ヒグマ

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ファイル:Kodiak bear in germany.jpg
巨大なコディアックヒグマ
ファイル:のぼりべつクマ牧場10 白い毛のエゾヒグマ.jpg
白い毛のエゾヒグマ。俗に「袈裟掛け」(けさがけ)という。

ヒグマ緋熊樋熊学名Ursus arctos)はクマ科に属する哺乳類である。ホッキョクグマと並びクマ科では最大の体長を誇る。また、日本に生息する陸棲哺乳類(草食獣を含む)でも最大の種である。

学名はUrsus arctos(ウルスス・アルクトス)。Ursusはラテン語でクマ、arctosはギリシャ語でクマを意味するἄρκτοςをラテン化したものである。

分布

ヨーロッパからアジアにかけてのユーラシア大陸北アメリカ大陸に幅広く生息している。その生息地は温帯からツンドラ気候の地域(北極海沿岸など)にまで及ぶ。現存するクマ属の中では最も広く分布する。

北アメリカ北西部に生息するハイイログマ(グリズリー、U. a. horribilis)、アラスカに生息するコディアックヒグマKodiac Bear U. a. middendorffi)、北海道に生息するエゾヒグマU. a. yesoensis, U. a. ferox Temminck, 1844, or U. a. lasiotus Gray, 1867)など、いくつかの亜種が存在する。絶滅した亜種に、メキシコハイイログマU. a. nelsoni)とカリフォルニアハイイログマU. a. californicus)がある。また、19世紀のアフリカ大陸北部の地中海沿いのアトラス山脈周辺には、アトラスヒグマU. a. crowtheri)、ヒマラヤ山脈周辺にはヒマラヤヒグマen:Himalayan brown bear)、20世紀初頭には最大級の体躯を持つカムチャッカオオヒグマU. a. piscator)という亜種が生息していた。

日本ではエゾヒグマが北海道のみに生息する。

2009年10月には国後島で白い個体の撮影に成功しており、同島に生息する推定300頭の1割が白色個体とみられ引き続き調査が行われている[2]。2012年のには北海道西興部村でもアルビノと見られる個体が目撃されている[3]

亜寒帯・冷温帯など寒地に生息するイメージが強いとされ実際にその傾向があるが、過去には地中海沿岸やメキシコ湾岸など南方の温暖な地域にまで及んでいて、人間による開発乱獲によって減少し、人口密度の低い北方のみに生息するようになったとされる。個体群や亜種の絶滅は過去150年間に集中し、アラスカを除く北米大陸と西欧で著しい。

テンプレート:Mainarticle ホッキョクグマはヒグマの近縁種であり、生殖的隔離が存在しない。通常北極圏ではヒグマは陸、ホッキョクグマは海と生息域がことなり混血の機会はないが、自然環境でも両者の混血の発生事例が報告されており、地球温暖化の影響が懸念されている。

形態

オスの成獣で体長2.5-3.0m体重は250-500kg程度に達する。メスは一回り小さく体長1.8-2.5mで体重は100-300kgほど。がっしりとした頑丈な体格を誇り、頭骨が大きく肩も瘤のように盛り上がっている。

ヒグマは栄養状態によって生じる個体差が顕著で、内陸のヒグマが300kgを超える事はあまり多くないが、溯上するサケ・マス類を豊富に食べられる環境にいるヒグマは大きい。中でも有名なのが、アラスカ沿岸のコディアック島、南西部のカトマイ国立公園と、ロシアの極東カムチャツカ半島に生息するヒグマで、共に500キログラム以上の個体が記録されている。野生のヒグマで最大の記録はコディアック島で捕らえられた個体で1,134kg(2,500ポンド)以上[4]。エゾヒグマでも、1980年羽幌町で射殺された体重450kgの通称「北海太郎」や、1982年古多糠の牧場で子牛3頭を襲った500kgの雄(6歳)、2007年11月にえりも町猿留川さけ・ます孵化場の箱罠にかかった推定年齢17歳・520kgのオスなど大型の個体もおり、近年大型化しているとの指摘もある。このます孵化場の箱罠では、300kgの個体も捕獲されている。三毛別羆事件を引き起こした通称「袈裟懸け」は340kgであった[5]

