日本国憲法第76条

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日本国憲法 第76条(にほんこくけんぽうだい76じょう)は、日本国憲法第6章にある条文の1つであり、司法権・裁判所特別裁判所の禁止、裁判官の独立について規定している。

条文

日本国憲法e-Gov法令検索

第七十六条
すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

沿革

大日本帝国憲法

東京法律研究会 p.12

第五十七條
司法權ハ天皇ノ名ニ於テ法律ニ依リ裁判所之ヲ行フ
裁判所ノ構成ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第五十八條
裁判官ハ法律ニ定メタル資格ヲ具フル者ヲ以テ之ニ任ス
裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ處分ニ由ルノ外其ノ職ヲ免セラルヽコトナシ
懲戒ノ條規ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第六十條
特別裁判所ノ管轄ニ屬スヘキモノハ別ニ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第六十一條
行政官廳ノ違法處分ニ由リ權利ヲ傷害セラレタリトスルノ訴訟ニシテ別ニ法律ヲ以テ定メタル行政裁判所ノ裁判ニ屬スヘキモノハ司法裁判所ニ於テ受理スルノ限ニ在ラス

憲法改正要綱

「憲法改正要綱」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。

二十四
第六十一条ノ規定ヲ改メ行政事件ニ関ル訴訟ハ別ニ法律ノ定ムル所ニ依リ司法裁判所ノ管轄ニ属スルモノトスル

GHQ草案

「GHQ草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。

日本語

第六十八条
強力ニシテ独立ナル司法府ハ人民ノ権利ノ堡塁ニシテ全司法権ハ最高法院及国会ノ随時設置スル下級裁判所ニ帰属ス
特別裁判所ハ之ヲ設置スヘカラス又行政府ノ如何ナル機関又ハ支部ニモ最終的司法権ヲ賦与スヘカラス
判事ハ凡ヘテ其ノ良心ノ行使ニ於テ独立タルヘク此ノ憲法及其レニ基キ制定セラルル法律ニノミ拘束セラルヘシ

英語

Article LXVIII.
A strong and independent judiciary being the bulwark of the people's rights, the whole judicial power is vested in a Supreme Court and in such inferior courts as the Diet shall from time to time establish.
No extraordinary tribunal shall be established, nor shall any organ or agency of the Executive be given final judicial power.
All judges shall be independent in the exercise of their conscience and shall be bound only by this Constitution and the laws enacted pursuant thereto.

憲法改正草案要綱

「憲法改正草案要綱」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。

第七十二
司法権ハ凡テ最高裁判所及法律ヲ以テ定ムル下級裁判所之ヲ行フコト
特別裁判所ハ之ヲ設置スルコトヲ得ズ行政機関ハ終審トシテ裁判ヲ行フコトヲ得ザルコト
裁判官ハ凡テ其ノ良心ニ従ヒ独立シテ其ノ職権ヲ行ヒ此ノ憲法及法律ニ依ルノ外其ノ職務ノ執行ニ付他ノ干渉ヲ受クルコトナキコト

憲法改正草案

「憲法改正草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。

第七十二条
司法権は、すべて最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所が、これを行ふ。
特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

帝国憲法改正案

「帝国憲法改正案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。

第七十二条
すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
すべて裁判官は、その良心に従ひ、独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

