ビワ

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ビワ(枇杷、学名: Eriobotrya japonica)は、バラ科の常緑高木。

原産は中国南西部で、日本では四国、九州に自生し、多くは果樹として栽培される[1]。樹高はおよそ10メートルほどになる[2]。葉は濃い緑色で大きく、長い楕円形をしており、表面にはつやがあり、裏には産毛がある。そして、その大きな葉陰に楽器の琵琶に似た形をした一口大の多くの甘い実がなり、黄橙色に熟す。語源は、葉の形や実の形が楽器の琵琶に似ているからとされる。中国語でも「枇杷」(ピン音:pípá、粤ピン音:pei4 paa4)と表記する他、「蘆橘」(ピン音:lú jú、粤ピン音:lou4 gwat1)とも呼ばれ、英語の「loquat」は後者の広東語発音に由来する。日本には古代に持ち込まれたと考えられており、主に本州南部や四国九州に分布する。またインドなどにも広がり、ビワを用いた様々な療法が生まれた。中国系移民がハワイに持ち込んだ他、日本からイスラエルブラジルに広まった。トルコレバノンギリシャイタリア南部・スペインフランス南・アフリカ北部などでも栽培される。

日本においては梅雨のころに実がなるため、「枇杷」及び「枇杷の実」は仲夏芒種〔6月6日頃〕から小暑の前日〔7月6日頃〕まで)の季語とされている[3]。また冬には、枝先にやや黄色味を帯びた白い五弁の小花を咲かせる。目立たない花ではあるけれどもかぐわしい香りを持ち、「枇杷の花」や「花枇杷」あるいは「枇杷咲く」などは初冬(はつふゆ:立冬〔11月8日ごろ〕から大雪の前日〔12月7日ごろ〕まで)の季語となっている[4]

植物学的特徴

枝葉は春・夏・秋と年に3度伸長する。若枝は、淡褐色の細かい毛に覆われている[2]

は互生し、葉柄は短い。葉の形は20 cm前後の長楕円形で厚くて堅く、表面がでこぼこしており葉脈ごとに波打つ。縁には波状の鋸歯がある[2]。葉の表面は初めは毛があるが、生育するにつれて毛はなくなり光沢が出てくる[2]。葉の裏面は、淡褐色の毛に覆われたままである[2]

花芽は主に春枝の先端に着く。花芽は純正花芽。花期は11〜2月、香りのよい白い5弁のを群がりつける[2]には毛が密に生えている。自家受粉が可能で、初夏に球形から卵形をした黄橙色の実をつける[2]。果実は花托が肥厚した偽果で、全体が薄い産毛に覆われている。果実の中には大きな赤褐色の種子が数個ある[2]

長崎県千葉県鹿児島県などの温暖な地域での栽培が多いものの若干の耐寒性を持ち、寒冷地でも冬期の最低気温-10℃程度であれば生育・結実可能である。露地成熟は5月〜6月。

栽培

栽培
種を蒔くと簡単に発芽するので、観葉植物として楽しむことが出来る。生長が速いので剪定で小型に育てると良い。実生苗の結実には7〜8年の歳月を要する。自家結実性のため、他品種を混植する必要はない。殖やし方は実生、接木であるが挿し木も可能。剪定は9月。露地栽培の場合、摘房・摘蕾を10月、開花は11月〜2月、摘果を3月下旬〜4月上旬、袋かけを摘果と同時に行う。果実が大きくなるとモモチョッキリ(ゾウムシの仲間)の食害を受ける。
品種
江戸時代末期に日本に導入され、明治時代から、茂木(もぎ)や田中などの果樹としての品種がいくつかある。現在ではその他に大房、瑞穂、クイーン長崎(福原)、白茂木、麗月、陽玉、涼風、長生早生、室戸早生、森尾早生、長崎早生、楠、なつたよりなど多くの品種がある。中国びわとして冠玉や大五星などがある。2006年、種なしびわである希房が品種登録された。
古代に渡来し野生化した物と考えられる自生木もあるが、種が大きく果肉が薄いため果樹としての価値はほとんど無い。
産地
日本では全国でビワの実が3,240トン(2012年産、農林水産省統計)収穫され、長崎県千葉県和歌山県香川県愛媛県鹿児島県など温暖な気候の土地で栽培されている。特に長崎県は、全国の3分の1近くを産する日本一の産地となっている[5]。近年は食の多様化や種子を取り出すなど食べにくさに加え、農家の高齢化、寒波に弱く収穫が安定しないなどの問題もあり、収穫量は2003年は9,240トン、2008年は7,110トン、そして2012年は3,240トン[注釈 1]と減少傾向にある。近年ではビニールハウスによる促成栽培も行われている。
日本国内の主な産地

寒さに弱いため産地は温暖な地域に限られ、九州、四国、和歌山、房総半島で栽培が盛ん。また、寒波の影響を受けやすいため、生産量が乱高下しやすい(2012年と2016年は凶作となっている)。

