二元論

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二元論(にげんろん、dualism)とは、世界や事物の根本的な原理として、それらは背反する二つの原理や基本的要素から構成される、または二つからなる区分に分けられるとする概念のこと。例えば、原理としては、要素としては精神物体など。二元論的な考え方は、それが語られる地域や時代に応じて多岐に渡っている。二元説とも言われるが、論理学における矛盾原理および排中原理とは異なる。

言説が多岐に渡る理由は論点の相違に求められる。古くは存在論の解釈手段であり、論の一部であったと言える。存在論は古くから客観的(今日的には科学的)態度で記述するか、主観的態度で記述するかの違いがあった。前者はさらに通時的に原因論(因果論)で捉える場合と、共時的に位相論(位相空間論)的に捉える場合とに分かれる。後者も精神と物質のような微視的な視点と、自己と宇宙のような巨視的な視点に分かれる。

それらが玉石混淆で論議されてきたため、時代が下るにつれて善悪二元論のような人間社会的な二元論に陥ってしまったと言える。

東洋

古代インド

古代インドにおいては、自我を自己の内部に追求し、呼吸や思考や自意識の背後に心臓に宿っている親指の大きさのプルシャを想定し、アートマンとこれを呼び、現象界の背後にある唯一の実在をブラフマンと呼んだ(アートマンとブラフマンの二元論)。だが、このアートマンとブラフマンの二元論は、小宇宙と大宇宙の照応観念を背景としたウパニシャッドの神秘主義的なウパーサナ(upasana、同置)の直感のなかで、アートマン=ブラフマン梵我一如、ぼんがいちにょ)として、一元論に還元されることになった。

サーンキャ学派[1]は、人間に内在するアートマンの超越性を強調し、精神原理のプルシャと物質原理のプラクリティを抽出し、体系的な二元論を構築した。その体系は、普遍のプルシャと結合したプラクリティから、統覚機能、自我意識、思考器官、10器官、5微細元素、5粗大元素へと分かれる、25原理の図式を備えている。これを今述べた順に降下する方向で理解すると宇宙論となる。反対に上る方向で辿ると、ヨーガの深化に対応する、人間存在が備えている重層的な主観/客観の二元論構造を示すことになる。つまり、精神/外界思考/対象自我意識/表象意識/無意識自我/非自我といった二元論の広いテーマを内包している。さらに究極の二元はプルシャの解脱のために結合し、世界を開展するとされる。目的論的に結合する。この二元は、さらに高次の存在により統合される一元論を内に孕んでいる。

バガヴァッド・ギーター』においては、サーンキャ学派の二元論をベースとしつつ、クリシュナ神が至高の存在と宣言される。また、タントラにおいても、シヴァ神とシャクティ神妃という二元が合一し、一元となることで解脱する。

神秘主義(神秘論)においては、世界を大きく二つの範疇(分類)に分けて認識・理解するという人間の性質を意味している。例えば、人が木を認識する際に、周りの木でないものと分かつものとして木を認識する、また世界と自己を分かつものとして、自己を理解するということである。

伝統的な仏教では、悟りの境地に至るためのきっかけは、このような二元論を乗り越えることだとされている。それは簡単に実現できることではなく、全生涯を費やさなければならないものである。


陰陽思想

中国を中心に発達した陰陽思想では、世界はの二つの要素から成り立っていると考える。具体的には光と闇、昼と夜、男と女、剛と柔などにそれぞれ陽と陰の属性が対応すると考えられた。この場合二つは必ずしも対立することを意味せず、むしろ調和するもの、調和すべきものと捉える。そして、一元化はしない。そういう点では善悪二元論に陥りがちな一神教の究極的には一元化するものと意味づけられた二元論と、大きく違っている。

関連項目

  • 道教(タオイズム)老子は相待を説く。例えば、美は醜があるから、相反するものと比較するから、美しいのであるとする相対である。相互いに待っているとする。男と女のようなものでの二元論だ。善も悪があるからである。比較しながらも必要とする二つのものだ。

西洋など

3000年前より始まり現在も信仰されているゾロアスター教や、すでに消滅したグノーシス主義、それらから影響を受けたマニ教ボゴミール派カタリ派などの宗教は、二元論的である。

神学における二元論

神学における二元論は、世界における二つの基本原理として、例えば善と悪というようなお互いが背反する人格化された神々の存在に対する確信という形で現れている。そこでは、一方の神は善であり、もう一方の神は悪である。また、秩序の神と混沌の神として表されることもある。