解説

法律の定め(第1項)
裁判所法第2条(下級裁判所)において、下級裁判所の詳細については規定されている。日本国憲法においては下級裁判所の存在そのものは規定されているものの、具体的にどのような構成の裁判所を設けるかは法律に委ねられている。三審制などは憲法上明文で規定されているものではない。
特別裁判所(第2項)
特別裁判所とは、軍法会議皇室裁判所行政裁判所憲法裁判所などの、通常の裁判所体系における上訴体系に服さない裁判所をいうものと解されている。たとえば、最高裁判所の下に位置する形で、家事審判を行う家庭裁判所や知的財産に関する知的財産高等裁判所を設置すること、また各種行政機関が一次的な審査機関として裁判類似の審判手続等を司る機関を設けることは妨げられない。行政機関が審判を行う場合には、当該機関による決定は、最終的な決定とはならず、裁判所への上訴の可能性を求められることとなる。これらの行政機関による審判機関としては、海難審判所特許庁公正取引委員会警察監察官防衛省防衛監察本部などが挙げられる。
裁判官の独立(第3項)
裁判官はそれぞれ独立して職務を果たすことが期待されており、その権限の行使にあたっては、行政権力および裁判所内部の上級者からの指示には拘束されないものと憲法上は定められている[1]。この独立を側面から補強するものとして、裁判官には一定の身分の保障がなされている(日本国憲法第78条)。
  • なお、「この憲法及び法律」という場合の「法律」は、形式的意味の法律に限られず、広く政令、規則、条例、慣習法などを含む法規範を指す。

関連条文

参考文献

  • 東京法律研究会 『大日本六法全書』 井上一書堂、1906年(明治39年)。
  • 『憲法[第3版]』(弘文堂、1995年、初版1982年)ISBN 4-33-530057-3

判例

脚注

  1. しかし、日本の裁判所においては、最高裁判所事務総局という司法行政の中枢機関が全ての裁判官の人事権を独占しており、最高裁判所事務総局は行政の方針に批判的な判決を書いた裁判官を過疎地の小さな裁判所へ左遷するなど、人事面や給与面において裁判官たちに様々な拘束や圧力をかけているため、日本の裁判官たちが実際に「良心に従い独立してその職権を行う」ことは極めて困難であり、ほとんどの裁判官は最高裁判所事務総局による左遷を恐れて、権力者側に都合の良い判決だけを作成しなければならず、日本国憲法第76条第3項は最高裁判所事務総局によって完全に死文化されているとする批判も多い(カレル・ヴァン・ウォルフレン著:『日本/権力構造の謎』(早川書房)、木佐茂男宮澤節生佐藤鉄男川嶋四郎水谷規男・上石圭一共著:『テキストブック 現代司法』(日本評論社)、安倍晴彦著:『犬になれなかった裁判官 司法官僚統制に抗して36年』(NHK出版)、西川伸一著:『日本司法の逆説 最高裁事務総局の「裁判しない裁判官」たち』(五月書房)、井上薫著:『狂った裁判官』(幻冬舎新書)、生田暉雄著:『裁判が日本を変える!』(日本評論社)、ダニエル・フット著:『名もない顔もない司法 日本の裁判は変わるのか』(NTT出版)、新藤宗幸著:『司法官僚 裁判所の権力者たち』(岩波新書)、デイヴィッド・ロー著:『日本の最高裁を解剖する アメリカの研究者から見た日本の司法』(現代人文社)、森炎著:『司法権力の内幕』(ちくま新書)、瀬木比呂志著:『絶望の裁判所』(講談社現代新書)、瀬木比呂志著:『ニッポンの裁判』(講談社現代新書)、生田暉雄著:『最高裁に「安保法」違憲判決を出させる方法』(三五館)、週刊ダイヤモンド2017年2月25日号特集:『弁護士 裁判官 検察官 司法エリートの没落』(ダイヤモンド社)、瀬木比呂志・清水潔共著:『裁判所の正体 法服を着た役人たち』(新潮社)、別冊宝島2594:『弁護士 裁判官 検察官 司法が危ない』(宝島社)など多数)。実際に最高裁判所事務総局での勤務経験を有する元裁判官で明治大学法科大学院教授の瀬木比呂志は、日本国憲法第76条第3項の実態について「すべて裁判官は、最高裁と事務総局に従属してその職権を行い、もっぱら組織の掟とガイドラインによって拘束される」と表現している(前述『絶望の裁判所』114~115ページ)。なお、日本を除く諸外国の裁判所においては、真の意味で裁判官の独立を保証するため、日本のような上層部機関の命令による裁判官の転勤制度は存在せず、裁判官のポストに空席が生じた場合の後任については応募制となっている。

関連項目