  • 千葉県 …生産量国内2位で、長崎に次ぐ国内の主産地。房州びわとして知られ、「田中」が主流であったが、近年は食味に優れる「大房」が7割弱を占める。南房総市のほか館山市でも栽培が行われている[6]
  • 南房総市(旧富浦町)…富浦は皇室献上の歴史を持つ主産地。県産びわの大半を占める[6]
  • 三重県
  • 松阪市(旧嬉野町)…島田びわの産地。無農薬栽培に取り組み、付加価値を付けて出荷販売をしている。[7]
  • 兵庫県 …生産量6〜9位。淡路島が主産地で、北淡の野島地区と南淡の灘地区に産地がある。「田中」が主流であったが、食味に優れる他品種への転換が進んでいる。
  • 淡路市(旧北淡町)…野島地区が中心。野島轟木地区辺りに観光農園が多い。その一方で、轟びわとしてブランド販売もしている。[8]
  • 南あわじ市(旧南淡町)…灘びわとして知られるブランド産地。野島に対し、市場出荷中心[9]
  • 和歌山県 …生産量4〜6位。JAながみねに属する海南市藤白地区、下津町仁義(下津町引尾)地区と湯浅町田村(湯浅町田)地区で大半を占める。古くからの産地で日本一にもなったことがあったが、みかん畑に転換され縮小、その後みかんの価格下落に伴って再度びわ栽培を復活、再生させた経緯がある[10][11]
  • 海南市(海南市、旧下津町)…全国有数の産地で、下津びわとして全国に出荷を行っている[10][11]
  • 湯浅町 …田村みかんで知られる田村地区にて、田村びわとして出荷[12]
  • 広島県
  • 東広島市(旧安芸津町)[13]
  • 香川県 …生産量4〜5位。産地は高松市、三豊市、善通寺市など[14]
  • 高松市 …全国に先駆けてハウスびわ栽培を行っている[15]
  • 三豊市 [16]
  • 愛媛県 …生産量3〜5位。産地に松山市、伊予市、宇和島市(平浦びわ)、八幡浜市など。
  • 松山市 …興居島でびわ栽培が行われる[17]
  • 伊予市 …唐川びわとして知られるブランド産地[18]
  • 高知県 …生産量9〜10位。
  • 室戸市 …露地栽培としては全国で最も早い産地の一つで、黒耳(くろみ)びわを特産[19]
  • 福岡県
  • 岡垣町 …高倉びわを特産[20]
  • 佐賀県
  • 多久市 …納所(のうそ)地区と小城市牛津地区が主産地[21]。地域名から佐城びわとも。
  • 長崎県 …生産量国内1位。生産量は全国の約20%。新品種開発も盛んで「茂木」「長崎早生」の他に、「長崎甘香」「涼風」「なつたより」などがある。長崎半島が主産地で、そのほか南島原市(旧西有家町)、西海市(旧大瀬戸町)などにも産地がある[22]
  • 長崎市(長崎市、旧三和町、旧野母崎町)…国内最大の産地で橘湾沿岸の茂木地区、旧三和町などで栽培が盛ん。
  • 熊本県 …生産量8〜10位。かつては長崎を凌ぐ産地だったことがある。ハウスびわ栽培が盛ん。産地に天草市、苓北町など。
  • 天草市(旧五和町)[23]
  • 大分県 …生産量7〜9位。大分市が主産地[24]
  • 大分市 …田ノ浦地区で盛んで、田ノ浦びわとしてブランド化[25]
  • 鹿児島県 …生産量3位〜4位。全国で最も早く出荷される。主産地に垂水市、鹿児島市桜島、指宿市のほか小規模ながら奄美大島など島嶼部でも栽培される[26]
  • 垂水市
  • 鹿児島市(鹿児島市、旧桜島町)

など

利用

未熟なビワの実やビワの種子には高濃度のシアン化合物が含まれる場合があり、これが体内で分解されると猛毒である青酸を発生させるため、未熟なビワの実やビワの種だけを一気に何十個も食べると健康に害を及ぼす可能性が有る。通常は問題にならないものの、「健康に良い」などとして販売されているビワの種の粉末に関しては一気に大量に摂取してしまう可能性があり、2017年に高濃度のシアン化合物が含まれたビワの種子の粉末が発見されたことにより、2017年11月に農林水産省による「シアン化合物を含有する食品」の一覧にビワ種が加えられ、農林水産省より「ビワの種子の粉末は食べないようにしましょう」との勧告が出された。ビワ種による健康被害はまだ報告されていないものの、海外では同じくシアン化合物を含有するアンズの種子を大量に食べたことによる死亡例が報告されている。

食用

果肉は甘く、生食されるほかに缶詰などに加工されるが、種子が大きく廃棄率が30%以上である。生食する場合の可食率は65〜70%でバナナとほぼ同等である。ゼリーなどの菓子、ジャム等にも加工される。 果実は咳、嘔吐、喉の渇きなどに対して効能を発揮する。[27]

種は高濃度のシアン化合物が含まれる場合があるので、食べない方がいい。

薬用

葉は琵琶葉(びわよう)、種子は琵琶核(びわかく)とよばれる生薬である[1]。 「大薬王樹」と呼ばれ、民間療薬として親しまれてもいる。なお、以下の利用方法・治療方法は特記しない場合、過去の歴史的な治療法であり、科学的に効果が証明されたものであることを示すものではない。

