋ねられることはない。

在学中

フランスでは大学も含めて公教育が無償であることが多い。エコール・ポリテクニークや高等師範学校などのグランゼコールでは、聴講官という準国家公務員相当の地位となり給金が支給されるが、卒業後10年間は公務員として働く義務を負い、辞退者にはペナルティ罰金が課される[2]。しかし商業系のグランゼコールによっては国立であっても有償で、学費の安くないところもある。

卒業後は専攻した分野のエリートとして扱われ、実際に政・官・財・学すべての分野においてその卒業生が多数活躍している。

主なグランゼコール

理工系・自然科学系グランゼコール

フランスでは名門グランゼコールに進学することは、その専門分野でのエリートコースであるという認識も強くあるため、注目が高く、様々なランキングが出されている[3][4]。評価は、ランキングを算出する機関や雑誌により異なるが、エコール・ポリテクニークパリ国立高等鉱業学校エコール・サントラル・パリ国立土木学校高等電気学校が名門とされている。入学選抜試験も最難関であり、理工系・自然科学系グランゼコールの頂点と考えられている。

その他のグランゼコール

グランゼコールは上記の理工系分野を中心に創設された経緯があり、商業・教育・政治・行政・司法・軍事のグランゼコールは理工系に比較するとそれほど多くはなく、歴史も浅いものが含まれる。例外として、高等師範学校高等研究院が挙げられるが、これは自然科学・人文科学・社会科学の全てを含むグランゼコールとして設立されたため、古い歴史を有している。

政治・行政分野に関しては、国立行政学院や9校の政治学院が名門とされる。特にパリ政治学院を卒業して、フランス国立行政学院に進学するパターンがその分野におけるエリート中のエリートコースとされている。

MBAなどを取得できるグランゼコールもある[5][6]

名門グランゼコールの学生や出身者は通称で呼ばれる。例えば、ポリテクニシャン(エコール・ポリテクニーク=理工科学校)、サントラリアン(エコール・サントラル=中央学校)、ノルマリアン(エコール・ノルマル・シュペリウール=高等師範学校)、エナルク(エナ=国立行政学院)、シャルティスト(エコール・ナシオナル・デ・シャルト=国立古文書学校)などがある。

名門とされるグランゼコール

理工系・自然科学系グランゼコール

商業系グランゼコール

教育・政治・行政・司法系グランゼコール

軍事系グランゼコール

脚注

関連項目

外部リンク


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