生態

針葉樹林を中心とした森林地帯に生息する。

食性は雑食だが、同じクマ科のツキノワグマに比べると肉食の傾向が大きい。シカイノシシネズミなどの大小哺乳類、サケマスなどの魚類、果実などを主に食べる。トラオオカミなど、他の肉食獣が殺した獲物を盗むことも近年の研究で明らかとなった。まれにを食することもあり、1度でも人を食べたヒグマは求めて人間を襲う傾向があり、きわめて危険である[6]。また自分が捕獲した獲物に対して強い執着心を示すため、ヒグマに奪われた物を取り返す行為は危険である。地上を走行するときには時速約50km、一説には65kmに達するとされる[7][8][9]

を遡上するを待ち伏せして捕食することも有名である。ただし、ヒグマの栄養源のうちサケが占める割合は北米沿岸部の個体群では栄養源全体の30%以上であるのに対し、知床半島に生息するヒグマでは栄養源全体の5%にすぎなくなっているとされ遡上減による生態系への影響が懸念されている[10]

冬季には巣穴で冬眠をする。冬眠中には脈拍、呼吸数が大幅に減少する。この間(通常2月)に出産するが、出産したばかりの子供の体は非常に小さい。冬眠しない個体もあり、人を襲う場合もある。食物連鎖の頂点に位置し、成獣には武器を所持したヒト以外にこれといった敵はいないが、シベリアではおそらく冬眠中の個体がトラに捕食された例がある[11]。一方で、ヒグマがトラから獲物を横取したり、争いになりトラを殺すという例も報告されている[12]

人間との関わり

日本

ファイル:Bear skulls set up for worship.jpg
アイヌの祭壇「ヌサ」。熊の頭骨が祀られている。明治時代後期。
ファイル:Caution! -Brown bear.jpg
ヒグマの出没に注意を喚起する看板(札幌市

ヒグマの毛皮は古くから交易品であり、『日本書紀』斉明5年(659年)条には、次の記述が見られる。「来日した高句麗使人がヒグマの皮一枚を綿60斤で売ろうとしたが、日本側の市司(いちのつかさ)は笑って相手にしなかった。その後、使人は、高麗画師子麻呂の家を訪ねるが、官から借りたヒグマの皮70枚を敷き詰められて接待を受けたため、高値で売ろうとした事を恥、不思議に思った」。7世紀において、列島北方との交流をうかがわせるものであり、半島からの交易物による文化的優位性に対抗した話とみられる(田中史生 『越境の古代史』 角川ソフィア文庫 2017年)。

かつてアイヌは、ヒグマやエゾタヌキなど狩猟の対象となる生き物を、「神が人間のために肉と毛皮を土産に持ち、この世に現れた姿」と解釈していた。その中でも特にヒグマをキムンカムイ(山の神)として崇め、猟で捕えた際は「自分を選んでたずねてきた」ことを感謝して祈りを捧げ、解体した後は頭骨にイナウを飾り付けて祀った。さらに春先の穴熊狩りで小熊を捕獲した際は、コタン(村)に連れ帰って一年間大切に育てることで「人間界の素晴らしさ」を伝え、毎秋にはイオマンテ熊送り)と呼ばれる祭を催し、ヒグマの仔を殺すことで霊を天に返した。人間に大切にもてなされた熊の霊に天上界で「人間界の素晴らしさ」を広めてもらい、それによって更に多くの神が人間界へ「肉と毛皮の土産」を携えて訪問することを期待するのである。 ただ、人間を傷つけたヒグマは悪神(ウェンカムイ)とみなされる。熊狩りの際に重傷を負わされた場合、そのヒグマの肉や毛皮を利用はするものの、頭骨を祀ることはしない。人間を食い殺したヒグマを捕えた場合は、その場で切り刻んで放置し、腐り果てるにまかせる。

現代ではヒグマはキタキツネとともに、北海道観光の象徴的なマスコットとされ、古くからのアイヌによる木彫り細工からキャラクター化度の強い商品まで幅広い。登別市の登別温泉などにある「クマ牧場」のように、観光用のヒグマ飼育施設まで存在する。そこではヒグマに芸を仕込んでいることもある。

