ブリ

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ファイル:Mojako.jpg
ブリの稚魚(「モジャコ」)
ブリ(生、100g中)の主な脂肪酸の種類[1] [2]
項目 分量(g)
脂肪総量 17.6
脂肪酸総量 13
飽和脂肪酸 4.4
一価不飽和脂肪酸 4.3
多価不飽和脂肪酸 3.7
18:2(n-6)リノール酸 0.19
18:3(n-3)α-リノレン酸 0.1
20:4(n-6)アラキドン酸 0.15
20:5(n-3)エイコサペンタエン酸(EPA) 0.32
22:6(n-3)ドコサヘキサエン酸(DHA) 1.7

ブリ(鰤、Amberjack、学名 Seriola quinqueradiata )は、スズキ目アジ科に分類される海水魚の一種。北西太平洋に生息する回遊性の大型肉食魚である。日本では重要な食用魚であり、各地の文化や産業に深く関わる。

形態

成魚は最大で全長150cm・体重40kgの記録があるが、通常は全長1m・体重8kg程度までである。体は前後に細長い紡錘形で、あまり側扁しない。背は暗青色、腹は銀白色で、その境の体側には黄色の縦帯がある。体表には細かい鱗があり、側線鱗数は210-220枚に達する。鰭条は第一背鰭5棘・第二背鰭1棘29-36軟条・臀鰭2遊離棘17-22軟条である。全長30cm程度までの若魚は第一背鰭の棘条が6本だが成長すると5本になる。

同属種のヒラマサ S. lalandi とよく似ているが、ブリは上顎上後端が角張ること、胸鰭は腹鰭より長いかほぼ同長であること、体はあまり側扁しないこと、黄色の縦帯はやや不明瞭なことで区別できる。またブリは北西太平洋のみに分布するので、他地域ではヒラマサのみになり混乱は起こりにくい。またヒラマサの旬は夏である。

これも同属種のカンパチ S. dumeriliヒレナガカンパチ S. rivoliana は、目の上に黒い斜めの帯模様があること、体がよく側扁し体高が高いことで区別できる[3][4][5][6][7][8]

生態

南は東シナ海・北はカムチャツカ半島・東はハワイまでの北西太平洋に分布する。主な生息域は日本海南部と北海道南部-九州の太平洋岸である。

通常は群れを作り、やや沖合いの水深100m程度の中層・底層を遊泳する。季節によって生息海域を変える回遊魚でもあり、春から夏には沿岸域に寄って北上し、初冬から春には沖合いを南下する。但し温暖な南方海域では回遊せずにいわゆる「瀬付き」になるものもいる。性質は臆病で、驚くと群れごと深みに逃げこむ。食性肉食で、主に小魚を捕食するが、甲殻類頭足類も捕食する[4][6][7]

生活史

ブリの産卵期は東シナ海南部で2-3月、九州近海で4-5月頃である。ブリの卵を鰤子(ブリ子)という。産卵は能登半島房総半島以南の、水温20℃前後の温暖な海域で行われる。卵は直径1.2-1.4mmの球形分離浮遊卵で、受精後48時間程で孵化する。卵と仔魚は表層でプランクトンとして発生・成長する。

春、全長数cmになった稚魚は流れ藻に寄り添って生活するようになる。この時期の稚魚は金属光沢のある黄褐色の体に赤褐色の横縞が6-11条入っており、成魚とは体色が異なる。この稚魚は日本各地で「モジャコ」(藻雑魚)と呼ばれ、養殖業従事者はこの稚魚を捕獲して養殖用種苗とする。

流れ藻に付いた稚魚はおもに小型甲殻類を捕食するが、成長すると小魚を多く摂るようになる。夏には流れ藻から離れ、沿岸でイワシ類等の小魚を捕食しながら生活する。秋に外洋へ泳ぎ出て本格的な回遊を始める。成長は、1歳32cm・2歳50cm・3歳65cm・4歳75cm前後と推移する[3][4][6][7]

名称

標準和名「ブリ」については、江戸時代の本草学者である貝原益軒が「脂多き魚なり、脂の上を略する」と語っており、「アブラ」が「ブラ」へ、さらに転訛し「ブリ」となったという説がある。漢字「鰤」は「『師走』(12月)に脂が乗って旨くなる魚だから」、または「『師』は大魚であることを表すため」等の説がある[9]

他にも身が赤くて「ブリブリ」しているからといった説がある。

「ワカシ」の漢字に「魚夏(魚偏に夏、魚+夏)」が使われる。

出世魚

また大きさによって呼び名が変わる出世魚でもある。日本各地での地方名と併せて様々な呼び方をされる[5][7]

