ブレーキキャリパー

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ファイル:Ferrari F430 Challenge Brake.JPG
フェラーリ・F430の対向ピストン式ブレーキキャリパー。

ブレーキキャリパー (brake caliper) は、ディスクブレーキを構成する部品の一つである。ブレーキパッドブレーキローターに押さえつける役割を果たし、摩擦による制動を可能とする。

素材

ブレーキキャリパーには摩擦熱に強く、放熱効果が高い素材が求められることから、自動車には鋳鉄製のものが主に使用される。バイクスポーツカーなどではアルミ合金製の物が用いられることもある。

ブレーキキャリパー内にはブレーキピストンと呼ばれる部品が内蔵されており、このピストンの数が多くなるほど高価になる。ブレーキピストンはアルミ合金やクロームメッキ処理された鉄製の物が用いられる。ブレーキピストン数はポット(pot)で表記し、ポッド(pod)と表記するのは誤りである。

作動による分類

現在使用されているブレーキキャリパーは、大きく分けて機械式と油圧式に分類される。

機械式ブレーキキャリパー

機械式ブレーキキャリパーは、ワイヤー駆動によってブレーキパッドを押し付けるタイプのキャリパーである。構造が単純なため初期のディスクブレーキに多く採用されたが、倍力装置を装備することができず、ブレーキピストンの大型化や対向ピストン化が困難であったことから、現在では競技用自転車のディスクブレーキ機構に見られるのみになっている。

また、油圧式ディスクブレーキ車の中には、リアキャリパーに機械式パーキングブレーキ機構を備えた物もあったが、自己倍力作用がなく拘束力がドラムブレーキに比べて弱く、リアキャリパーの対向ピストン化が進んだことから、ハブ内部に小型のドラムブレーキ機構を内蔵したインナードラム式に現在では完全に取って代わられている[1]

油圧式ブレーキキャリパー

油圧式ブレーキキャリパーは、ブレーキフルードによる油圧によりブレーキパッドを押し付けるタイプのキャリパーである。倍力装置を装備することで、容易に制動力の強化が図れることや、対向ピストンなどの形式に発展させることも容易なため、現在ではほぼ全ての自動車やバイクにこの形式が採用されている。

構造による分類

フローティングキャリパー

ファイル:Callipers Twin Pot.jpg
2ピストン式のフローティングキャリパーの一例:ピストンに正対する部分がU字形に切り欠かれているのがわかる

ブレーキピストンをキャリパーの片側(主に車軸内側)だけに持ち、片押し式浮動式スライド式とも呼ばれる。この形式はキャリパーベースとキャリパー本体の2つの部品で構成される。スライドピンを持つキャリパーベースがサスペンションに固定され、キャリパー本体はスライドピン上でブレーキディスクに対して平行移動するようになっており、これにより一つのピストンで両側からブレーキパッドを押さえつけることが可能となる。また、ブレーキパッドはキャリパーベースに半固定されており、キャリパーやスライドピンにはブレーキ回転方向の引き摺り力は作用しない。登場当初は様々なキャリパーの浮動方法があった。現在のスライドピン形式に収束したのは1970年代後半のことで、対向ピストン式よりも歴史ははるかに新しい。

一般的な物ではピストン穴を加工するために反対側のキャリパーのピストンに正対する部分がU字形に切り欠かれており、対向ピストン式に比べてキャリパー剛性に若干劣る[2]。軸重増加やタイヤ高性能化に伴う制動力向上要求に対しては、結局のところピストンの数を増やすしか手はないため、スポーツカーや重量高級車などでは4ピストン以上が可能な対向ピストンキャリパーに置き換わっている

キャリパーの外側にピストンが存在しないため、ホイールのディスク面とブレーキディスク間の距離が少なくてすむというコンパクトさが長所であり、幅広ホイールを使用しにくい軽自動車やコンパクトカーでは積極的に採用されている[3]。基本的には1ピストンであるが、軸荷重が大きい場合は2ピストン形式が使用される。モノブロック対向ピストン式と同じ加工法を用いて、ピストン反対側のキャリパーのU字形切り欠きを廃した高剛性仕様[4]もあったが、前述の通り近年は対向ピストン式に取って代わられた。

