代理戦争
代理戦争(だいりせんそう、英語: Proxy war)とは、主体が直接的に戦争に関与することなく、その他の主体を当事者として戦わせる戦争を言う。
Contents
概要
代理戦争は核兵器の出現によって、アメリカ合衆国とソビエト社会主義共和国連邦による、直接戦争が回避されるようになった冷戦時代に用いられるようになった概念である。具体的には朝鮮戦争やベトナム戦争などを取り巻く情勢を表すために使用された。その具体的な方法としては、代理戦争を戦う国家や勢力に対して軍事作戦の遂行に必要な人員や物資を提供する軍事援助(military assistance)の方法がある。援助を行うことによって軍事力の物的要素を補強するだけでなく、特殊部隊隊員が軍事顧問となって助言を行うことで運用効率の向上を期待することもできる。代理戦争は敗北による自国の軍事的損害を最小限に食い止めることが可能となるだけでなく、逐次状況に応じて軍事介入を行うことも可能であるために危機管理においても柔軟な反応が可能である。
朝鮮戦争は超大国が自分が前線に出るのを恐れ、幾つかの衛星国を前線で戦わせる例であり、スターリンはアメリカと直接戦争を防ぐ為に、北朝鮮のソ連軍の参戦要請を拒否して代わりに中国に参戦要請させ、その中国もソ連空軍を参戦要請したものの拒否された。しかし非公式に参加していた者もいた。
このほか、代理戦争というものは存在せず、小国同士が戦争を開始するに当たって、自国が有利になるよう大国を誘引する逆代理が行われたと考える見方もある。本来の冷戦はイデオロギー対立であったが、代理戦争の中にはスエズ運河の利権を争った第二次中東戦争の様にむしろ経済的利権が動機となった物も多く、同じ社会主義国家同士が代理戦争を行った実例もある。一方、結果として米ソの開発した戦車などの通常兵器の実戦テストの場としての利用されたものもある。
代理戦争とされる戦争
- アメリカが直接介入し、ソ連が側面支援
- ソ連が直接介入し、アメリカが側面支援
- 双方が現地勢力を支援
- 一方が現地勢力を支援
- 国家間紛争でそれぞれの国家に支援
アメリカとソ連が直接戦争の危機に陥った事件がキューバ危機である。
社会主義国同士の代理戦争
社会主義国同士の代理戦争の背景には、ソビエト連邦と中華人民共和国の対立(中ソ対立)が、背景の一つとして挙げられる。
カンボジア内戦は、
- 中華人民共和国が支援するカンプチア王国民族連合政府とアメリカの支援するロン・ノル政権との代理戦争
- 中華人民共和国が支援する民主カンプチア掃討のために、ソ連の支援するベトナムが侵攻した、中国とソ連の代理戦争
という特徴的な2面性を持つ。
- 中越戦争では、中国人民解放軍がベトナム人民軍のカンボジア占領や、華僑追放に対する「懲罰行為」として、ベトナムに侵攻した。
- オガデン戦争では、アメリカ・中国・ルーマニアに支援されたソマリアが、ソ連・キューバに支援されたエチオピアに戦争を仕掛け、敗北した。
- アンゴラ内戦では、アメリカ・中国・ザイールに支援されたアンゴラ民族解放戦線 (FNLA)、アンゴラ全面独立民族同盟 (UNITA)が、 ソ連・キューバに支援されたアンゴラ解放人民運動 (MPLA)に敗北した。
- 第一次シャバ紛争では、アメリカ・中国に支援されたザイールが、ソ連・キューバに支援されたコンゴ解放民族戦線(FNLC)に勝利した。
新冷戦における代理戦争
2000年代後半に入り、アメリカが推進する東欧MD問題や、旧ソビエト諸国の覇権をめぐってアメリカとロシアは鋭く対立するようになり、米ロ関係をメディアは「新冷戦」と表現するようになった。
- ロシアが直接介入
- 一方が現地勢力を支援
- 双方が代理勢力を持つ
- 双方が直接介入
国家間以外での用法
政治での用法
日本において派閥領袖や党首などの大物政治家たちの支援を受けている候補者の票争いが、あたかも大物政治家同士の争いとして捉えられることを代理戦争と形容されることがある。
団体での用法
ノンフィクション『仁義なき戦い 決戦篇』では、神戸市に拠点を置く山口組と本多会の対立が、異なる地域で抗争した(広島抗争)ことを、同書で「代理戦争」と記している。同書を原作に映画化もされている。
芸能界での用法
演芸番組『笑点』の「大喜利」では、三遊亭小遊三(山梨県大月市出身)と林家たい平(埼玉県秩父市出身)による、お互いの出身地を用いた罵倒合戦を、双方の出身地名を取って「大月秩父代理戦争」(小遊三曰く第三次世界大戦)と称している[3]。これがきっかけで、大月市議会・秩父市議会および両市内の民間団体などで両市の交流などの話が取り上げられるようになったが、久喜邦康秩父市長は「大月とは縁もゆかりもない」、「(大月市訪問を)敵地視察」などと、これを踏まえた際どい冗句を飛ばしたこともある。
また平成22年6月には大月市で、10月には秩父市で行われた小遊三とたい平の二人による落語会の席で、久喜邦康・石井由己雄[4]両市長によるご当地自慢のトークバトルもそれぞれ行われた。
スポーツ界での用法
特に格闘技ではライバル同士だった選手の直弟子同士の対戦や、ライバル同士の団体を退団した選手同士が第三者のリングで対戦することをマスコミが代理戦争と称するケースがある。
その他にも古くから因縁のある地域のチーム同士の試合や国際試合などにおける政治的問題を抱える国同士の試合などはしばしば代理戦争と形容されることがある。
特にアメリカとソ連はオリンピックの開催地やチェスの世界王者決定戦[5]などで政治的な介入を行っている。
脚注
- ↑ “<ガザ>ハマスは中国製兵器を使用、中東の平和脅かすと批判—欧州”. レコードチャイナ. (2009年1月6日) . 2011閲覧.
- ↑ “ハマス、中国からライフル2000丁を購入か?—米紙”. レコードチャイナ. (2009年4月30日) . 2011閲覧.
- ↑ 共に相手の出身地を田舎ないしは未開の地、自分の出身地を大都会と扱っている。
- ↑ 小遊三と高校の同期生にあたる。
- ↑ 特に1972年のボリス・スパスキーとボビー・フィッシャーの対戦