  • 関東 - モジャコ(稚魚)→ワカシ(35cm以下)→イナダ(35-60cm)→ワラサ(60-80cm)→ブリ(80cm以上)
  • 北陸 - コゾクラ、コズクラ、ツバイソ(35cm以下)→フクラギ(35-60cm)→ガンド、ガンドブリ(60-80cm)→ブリ(80cm以上)
  • 関西 - モジャコ(稚魚)→ワカナ(兵庫県瀬戸内海側)→ツバス、ヤズ(40cm以下)→ハマチ(40-60cm)→メジロ(60-80cm)→ブリ(80cm以上)
  • 南四国 - モジャコ(稚魚)→ワカナゴ(35cm以下)→ハマチ(30-40cm)→メジロ(40-60cm)→オオイオ(60-70cm)→スズイナ(70-80cm)→ブリ(80cm以上)

80cm 以上のものは関東・関西とも「ブリ」と呼ぶ。または80cm以下でも8kg以上(関西では6kg以上)のものをブリと呼ぶ場合もある。和歌山は関西圏だが関東名で呼ぶことが多い。流通過程では、大きさに関わらず養殖ものをハマチ(?)、天然ものをブリと呼んで区別する場合もある。

地域別の呼び名一覧
- 稚魚(10cm未満) 20cm未満 30cm未満 40cm未満 60cm未満 70cm未満 80cm未満 80cm以上
関東 ワカシ ワカシ・イナダ イナダ ワラサ ワラサ ブリ
関西 ワカナ ワカナ・ツバス ツバス ハマチ メジロ メジロ ブリ
北陸 ツバス、ツバイソ ツバス コズクラ ハマチ フクラギ ガンド、ガンドブリ ブリ ブリ
三陸 コズクラ、ショッコ フクラギ、フクラゲ アオブリ ハナジロ ガンド ブリ ブリ
和歌山 ワカナゴ ツバス、イナダ、イナラ ハマチ メジロ ブリ オオイオ ブリ
島根 モジャッコ ショウジンゴ(ツバス、ワカナ) ハマチ(ヤズ) メジ マルゴ ブリ ブリ
香川 モジャコ ツバス ハマチ メジロ ブリ ブリ
高知 モジャッコ モジャコ、ワカナゴ ハマチ メジロ オオイオ スズイナ ブリ
九州北部 ワカナゴ、ヤズ ハマチ メジロ ブリ ブリ

漁業

フグとブリを描いた歌川広重浮世絵

一本釣り延縄定置網、旋網、刺し網、掛け網等各種の漁法で漁獲される。重要な漁業資源だが大物釣りのターゲットとしても評価が高い。30cmから60cmの魚体を対象に竿やリールを使わず道糸を素手で手繰り寄せる、いわゆる「カッタクリ」が引きの感触を直接味わえるとされ人気がある。近年は、ルアーフィッシングも盛んで、また船釣りだけでなく、潮通しの良い港湾内や岸壁近くにも入り込んでくることがあり、陸からの釣りの対象にもなる[4][5][6][7]

都道府県別漁獲量

陸揚げ漁港

養殖

主に西日本の沿岸各地で春に流れ藻に付いた稚魚(モジャコ)を捕獲して養殖する畜養が行われている。1960年代前半には商業生産されたな養殖魚の出荷が始まり1980年代以降は継続し約15万トン前後の生産が継続している。日本国内におけるぶり類[11]の生産量は、漁獲量およそ5万トンに対し養殖による収獲量が約15万トンと大きく上回る。大抵の肥育期間は2年程度。前述の通り、商品名が「ハマチ」になる場合もある。

世界で初めて養殖に成功したのは日本引田香川県東かがわ市)においてである。その方法は築堤方式と呼ばれる天然の入り江や小湾を堤防で仕切るものであった。その後支柱式網囲い方式が開発され、小割式網生簀方式へと至った。養殖ブリ類のおもな生産地は、鹿児島県鹿児島湾)、愛媛県長崎県大分県等である。特に鹿児島県は4.4万トン程度で、全国の13程度を生産している。

従前の養殖に於いては餌として小魚等を撒くため、その残りなどが海底に沈殿しヘドロを形成することが問題視され、また大抵は湾内で行われるため赤潮の影響も受け易かった。その他にも配合飼料の匂いがして決して美味とは言えないこと、養殖網に使われる薬剤による環境や魚体への汚染、病気予防のための抗生物質残留等への不安が指摘されていた。