対向ピストンキャリパー

キャリパー内部にブレーキピストンを2つ以上持つ物で、ピストンがキャリパーの左右両側に対向して配置されているタイプのキャリパーを指す。歴史は古く、ディスクブレーキ登場時最初に使用されたのはこの形式である。 キャリパー本体は一つの部品で構成され、サスペンションに固定されたまま動くことはない。可動部が少ないキャリパー構造のため剛性感が高く、ピストンが分散されるため過酷な使用でも熱的に安定したブレーキングが可能となり、大型高級車やスポーツカーなどで採用されることが多い。

当初は左右に一つずつピストンを持つ2ピストン式(2ポット式)であったが、車両の動力性能向上に伴いブレーキパッドが大型化[5]していくに従い、2ピストンのままピストン大径化してもそれに見合った制動力向上は望めないため[6]、ピストン数を増やした4ピストンや6ピストン[7]になった。現在ではレース車両などでは12ピストン式の物も使用されている。その一方、殆どの2ピストンは、新たに登場してきた前述のフローティング式キャリパーに置き換わった。

なお、当初の対向ピストンキャリパーはピストン穴の加工がやりやすいように別々に製造したアウター、インナーをボルトで結合する2ピース構造であった。しかし、「部品点数が多いほど基本的な信頼性は低下する」という観点に立てば必ずしも望ましくない。そのため、信頼性が成績に直結するモータースポーツでは後述のモノブロックキャリパーに移行することになった。

モノブロックキャリパー

対向ピストンキャリパーのバリエーションの一つで、キャリパー本体が合わせ面を一切持たないアルミ1ピース構造となっているもの。加工に手間が掛かるので高価だが、他のキャリパー形式よりは剛性感が高く、部品点数の少なさによる信頼性の高さもありモータースポーツで使用され始めた。アンギュラヘッド/特殊アンギュラヘッドと呼ばれる刃物保持具を用いて内側から両面のボーリング加工を行う。なお、当初はインナー、アウターのキャリパーを繋ぐ油圧通路が外付けパイプ配管であったが、その後、より信頼性の高い[8]キャリパー内加工穴通路に進化した。その後、モータースポーツイメージを継承する高性能スポーツカーを中心に一般向け車両の分野でも(2ピースではなく)モノブロックキャリパーが採用されるようになってきた。但し、本格的なモータースポーツにまで対応できるものから、あくまで一般走行を前提にしたものまで、その仕様は各社で各車各様である。

日本のメーカーではトヨタ・セルシオ/レクサス・LSヤマハ・YZF1000Rサンダーエースで初めて採用された。

ブレーキキャリパーのメンテナンス

フローティングキャリパー特有のメンテナンスとしては、浮動側キャリパーのスライドピンにモリブデングリースなどを注油し、ダストブーツの破損などがあれば交換を行う。スライドピンの動きの良否がフローティングキャリパーの安定した制動に直結するため、定期的なメンテナンスを行うことが望ましい。

全てのキャリパーに共通のメンテナンスとしては、ブレーキピストン表面の錆などの有無を確認し、ダストシールが破れているようであれば交換を行う。もしもピストンが固着していたり戻りが悪い場合、或いは左右のブレーキパッドが均一に摩耗していない場合にはただちにキャリパーの分解を行い、ピストンシールを交換してブレーキピストンの修正研磨(あるいは交換)を行う必要がある。特にピストン数の多い対向キャリパーの場合は要注意である。

脚注

  1. なお、このタイプのパーキングブレーキを装備した車種の場合、リアキャリパーを交換する際には元のパーキングブレーキ機構付きキャリパーを残したまま、キャリパーをもう一つ増設する形で強化を図る。
  2. サーキット走行などでフルブレーキングを繰り返すとキャリパーベースのスライドピンが変形してキャリパー本体が固着してしまったり、キャリパー本体がハの字状に開いて制動力不足になってしまうことがあるが、これは構造的問題というよりは想定使用条件を超えただけである。
  3. 軽量なので必要制動力も十分賄える
  4. JZX100型ツアラーV等
  5. (摩擦力) = (パッド摩擦係数) X (ピストン荷重)であり、パッド面積は摩擦力には直接影響しないが、耐摩耗性や耐フェード性は向上する
  6. (制動力) = (摩擦力) X (摩擦円半径) である点に注意。ディスク外径が同じならピストンを大径化すると摩擦円半径はかえって小さくなり、ピストン荷重増加を相殺してしまう
  7. その後の進化により大型と小型のピストンを併せ持つ異径ピストン式も登場してきた。
  8. ラリーのようなダート走行環境では深刻な問題だった

関連項目