吸収線量

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吸収線量(きゅうしゅうせんりょう、absorbed dose[注釈 1])とは、放射線の照射によって単位質量あたりの物質が吸収するエネルギー量を言う。吸収線量の単位はグレイ(Gray、記号:Gy)が用いられる[注釈 2]

吸収線量は、その定義として物質の定めが無い。そのため取り扱う問題に応じて物質を定める必要がある。良く用いられるのは、臓器吸収線量(物質が人体の臓器)と空気吸収線量(物質が空気)である。

概要

物質が放射線の照射を受けると、放射線と物質との相互作用(主に電離・励起)により、物質は放射線のエネルギーを吸収する(放射線が物質にエネルギーを与える)。物質の種類を指定せず[注釈 3]、放射線の照射により単位質量(1kg)あたりに物質が吸収するエネルギー量(J/kg)を吸収線量(absorbed dose)と呼ぶ。単位としては [J/kg] の代わりにグレイ [Gy] が使われる[注釈 4]

放射線は人体にとって一般に有害であるが、放射線の健康影響を決定する最も大きな要素は、この放射線被曝によって人体の臓器に与えられた吸収線量(臓器吸収線量)である。ただし、吸収線量が同じ場合でも入射した放射線の種類(ガンマ線、アルファ線など)や中性子線の場合はそのエネルギーによって生体に与える影響は異なる。そのため、放射線防護の世界に置いては吸収線量ではなく吸収線量に補正係数である放射線荷重係数を掛け合わせた等価線量が用いられる。

吸収線量(臓器吸収線量)が主に用いられるのは、放射線防護の領域外である確定的影響を問題とする場合や医療分野における放射線診断・治療による医療被曝の線量を表す場合である。医師は通常放射線治療を Gy または mGy 単位で処方する[注釈 5]

定義

吸収線量(absorbed dose)

質量 m [kg] の物質[注釈 6]が吸収する平均エネルギー量が [math]\bar{\epsilon}[/math] [J](ジュール)であるとき、吸収線量(記号で D と記す)は、 テンプレート:Equation box 1 と定義される。微分形で定義されているのは、物質の一定の体積ではなく、点で定義できることを示している。また、平均エネルギー [math]\bar{\epsilon}[/math]としているのは、放射線一本一本[注釈 7]の挙動はランダムであり、平均エネルギーとしてしか考えられないものであるからである。

注釈

  1. またはTotal Ionizing Dose、略称: TID と表されることもある。
  2. なお、1[Gy] = 1[J/kg]である。
  3. 同じ種類の放射線の照射であっても、物質によって付与されるエネルギーは異なるので、照射によりエネルギーを吸収する物質(吸収体)が空気である場合は空気吸収線量、人間の場合は臓器(組織)吸収線量というように使用目的用途に応じて物質を特定する必要がある[1]
  4. 1[Gy] = 1[J/kg] である。
  5. 医療の領域において臓器吸収線量 [Gy] が用いられる主な理由[2]
    • 医療で用いられる放射線は、基本的に放射線荷重係数が1.0の放射線(X線、ガンマ線、ベータ線)がほとんどである。
    • 医療の領域では、診断に用いられる 数[mGy] の被曝から、放射線治療で用いられる 数10[Gy] と幅広い線量領域の被曝が取り扱われる。この幅広い線量領域で共通して使える線量は、基本量としての吸収線量である(等価線量は放射線防護を目的とする単位であり、線量限度を超えない範囲で用いられる数値である。そのため、数[Gy] を超える被曝の場合には等価線量を用いることはできない)。
  6. なお、吸収線量の定義においては、対象とする物質が具体的に何かという定めは無い[3]
  7. 電磁波(ガンマ線、X線)については光子として扱うと考えて[本]と数えている。

出典

関連項目

参考文献

  • 草間 朋子、甲斐 倫明、伴 信彦 『放射線健康科学』 杏林書院、1995年。
  • 草間 朋子 『あなたと患者のための放射線防護 Q&A』 医療科学社、2005年、改訂新版。
  • 『看護実践に役立つ放射線の基礎知識―患者と自分をまもる15章』 草間 朋子(編)、医学書院、2007年。
  • 森下雄一郎「周辺および個人線量当量標準の設定に向けた調査研究」、『産総研計量標準報告』第4巻第6号、計量標準総合センター、2007年12月
  • 『放射線・アイソトープ 講義と実習』 日本アイソトープ協会(編)、丸善、1992年。

外部リンク