生産量年次推移 (1961-2012) 単位 1000トン

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2014年(平成26年)養殖収獲量[13]
  • 全国 134,608 (単位 t)
  • 鹿児島 44,681
  • 大分 20,007
  • 愛媛 18,185
  • 宮崎 10,816
  • 長崎 8,217
  • 熊本 7,104
  • 徳島 3,551

食材

ブリの吸い物

は産卵期前で脂が乗るとされており、日本ではこの時期のブリを特に「寒ブリ」と呼ぶ。寒ブリは同属種のカンパチやヒラマサよりも脂肪が多く、独特の風味がある。但し産卵後の春には脂肪量が減少する。

料理法は幅広く、刺身カルパッチョたたき寿司、ブリシャブ(しゃぶしゃぶ)、味噌漬け焼き魚照り焼き、塩焼き)、煮魚ぶり大根)等で食べられる。出世魚で縁起が良いこともあり、西日本では御節料理に欠かせない食材とされ(東日本ではおもにサケを使用する)、福岡県では雑煮の具としても用いられている。また、特に富山県石川県では、かぶら寿司の食材として使用されることもある[4][5][6][7][14]

刺身として食べる際、高知県では一般的にぬたという酢味噌(タレ)を付けて食べる。

富山県から関西地方では、年末年始に食べる文化がある(年取り魚)。富山県の西部(呉西)、特に新湊氷見を中心に娘が嫁いだ初めての年末に婚家に寒ブリ一本を歳暮として贈る風習がある。九州の北部の地域などでは、逆に嫁ぎ先の家から嫁の実家へブリを贈るという習わしがあり、これは「嫁ぶりがいい」ということで、お嫁さんの頑張りを実家へ伝える意味がある。[15]

新巻と同様に加工する塩ブリ[16]もあり、「鰤街道」を通って高山から松本など内陸部に正月の魚として運ばれた。

魚介類扱う定食屋、居酒屋などでは、鰤のアラの内で鰓蓋から胸びれまでの部分である鎌(カマ)を、鰤鎌といって汁物、煮物、焼き物にして出すことがある。

「自治体の魚」指定

関連項目

脚注

  1. 五訂増補日本食品標準成分表
  2. 五訂増補日本食品標準成分表 脂肪酸成分表編
  3. 3.0 3.1 内田亨監修『学生版 日本動物図鑑』1948年初版・2000年重版 北隆館 ISBN 4832600427
  4. 4.0 4.1 4.2 4.3 4.4 蒲原稔治著・岡村収補訂『エコロン自然シリーズ 魚』1966年初版・1996年改訂 保育社 ISBN 4586321091
  5. 5.0 5.1 5.2 5.3 檜山義夫監修『野外観察図鑑4 魚』1985年初版・1998年改訂版 旺文社 ISBN 4010724242
  6. 6.0 6.1 6.2 6.3 6.4 岡村収・尼岡邦夫監修『山渓カラー名鑑 日本の海水魚』(アジ科解説 : 木村清志)1997年 ISBN 4635090272
  7. 7.0 7.1 7.2 7.3 7.4 7.5 石川皓章『釣った魚が必ずわかるカラー図鑑』2004年 永岡書店 ISBN 4522213727
  8. Seriola quinqueradiata - Froese, R. and D. Pauly. Editors. 2009. FishBase. World Wide Web electronic publication. version (11/2009)
  9. 中村庸夫『魚の名前』2006年 東京書籍 ISBN 4487801168
  10. 平成22年漁業・養殖業生産統計
  11. 統計では、「ぶり」「かんぱち」「その他のぶり類」をまとめて「ぶり類」として扱う。
  12. 養殖魚種別収獲量累年統計 全国(昭和31年〜平成24年) 総務省統計局
  13. 平成26年漁業・養殖業生産統計 養殖魚種別収獲量(種苗養殖を除く。)
  14. 網野善彦著『東と西の語る日本の歴史』 講談社 1998年 ISBN 9784061593435
  15. 鰤にまつわる風習”. 食育大事典. . 2015閲覧.
  16. 内臓を取り出し水洗いし、塩を腹や表面にすり込み、冷蔵庫で1晩寝かせ、塩水に1日漬け、冷風乾燥の後、冷凍庫で締め、約4日間で仕上げる。
  17. 佐渡市の概要:佐渡市の花・木・鳥・魚”. 佐渡市 (2005年4月1日). . 2009年12月11日閲覧.
  18. 尾鷲市の概要”. 尾鷲市 (2008年1月19日). . 2009年12月11日閲覧.

外部リンク

uk:Жовтохвіст