ゲルマニウム

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ゲルマニウム英語: germanium[1] [dʒərˈmeɪniəm])は原子番号32の元素元素記号Ge炭素族の元素の一つ。ケイ素より狭いバンドギャップ(約0.7 eV)を持つ半導体で、結晶構造は金剛石構造である。

電子機器に使われ、有機ゲルマニウムのプロパゲルマニウムは経口B型肝炎治療の医薬品としても使われる。健康器具ではその効果を示す文献はないとされ、日本で違法にがんに効くと宣伝して業者が逮捕されたケースもある。

用途

初期のトランジスタにはゲルマニウムが使われ、安定性に優れるケイ素(シリコン)が登場するまでは主流だった。現在でも、電圧降下が小さいことからダイオードや、バンドギャップが比較的狭いことから光検出器に用いられる。

また、ガンマ線の放射線検出器(半導体検出器)にも用いられる。素子を液体窒素などで冷却する必要があるという欠点もあるが、エネルギー分解能に優れることから利用されている。

赤外線に対して透明で、赤外域で高い屈折率(約 n = 4)を示す材料として有用である。この性質を利用して石英を用いたレンズにゲルマニウムを添加すると屈折率が上がり、また赤外線を透過するようになるので、光学用途にも多用される。

歴史

ドミトリ・メンデレーエフは、自ら考案した周期表で当時知られていた元素(ケイ素)から、未発見の元素を "エカケイ素"(Ekasilicon, Es:周期表におけるケイ素のすぐ下の元素という意味)として予言した。1885年ドイツクレメンス・ヴィンクラーがアージロード鉱という銀鉱石からエカケイ素に当たる新元素を発見し、ドイツの古名ゲルマニア (germania) にちなんでゲルマニウムと命名した。メンデレーエフが周期表に基づいて予想したエカケイ素の性質とゲルマニウムの性質がよく一致し、メンデレーエフの周期表の完成度の高さを示す好例となった。

エカケイ素Es と ゲルマニウムGeの性質
エカケイ素 ゲルマニウム
原子量 72 72.63
密度 (g/cm3) 約5.5 5.327
融点 高い 摂氏952度
灰色 灰色

ゲルマニウムは半導体材料としては比較的融点が低いため、ゾーンメルト法によって半導体として利用できる高純度の単結晶を得ることが比較的容易だったので黎明期の半導体産業で使用された。1947年12月にベル研究所で初めて増幅作用を確認した点接触型トランジスタはGeトランジスタで、それに続いて開発された合金接合型トランジスタもGeトランジスタで1950年代の黎明期の半導体産業を支えた。Geトランジスタは高温に弱く、動作温度範囲の上限が約70℃に制限されるという弱点があったがシリコントランジスタは高温での安定性が高く、約125℃まで作動したので、高温でも安定して作動するシリコントランジスタが主流になったことにより、半導体として使用されるゲルマニウムは主役の座を降りたかに見えたが、近年、シリコントランジスタの高速化の限界が顕在化するにつれてゲルマニウムの高電子移動度が着目され、再び脚光を浴びつつある[2][3]。また、ゲルマニウム単体だけでなく、シリコンに微量のゲルマニウムを添加したシリコンゲルマニウムとして使用する開発も進みつつある[4]。この場合、従来の微細化プロセスを利用できるので高集積度の半導体素子の製造に適する。界面で二酸化ゲルマニウム(GeO2)の分解が起きることにより一酸化ゲルマニウム(GeO)が発生するためシリコン半導体では製造技術が確立されている「ゲート絶縁膜」をゲルマニウムで作成することが大変難しかったので高集積度のゲルマニウム半導体の量産のボトルネックになっていた[3]

ゲルマニウムの化合物

同位体

人体への影響

1887年にWinklerが最初に有機ゲルマニウムを合成し、1962年にKaarsらが合成したものは生理研究を本格化させていった[5]。浅井一彦らは石炭や漢方薬にゲルマニウムが少し含まれていることから注目し、1968年にレパゲルマニウム(研究時の名称Ge-132、一般にアサイゲルマニウムとも)を合成する[5]。レパゲルマニウムは食品として安全性が確かめられている[6]。また臨床試験も実施されてきた[7]

1978年に佐藤隆一らがプロパゲルマニウムを合成し、臨床試験が実施され1994年から免疫を高める経口B型肝炎治療剤のセロシオンカプルとして販売されている[8]。有機ゲルマニウムの中でも、唯一医薬品として認められているこのプロパゲルマニウムでは、ウイルス性のB型慢性肝炎に対する有効性が認められるものの、健康障害や死亡などの危険性についての警告文が付されており、消化器系の各種症状(腹痛、下痢、口内炎等)、うつ月経異常、脱毛等の副作用がある[9]

スピロゲルマニウムは新薬にするために臨床試験が行われていたが、胃癌では毒性の高さと有効率の低さから、1999年にそれ以上の研究は断念された[10]

ゲルマニウムを含む健康食品を摂取して死亡した例もある。無機ゲルマニウムは生死に関わるような副作用があるが、1970年代後半からのゲルマニウムブームにて、当初から無機ゲルマニウムの飲用は腎臓等に障害を発生させるとの研究結果がすでに報告されていたにもかかわらず、一部の業者が無機ゲルマニウムを有機ゲルマニウムと偽って飲用として販売したために事故が発生し、1998年10月には厚生労働省が各都道府県に対しゲルマニウム含有食品についての注意喚起を行っている[11]

有機ゲルマニウムでも、経口摂取による健康障害[12]、死亡例[13]が報告されているため、比較的危険性のあるものである。

ある有機ゲルマニウム製剤の経口投与によりに効果があるという研究もある[14]。別の研究者によって危険性も示されている[15]