しかし、北海道でのヒグマと人との接触による問題は根深い問題である。マスコット飼育下のヒグマはともかく、地元の人々にとっては野生のヒグマには恐ろしい動物という印象が非常に強い。駆除の優先度も、エゾシカなどに比べて高い。その被害も農作物への被害(夕張メロンなど)から、家畜畜産物、人的被害にまで及ぶ。明治時代には北海道で多数の人間が襲撃されており、苫前三毛別羆事件のように小規模な天災に匹敵する死者(7人死亡、3人重傷)を出した事件すらある。また、近年になって人身事件が増加傾向にあり、 北海道では、1996年(平成8年)からの10年だけで、ヒグマに襲われて6人が死亡、17人が重軽傷を負った。「ヒグマによる人身事件の概要一覧(1970年〜2000年12月)」でも同様のデータが確認できるが、この資料の後も事件はおき続けており、ヒグマとの遭遇事故だけでも年々増加してきている [13] [14] [15] [16]

人身事件の増加の理由については、ハンター全体の高齢化や引退などで数が減少してしまったことや、エゾシカが増えており、それを食べたヒグマが肉食をしたことで気性が荒くなることがあること、などが指摘されることもある(出典:2008年4月の北斗市での死亡事故を受けての地元ハンター協会長などの談話。テレビ朝日のTVニュース。かつて200名ほどいたハンターが現在は50名しかいないという。)またヒグマとまともに対決できるだけの腕を持つハンターとなると、その数が限られるという。ライフルをヒグマに一発命中させながらも、次の弾丸をこめている間に襲われたハンターもいる。ヒグマはいざとなると時速数十キロもの速さで走って襲いかかってくる、とも言われている。

ヒグマは知力に優れ、最近人里に近い箇所に巣穴をもうけ民家の飼い犬を襲ってから、住民宅を襲う事故が発生している。またヒグマは学習能力も高く、土葬された人間の遺体の味を覚えた場合、生きた人間を襲うことがありうる。ヒグマの生息地域では土葬は厳禁である。山菜採りなどで山に入ることをためらう者も増えてきている。

また、世界遺産となった知床半島において、観光客やカメラマンがヒグマを撮影しに多数訪れるようになり、ヒグマを至近距離から多人数で取り囲んだりするなどの行為が報告されるようになり、環境省や学識経験者などは、いずれは人身事故が起こりかねないとして、こうした危険行為を慎むよう警告している[17]

日本に限ったことではないが、人間が山中にごみポイ捨てしたり、あまつさえ(攻撃性をあまり示さない)個体に餌を与えたりなどすることで、クマがヒトの食物の味を覚え(学習し)、人に興味を持ったり人里に出ようとする事案が後を絶たない。保護団体ではエアソフトガン等で痛めつけてヒトの恐ろしさを学習させるなどして、山に帰るよう促しているが、それでも治らない個体は、自治体がハンター団体に依頼して殺処分される。そのような個体はいずれヒトを襲うようになる恐れがあるからである。 北海道は道内のヒグマ生息数(平成24年度)を10,600頭±6,700頭と推定している[18]

北米

北米先住民にとって、ヒグマをはじめとするクマは畏敬と信仰の対象であった。プエブロ・インディアンの焼き物や宝飾品、ズニ族のフェティッシュと呼ばれる動物をかたどったお守りには、クマのモチーフが好んで用いられる。

北米では、絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律をはじめとする保護法の発効以来ヒグマの個体群数は回復の傾向にあるが、放牧業を営む畜農家との軋轢、拡大する住宅地、国立公園などでの観光客との接触、ハンターとの接触、交通事故など、人とヒグマとの共存は容易ではない[注釈 1]

ハイイログマ個体群は、アメリカ合衆国では絶滅危惧特別個体群(Threatened Distinct Population Segment)、カナダでは絶滅危機特別個体群(Endangered Distinct Population Segment)に指定され、連邦法と州法で保護されている。

  • U. a. isabellinus

ワシントン条約附属書I類[19]

ヒグマが登場する作品

映画

ドラマ

小説

漫画

その他

  • 舞台公演『羆嵐(くまあらし)』 倉本聰 脚本。1986年
  • 書籍『慟哭の谷―The devil’s valley』 著 木村盛武 共同文化社

脚注

注釈

  1. 北米の拳銃の広告において、渓谷で釣りをしている個人がヒグマに遭遇する場面(すなわち拳銃を所持していれば身の安全が図れるということ)が用いられる場合がみられ、ヒグマは人にとって危険な動物の代名詞として認識されている。なお、北米ではハンターが主要猟具であるライフル散弾銃と共に大口径の拳銃を携行する事があり、この拳銃を主要猟具の弾を撃ち尽くし、なおも自らに向かってくるヒグマから身を守る為に必要なサイドアームと定義づける事が多い。

