トチノキ

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トチノキ(栃、橡、栃の木、学名:Aesculus turbinata)とは、ムクロジ科クロンキスト体系ではトチノキ科とする)トチノキ属落葉広葉樹

近縁種でヨーロッパ産のセイヨウトチノキ (Aesculus hippocastanum) が、フランス語名「マロニエ:marronnier」としてよく知られている。

特徴

落葉性高木で、温帯落葉広葉樹林の重要な構成種の一つ。水気を好み、適度に湿気のある肥沃な土壌で育つ。谷間では、より低い標高から出現することもある。サワグルミなどとともに姿を見せることが多い。

大木に成長し、樹高25m、直径1mを超えるものが少なくない。も非常に大きく、全体の長さは50cmにもなる。長い葉柄の先に倒卵形の小葉5〜7枚を掌状につけ(掌状複葉)、葉は枝先に集まって着く。

5月から6月に、葉の間から穂状の花が現れる。穂は高く立ち上がり、個々の花と花びらはさほど大きくないが、雄しべが伸び、全体としてはにぎやかで目立つ姿である。花は白〜薄い紅色。

初秋に至り、実がみのる。ツバキの実に似た果実は、熟すにつれて厚い果皮が割れ、少数の種子を落とす。種子は大きさ、艶、形ともにクリに似ているが、色は濃く、球状をしている。一般的に「栃の実」と呼ばれて食用にされるのは、この種子である。(後述)

日本では東日本を中心に分布し、特に東北地方に顕著に見られる。

人間との関わり

木材として利用される。木質は芯が黄金がかった黄色で、周辺は白色調。綺麗な杢目がでることが多い。また真っ直ぐ伸びる木ではないので変化に富んだ木材となりやすい。比較的乾燥しにくい木材ではあるが、乾燥が進むと割れやすいのが欠点である。巨木になり、大材が得られるのでかつてはや木鉢の材料にされたが、昭和中期以降は一枚板のテーブルに使用されることが多い。乱伐が原因で産出量が減り、21世紀頃にはウォールナットなどと同じ銘木級の高価な木材となっている。

種子デンプンタンパク質を多く含み、「栃の実」として渋抜きして食用になる。食用の歴史は古く、縄文時代の遺跡からも出土している。渋抜きはコナラミズナラなどの果実(ドングリ)よりも手間がかかり、長期間流水に浸す、大量の灰汁で煮るなど高度な技術が必要だが、かつては耕地に恵まれない山村ではヒエやドングリと共に主食の一角を成し、常食しない地域でも飢饉の際の食料(救荒作物)として重宝され、天井裏に備蓄しておく民家もあった。積雪量が多く、稲作が難しい中部地方の山岳地帯では、盛んにトチの実の採取、保存が行われていた。そのために森林の伐採の時にもトチノキは保護され、私有の山林であってもトチノキの勝手な伐採を禁じていたもある。また、各地に残る「栃谷」や「栃ノ谷」などの地名も、食用植物として重視されていたことの証拠と言えよう。山村の食糧事情が好転した現在では、食料としての役目を終えたトチノキは伐採され木材とされる一方で、渋抜きしたトチの実をもち米と共に搗いた栃餅(とちもち)が現在でも郷土食として受け継がれ、土産物にもなっている。

粉にひいたトチの実を麺棒で伸ばしてつくる栃麺は、固まりやすく迅速に作業しなければならず、これを栃麺棒を振るうという。これと、慌てることを意味する「とちめく」を擬人化した「とちめく坊」から「狼狽坊」(栃麺棒、とちめんぼう)と呼ぶようになり[1]、「狼狽坊を食らう」が略されて「面食らう」という動詞が出来たとされている[2]。 トチノキの若芽の粘液をたむしの患部に塗る伝統的民間療法が長野県秋山郷地域などにみられる[3]

トチノキ種子のエスチン(escin)類、イソエスチン(isoescin)類には小腸でのグルコースの吸収抑制等による血糖値上昇抑制活性が認められた[4]

花はミツバチが好んで吸蜜に訪れ、養蜂の蜜源植物としても重要であったが、拡大造林政策などによって低山帯が一面針葉樹の人工林と化していき、トチノキなどが多い森林は減少し日本の養蜂に大きな打撃を与えた。

そのほか、街路樹に用いられる。パリの街路樹のマロニエは、セイヨウトチノキといわれ実のさやに刺がある。また、マロニエと米国産のアカバナトチノキ (Aesculus pavia) を交配したベニバナトチノキ (Aesculus x carnea) も街路樹として使用される。日本では大正時代から街路樹として採用されるようになった。しかし湿気のある土地を好むため、東京などの大都市とは相性が悪い。

小学校の国語の教科書にも採用されている斎藤隆介著の児童文学『モチモチの木』に登場する木は、このトチノキである。

ギャラリー

トチノキの表皮  
トチノキの幼木。特徴的な長い葉柄と5枚の小葉。  
若い果実  
種子は「栃の実」(とちのみ)と呼ばれる。  
栃の無垢一枚板  

栃木県の県木として

トチノキは栃木県の県木で、1966年6月28日に制定された[5]。関連用語としてトチノキの葉を表す「栃の葉」(とちのは)や「マロニエ」共々栃木県に関連する物象に冠されることがある。

脚注

  1. 大槻文彦 『大言海 第3巻』 富山房、1932年10月。アクセス日 2017-06-11
  2. 大槻文彦 『大言海 第4巻』 富山房、1932年10月。アクセス日 2017-06-11
  3. 『信州の民間薬』全212頁中20頁医療タイムス社昭和46年12月10日発行信濃生薬研究会林兼道編集
  4. 薬用食物の糖尿病予防成分 -医食同源の観点から-、吉川雅之、化学と生物Vol.40、No.3、2002
  5. 栃木県告示第501号

参考文献

  • 草川俊「有用草木博物事典」(東京堂出版)

関連項目

外部リンク

日本林學會誌