国立健康・栄養研究所は、「サプリメントとしての経口摂取はおそらく危険と思われ、末梢神経や尿路系の障害を起こし、重篤な場合には死に至ることがある」として注意を呼びかけている[16]。また、経口摂取によりこれまでに31例の腎臓への重大な疾患や死亡が報告されている[17]

健康器具

ゲルマニウムを使った様々な健康器具類が販売されている。2009年の国民生活センターの発表では、文献の調査や販売者の答弁から人体への効果を表す根拠は発見できなかった[18]。科学技術振興機構データベースの2009年までの5年間を調査して、効果を示す文献は見つからなかった[19]

「血行をよくする」「細胞を活性化」[18]「がんに効く」[20]などといった効能がうたわれることがあるが、ゲルマニウムにこのような効能、効果があることは医学的に証明されていないだけでなく、このような表示は薬事法(現・医薬品医療機器等法)に抵触する恐れがあることが国民生活センターによって指摘されている[18][18]

日本では医薬品医療機器等法に基づき承認や認証を得た「家庭用磁気治療器」等の医療機器の中に一部ゲルマニウムを用いているものがあるが、承認内容ではない効果をもたらすと標榜することは認められない。

2010年には業者が逮捕されたケースがあり、「がんに効く」といって温熱治療機器を販売していた[20][21]

出典

  1. http://www.encyclo.co.uk/webster/G/23
  2. 次々世代のトランジスタを狙う非シリコン材料(2)~ゲルマニウムの復活
  3. 3.0 3.1 世界最高性能のゲルマニウムトランジスターを開発
  4. SiGeが切り開く半導体の未来
  5. 5.0 5.1 秋葉光雄、柿本紀博「Poly[3,3'(1,3-dioxo-1,3-digermoxanediyl)bispropanoicacld](Ge-132)を起点とする薬理活性有機ゲルマニウム化合物の合成研究」、『日本化学会誌』第1994巻第3号、1994年、 286-300頁、 doi:10.1246/nikkashi.1994.286
  6. 中村宜司、島田康弘「機能性研究レポート 有機ゲルマニウムの食品機能性と生体への作用性」、『Food style 21』第19巻第9号、2015年9月、 20-26頁。
  7. 有森茂、古田美代子(1982年)「慢性関節リウマチに対するGe-132の効果」『医学と生物学』104(4):211-213. 販売者サイトでの論文解説慢性炎症(関節リウマチ)に対する作用
    折茂肇、秋口格(1983年)「老人性骨粗鬆症に対するGe-132の効果について」『医学と薬学』9(5):1507-1509. 同じく論文解説骨に対する作用
    今野 淳、本宮雅吉、大泉耕太郎、中井祐之、長浜文雄、田辺達三、鈴木 明、中林武仁(1990年)「多施設共同研究による有機ゲルマニウム(Ge-l32)の切除不能肺癌に対する二重盲検比較試験の成績」『BIOTHERAPY』4(5):1053-1063. 痛みに対する作用
  8. (PDF) 医薬品インタビューフォーム セロシオンカプセル (Report). (2016-10). p. 1. http://med.skk-net.com/supplies/products/item/SER_if_1610.pdf . 2018閲覧.. 
  9. ゲルマニウム - 「健康食品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所
  10. “Phase II protocol for the evaluation of new treatments in patients with advanced gastric carcinoma: results of ECOG 5282”. Med. Oncol. 16 (4): 261–6. (December 1999). PMID 10618689. 
  11. 保健機能食品・健康食品関連情報 ゲルマニウムを含有させた食品の取扱いについて - 厚生労働省 1988年10月12日
  12. Hess B, Raisin J, Zimmermann A, Horber F, Bajo S, Wyttenbach A, Jaeger P. "Tubulointerstitial nephropathy persisting 20 months after discontinuation of chronic intake of germanium lactate citrate." Am J Kidney Dis. 21(5), 1993 May, pp548-52. PMID 8488824
  13. Krapf R, Schaffner T, Iten PX. "Abuse of germanium associated with fatal lactic acidosis." Nephron. 62(3), 1992, pp351-6. PMID 1436351
  14. Mainwaring MG, Poor C, Zander DS, Harman E. "Complete remission of pulmonary spindle cell carcinoma after treatment with oral germanium sesquioxide." Chest. 117(2), 2000 Feb, pp591-3. PMID 10669709
  15. 監訳:国立健康・栄養研究所『健康食品データベース Pharmacist's Letter, Prescriber's Letterエディターズ編』第一出版 ISBN 9784804110967
  16. ゲルマニウムに関する情報 - 「健康食品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所)更新日2008/01/09、閲覧日2018年9月26日
  17. Tao S.H. and Bolger P.M. (June 1997). “Hazard Assessment of Germanium Supplements”. Regulatory Toxicology and Pharmacology 25 (3): 211-219. doi:10.1006/rtph.1997.1098. 
  18. 18.0 18.1 18.2 18.3 ゲルマニウムブレスレット「疲労和らぐ」根拠なし”. 読売新聞 (2009年6月25日). 2009年6月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2009年6月25日閲覧.
  19. ゲルマニウムブレスレット:健康効果を科学的に確認できず”. 毎日新聞 (2009年6月25日). 2009年6月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2009年6月25日閲覧.
  20. 20.0 20.1 温熱治療器「がんに効く」と無許可販売容疑”. 読売新聞 (2010年1月6日). . 2010年1月6日閲覧.
  21. 「がんに効く」治療器無許可販売の元社長ら逮捕 容疑否認”. 産経新聞 (2010年1月6日). 2010年1月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2010年1月6日閲覧.

関連項目

外部リンク

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