出典

  1. “ヒマラヤの雪男の謎を解明する/根深誠さんの手記”. Web東奥 (東奥日報). オリジナル2004年5月15日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20040515024658/http://www.toonippo.co.jp/tokushuu/higuma/nebukanote/note16.html 
  2. “国後に「白いヒグマ」…日本人調査団、撮影成功”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2009年10月30日). オリジナル2009年11月2日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20091102065819/http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20091030-OYT1T00235.htm 
    “白ヒグマ 国後で確認 ビザなし交流 北大名誉教授ら調査隊が初撮影”. どうしんウェブ (北海道新聞社). (2009年10月30日). オリジナル2009年11月2日時点によるアーカイブ。. https://archive.is/20091102065819/http://www.hokkaido-np.co.jp/news/environment/197291.html 
    “白いヒグマを確認/調査団が帰港、会見”. 釧路新聞 (釧路新聞社). (2009年10月30日). オリジナル2012年5月28日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120528103318/http://www.news-kushiro.jp/news/20091030/200910306.html 
  3. “北海道で白いヒグマの写真撮影 西興部村の職員”. 47NEWS. 共同通信 (全国新聞ネット). (2012年8月3日). オリジナル2012年8月5日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120805043304/http://www.47news.jp/CN/201208/CN2012080301003004.html 
  4. Dodson S. (2009) Bear-ology:Fascinating Bear Facts, Tales & Trivia. PixyJack Press, Masonville, p.31 (Google ブックス)
  5. 木村盛武 『慟哭の谷』 共同文化社、2008-03-01(初版1994-12-09)、第五刷、84。ISBN 978-4-905664-89-5。
  6. A.G.Yudakof
  7. Province of Columbia. “conservation of Grizzly Bears in British Colunmia”. . 2010閲覧.
  8. 北海道渡島総合振興局 保健環境部環境生活課自然環境係. “ヒグマの行動”. . 2010閲覧.
  9. National Geographic. “Brown Bear”. . 2010閲覧.
  10. “知床ヒグマ“サケ離れ” 開発で遡上減響く 栄養源のわずか5% 京大院生ら実態解明”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (2014年7月20日). オリジナル2014年7月22日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140722064651/http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/552322.html 
  11. Tiger Ecology”. Tigris Foundation. 2007年7月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。. 2015閲覧.
  12. size and circumstances of deaths of Amur tiger males in the Russian Far East, 1970-1994. (2012年9月13日時点のアーカイブ
  13. ヒグマの保護管理 - 北海道庁(最終更新日:2016年12月12日(月)/2017年3月28日閲覧)
  14. ヒグマによる人身事故の防止について - 北海道庁(最終更新日:更新日2016年10月07日(金)/2017年3月28日閲覧)
  15. ヒグマ出没情報【市町村のヒグマ関連情報ホームページ】 - 北海道庁(最終更新日:2016年7月06日(水)/2017年3月28日閲覧)
  16. ヒグマ出没情報 - 爆サイ.com > 北海道版 > 北海道災害(随時更新/2017年3月28日閲覧)
  17. “知床:「ヒグマ撮影、危険行為やめて」 学識経験者ら自重求め声明”. 毎日新聞 (毎日新聞社). (2013年10月19日). オリジナル2013年10月21日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131021081740/http://mainichi.jp/select/news/20131019dde041040044000c.html 
  18. ヒグマ生息数の推定について - 北海道環境生活部環境局生物多様性保全課 平成27年12月2日 (PDF) (2015年12月10日時点のアーカイブ
  19. 引用エラー: 無効な <ref> タグです。 「cites」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません

参考文献

  • Servheen, C. 1989. Status of the World's Bears, 2nd International Conference of Bear Research and Management, Monograph 2.
  • S.ヘレロ著 『ベア・アタックス - クマはなぜ人を襲うか』 嶋田みどり・大山卓悠訳、北海道大学出版会、2000年 ISBN 4-8329-7301-0 / ISBN 4-8329-7302-9