3世紀キリスト教徒の異端者であったシノペのマルキオンは、新約聖書旧約聖書はそれぞれ背反する二つの神の御業だと考えた。

心の哲学における二元論

心の哲学における二元論は、まったく異なる種類のものとして認識される、心(精神)と物質の関係についての見方を示すものである。このような二元論はしばしば心身二元論とも呼ばれる。

これと対照をなすものとして、心も物質も根本的には同じ種類のものだとする一元論がある。

歴史的に最も有名な二元論としてデカルトの実体二元論がある。この時代の二元論は、法則に支配された機械論的な存在である物質と、思推実体や霊魂などと呼ばれる能動性をもつ(つまり自由意志の担い手となりうる)なにものかを対置した。

現代の心の哲学の分野における二元論はデカルトの時代のものとは大きく変化しており、物理的なものと対置させるものとして、主観的な意識的体験(現象意識クオリア)を考える。その上で性質二元論または中立一元論的な立場から議論を展開する。こうした立場の議論で有名なものとして例えば、デイヴィッド・チャーマーズ自然主義的二元論コリン・マッギン新神秘主義などがある。

現代の文脈でこうした二元論と対立するのは物的一元論、つまり唯物論物理主義などと呼ばれる立場である。有名な立場として同一説機能主義表象説高階思考説などがある。

近年の二元論見解

エベン・アレグザンダー
2012年10月、脳神経外科の世界的権威であるエベン・アレグザンダーは「死後の世界は存在する」と発言した。かつては一元論者で死後の世界を否定していた人物であったが、脳の病に侵され入院中に臨死体験を経験して回復した。退院後、体験中の脳の状態を徹底的に調査した結果、昏睡状態にあった7日間、脳の大部分は機能を停止していたことを確認した。そしてあらゆる可能性を検討した結果、「あれは死後の世界に間違いない」と判断して、自分の体験から「脳それ自体は意識を作り出さないのでは?」との仮説を立てている[2]
サム・パーニアEnglish版
2013年、蘇生医療の専門家で「死後体験」の研究者であるサム・パーニア博士は脳波停止して蘇生した患者に停止後に意識が存続していた患者が複数いた事がわかり「意識は脳とは別個の 存在なのかもしれません」と語った。
ジム・タッカー
精神医学のジム・タッカー博士は「物理法則を超える何かが在る、物理世界とは別の空間に意識の要素が存在するに違いない。その意識は単に脳に植え付けられたものではない。宇宙全般を見る際に全く別の理解が必要になって来るだろう」との仮説を立てている[3]
ロジャー・ペンローズ スチュアート・ハメロフ
ケンブリッジ大学の数学者ロジャー・ペンローズアリゾナ大学スチュワート・ハメロフは、意識は何らかの量子過程から生じてくると推測している。ペンローズらの「Orch OR 理論」によれば、意識はニューロンを単位として生じてくるのではなく、微小管と呼ばれる量子過程が起こりやすい構造から生じる。この理論に対しては、現在では懐疑的に考えられているが生物学上の様々な現象が量子論を応用することで説明可能な点から少しずつ立証されていて20年前から唱えられてきたこの説を根本的に否定できた人はいないとハメロフは主張している。[4]
臨死体験の関連性について以下のように推測している。「脳で生まれる意識は宇宙世界で生まれる素粒子より小さい物質であり、重力・空間・時間にとわれない性質を持つため、通常は脳に納まっている」が「体験者の心臓が止まると、意識は脳から出て拡散する。そこで体験者が蘇生した場合は意識は脳に戻り、体験者が蘇生しなければ意識情報は宇宙に在り続ける」あるいは「別の生命体と結び付いて生まれ変わるのかもしれない。」と述べている[4]

科学哲学における二元論

西洋の科学哲学における二元論は、物事を主体(観察者)と客体(被観察者)の二つに分けて論じる方法を言う場合が多い。

批判者は、このような二分法をその科学における致命的な欠点だとしている。また社会構築主義の文献では、この方法が主体と客体の相互作用に影響して、それをより複雑なものにしてしまう可能性があると述べられている。

脚注

  1. 六派哲学のひとつ
  2. アレグザンダー & 白川 2013, p. 108
  3. NHKBSプレミアム「ザ・プレミアム超常現象 さまよえる魂の行方」
  4. 4.0 4.1 モーガン・フリーマン 時空を超えて 第2回「死後の世界はあるのか?」

関連書

  • 村上真完『サーンクヤの哲学 - インドの二元論』平楽寺書店、1982
  • ペトルマン『二元論の復権―グノーシス主義とマニ教』教文館、1985
  • 宮元啓一『インドの「二元論哲学」を読む』春秋社、2008

関連項目

外部リンク

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