葉には収斂(しゅうれん)作用があるタンニンのほか、鎮咳(ちんがい)作用があるアミグダリンなどを多く含み[2]、乾燥させてビワ茶とされる他、直接患部に貼るなど生薬として用いられる。 琵琶葉は、9月上旬ごろに採取して葉の裏側の毛をブラシで取り除き、日干しにしたものである[2]。この琵琶葉5–20 gを600 ccの水で煎じて、1日3回に分けて服用すると、咳、胃炎、悪心、嘔吐のほか、下痢止めに効果があるとされる[1][2]。また、あせもや湿疹には、煎じ汁の冷めたもので患部を洗うか、浴湯料として用いられる[1][2]。江戸時代には、夏の暑気あたりを防止する琵琶葉湯に人気があったといわれており、葉に含まれるアミグダリンが分解して生じたベンズアルデヒドによって、清涼飲料的効果が生み出されるといわれている[2]

種子は、5個ほど砕いたものを400 ccの水で煎じて服用すると、咳、吐血、鼻血に効果があるとされる[1]

葉の上にお灸を乗せる(温圧療法)とアミグダリンの鎮痛作用により神経痛に効果があるとされる。 ただし、アミグダリンは胃腸で分解されると猛毒である青酸を発生する。そのため、葉などアミグダリンが多く含まれる部位を経口摂取する際は、取り扱いを間違えると健康を害し、最悪の場合は命を落とす危険性がある。

果実酒

氷砂糖ホワイトリカーだけでも作れるが、ビワは酸味が非常に少ないので、果実のほかに皮むきレモンの輪切りを加えて漬け込むとよい[2]。 また、果肉を用いずにビワの種子のみを使ったビワ種酒は、杏仁に共通する芳香を持ち、通の間で好まれる。ビワ酒には、食欲増進、疲労回復に効果があるといわれている[2]

木材

乾燥させると非常に硬い上に粘りが強く、昔からの材料として利用されていた。現在でも上記の薬用効果にあやかり、乾燥させて磨いた物を縁起物の『長寿杖』と称して利用されている。激しく打ち合わせても折れることがないことから、剣道剣術用の高級な木刀として利用されている。

ビワにまつわる言葉等

  • 桃栗三年柿八年枇杷(は早くて)十三年
  • ビワを庭に植えてはいけない
ビワの木は広く根を張るので家が倒れるなど、いくつか言い伝えがある。

画像

断面  
ビワの実  
花と蕾  
新緑のビワ  

脚注

注釈

  1. ただし、この年は寒波が襲来したため至るビワ産地で凶作となっており、2013年は5000トン弱、2015年には5,290トンに収穫量が回復している。

出典

  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 貝津好孝 1995, p. 65.
  2. 2.00 2.01 2.02 2.03 2.04 2.05 2.06 2.07 2.08 2.09 2.10 2.11 2.12 2.13 2.14 田中孝治 1995, p. 158.
  3. "きごさい時記「枇杷(びわ)」".(NPO法人季語と歳時記の会). 2015年12月17日閲覧
  4. "きごさい時記「枇杷の花(びわのはな)」".(NPO法人季語と歳時記の会). 2015年12月17日閲覧
  5. 農林水産省作況調査 平成24年産 (PDF) 2013年7月19日閲覧
  6. 6.0 6.1 千葉県 旬鮮図鑑 びわ
  7. JA三重中央会 三重県あぐり(農業)ニュース 島田ビワ出荷スタート【JA一志東部】
  8. JA淡路日の出
  9. 産経WEST 甘みたっぷり「灘のビワ」 今シーズン初出荷 兵庫・淡路
  10. 10.0 10.1 わかやま新報 ビワたっぷりの菓子作り 海南下津高で講座
  11. 11.0 11.1 びわっ娘 下津びわ部会
  12. 大阪放送局ブログ びわの収穫始まる~和歌山・湯浅町~
  13. ひろしま文化大百科 安芸津のビワ
  14. JA香川県 びわ
  15. 高松産ごじまん品ひろば
  16. 香川県三豊市 三豊のくだもの びわ
  17. JA松山市
  18. えひめの食財ファイル えひめ中央農業協同組合 唐川びわ
  19. 室戸市観光協会 特産品を買う・味わう びわ
  20. 毎日新聞 高倉びわ出荷始まる
  21. JAさが 佐賀の農畜産物
  22. 長崎県 農畜産物 長崎びわ
  23. 熊本県地産地消 農産物(県産品) びわ
  24. 大分市 大分市のあらまし ビワ
  25. OBSラジオおはようサンデー 安元佳奈のもっと教えて!農業
  26. JA鹿児島県経済連 果物 びわ
  27. 池上保子「おいしくてクスリになる食べもの栄養事典」(日本文芸社・日文実用PLUS) 95ページ

参考文献

  • 貝津好孝 『日本の薬草』 小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995-07-20。ISBN 4-09-208016-6。
  • 田中孝治 『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』 講談社〈ベストライフ〉、1995-02-15。ISBN 4-06-195372-9。

関連項目

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外部リンク