ヘラジカ

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ヘラジカ(箆鹿、Alces alces)は、哺乳綱偶蹄目シカ科ヘラジカ属に分類されるシカ。本種のみでヘラジカ属を形成する。別名オオジカ

分布

中国東北部アメリカ合衆国北部、エストニアカナダスウェーデンノルウェーフィンランドラトビアリトアニアロシア

英語ではユーラシア大陸のヘラジカをエルク(elk)、北アメリカのヘラジカをムース(moose)と呼ぶ。エルクはゲルマン語の単語であり、学名になっているラテン語 alces もおそらくゲルマン語からの借用である(『ガリア戦記』6.27 に「alces という動物がいる」と記す)。ムースの語源はマリシート族Maliseet)の言語で同種を指すムス(mus)である[1]。なお、北アメリカではシカ属アメリカアカシカ(ワピチ)がエルクと呼ばれている。

形態

体長240-310cm。肩高140-230cm。体重200-825kg。シカ科最大種であり、北方に生息する偶蹄類でも最大級の動物である。雄の成獣は箆のように平たい角を持つことが和名の由来。角は大きく、最大で200cmを上回る。

吻端は長くて太く、雄の咽頭部の皮膚は垂れ下がっている。これを肉垂という。唾液には植物の成長を促す成分が含まれている。

生態

針葉樹林と針葉樹と落葉樹の混合樹林に生息する。夏は単独もしくは数頭の群れで生活するが、冬になると10頭前後の群れを形成する。非常に大型となる本種だが、これを捕食する動物にヒグマオオカミトラ等の大型捕食種が挙げられる他、クズリにも捕食された記録が残っている。なお中型ネコ科生物であるピューマにも捕食記録があるが、クズリと違いこれは成獣を捕食したケースではない。捕食される際は、大型の成獣よりも幼獣及び故障、高齢の個体が主に狙われる。ただしこれは本種に限った話ではない。攻撃は強靭な前足や後ろ足を使った強力な蹴りの他に、角を使って突進する行為も行う。本種の攻撃は捕食種に対してだけではなく、同種との縄張り争いやメスを巡る攻防においても多用される。

食性は草食性で、木のや樹皮、地面に落ちた種実類水草等を食べる。代表例としてはヤナギカバノキ。水場を好み、夏にはよく水場に来て、水中の水草を食べたり、泳いで体に付いた寄生虫を落としたりする。北アメリカではツンドラまで生息する。夏には北極海沿岸で過ごす。

人間との関係

ファイル:Norwegian-road-sign-146.1.svg
ヘラジカへの注意を促す標識(ノルウェー
ファイル:Moose crossing a road.jpg
道路を横断するヘラジカ(アラスカ

ヨーロッパには、石器時代からヘラジカ猟が行われていたことを示す洞窟壁画が残っており、スウェーデンのエーランド島南部のアルビーAlby)付近では、紀元前6000年代頃の木の小屋の遺構からヘラジカの角が出土している。 北ヨーロッパでは、石器時代から19世紀まで地面に深い穴を掘ってヘラジカを追い落とす猟法が用いられていた。

道路に飛び出し交通事故により命を落とすことがあり、大型なためにしばしば深刻な人身事故にもつながる。特に夜道では、体色が黒っぽく、頭部(すなわち前照灯に反射する)が高い位置にあるためドライバーが気づくのが遅れることが多く、衝突すると車のバンパーが当たった衝撃で細い脚が折れ、巨大な胴体が上方から運転席を押しつぶす形で倒れてくるため、エアバッグが展開したとしても大した効果が望めない。このためスカンディナヴィアとドイツでは、自動車の安全評価にヘラジカとの衝突を想定したヘラジカテストを導入している。特にボルボサーブ・オートモービルスウェーデン)、メルセデス・ベンツ(ドイツ)では開発段階からヘラジカとの衝突が考慮されているため、結果として衝突安全性についての評価が高くなっている。

ヘラジカが多く生息する地域では、道路標識に本種が描かれて注意が促されている。カナダのニューブランズウィック州では、新しく敷設される高速道路でヘラジカとの衝突が頻発する部所にフェンスを設けてヘラジカの横断を防いでいる。

ロシアでは旧ソ連時代(1940年代)に人に慣れやすい個体を選択して繁殖することでヘラジカを家畜化する研究が始まり、ソ連崩壊後も継続している。商業的に成功しているとは言えないが、ヘラジカの生理学行動学、動物の家畜化の研究に貢献している。

その他

  • カナダでは、ビーバーと共に国を象徴する動物とされている。スウェーデンとノルウェーでも「森の王」と呼ばれるヘラジカが国の動物とされている。ノルウェーでは自治体の紋章にもヘラジカが描かれることが多い。またノルウェー料理のディナーでは、ヘラジカやトナカイのステーキが定番である。
  • アメリカ合衆国のメイン州では州の動物に、アラスカ州では州の陸生哺乳類になっている。
  • アメリカ合衆国大統領セオドア・ルーズベルトは、自らの政治的姿勢を執拗な繁殖期の雄のヘラジカに例えて「私は雄のヘラジカ(ブル・ムース)のように強い」("I am as strong/fit as a bull moose")と発言した。このためルーズベルト率いる進歩党もブル・ムース党という愛称で呼ばれた。バーモント州進歩党も雄のヘラジカを党のシンボルに使用している。
  • 西洋では、ヘラジカは無口でお人好しだがあまり頭の回転が速くないキャラクターにされることが多い。ディズニーアニメーション映画ブラザー・ベア』のトゥークとラット、フラッシュアニメの『Happy Tree Friends』のランピーがよい例である。
  • シアトル・マリナーズのマスコットはマリナー・ムースという。
  • 米国のアパレル会社アバクロンビー&フィッチのシンボルはヘラジカである。
  • デンマークの天文学者ティコ・ブラーエはヘラジカを飼っていたが、そのヘラジカはあるとき、宴席でビールを飲んで酔っぱらい、階段から転げ落ちて足を折り死んだ[2]
  • 北海道テレビバラエティ番組である『水曜どうでしょう』の「YUKON6DAYS 〜160kmカヌー地獄〜」という企画で大泉洋が「ムース汁」なる料理を作った。豚汁の豚肉をヘラジカの肉に代えたもので、鈴井貴之などの共演陣からの評価は高かった。
  • プロ野球選手監督野村克也は日米野球の際、ウィリー・メイズにより、その姿や行動がヘラジカに似ていることから「ムース」と呼ばれ、それがそのままあだ名となった。なお、野村の妻沙知代がオーナーとなった「港東ムース」の名は野村の現役時代のあだ名、すなわちヘラジカから取られている。
  • 1990年代、アメリカンフットボールプロリーグNFLダラス・カウボーイズに所属していたフルバックダリル・ジョンストンは、チームメイトから付けられたニックネームが「ムース」であり、それがファンに広く認知された。ボールに触れる機会の少ないポジションであったが、彼がボールをもったときは、ホーム・スタジアム(場合によって相手チームのスタジアムでも)全体で「ムーーーース」と唸ることが恒例であった。
  • 北米のプロレスラーでは、ムース・モロウスキームース・ショーラックなど、カナダやアメリカ北部出身の巨漢選手に「ムース」というリングネームが付けられた。ムース・ショーラックは、巨大なヘラジカの頭部の剥製を頭から被り、入場コスチュームとしていた[3]

ギャラリー

参考文献

脚注

関連項目

外部リンク